遠慮しないからうまくいく? 完全在宅で働く『フジ子さん』に学ぶ、快適なフルリモートライフの秘訣
育児や介護、趣味などプライベートと仕事を両立したい女性にとって、フルリモートで柔軟に働ける環境は依然人気だ。
一方で、フルリモートならではの悩みを耳にすることも少なくない。
「孤独感がある」
「社内のコミュニケーションが取りづらい」
「同僚の様子が見えないので頼りづらい」
こういったデメリットを払拭して快適なフルリモートワークにするためにはどうしたらいいのか。
リモートワークの先駆的企業であるBPOテクノロジーで、フルリモートでありながらスタッフをまとめるリーダーとして活躍する、谷口有希さんに話を聞いてみた。
「助けて」と発することが、みんなのことも助ける
コロナ禍に突入するより前の2017年に設立されたBPOテクノロジーでは、創業当時からスタッフのほぼ全員がフルリモートで働いている。
同社が展開するオンラインアシスタントサービス『フジ子さん』では、企業や行政のアシスタント業務をオンラインで依頼を受けて対応。『フジ子さん』たちは自分の経験を生かして、日々クライアントの支援を行っている。
フルリモートのデメリット面を大きくしてしまう根幹にあるのは「遠慮」だと思います。
こう指摘するのは、全国各地からフルリモートで働くフジ子さんたちをリーダーとしてマネジメントしているサービス部所属の谷口さん。
こんなささいなことで連絡したら相手に迷惑かもしれない。今は忙しいかもしれない。しょっちゅう声をかけたら邪魔しちゃうかも……。
こういった遠慮が、「やりづらさ」につながってしまうようだ。
相手の様子が見えないと遠慮してしまう気持ちは分かります。
でも小さなつまづきをそのままにしてしまうと仕事にブレーキがかかり、結果的にチーム全体の生産性を下げてしまいかねません。
また、ちょっと発想を転換してみると、「助けてほしい」と声をあげることは、チームにとって迷惑どころか「助け」になると思うんです。
「本当は聞きたいけれど遠慮しちゃう」のはみんな一緒。
だからこそ、誰かがささいなことでもどんどん質問したり助けを求めることで、「こんなことでも聞いていいんだ」と、人を頼ることの心理的ハードルは下がっていく。
声をあげやすい風土を一人一人がつくることで、ストレスフリーなリモートワーク環境の土台となるというわけだ。
「つまづく前に声をあげていいんだ」ということを自分から体現していくことで、みんなが救われる。
今、リーダーとしてフジ子さんたちを見ていて、これは強く感じますね。
雑談もフルリモートの大切な潤滑剤に
そうは言っても、やはり相談したい時に遠慮してしまったり、助けを求めるのが苦手だったりする人も少なくない。
これがリーダーとしては一番困るので、とにかく声をあげやすい環境をつくることを意識しています。
同社ではアシスタントたち同士でコミュニケーションを取りやすいように、チャットツールを導入している。
分からないことや気になることがあった際、チャットツールにポンっと質問を投げれば、誰かしらがすぐに反応するような文化をみんなでつくっているという。
「大雨がすごい~、洗濯物がー!」なんていう他愛もない話もしょっちゅうしています(笑)。
業務に関係ないこともつぶやき合えると、ささいなことを気軽にチャットしやすくなりますし、孤独感もうすれるので。
発信しづらい人を見過ごさないように、私の方からも「どう?」と積極的に声を掛けるようにしていますね。
「誰かから質問のチャットが飛んできたらなるべく自分が率先して答えるようにする」「発信が少ない人がいたら声を掛けてみる」といったことは、誰でもすぐに実践できること。
そして、自らそういう意識を持つことが、発信しやすい文化につながっていくのだろう。
また、相手の性格に合わせたコミュニケーションツールを選ぶこともフルリモート業務を円滑にするポイントだという。
顔を合わせたコミュニケーションを好む人とはビデオ通話で、対面が苦手なタイプの人とはチャットツールで、といった風に、相手に合ったツールを選ぶようにしています。
特に新メンバーが加わったり、既存メンバーが未経験の分野に出くわしたりと、フォローが必要な場面では、パッとビデオ通話でつなぎ、顔を見て会話をすることが多いですね。
ビデオカメラを使うことで会話することももちろん重要だが、チャットツールでフォロー的なコメントをすることをすることもあり、リモートだからといってコミュニケーションで困ることは少ないという。
オンラインだと恥ずかしいと感じる家の風景も「親が今日は遊びに来てて騒がしいの」なんていう具合にアイスブレークに使いながら場をほぐし、分からないことを聞きやすい空気を醸成することもありますね。
こういった工夫がベストなコミュニケーションを作っていくと感じます。
フォローし合うのは当たり前。申し訳ないことじゃない
他の人が快適に働けるように、配慮と工夫を重ねる。それが巡り巡って自身の働きやすさをかなえ、フルリモート特有のストレスを軽減することにつながっていく。
その一方で、育児や介護などの事情からフルリモートを希望する場合、お互いをサポートし合える環境を選ぶことも重要だ。
当社はチーム単位でクライアントを担当しています。
「この業務はこの人しか分からない」という業務の属人化が起こらないよう、チームで全体を確認しながら進めていくので、「絶対に自分が対応しなければならない」という業務がそもそもない前提になっています。
「子どもの急な発熱で急遽保育園にお迎えに行かなければいけなくなった」といった事態も想定の上でチームを組んでいるため、誰か一人に負荷がかかることはない。
責任感の強い人だと、「私がしなければいけない仕事なのに!」と感じることも多いようだが、チームのメンバーにフォローをお願いすることが当たり前の社風もある。
そしてもう一つ、フジ子さんたちのフルリモートがうまくいっている理由として、それぞれが抱える事情がある、ということを理解していることも大きいと谷口さんは続ける。
フジ子さんの半数以上が育児と両立しているスタッフで、みんなさまざまな事情を抱えています。
プライベートの事情によりチームの仲間に頼ることも、お互いさま。だからこそ、過度な遠慮をしなくていい風土が根づいています。
業務の属人化を防ぐこと。お互いを理解し合える関係性があること。こういった環境に加え、誰もが声をあげやすい風土を自らがつくっていくことによって、谷口さんは自分らしい「フルリモートライフ」を送ることができている。
私がフジ子さんとして働くことになったきっかけは、前職で育休を取得するタイミングで夫の実家に引っ越しをすることになり、復職できなくなったためでした。
転居先で就職はしたものの、子どもの急な発熱で周りに迷惑を掛けてしまうことも多く、続けるのは難しいかもしれない……と思っていた時に出会ったのがフジ子さん。
これまでも事務として働いていたので、経験を生かしてやりがいのある仕事をしながらも、家族との時間も大切にできる。まさに“私らしい”フルリモートライフを送れています。
もちろん、自分らしく働けているのは、谷口さんだけではない。
フジ子さんとして働いている人の中には、子どもの小学校のPTA会長を担当している人や、念願の沖縄移住を果たしている元外資系企業のバリキャリ女性、ウェブデザインの仕事をしたくて自宅でスキルアップしている人など、バックグラウンドは多種多様だ。
遠慮せずに声を発し、自分の状況を伝えること。リモートの先で仕事をしている相手を理解すること。そして、支え合える環境をみんなで作っていくこと。
それこそが、自分らしいフルリモートライフの第一歩となるはずだ。
取材・文・編集/光谷麻里(編集部)