採用人事が転職者に伝授する、年収交渉のコツ「高い年収額で入社するリスクもある」

大きな声では言えない本音、ぶっちゃけます!
採用担当者の覆面ガチトーク

表立って聞きにくい「これってどうなの?」という転職にまつわる女性たちの疑問を中途採用担当者に直撃!人事のリアルな見解とは……?

採用担当者の覆面ガチトーク

転職活動で頭を悩ませることの一つが、年収交渉

年収の希望額はどうやって伝えるのがベスト? そもそも希望額をどのように設定すればいい……?

実際に転職者から年収交渉を受けている、中途採用担当者3名の見解を聞いてみよう。

<お話を聞いた中途採用担当者>
●IT系メガベンチャーの採用担当者・加賀さん(仮名)
●大手アパレル企業の採用担当者・中野さん(仮名)
●スタートアップの採用担当者・石田さん(仮名)

「絶対この年収額!」のスタンスは危険?

編集部

年収交渉について教えてください。どうやって交渉すればいいのでしょうか。

加賀さん

まず大前提として、積極的な年収交渉は避けた方が無難です。

というのも、よほどコミュニケーションがうまくない限り、ネガティブに転じる可能性が高いんですよ

こちらの想定年収額と転職者の希望額が合わないときに、本人が「この額がもらえないなら入社しません」というスタンスだと、オファーを出すことすらためらってしまいます。

編集部

強気な年収提示をした結果、もらえていたはずの内定がもらえなくなってしまう可能性があると。

中野さん

その金額に固執しているように見えてしまうと、「この人はお金を稼ぐことが仕事のモチベーションなんだ」という認識につながってしまいかねません。

企業としては事業への共感やコミットメントを評価したいので、それもまたネガティブ要因かなと思います。

石田さん

お金が大事なのは事実であり、企業側もおろそかにするつもりはありません。「今回の転職で年収を上げたい」という思いが転職者側にあるのも当然です。

ただ、お金への執着が強いイメージがついてしまうと、その人への見方が変わるんですよ。

他にどれだけ良い評価ポイントがあったとしても、それらが全てかき消されかねないリスクがあることは知っておいた方がいいと思います。

年収交渉のポイント1. 3つの金額を提示する

石田さん

そもそも業界や会社によって等級や昇給制度は変わります。

仮に現職で500万円の役割を担っていたとしても、転職先の会社では同じ役割が450万円になるといったケースはざらにある。

その前提を踏まえ、希望年収について聞かれたときは「現在の年収額」「最低ラインの年収額」「希望の年収額」の三つをセットで伝えるのがいいと思います。

中野さん

私もその三つは面接で聞きますね。明確に答えてくださるとありがたいなと思います。

石田さん

その上で、もし提示された金額が希望額に届かなかった場合は、「入社後にどういう実績を上げたら年収が上がるのか」を確認しましょう。

それがお互いにとって一番良い交渉の仕方かなと思います。

編集部

理想の年収額を伝えた上で、理想より下回る場合に「どうしたら年収が上がりますか?」と質問をする。

それはきっと採用側からしてもポジティブな印象ですよね。

石田さん

そうなんですよ。入社後に頑張ってくれそうだなと思います。

年収交渉のポイント2. 希望年収額の理由を説明する

中野さん

あとは、「なぜその額を希望しているのか」を説明してもらえると助かりますね。

その額を希望する理由が見えないと、ただお金に固執しているように見えてしまうんですよ。

石田さん

それだけでちょっと信用が落ちますよね。

加賀さん

自分の市場価値を正確に理解していて、その上で自分の妥当な年収はこの金額だと自信を持って言えるのであればもちろん問題ありません。

ただ、その自信や根拠がない中、なんとなくで設定した年収額にこだわりすぎるリスクは大きいでしょうね。

石田さん

希望は正直に教えてもらった方がありがたいけど、やみくもに高い金額を提示するのは得策じゃないと思います。

特に今の年収が400万円なのに希望額が600万円など、差が大きい場合は要注意。こちらも疑問に感じてしまうので、説明が欲しいです。

編集部

とはいえ、希望年収額の根拠を示すのは難しいなと思います。どういう伝え方をするといいのでしょうか。

中野さん

一番簡単なのは、「今よりは上げたい」という説明の仕方ですね。「10万円でもいいので年収アップできるとうれしい」というのは、こちらとしても理解できますし。

その上で、「入社後に年収が上がる可能性がどの程度あるのか、確認したいです」と言ってくださるとポジティブな印象です。

石田さん

誰だって年収アップ転職したいですもんね。

中野さん

あとは、複数社を受けて、複数内定をもらうのも有効だと思います。提示される年収額から、自分の価値も見えてきますから。

そうやって妥当な年収額を理解するのはいいんじゃないかな。

加賀さん

同じ仕事でも業界によって年収水準は大きく変わりますからね。

そういう意味でも、いろいろな業界の会社を受けてみて、自分の市場価値を把握するのは良い方法だと思います。

中野さん

その上で、「他社からこの金額で内定をもらっている」と教えてもらえれば、こちらもなるほどなと思えますしね。

年収交渉のポイント3. 素直な気持ちを伝えるのも一つの方法

加賀さん

とはいえ希望年収額の根拠がないのであれば、いっそのこと教えてほしいですね。

もちろん伝え方は考えていただきたいですが、「根拠はないけど、できれば年収を50万円上げたい」くらいはっきり教えてもらえると、「本当に希望なんだな」と判断できます。

石田さん

私は過去に転職した時、「転職するからには多少なりとも年収が上がった方がテンションは上がります」と素直に言ったことがあります。

実際、転職先でポジティブにスタートを切るにあたって、年収が上がれば自分のモチベーションはより上がるなと思ったんですよね。

編集部

めっちゃ素直……!

石田さん

そういう自分の気持ちと共に、「あくまで希望なので、入社後の頑張り次第で昇給できるのであればこだわりません。入社後の昇給の仕組みについて教えてください」と伝えた結果、希望通りの年収で採用してもらえました。

これが正解というわけではないですが、こういうケースもありますね。

編集部

ロジカルに希望年収額を算出するだけでなく、自分の気持ちを素直に伝えるのも一つの方法なのですね

加賀さん

明確な年収の根拠を提示するのが難しいのは、こちらも承知の上ですからね。

高い年収額で入社する落とし穴

加賀さん

入社時点での年収額に目が行きがちですが、大事なのは入社後です

よくあるのは、げたを履いて高い年収で入社した結果、入社後になかなか年収が上がらないケース。

これ、結構しんどいと思うんですよ。

編集部

どういうことですか?

加賀さん

高い年収額で入社すると、当然こちらもその金額相応の働きを期待します。

期待値が上がるわけですから評価は辛口になり、入社早々に「思っていたほど仕事ができない」という烙印を押されてしまいかねません。

いわば今の自分の能力以上のことを求められるわけで、入社後はものすごく頑張らなければいけなくなる。

編集部

「高い年収額で入社する=ハードルが上がる」ことでもあるのですね。

加賀さん

「入社後はどういう働き方になるんだろう」と考えるように、年収に関しても「入社後はどうなのか」という目線を持ってもらえるとお互いにとっていいなと思います。

編集部

希望の年収額を内定時に提示してもらうだけでなく、入社後の上げ幅を確認した上で、入社後に希望額まで年収を引き上げていくやり方もあるのですね。

特にプレッシャーを感じやすいタイプであれば、後者の方が自分の気持ちの負担は少なくて済みそうです。

今は年収アップ転職のチャンス!ただし……

編集部

「年収アップ転職をしたい人とって、今の転職市場はどうですか?

石田さん

良いタイミングだと思いますよ。

今はとにかく売り手市場であり、企業が良い人に出会うのが本当に難しくなっている。その分、企業側は良い人を採用するために年収を引き上げています。

先ほどお伝えした通り、高望みをし過ぎると入社後のハードルが上がるリスクもあるけど、年収アップ転職をする良いチャンスではあるでしょうね。

中野さん

転職者の希望年収額も全体的に上がっています。特に年収の最低ラインが上がってきているのを感じますね。

また、女性に目を向けると二極化しているような気がします

編集部

二極化?

中野さん

スキルがそれほど高くない人の場合、「生活のためにこれぐらいの年収が欲しい」という話の仕方をする傾向にあります。

正直、「これぐらいのスキル・経験でもこの金額が欲しいのか」と思う場面は増えました。

編集部

物価が上がっていますもんね……。

中野さん

その一方で、ある程度経験を積んできた人は謙遜してしまっている印象があります。

多分、一定の年収額を超えてくると、自分の市場価値に対して希望年収額をどう設定すればいいか迷うのでしょうね。

結果、「このくらいの年収でいいです」と低めの金額を提示してしまっている。もっとアピールしてもいいのになと思うことは多々あります。

編集部

後者の場合、先ほど教えていただいた複数社から内定をもらって妥当な年収額を理解する方法を試すとよさそうですね。

加賀さん

私は特に企業からのニーズが高いエンジニア職の採用をメインに担当していることもあり、複数社を併願する人がめちゃくちゃ増えたのを感じています。

賢い方は内定が出るタイミングを合わせ、各社から年収を提示してもらった上で年収交渉をしていますね。

石田さん

ただし、選べるからこそ自分の軸を持つ必要があるとは思います

複数の選択肢の中から年収が高い会社を選んだ結果、入社後にお金以外の面で不満を感じてしまうのはよくあるケース。

転職者側が選べる時代だからこそ、「なぜその会社を選ぶのか」という理由付けを自分の中でしておくことが重要かな。

加賀さん

自分に合う企業を見つけられるだけの求人数があるからこそ、ぜひいろいろな企業を受けてみてほしいですね。

同じ仕事でも、お金や働き方、得られる経験は会社によってさまざま。

今の転職市場であればたくさんの会社を見た上で、ベストな選択肢を選べる余地がありますから。

石田さん

お金を含めたさまざまな条件を踏まえ、自分の軸と照らし合わせて比較検討して、最終的な結論を出す。それが一番ハッピーな転職だと思いますね。

中野さん

最後に、テクニックを一つ。年収交渉をするタイミングは内定後がおすすめです。

以前にもお伝えしましたが、内定後は「自分が企業を選ぶ」ベクトルが強くなります。主導権が自分にある場面をうまく生かしてくださいね。

企画・取材・文・編集/天野夏海