現役女性リーダーに聞く、40代で差がつく20代・30代の過ごし方「『何をやるか』は重要じゃない」

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性別を問わず長期的に働くことが当たり前となって久しい今、「仕事で成果を出したい」「専門性を磨いてキャリアを築きたい」と願う女性は多いだろう。近年、企業各社も女性管理職の育成に精力的に取り組んでいることもあり、キャリアメークのロールモデルとなるような女性も増加傾向にある。

今回話を伺ったのは、まさにそんな長くキャリアを築いてきた女性たち。大手電機メーカーである横河電機が2022年に設立した新会社・横河デジタルの創業メンバーにして初の女性部長である岡本浩実さん。そして、その岡本さんの元で課長のポジションを務める劉さんの二名だ。

製造業に向けたDXコンサルティングの推進をミッションに立ち上げられた同社で、重要なポジションを担う岡本さんと劉さんだが、「若手の頃の経験が今の仕事に活きている」と口をそろえる。

一体どのような経験が、二人のキャリアを作り上げてきたのだろうか。長く働いた今だからこそ分かる「若手時代にやっておいてよかったこと」を聞いた。

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横河デジタル株式会社
DXサービス事業部 AIサービスビジネス開拓部 部長
岡本浩実さん(写真左)

2003年に横河電機に新卒で入社。甲府事業所に配属され、工業用のデータアクイジション機器向けソフトウェアの開発に携わる。07年に本社に異動し、フィールド機器や科学機器の設定・調整ツールのソフトウエア開発、フィールドデバイス管理の国際規格の標準化活動に従事。19年にAIサービスビジネス開拓部へ異動。22年10月より横河デジタルへ出向し現職

DXサービス事業部 AIサービスビジネス開拓部 研究開発課 課長
劉 琢さん(写真右)

2007年に横河電機へ新卒で入社し、化学石油プラントの操業効率化に向けた機械学習の研究から製品化までを担当。その後、AIの活用範囲を生産現場から生産管理や経営へも広げるべく新しいAI技術の研究開発に取り組んでいる。22年10月より横河デジタルに出向し現職

転職「いらず」の20年につながったシンプルな理由

――まずはお二方のお仕事について教えてください。

岡本:AI・機械学習を活用して、製造業のお客さまのDXを推進していく部署で部長をしています。課題解決のために何ができるかをお客さまと共に検討し、プロジェクトを推進していくポジションです。

劉:私は岡本さんと同じ部署で、製造業のDX推進を目的としたAI技術の応用研究に取り組んでいます。

――お二人とも横河グループには新卒での入社だったとか。

岡本:そうですね。私は入社してもう20年以上経ちます。

ーー長い間転職せずに働けている理由はどこにあるのでしょうか?

岡本:転職しなくても、いろいろな経験を積めるチャンスに恵まれる環境だったからですね。

入社してからずっとソフトウエアとAIに関する開発に携わってきましたが、一口にソフトウエア、AIと言ってもその種類はさまざま。プログラムを書くだけではなく、会社も国も違う技術者と協業したり、お客さまと直接やり取りしたりと幅広い仕事ができました。

なので飽きることはなかったですし、「違うことをやりたいから転職しよう」という発想にもならなかったですね。より良いアプリケーションソフトウエア製品を開発することに没頭し、目の前の仕事に夢中で取り組んでいるうちに、気付いたらここまできていました。

劉:私が長く働き続けられた理由も、仕事が面白かったからですね。「やりたい」と思える仕事に関わり続けられたからです。

研究職というのは、まだこの世の中にない技術をアイデアの卵の段階から少しずつ育てて、最終的に製品やサービスという形で実用化させて世の中へ送り出す仕事。ゼロから新しいものを生み出すには時間がかかるので、何年もの月日を要することもあります。それでも、成果を急かすことなくじっくり取り組ませてくれる。世の中に新しい技術を提供することに関して、強い意志と覚悟のある会社だと思います。周囲には情熱を持った方が多く、お互い切磋琢磨できる環境でいいですね。

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個人のやりたいという気持ちも尊重してくれるので、私も転職することなく働き続けることができています。今のポジションには、自分で希望を出して異動したんですよ。

岡本:定期的にキャリアについて会社に相談できる場があるので、やりたいことを伝えやすいという側面はありますね。

ーー岡本さんはお子さんがいらっしゃいますよね。両立に不安はありませんでしたか?

岡本:両立していく自信があったとは言い切れませんが、復職に対する不安はありませんでした。

当時から男女問わず育児休暇取得が推奨されていましたし、男性の上司自身が保育園の送り迎えをしている姿も見ていたので、理解が得やすい環境だと感じていました。その点は安心でしたね。

未来のキャリアを作る「小さなチャレンジの積み重ね」

――前回インタビューした皆さんのように、横河グループでは若手の女性社員が増えていますよね。そんな方々にとって、管理職として活躍するお二人はロールモデル的な存在だと思うのですが、長くキャリアを築く上で「20代、30代のうちにやっておいて良かった」と感じることはありますか?

岡本:やっていいのかな? と悩むよりも、「何でもまずやってみる」というスタンスでいたことでしょうか。私はすごく積極性がある方だとは思わないのですが、「やってみる?」と聞かれたことはとりあえずやってみることにしていました。

もちろん、「自分にできるかな」と不安になることもありましたが、まずはできる限りやってみて、行き詰ったら考えようと思ったんです。すると、小さなチャレンジを繰り返していくうちに、次第に大きな仕事もできるようになっていって。今は部長という役職を任せていただいていますが、これも小さなチームのリーダー、規模の大きい組織のリーダー、課長……と少しずつ「やってみる」を繰り返した結果なんです。

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ーー約20年の中でさまざまなことにトライしてきたと思うのですが、特に印象に残っているチャレンジについて教えてください。

岡本:先ほども少し触れた、社外、国外の技術者と協働したことですね。

30代に入った頃、新バージョンのフィールド機器管理インターフェースのソフトウエアコンポーネント開発のワーキンググループに参加する機会がありました。

ドイツを中心とした国際的なメンバーの集まりで、横河グループから参加するのは私だけ。周囲を見渡してもメンバーの国籍はさまざまでした。

ーーということは、やり取りは英語ですよね。ちなみに語学力は……?

岡本:英語が得意な方ではなかったのですが、実はそれよりも前にオフショア開発チームとの協業機会があって。その時も現地のメンバーと英語でコミュニケーションを取る必要があったので、必死に勉強したんです。その経験が活きましたね。

ーーワーキンググループ参加やオフショア開発関連の業務は、ご自身の希望で?

岡本:どちらも上司から「やってみる?」と言われたことがきっかけでした。私にとっては大きなチャレンジに感じたのですが、「何かあればサポートするから」という言葉に背中を押してもらいましたね。

当時、同年代のメンバーも同様にいろいろな機会をもらっていたと思います。実力値より少し上のチャレンジを与えてくれるので、健全な緊張感を持ちながら成長できました。

若いうちから「とりあえずやる」を続けているので、困ったことがあってもどうすればいいか、自分なりの解決プロセスが作れているかなと思います。

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――劉さんは、若手の頃にやっておいて良かったことはありますか?

劉:研究開発に携わる中で、新しい技術をサービスや製品にして終わりではなく、実用化されるまでのプロセスを見届けたことですね。

技術だけを追求しても、技術者の自己満足で終わってしまう可能性が高い。技術を使ってお客さまの課題を解決してこそ「ありがとう」と感謝されます。仕事のやりがいや面白さの本質は、そこにあると思うんです。

早いうちからそのことに気付けて良かったです。

若手時代の小さな後悔。次世代に寄り添う女性リーダーへ

――お二人とも若手時代からさまざまな経験を積んできたからこそ今のキャリアがあることがよく分かりました。その上で、「もっとこんなこともやっておけば良かった」と思うことはありますか?

劉:専門外の知識も積極的に学んでおけば良かったですね。私は工学出身なので、若手の頃は技術に集中してきました。ですがもっとビジネスや経営にも興味を持って幅広い知識や考え方を取り入れていたら、お客さまとのやりとりに活かせたのではと思います。

岡本:若いときは目の前のことに没頭できる集中力がある反面、自分の世界から出にくいですよね。私も20代の頃は開発に集中していましたが、そのサービスをお客さまがどんな目的でどう使っているのか深く考え、もっと積極的に情報収集できたら仕事がより一層楽しくなっただろうなと思います。

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――長く働いた今だからこそ分かる「やっておいて良かったこと」「やっておきたかったこと」があるかと思います。今ではお二人とも管理職ですが、次の世代の成長のために取り組んでいきたいことはありますか?

劉:若いうちは努力すればするほど課題や悩みにぶつかることも多いと思います。そんな時に寄り添える存在を目指していきたいですし、かつて私がそうしてもらったように、いろいろなチャンスを与えられるようなマネジャーでありたいですね。

岡本:私の部署はお客さまにとって本当に有用なAIサービスやソリューションをご提供することがミッションですが、若手のうちからEnd to Endで製品開発に携わる機会を増やしていきたいと思っています。お客さまが私たちの開発した製品を選んで利用するに至るストーリー全体を知ることが、その後の研究開発にも役立つに違いないですからね。

横河デジタルは2022年に設立されたばかりなので、今まさに大きく事業を展開しようとしているところです。創業期のベンチャーでなければ体験できないような会社の立ち上げに関わった経験は今後のキャリアでも自信になるはずなので、自分たちの挑戦の積み重ねによって自分たちも会社も共に成長していく様を、メンバーと共に創っていきたいです。

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取材・文/古屋 江美子 撮影/鈴木 迅