伊勢丹新宿本店の進化を担うバイヤーの提言「問題意識の無い人に、新しいスタイルの提案はできない」/株式会社三越伊勢丹

女性活用が声高に叫ばれている昨今、多くの働く女性たちが、ビジネスパーソンとしてのスキルやマインドを磨き、自分の市場価値を高めていく必要性を感じ始めている。
でも、市場価値の高い女性って、実際のところどんな女性? 身に付けているべきスキルやワークマインドってどんなもの……? まだまだ働く女性のロールモデルが少ない中、ぴんとこないことが多いのではないだろうか。
そこで今回は、現代の日本社会における“市場価値の高いオンナ”の姿を浮き彫りにすべく、日本のトップカンパニーで活躍中の管理職の方にインタビューを実施。
各界のプロフェッショナルが考える“今、一緒に働きたい女性像”を参考に、業界、職種の壁を越えて社会に必要とされる女性になるための第一歩を踏み出そう。
特集第3弾は、株式会社三越伊勢丹のバイヤー・岩下えりささん。モードの最先端を追求する伊勢丹新宿本店本館『リ・スタイル』フロアを担当し、感度の高いオリジナルブランドの展開を手掛けている。そんな岩下さんが語る、常に“新たな提案”が求められる組織で活躍できる女性像とは?
世の中の動きに興味を持ち、
感性を磨ける人は強い

株式会社三越伊勢丹
伊勢丹本館『リ・スタイル』バイヤー
岩下えりささん
2006年入社。新宿本店の婦人服売場『リ・スタイルプラス』にて販売スタッフとして経験を積んだ後、同売場と『リ・スタイル』のアシスタントバイヤーをそれぞれ2年経験。12年、『リ・スタイル』のセールスマネージャーに就任。14年、三越伊勢丹グループ全体で取り組む企業理念推進運動に、『リ・スタイル』の販売員約80名にて構成されるチームで取り組み、約1300チームの中で最優秀賞を獲得。15年、現職に就任。『リ・スタイル』、『モンミロワール』『伊勢丹サローネ』にて扱うことを予定しているオリジナルブランドの立ち上げと企画戦略に携わる
百貨店の使命は、常に“新しいスタイルの提案”をしていくこと。だからこそ、そこで働く人たちは、世の中全体を俯瞰的に捉えながら、自分の感性を磨いていける人たちでなければいけないと思っています。
まず、世の中全体を俯瞰的に捉えるということですが、この力を磨くためにはやはり情報収集が欠かせません。世界で何が起きているのかを、好奇心を持って知ろうとできる人は強いです。感性を磨くためには、ファッション、グルメや旅行、アートなどに積極的に触れることが重要。
あとは、どんな人の意見にも耳を傾ける柔軟性を持つことですね。年齢を重ねても、どんどん新しい感覚を取り入れていける人は、バイヤーという職種に限らずこの業界で活躍し続けられる人になるのではないでしょうか。
一方で、私の周囲で活躍している女性達を思い浮かべると、意外かもしれませんが体育会系の人が多いです(笑)。海外出張も多く想像以上にパワーがいる仕事なので、体力があることは必須ですね。
かつての私の上司も女性でしたが、いい意味で、すごくパワフルでした。しかも、考え方も非常に柔軟で、メンバーの「やってみたい」という思いを受け止め、チャレンジさせてくれる人。誰もが自由に伸び伸びと楽しく仕事できる環境を作ることによって、チーム全体の創造性を高めていました。
センスだけじゃダメ!
調整と戦略がバイヤーの価値を高める
とはいえ世間のイメージではやはり、「伊勢丹のバイヤーは最先端のスタイルを提案する華やかな職種」として見られがちです。そのため、“感度の高さ”に焦点を当ててよく語られます。
でも、バイヤーにとって本当に大切なのは、“センス”だけじゃないと私は思っています。職種や部門を越えての横の連携をいかにうまく図るかという調整役としての側面もすごく強いですし、ちゃんと利益を出せる買い付けができるかどうかという戦略家としての側面も非常に大切なのです。
まず“調整役”ということについてですが、バイヤーは、お客さまにより満足していただけるブランドづくりをして、そのブランドの売り上げを上げていくことが求められます。
それを実現するためには、部署や職種を越えて、一つのブランド・商品に関わる人たち全員が、同じ方向を向いている必要があります。例えば、売場に立つ販売員が、自分のブランドの商品がどんな想いで作られているものなのか理解していなかったとしたら、お客さまにブランドの世界観や商品一つ一つの素晴らしさをご紹介することができません。
一方で、商品の作り手側も、自分たちが作った商品が売場でどのようにお客さまの手にわたっていくのか知らなければ、お客さまが求めているリアルなものを生み出すことはできないでしょう。
このような状態が起こらないよう、バイヤーは立場の違う人と人との間に入り、互いの顔が見える関係性を作りながら、トータルでお客さまへの提案力を向上させるよう工夫を凝らすのです。
私自身は、縫製工場やデザインの現場に販売スタッフを連れて行ってデザイナーやパタンナーに直接会わせたり、商品ができ上がる過程を見せたりするようにしてチームとしての連携を強めるようにしてきました。
次に、“戦略家”としての側面について。当然ながら、当社のような百貨店も、“尖り過ぎた商品”だけ売場に並んでいる状況ではお客さまに満足していただけません。
ですから、シーズンごとの商品展開では、新しさを感じさせるアイテムと、確実に売れる人気アイテムのバランスを取り、利益を上げていくことが求められます。
予算面をしっかり考えられる頭脳を持っているバイヤーは、戦略的な商品配分で常に売り上げを伸ばし続けることができる。私たちも一会社員である以上は、そこを怠ってはいけません。
バランスの良い商品構成を考えるために必要なのは、まずは徹底した数字管理です。それに加えて、売場の声をいかに吸い上げることができるかですね。
私の担当している『リ・スタイル』に足を運んでくださるお客さまの潜在的なニーズは、現場でのリアルなコミュニケーションの中でしか見つけられませんから。
目の前の変化に対して
敏感であり続けることが大切

こうしたバランス感覚を備えていることに加えて、これから一緒に働きたいと思う人に求める素質は“問題意識の有無”。私も、売場で接客をしていたころ、先輩から「一つ一つの仕事の意味を考えなさい」と言われたことがあります。
例えば、お店で使うブーツ用のバッグの補充頻度が急に上がったとします。
そのときに、「足りないから補充しなきゃ」で終わるのではなく、「防寒系ファッションのニーズが高まり始めたんだな」ということにまで想像力を働かせるようにする。
そうすると、お客さまの関心が変化したことにいち早く気付けるようになります。そうやって自分の中で仮説を立て、検証していく癖を付けていけば、お客さまにとっても、当社にとっても最善の提案ができるようになるはずです。
自分の目の前で起こっている変化を、自分なりの視点で捉えること。そして、自分が感じたことを周囲の人に伝え、問題解決のための一歩を踏み出すこと。
そうした日々の意識と行動こそが、真に世の中から求められる価値を発信していくカギになります。伊勢丹が進化することを辞めたら、誰からも必要とされなくなってしまう。
変わり続ける伊勢丹をつくっていくのは、そこで働く人たちのアイデアであることは言うまでもありません。だからこそ、やっぱり一緒に働きたいのは、問題意識を持って日々の仕事に取り組める人ですね。
取材・文/上野真理子 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)
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