【高畑充希】主演俳優として19年。たどり着いた「周囲に合わせる」リーダーシップ
この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心をつかみ、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります

俳優、高畑充希。10代から築き上げた確かな演技力と表現力、歌唱力を武器に、実力派としてドラマやCM、ミュージカルなど多岐にわたるジャンルで活躍する。
そんな彼女が次なる挑戦の舞台に選んだ作品が、2024年6月14日(金)にPrime Videoで世界独占配信開始される連続ドラマ『1122 いいふうふ』だ。
夫婦仲を円満に保つために「婚外恋愛許可制」を選択するという、夫婦のあり方に一石を投じる本作品で、高畑さんは主演・一子(いちこ)役を演じている。
高畑さんは今年で芸歴は19年。10代から幾度となく主演を務めてきた。作品の座長として、どうやってチームをけん引してきたのか。問うと、返ってきたのは意外な答えだった。
まだ何の経験もない頃から座長として現場の“真ん中”に置かれてきたので、「私がみんなを引っ張っていく!」なんていう自信は持てなくて。今でも現場をリードしなきゃ、という意識はしていないですね。
だから『1122 いいふうふ』の撮影でも、私は現場の雰囲気を楽しくできればいいな、と思っていました。
高畑さんのプロフェッショナルな仕事論を突きつめていくと、チームのパフォーマンスを最大化させる“真のリーダー像”が見えてきた。
夫婦も一つのチームだから、言葉を尽くすのが大切
結婚7年目、友達のようになんでも話せて仲の良い夫婦。セックスレスで子どもがいなくても、ふたりの仲は問題ない……だけど。この夫婦には“秘密”がある。それは、毎月第3木曜日の夜、夫が恋人と過ごすこと——。
「婚外恋愛許可制」という過激な設定、セックスレスや不妊治療などのセンシティブなトピック、そして登場人物たちから飛び出す本音の数々は、「良い夫婦とは何か」「本当の幸せとは何か」、観る者に本質的な問いを投げかける。
そのあまりのリアルさに、原作コミック発売時も「妻に読ませたくない」「夫に読ませたい」とミレニアル世代を中心に話題を呼んだ。

原作のファンだと語る高畑さん。自身が主人公・一子を演じると決まった当時の心境をこう振り返る。
「ドラマになったら面白そう」とは思っていましたが、過激で生々しいシーンも多いから、地上波で映像にするのはなかなか難しいだろうなと思っていました。
だから今回、配信というかたちで映像化が実現して、ましてや自分が主演を務めるなんて、夢にも思っていなくて。オファーをいただいた時は驚いたし、うれしかったですね。
夫・二也(おとや)には妻公認の“恋人”がいる一方で、一子自身も女性用風俗のセラピストに心と体のケアを求めていく——そんなシーンにも、高畑さんは体当たりで臨んだ。
一つ一つのシーンを切り取るとセンセーショナルに感じるかもしれないけれど、その行動に至るまでの一子や二也の心情が丁寧に描写されているからこそ、不器用で人間くさくて、愛おしくも思えるんです。
この作品の登場人物たちは、みんながそれぞれの“正義”をもとに動いているから、時に糸が複雑に絡まってしまうこともある。
でも、そういうことって現実にも多いじゃないですか。人って、理屈では説明がつかないような、突拍子もない行動をしちゃうものだから。
劇中、夫婦の危機に陥るたびに、一子と二也は食卓で向かい合って話し合いの場を設け、思考や感情を互いに丁寧に伝えていく。高畑さんは、そんなシーンも印象的だったと明かす。

人と向き合うのってちょっと面倒でカロリーを使うけれど、夫婦という一つの“チーム”をベストなかたちでつくりあげていくためにはとても大切なことだと思います。
このふたりの場合は、話し合いすぎて複雑になっている面もあるかもしれないけど(笑)
チームで120点が取れれば、それでいい
違和感やわだかまりがあれば、言葉を尽くして対話することを諦めない。その姿勢は、「夫婦」に限らず、仕事のチームを円滑に運営する上でも不可欠だ。
高畑さん自身、プロとして仕事をする上で「チームワーク」を大切にしている。
仕事って、一人で完結するものばかりじゃないから。自分一人で完璧を目指そうとせず、チームで120点をとる。
そのために、自分には何ができるか、ベストな役まわりを見つけて、全体のパフォーマンスを高めていく。そんな人になれたらな、と思うんです。

「最高のチームワークだった」と振り返る今回の撮影現場でも、初共演でW主演を務めた岡田将生さん、今泉監督らとの「チーム」において、高畑さんは自分の役割を見つけていった。
岡田さんと監督は、一つのセリフまわしや表情について論理的にとことん頭で考えて、演技に落とし込んでいくタイプ。
ストイックに突きつめていくことができる方たちなので、私は「明るく、楽しくやってこ~」くらいのテンションで、現場の雰囲気を楽しくできればいいな、と思っていました。
朝ドラからミュージカルまで、高畑さんは幅広い作品で主演を務める。しかし、その立ち振る舞いは現場によってまったく異なる。
相手ととことん話して役を掘り下げた方が良い作品ができそうだと思えばそうするし、ある程度距離感を保った方が緊張感あるお芝居ができそうだと感じたら、意図的に会話の量や頻度を減らすこともあります。
最高のパフォーマンスを出すため、チームにおける自身の立ち位置を見極めていく。その高いバランス感覚は、長い芸歴で培った賜物だ。

私はデビュー作がミュージカルの主演という特殊な環境でこの仕事を始めました。
何もできない頃からいわば「リーダー」のポジションに立たざるを得なかったから、一人で何でもやろうとせず、周りの助けを借りながらチームみんなで良い作品を作っていくのがスタンダードになっているのかもしれません。
今でも、座長として周りを強くリードするより、共演者やスタッフさんとはフラットに、何でも言い合える関係性を作っていく方が『私らしい』のかなって。
最良のパフォーマンスを出し続けるため、「余白」を作る
13歳で俳優デビューを果たしてから、映画やドラマ、ミュージカルで大役を務めてきた。
息つく間もなく演技の道を走り抜け、芸歴19年目を迎えた32歳の今、キャリアに対する考え方も少し力が抜けたようだ。

20代の頃は、2年くらい先まで間をあけずに予定を詰め込んで、とにかくがむしゃらに仕事をしていました。
でもまったく余白がないと、すてきなお仕事のチャンスや出会いに飛び付けないじゃないですか。
だから今は余白を作って、友人とカフェでおしゃべりしたり、スーパーで買い物したり、当たり前の暮らしを大切にしているんです。
なので、日々の生活が今楽しくて! 仕事に対するモチベーションも、今まで以上に高まったような気がします。
一人の俳優としてもリーダーとしても、力みすぎない。視野を広げてゆったりと構える。それが、高畑充希が最良のパフォーマンスを出し続けるために見出した戦略なのだろう。

高畑 充希(たかはた・みつき)さん
2005年、山口百恵トリビュートミュージカル『プレイバック part2 屋上の天使』の主演オーディションでグランプリを獲得し、13歳で女優デビューを果たす。07年『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙(そら)へ』で映画に初出演。07~12年までミュージカル『ピーターパン』で主演を務めるなど演劇界で活躍する一方で、TVドラマや映画にも出演。14年、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』で抜群の歌唱力を披露し一躍脚光を浴びる。16年のNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』でヒロインに抜てきされて大ブレイクし、恋愛映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』で岩田剛典とともに映画初主演を務めた。翌17年は、主演ドラマ『過保護のカホコ』が話題を呼び、山崎貴監督作『DESTINY 鎌倉ものがたり』では堺雅人と共演。その他、ディズニー映画『シンデレラ』(15年)の日本語吹き替え版や、長編劇場アニメ『ひるね姫 知らないワタシの物語』(17年)『バービー』(23年)では声優を務めた。近年の作品に「ムチャブリ!わたしが社長になるなんて」(22年)、「unknown」(23年)、映画「怪物」(23年)、ゴールデンカムイ(23年)、舞台「ミス・サイゴン」(22年)、「宝飾時計」(23年)などがある
取材・文/安心院 彩 撮影/渡辺 美知子 編集/光谷麻里(編集部)
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