「努力は夢中に勝てない」アパレル業界で最年少上場した“ゆとり世代”のトップランナー・yutori片石貴展さんの仕事論
より良い人生を送るには、趣味やプライベートに熱中するのもいいけれど、中には仕事でしか味わうことができない達成感ややりがいもあるはずだ。
では、「いい人生」をつくるための「いい仕事」とは一体何なのだろうか? 各界で活躍中のビジネスパーソンたちに、インタビューを実施した。
今回登場するのは、昨年末にアパレル業界で最年少上場を果たしたyutori代表の片石貴展さん。ゆとり世代のトップランナーでもある彼のキャリアを辿りながら、「いい仕事」の答えをひも解いていこう。
※本記事は2024年11月に発売予定の雑誌『type就活』から先行公開をしています。

株式会社yutori 代表取締役社長 片石貴展さん
1993年生まれ。明治大学商学部卒業後、株式会社アカツキに入社。2017年12月にInstagramのアカウント『古着女子』を開設し一躍話題に。18年4月、株式会社yutoriを設立。23年12月、国内アパレル企業の経営者として最年少でグロース市場に上場した。yutori採用サイト
僕が起業したのは24歳の時。社会人になって2年が経った頃でした。
学生時代から「いつか好きなことで起業したい」という思いはあったものの、自分にはまだ能力が足りていないという漠然とした不安があり、大学卒業後はIT系のスタートアップに入社しました。
今振り返っても、この選択は正しかったと思います。会社に入ったからこそ学べたことがたくさんあったので。
就職先を選ぶときは、給与や福利厚生などの条件は一切考慮しませんでした。僕がこだわったのは、経営者の世界の捉え方が自分と一致していること。簡単に言えば、社長がカッコいいと思えるかどうかで決めたって感じです。
僕が入社したアカツキの創業者である塩田元規さんは、会社のビジョンを語る時に「感情報酬」という言葉を使っていました。
報酬がお金だった場合、人間のがんばりには限界があるが、「好き」「嬉しい」といった感情のリソースは無限なので、それが報酬になれば誰もが気持ちよく働き続けることができる。この解釈が僕の世界観に重なったことが、入社の決め手になりました。
新卒で配属されたのは、新規事業を手掛ける部署。メンバーは大手企業から転職したビジネスエリートが多く、僕もロジカルシンキングをベースとした仕事術から飲み会での振る舞いまで、本当に多くのことを吸収しました。
転機が訪れたのは2年目のこと。インフルエンサーとコラボしたPR施策を担当することになり、ひたすらインスタを見ていたときに、古着好きな女性たちのコミュニティーが盛り上がっていることに気付いたんです。
僕も古着が大好きなので、『古着女子』のアカウントを趣味で立ち上げたら、初日だけでフォロワーが500人に達しました。
それを見て、「好きなことで起業する」という僕のテーマを実現するタイミングが来たと直感しました。アカウント開設の翌日にはyutoriという社名を決めたくらい、決断は早かったですね。
その後もフォロワー数を伸ばし続け、5カ月後には10万人へと爆発的に増加。同時期にアカツキを退社し、2018年4月に会社を設立しました。
「好き」の蓄積があったからいきなり結果を出せた

そう聞くと僕が起業家としていきなり成功したように思うかもしれませんが、自分としては“好き”を蓄積してきた長い時間を経て、ようやく勝負できる時が来たという感覚でした。
僕は昔からファッションや音楽が好きで、高校時代は古着情報のブログを書いていたし、大学時代はアカペラグループのメンバーとしてSNSで活動を盛り上げていました。
だから自分の好きなものを共有できるコミュニティーを見つけて、そこに刺さる発信をすることにかけては、その時点で10年近く積み重ねた経験があったわけです。
現在のyutoriは29ブランドを展開するアパレル企業へと成長し、昨年末には上場も果たしました。今後5年間でブランド数を70に増やし、若い世代の多様な“好き”を包括できる器の大きい企業になって、好きな人たちと集まる「若者帝国」をつくりたい。これが僕たちの野望です。
僕は「この会社を一生やります」と公言しています。同世代の若い起業家で、そう言い切れる人っていないんじゃないかな。
僕は自分が本当に好きなことで起業したので、無理にがんばったり、努力したりしなくても、自然と夢中になれる。がんばりや努力は短期間しか持続しないけど、“好き”はサステナブルなんですよ。「努力は夢中に勝てない」は真理だと思います。
それに僕は「好きな人と好きなことができる以上に幸福なことはない」と思っています。yutoriが創業時から掲げるビジョンは「臆病な秀才の最初のきっかけを創る」。才能はあるけれど自分に自信がない人が、自分の思いや創造性を発揮するきっかけをつくりたい。そんな理念が根底にあります。
僕も今でこそ若大将みたいな雰囲気を出してますけど(笑)、かつては自分の価値を信じることができない「臆病な秀才」の当事者でした。
でも好きな人たちと好きなことを夢中でやり続けたら、売上や利益などの客観的な結果がついてきて、国内アパレル企業の経営者として最年少で上場することもできた。今は以前よりずっと自分のことを好きになれたという実感があります。
皆さんの中にも自信がない人がいるかもしれません。まだ何の実績もない人が自分を信じるのは、たしかに難しいです。
ただ自信がなかった頃の僕にも、信じられるものが二つだけあった。それは自分にはずっと変わらず好きなものがあるという事実と、自分を信じてくれる人たちの存在です。
だから皆さんも自分自身を信じられるかどうかは一旦横に置いて、昔からずっと好きなものに目を向けてほしい。
それを信じ抜いて夢中で何かを成せば、自分を信じてくれる人が現れるし、自分のことも好きになれる。そうすればきっと人生を彩る仕事につながっていくはずです。
取材・文/塚田有香 撮影/赤松洋太 編集/大室倫子