新卒の機会逃したらバイト、転勤族妻はパート一択っておかしくない? “やりたいこと迷子”だった私が、自分の使命を見つけるまで【喜多村若菜】
生き方も、働き方も、多様な選択肢が広がる時代。何でも自由に選べるってすてきだけど、自分らしい選択はどうすればできるもの? 働く女性たちが「私らしい未来」を見つけるまでのストーリーをお届けします
父のようにバリバリ働きたい、けれど母のように常に子どものそばにいる親にもなりたい—―。幼い頃から両親の姿を見て、そんな人生を送りたいと考えていたと話す、起業家の喜多村若菜さん。
しかし新卒でコンサルティングファームに入社した後、仕事も家庭も諦めない生き方には多くの壁が立ちはだかることを知ったという。
女性がライフイベントを機にキャリアを諦めなくてはいけない姿を目の当たりにし、「これは私が変えなければ」と、自分の強みを活かせる仕事が選べるようになるオンラインキャリアコーチングサービス『ミートキャリア』を立ち上げた。
自身の理想の働き方をかなえるだけなら、転職やフリーランスなどの道もあったはず。なぜ喜多村さんは、起業に自身の使命を感じ、奮闘を続けるのか。「キャリアの正解」を探る中で気付いたという、彼女なりの「未来のつくり方」について話を聞いた。

株式会社fruor 代表取締役CEO 喜多村若菜さん
1993年大阪府生まれ。神戸大学経済学部を卒業後、アクセンチュアに入社し、基幹系システム開発のコンサルティングを経験。2017年8月より教育関連のベンチャー企業の立ち上げに携わり、採用・育成を担当する中で、働き方の選択肢が少ないことに疑問を持つ。19年に株式会社fruorを設立
「天職なんてない」大事なのは、自分の選択を正解にしていくこと
私は幼い頃からずっと、「自分の天職って、何なのだろう」と考えていました。
これは家族や親戚に、いわゆる「先生」と呼ばれる専門職として働く人が多かったからだと思います。自分もいつかピッタリな「天職」を見つけて働くんだと、当たり前のように考えていました。
でも、「医者」も「弁護士」もピンとこない。高校、大学と進学しても、なかなか自分の「天職」になりそうなものに出会えずに、少し焦るような、モヤモヤした気持ちでいたんです。
そんな私の考えが変わったのは、大学を休学して海外のインターンシップに参加したことがきっかけでした。
海外で多様な価値観に触れ、たくさんの社会人の先輩たちの話を聞く中で、「自分にぴったり合う天職は、見つかるものではない。自分が選択をした後に、それを正解にしていくことが大事なのだ」と考えるようになったのです。
そう思えたことは、正解のない「天職探し」から抜け出せた感覚でした。

シンガポールでの学生インターン時代の写真
そしてまだ当時はこれと言ってやりたいことがなかった私は「いつか何かしたいことができたときに、迷わずチャレンジできる自分になる」ことを目指そうと思ったのです。
就活では、汎用性の高いコンサルティング力を鍛えるために、コンサルティングファームのアクセンチュアを選びました。
当時の私にとって、どこの会社に入社するかという選択はそれほど重要ではなくって。入社という選択を正解に近づけるためにはどうすればいいのかを、ひたすら考えながら仕事に取り組む毎日でした。
「仕事も家庭も諦めない社会がいい」自分の使命に気付いた
そんな私に転機が訪れたのは、アクセンチュアで一緒に働いていた先輩の、ベンチャー企業立ち上げに参加したことがきっかけでした。
そこでは、育児をしている親の課題解決をベースとした事業を展開していて、ユーザーである親御さんの話を聞くと、キャリアと子育ての両立の難しさに悩む女性がとにかく多かったんです。
私自身でいうと、父が働き、母が専業主婦の家庭で育ったので「自分も父のようにバリバリ働きたいし、母のようにいつも子どものそばで寄り添う親になりたい」と考えていました。
しかし働く親たちの現状を見ていると、この父と母の両方をバランスよくこなす方法はとても難しいことだと気付いたのです。
「仕事」も「家庭」も諦めたくない。それができない社会ならば、私が変えていくことが「自分がやりたいこと」にもつながるのではないか。私にとって、ついに自分がチャレンジすることが見つかった瞬間でした。

ベンチャー時代、子育て世代にヒアリングを続けていた頃の喜多村さん
でもどうすれば、女性たちの「仕事も家庭も諦めない働き方」を実現できるのか。すぐに思いついたのは、転職エージェントの事業や、家事代行のサービスでした。
でも転職エージェントでは、結局クライアント側の事情に合わせて求人を勧めないといけない場面が出てくるでしょうし、家事代行では働き方の根本的な課題解決にはなりません。
迷った末に、まずはユーザーになり得る人の声を聞いてみないことには何も始まらないと、SNS上で子育てやキャリアに悩む女性たちにDMを送りました。
「話を聞かせてほしいです」と、何百通もDMを送ったら、想像以上の方々が反応してくれて。最終的には200人以上に、オンラインでヒアリングしたり、アンケートを採ったりすることができました。
200人以上に聞いて気付いたキャリアの根深い課題
たくさんの女性たちの話を聞いて分かったのが、多くの人がキャリアや働き方の選択肢を知らなかったり、きっかけがなくて行き詰まっていたりすることでした。そして私と話すうちに突破口のヒントを見つける人もいて、「相談」自体に価値を感じてくれる方が多いことも発見の一つでしたね。
また同時期に、私の大学時代の後輩に、卒業とほぼ同時に出産し、新卒採用の機会を逃してしまった子がいました。すごく優秀だったのに、「近所でアルバイトでもするしかない」とキャリアを諦めている彼女の姿を見て、なんてもったいないんだろうと。
新卒採用の機会を逃したというだけで、自分の希望する働き方ができないなんて、私には信じられませんでした。
彼女には良いきっかけがあり、今では正社員として生き生きと働いていますが、そのきっかけに出会えなかったら自分の望むような働き方ができなかったわけです。この領域は、なかなか問題の根が深いなと感じました。
それらの経験から、性別や子育て中であるかどうかに限らず、誰もが自分に合った働き方ができる社会を実現するためには、キャリアの選択を相談できる場が必要だと考え、オンラインキャリアコーチングサービス『ミートキャリア』を立ち上げたのです。

ミートキャリアは転職エージェントとは異なり、転職を前提としないキャリアプログラム
今は主に、自分の強みや、強みを活かせる場所が分かる月額制キャリアプログラムを提供しています。転職を前提とはせずに、あくまで「キャリアで悩む人を支援するサービス」として、自己理解や納得のいくキャリア選択をサポートするのが事業のポイントです。
例えば利用者の中には、「転勤族の夫に付き添って、短期間で引っ越しを繰り返すため、今までパートタイムでしか働けなかった」という方が、週4日勤務のフルリモート正社員として就職したケースがありました。
実はこの方、週5日の正社員の求人に応募して、企業への交渉によって勤務条件を変更してもらったんですよ。
ミートキャリアで「週5は無理だけど、週4では難しいですか?と、企業に交渉してみたらどうか」と、私たちから利用者の方にアドバイスしたのですが、「そんなことしていいんですか?」と驚かれました。
私たちは転職エージェントではないので企業に直接交渉はできませんが、個別にこういった「ちょっとしたコツ」を伝えて、利用者の方のより良いキャリアのきっかけをつくっています。
ベストバランスをかなえるには「自分だけで何とかしない」こと
ミートキャリアを立ち上げた頃の私は「仕事と家庭の両立に悩む当事者」ではありませんでしたが、今年の3月に出産し、現在は私も仕事と子育てを両立する立場になりました。
経験してみて分かったのは、両立において「自分のベストバランス」を知り、「自分だけで何とかしない」ことの大切さです。
例えば私は、育児に専念するよりも、家族に協力してもらいながら仕事にもコミットする方が幸せを感じられるタイプ。子育てに専念しすぎるのも、仕事だけに向き合うのも、それだけでは笑顔になれなかったと思います。

そのバランスを保つには、「これは誰にお願いしよう」と周りを頼らないと実現できません。
ミートキャリアでも「仕事量を増やしたいけど、自分が子どもを見ないといけないので増やせない」という人がよくいるのですが、話を聞くとそもそも自身のご家族や周りの人に相談すらしていないんですよね。
最初から周りに期待せずに「自分で何とかする方法」を考えてしまう人がとても多いんです。
でも自分のキャリアのベストバランスを保つなら、まずは身近な周りの人を頼るなどして、その「私が全てなんとかしなきゃ」という無意識の考えから抜け出す必要があると思います。
私自身も、これまでのキャリアを振り返ると、いつも周りの人が自分の選択に影響を与えてくれていました。
就職を決める前にインターンで出会った人たち、事業を始める前にSNS上で話を聞かせてくれた方々。気付けばたくさんの人たちの話を聞いて、助けてもらってきたからこそ「自分らしいバランス」が見えてきたのだと思います。
ですから今、何かを変えようと悩んでる人は、まず周りを頼って、相談してみることから始めてみるのもいいのではないでしょうか。
そして一歩踏み出すなら、絶対に1歳でも若いうちがいいです。なぜなら、今より3年たったらもっと「できない理由」が増えるだけですから。
一番若い、今この瞬間に、行動すること。そうやって、自分のキャリアを諦めることなく、自分に合った働き方を選べる社会を、私自身もつくっていきたいと考えています。
取材・文/宮﨑まきこ 編集/大室倫子(編集部)
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