「文系・パソコンスキルなし」なのにIT業界から引っ張りだこ? 未経験でも求められるエンジニアが持つ三つのスキル

昨今、エンジニアの未経験採用をするIT企業が増えてきた。
しかし、未経験歓迎といっても「文系よりも理系出身者の方が有利なのでは?」「まともにパソコンを使えない自分にはさすがに無理かも……」とハードルを感じる人も多いのではないだろうか。
そんな不安の声を気持ちよく吹き飛ばしてくれたのは、全国に拠点を拡大し、右肩上がりの成長を続けているIT企業、システム・リノベイトのエンジニア採用責任者、三星 悟さんだ。
当社では、文系出身であるとか、パソコンスキルが無いなどといったことは全くハンデになりません。
今のIT業界で求められるのはもっと別のスキルですから。
実際、未経験者が全体の4割を占める同社では、文系出身の新卒や、サービス業出身者など、ITのバックグラウンドが全くなかったエンジニアが多数活躍している。
では、文系でもパソコンスキルがなくてもエンジニアデビューできるのは、どのような人なのだろうか。三星さんが面接で着目しているポイントと併せて聞いた。

株式会社システム・リノベイト
執行役員/採用責任者
三星 悟さん
1998年に大学を卒業後、東京のSI企業に就職しNotes事業に携わる。SI部門のリーダー、マネジャー職を経て東京技術責任者として活躍。 2016年システム・リノベイトに入社し、経営企画室・室長に就任。 18年9月、執行役員に就任。19年より採用責任者として、同社の新卒・中途採用をけん引している
未経験であることがハンデにならない時代に
システム・リノベイトではなぜ、未経験者を中心にエンジニアを採用しているのでしょうか。
もちろん経験者も採用していますが、時代の移り変わりとともにエンジニアに求められる役割が変わってきているため、「未経験であること」がハンデになりにくくなってきているからです。
どのように変化しているのですか?
従来のように「高度なプログラミングスキルを持つエンジニア」がそこまで求められなくなってきています。
それはなぜ?
近年はIT業界でも、自動化ツールや生成AIなどが使われるようになっていて、人間がプログラミングをしなくても、システムで作れる範囲が広がってきています。
また、人件費の観点から、海外のエンジニアにプログラミングを依頼するオフショア開発も普及してきました。
したがって国内のエンジニアが「プログラミングをする」重要性が下がってきているんです。
なるほど。国内のエンジニアの役割が変わってきているんですね。
そうですね。国内のエンジニアには、プログラミングをする手前の工程で価値を発揮することが求められるようになっています。
例えばお客さまの要望や意図を読み取ったり、お客さまが分かりやすいように説明や提案ができたり。
「プログラミングさえできればエンジニアは食べていける」という時代もありましたが、今はそれ以上に、コミュニケーションスキルや提案力が求められるようになっていますね。

とはいえ、一定のプログラミングスキルは必要ですよね?
もちろん必要ですが、それは後からでも十分身に付けられます。
逆に、コミュニケーションスキルや提案力などを後天的に身に付ける方が難しいんですよね。
さらに、こういった対顧客のコミュニケーションスキルは未経験者の方が高いケースも多いんですよ。
それはなぜでしょう?
未経験者は「分からない人の気持ちが分かる」からです。
経験者は、分からない人の気持ちに寄り添いづらく、IT知識のないお客さまにもつい難しい言葉を使って説明してしまうことがあります。
一方で未経験者は、自分自身がつまづいた経験があるので、分かりやすく説明するのが上手なんです。
たしかにそのスキルは、お客さまと接する場面で活かせそうですね。
そうですね。ですから当社では、未経験者を採用する際に理系のバックグラウンドやパソコンスキルの有無はほとんど見ていません。
大切なのは、相手と適切にコミュニケーションができる力であり、そこに文系・理系の区別はほとんど関係ないんですよ。
未経験者を採用する際に面接で見ている三つのポイント
今はパソコンスキルや理系のバックグラウンドより、コミュニケーション力や提案力が大切なことがよく分かりました。
三星さんは面接の中で、どのように活躍できる人を見極めているんでしょうか?
大きく三つのポイントに注目しています。
一つ目は、「分かりやすく伝える力があるかどうか」。これは前述した通り、お客さまと対話をする中で最も重要なスキルの一つです。
面接で想定していなかった質問がきても、きちんと自分の考えを整理して、相手が分かりやすい言葉にして話せるかどうかがポイントですね。

二つ目は何でしょう?
二つ目は、「チームの中で自分の役割を見つけて動けるかどうか」です。
システム開発は基本的にチームで動いており、チームワークが大切になります。チームの中にはさまざまな役割の人が必要なので、必ずしも全員がリーダーである必要はありません。
自分がどういう役回りをしたらチーム全体のパフォーマンスが上がるのかを見極められる人は、入社後も活躍できる可能性が高いと思います。
これもチームの中における一種の「コミュニケーション力」ですよね。
チーム内で自分の役割を見つけられるかどうかを、面接の中でどのように見極めているのでしょうか?
グループで何かをする時にどのような立場に回っているかを聞くことが多いです。また、「友達からどんな人って言われる?」なんて質問をすることもあります。
こういった問いにパッと答えられる人は、コミュニティーの中で自分の役割を見出せていることが多いですね。
なるほど。三つ目はどうでしょう?
三つ目は、「自信を持って話ができるか」です。
例えば、「前職では何を頑張ってきたのか」といった質問に答える際に、自分が選んだ仕事に自信と誇りを持って話しているかどうかはよく見ています。
これまで楽しく働いてきた人たちは、やっぱり話す時も楽しそうに話すんですよね。
自信を持って前向きに仕事に向き合ってきた人は、エンジニアデビューしてからも同じ姿勢で目の前の仕事やお客さまとも向き合える人が多いです。

「エンジニアに必要なコミュニケーション力」と一言でいっても、分解すると私たちでもできるようなことが多そうですね。
そうですね。またこれらの力は研修などでさらに伸ばすこともできます。
どうやって?
例えば、当社では入社後も継続してコミュニケーションスキルを高めるためのフォローアップ研修を行っています。
エンジニアたちの「顧客折衝力」はとても高いと思いますよ。
どんな研修を行っているんですか?
「ITの知識が浅いクライアントの依頼を正確に把握するにはどうすればよいか」「複数の関係者がいる中で、コミュニケーションエラーを起こさずに効率的にプロジェクトを進めるためにはどうしたらよいか」など、実際のプロジェクトの現場を想定した課題を出して、自分なりの解決策を生み出していく研修です。
現場であり得る事例に対処する訓練を日頃からしておくことで、実際のお客さまとのやりとりでも質の高いコミュニケーションができるように支援しています。
「人と接する仕事」がしたい人にこそ、エンジニアがおすすめ
一昔前だと「手に職を付けたい」という理由でエンジニアになる人が多かったですが、エンジニアを志望する動機も変わってきそうですね。
そうですね。「人が好き」「人と接する仕事がしたい」という理由で当社を志望する人も増えています。
従来のエンジニアと違って「人と接する仕事の魅力」を味わえるのも、今の時代のエンジニアならではですね。
営業や接客業のような志望動機でエンジニアを選んでいるんですね……!
時代の変化を感じますよね。
人と接する仕事の醍醐味に加えて、時間や場所に縛られずに働けたり、安定的に収入アップしていけたりというエンジニアならではのメリットも得られるので、「人と接する仕事をしながら、長く働き続けたい」女性にはおすすめです。
なるほど。接客業とエンジニアのおいしいとこどりみたいですね。
そうですね。また、時代に左右されないスキルを持てることも、今エンジニアになる魅力の一つだと思います。
プログラミング言語は時代とともに変化するので、プログラマーたちは常に技術の最新動向を追わなくてはなりません。しかも新しい技術の習得には労力がかかるので、年齢を重ねながらアップデートしていくのはなかなか大変です。
しかし、お客さまとのコミュニケーションに長けたエンジニアが求められるのは、システム開発の上流工程。
そこで必要となるのはコミュニケーションを軸としたビジネススキルなので、普遍的です。
IT業界ではもちろん、他業界でも役に立つ汎用的なスキルが得られそうですね。
はい。いずれ他業界にキャリアチェンジすることになっても活かせると思います。
未経験者にとって勇気をもらえるお話ですが、プログラミングスキルがなかったらコミュニケーションも難しいのでは……?
もちろん、システムを構築したり、考え方や仕組みを理解したりする上で、プログラミングはできた方がいいです。
そのため当社では、研修と実務でプログラム経験も積んでもらった上で、より世の中で活躍できるようにコミュニケーション能力を重視しています。
コミュニケーション力に比重を置きつつ、少しずつ技術力も高めていければいいんですね。
お話を伺って、エンジニアという仕事へのイメージが大分変わりました!
エンジニアは、人と接することが好きな人にこそ向いている職業です。
「プログラミングスキルには自信がないけれども、対人スキルなら何とかなりそう!」と思えたなら、エンジニアになれる可能性は十分にあります。ぜひ思い切ってIT業界への扉を叩いてみてください。

取材・文/一本麻衣 撮影/吉永和久 編集/光谷麻里(編集部)