【勝友美】28歳の私は「遊びも恋も出産も、全部捨てた」起業に全てを懸けた今思うこと
もうすぐ30歳──「素敵な大人」になるために、28歳の今からやっておきたいことって何? サイトオープン13周年を迎えたWoman typeが、「なりたい自分」になるための“28歳のこれから”を一緒に考えます
男社会が根強く残るスーツ業界で、数少ない女性経営者として旗を掲げ、オーダースーツ専門店『Re.muse』を展開する株式会社muse代表取締役の勝友美さん。
日本にはまだ定着していない「レディースオーダースーツ」を広めるべく、働く女性たちが心の底から着たいと思えるスーツを提供し続けている。
そんな勝さんが、独立の決断をしたのが、まさに28歳の時だった。
さまざまな人生の選択肢に揺れる28歳というタイミングで、なぜ勝さんは重大な決断ができたのか。独立から12年が経った彼女に、後悔しない28歳の過ごし方を聞いた。

株式会社muse代表取締役
兵庫県宝塚市出身。アパレルメーカーにて販売員を務め、入社初日にトップセールスとなる。その後、スタイリストとして海外ポータルサイトの新規事業立ち上げに参画したのち、オーダースーツ業界へ転身。最高峰の技術を習得し、2013年に『Re.muse』を創業。Re.muse のスーツは着る人を自信で包む'ヴィクトリースーツ”と呼ばれ幅広い世代からの人気を博している。また、市場がない中でレディーススーツのマーケットを独自で切り開き牽引する存在であり、女性活躍の発展にも貢献している。24年には『Re.museBEAUTY』を立上げ、化粧品業界への参入を果たす。女性起業家として業界の枠を越え多くのメディアに出演すると共に、自身の経験を基にYouTubeなどを通じ精力的に配信を行っている。SNS総フォロワー88万人(2024年10月時点)。著書に『貫く力 人生がすべて思い通りになっていく』『人は自分に嘘をつく』(共にKADOKAWA)、『営業は「バカ正直」になればすべてうまくいく!』(SBクリエイティブ)がある。 Instagram、TikTok、YouTube
28歳で独立、ためらいは一切なかった
私の28歳は、人生の中でも特に大きな1年でした。
私のキャリアをざっと説明すると、短大を出て20歳でアパレルの販売員に。そこからスーツ業界に飛び込み、一人でやっていけるだけの自信を身に付けてから、会社を立ち上げたのがちょうど28歳の時です。
女性の28歳って、いろいろな選択に悩む時期だと思うんですよね。
このまま今の会社で働き続けるのか、あるいは転職するのか。結婚や出産というライフイベントを経験する人たちもどんどん増えてくる。そんな大事な時期に独立なんて、と思う人もいるかもしれません。
でも、私は一切迷わなかった。独立の道を選ぶことに何のためらいもありませんでした。
それは、結婚願望がなかったのもあるし、当時は子どもを持つことに興味がなかったことも大きいかもしれない。
でもそれ以上に、自分のやりたいことがこれ以上ないほど明確になっていたからです。
当時のアパレル業界はファストファッションが流行り始めた頃で、お金も手間もかかるオーダースーツ業界には逆風が吹き荒れていました。
価格を下げるには、顧客の回転率を上げるしかありません。そうすると、1分1 秒でも早くお客さまを帰した社員が評価されるわけです。
その人のためだけの一着を提供するというオーダースーツの理念とは、真逆の方向へ業界全体が進みつつありました。
このままでは、いずれ業界が廃れる。ちゃんとオーダースーツの正しい価値を提供できる場をつくりたいと思って立ち上げたのが、『Re.muse』。ヴィジョンは、100年先も愛されるブランドをつくることです。
つまり、私が人生を懸けて取り組むべき使命を見つけたのが、28歳の時でした。

通勤1時間半、手取り12万。「やりがい」しかなくても幸せだった
私は20代って、自分のやりたいことを見つける時間だと思っているんですよ。でも実際には、自分のやりたいことが分からないと悩んでいる人も多い。
ではどうして私は20代のうちに自分のやりたいことを見つけられたのかを考えると、私が自分の好きなことや嫌いなことに敏感だったからだと思います。
私が新卒入社したアパレル会社、めっちゃ待遇が悪かったんですよ(笑)。初日からトップセールスを叩き出すくらい成績が良くても、インセンティブもつかなければボーナスもない。月収は手取りで確か12〜3万円くらい。
しかも家から会社まで1時間半くらいかかっていたので、通勤アクセスも最悪。本当、「やりがい」以外は何もありませんでした。
でも、当時の私はそれでも幸せだったんです。私が仕事に求めていたのは、やりがいだけでしたから。
実は、一瞬だけ歯科医院で受付の仕事をしたことがあったんです。でも、私はたった1日で辞めました。
そこはアパレルよりも給料が良かったし、家から近くて休みもとれる。条件面で言えば圧倒的に良かったけれど、そこで働いている人たちが「1分1秒でも早く帰りたい」という会話しかしていなかったのです。
このままここにいたら、私も死んだような顔で働くことになるかもしれない。そんなの全然楽しくないな、と思いました。
どんな選択も、何かを選んだ時点で代わりに何かを差し出さないといけません。
私の場合、アパレル以外の仕事も試してみて「絶対に耐えられないもの」がはっきりしたからこそ、それをやらない人生を送るために、やりたいことを一生懸命やるしかなかったんです。

あとは、私が20歳くらいの頃は読者モデルが出すセレクトショップが流行っていて、私もセレクトショップをやりたいと思ったことがありました。
でも、本当にそれがやりたいのかじっくり考えてみると、案外そうでもなかったんです。単に、私はキラキラしている流行りのものに乗りたいだけでした。
そんな流行りに人生の大事な時間を使って自分は満足できるのか。自分に問い掛けた結果、答えはノーでした。
若いうちはキラキラした職場で働きたいという憧れを持つこともあります。でも、その憧れは期間限定。魔法はいつか解けます。
じゃあ、本当に自分を充実させてくれるものは何かといったら、つらいことや困難なことがあってもひたむきに努力できるものに出会うことです。
私の場合は起業だったけれど、それが全員に当てはまるとは思っていません。とにかく自問自答を繰り返して、自分だけの道を見つけるしかない。20代で経験する試行錯誤は、そのためにあると断言できます。
自分を裏切ることさえしなければ後悔はしない
自分だけの道を見つけた28歳の頃から12年の時が過ぎ、私はもうすぐ40歳になります。
今振り返って、あのときこれをしておいたら良かったものが何かあるかというと、まったくないんですよ。私は、自分の人生に1ミリの後悔もない。
もちろんいっぱい失敗してきました。出店のタイミングを間違って苦労したこともあるし、社員の定着がうまくいかず悩んだこともありました。
でも、どの瞬間も私は一生懸命やってきた。そのときそのときでベストを尽くしてきたから何も後悔してないし、もしタイムリープして人生をやり直せるとしても、私は間違いなく同じ選択をすると思います。
重要なのは、人生における最終ゴールを決めることです。私の場合は、この会社で100年先も愛されるブランドをつくること。
そこまでの短期的な目標なんてどうでもよくて、ゴールさえブレなければ経路はどこを通ったっていいと思うんですよ。
そして、そのゴールのために必要のないものは潔く切り捨てることも大事かな。
私は独立を決めた時に、事業が軌道に乗るまでは恋愛はしないと決めたし、友達とお茶する時間もいらないと決めました。
人間に与えられている時間は、みんな等しく同じです。
私みたいに特別な才能があるわけでもない人間は、同じ24時間で自分の命をどう使うかでしか人と差をつけられないと思っていました。

Re.museのオーダースーツは「VICTORY SUIT(ヴィクトリースーツ)」と呼ばれ、着る人の夢や目標にとことんフォーカスして仕立てを進めている
そして失敗も含め、自分の生きてきた道を誇りに思える。そんな、一見負の遺産のように思える出来事をプラスに変えられる思考力は持っておいた方がいいと思いますね。
人生って結局、捉え方次第。同じ出来事に対して、ポジティブに捉える人もいればネガティブに捉える人もいる。だったらプラスに受け取れる方が絶対いいですよ。
それに「あの時、こうしておけば良かった」って後悔するのは、結果が悪かったからではなくて、決断する時に、覚悟ができていなかったからです。
一生懸命考えて出した結論なら、たとえ結果が良くなくても、あの時の私にはこの選択しかできなかったって納得できる。
そのためには、自分と対話するしかありません。SNSにもインターネットにも、自分の人生の答えは落ちていないですから。
幸せが何か分からないうちは、がむしゃらに努力をする
ただ、そうやってベストを尽くしてきたって、未来の自分がどうなっているかは誰にも分かりません。想定していない状況にぶち当たって戸惑うことは、いくつになってもあります。
私の場合は、出産ですね。28の時は子どもがほしいなんて思っていなかったけれど、この歳になって、子どもを産むことでしか得られないものがあるんじゃないかと考えるようになりました。
でもだからといって、別にあの時の決断を後悔はしていないです。だって、本気で子どもがほしいと思ったら、今からでも道はあるから。
私は今まで自分がやりたいと思ったときにやりたいことをやって形にしてきました。その成功体験から生まれる自信があるから、私ならきっと大丈夫と思えるんです。
だからやっぱり、20代のうちにできることは、自分を磨き続けることじゃないかな。
自分は結婚するのかしないのか。子どもを持つのか持たないのか。悩むのは当然ですけど、本気で結婚したかったら、すでにそのための行動をとっているはず。
どうしたらいいか分からないというところで立ち止まっているなら、まだ本気でそうしたいと思っていないのかもしれません。
だったら、まだ起こりもしていないことに足をとられるのではなく、その間にガンガン働いて、自分の能力を伸ばした方がいい。

Re.museは2018年より、テーラー業界では日本初となるミラノ・コレクションへ3度の出展。2023年には世界最高峰のファッションショー、パリ・コレクションへ出展し、ミラノに続き業界初の快挙を遂げた。
会社が伸びしろに投資してくれるのは20代まで。30代になったら実力しか見られません。伸びしろに投資してもらっているうちに、がむしゃらに働きまくってほしいですね。
なぜかというと、そうやって努力できる自分をつくることが、その先の人生の役に立つからです。
努力できる自分さえつくっていれば、いつかやりたいことを見つけたときに、実現に向けて努力ができる。そのやりたいことは、結婚や出産なのか、あるいはキャリアなのか、それは人次第です。
ただ、どちらにせよ努力ができなければ、望むものは手に入れられません。
努力ができれば、いずれ成功体験も掴めるし自信もつく。そうやって社会から選ばれる人材になったら、今後は自分の望む道を自分で選べるようにもなります。
だから、迷っている暇があるなら、目の前のやるべきことに全力で取り組んでください。
どうしても20代後半って、自分のこれからの道を選ばないといけないと思い込みがちだけど、適齢期なんて人それぞれ。
自分がやりたいと思った瞬間がベストタイミングなんだから、世の中が決めたセオリーに振り回される必要なんてありません。
最後に一つだけ覚えておいてほしいのは、世の中の多数決が必ずしも自分の幸せとは限らないこと。
私の幸せは私が決める。そして、その幸せが何か分からないうちは、とにかくがむしゃらに今目の前のことに努力してほしい。
それが、自分の人生に後悔がない私からのアドバイスです。
取材・文/横川良明 編集/大室倫子(編集部)