2025年はAIエージェント元年になる? 「AI従業員」との協業スキルを磨くために働く女性ができること

ChatGPTが登場してはや2年ーー。大手企業を筆頭に、生成AIツールを活用して業務効率化に取り組む企業が増えてきた。

生成AIに特化した事業変革・活用定着コンサルティング・開発支援を行うCynthialy株式会社の國本知里さんは、「2025年には、さらに多くの会社がAI活用に乗り出すことになる」と話す。

國本知里さん

Cynthialy株式会社
代表取締役
國本知里さん

大学院卒業後、SAPにてHR、SaaS法人営業を経験後、AIスタートアップでの事業開発マネジャーとして、大企業向けAIビジネス新規事業・営業・マーケに従事。その後、DX・AIスタートアップの支援会社を創業、マーケティング・PR立ち上げ・DXハイクラスエージェントを立ち上げ。2022年10月にCynthialyを創業し、生成AI活用人材の育成事業を推進。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授 X(@chelsea_ainee

特に、國本さんがいま注目しているのは「AIエージェント」が日本の職場、女性のキャリアに与える影響だ。

「AIエージェントは、女性が多く従事している事務系の職種をはじめ、あらゆる業界のオペレーション業務をまるごと置き換えてしまう可能性のあるツールです。

アメリカでは、インサイドセールスやカスタマーセンターなどを部署ごとAIエージェントに置き換えてしまうような企業も数々出てきています。

日本国内ではまだそこまでのレベルでAIを活用しきれている企業はありませんが、2025年以降はいよいよAIエージェントの影響を強く受けるようになりそうです」

そう話す國本さんに、AIエージェントとは何か、2025年以降に働く女性たちの仕事・キャリアに与える影響について話を聞いた。

文句を言わず24時間働く、超優秀な同僚現る

ーーAIエージェントとは、どんなものなのでしょうか?

はじめにビジネスの目的やゴールさえ与えれば、過去データの分析やタスクの洗い出しをしてくれるだけでなく、タスクの実行部分まで一貫して行ってくれる完全自律型のAIシステムのことです。

ーーこれまでの生成AIツールとは、何が違うのでしょうか?

ChatGPTをイメージしてもらうと分かりやすいと思うのですが、これまでは文章作成・要約、企画の案だしなど、各作業ごとに生成AIにプロンプト(指示)を人間が与え、必要な答えをその都度導きだしてもらうくらいのレベル感にとどまっていることがほとんどだったと思います。

一方、AIエージェントがそれらと全く違うのは、最初に明確なゴールさえプロンプトで与えてしまえば、過去のデータから推論してタスクの実行までできるところです。

一人の従業員のように、「過去の実績から考える・必要なタスクを洗い出して実行する・結果を見て改善する」というプロセスを全てやってくれます。

例えるなら、「24時間休まず働くことができて、文句も言わず、会社を絶対に辞めない超高学歴・高IQのアシスタント」という感じですね。

ーーそう言われるとすごいですね、人間を雇うよりもよっぽどリスクが少なそうに思えてしまう……。具体的に、どんなAIエージェントがありますか?

まだ日本ではあまり目立ったAIエージェントは出てきていないのですが、アメリカでは当たり前のようにAIエージェントを活用する企業が登場しています。

<例1:『11x』>

11xのアバター

『11x』は、営業代行のツールとして注目されているAIエージェント。AliceとJordanと名づけられたAIアバターが、営業担当に代わってWeb上にあるデータから見込み顧客を探してリストアップして電話やメールで連絡してアポイントを獲得、日程調整までやってくれる。

また、彼らが送るメールの内容は個別にカスタマイズされており、電話でも「人間と話している」くらい自然な会話ができる(英語であれば)。商談後のフォローや自分で解決できない課題の相談・提案なども随時行ってくれる(出典:11x


<例2:『Gorgias』>
11xのアバター

『Gorgias』は、オンライン接客サービスを得意とするAIエージェント。マーケター、カスタマーサポートなど、EC事業を行う部門で働く人たちの仕事をまるごと代行してくれる。

例えば、消費者からの相談にチャットやメールで回答したり、個別のセール情報を送って購買を促したり、配送・返品の手続きなども行ってくれる(出典:Gorgias


ほかにも、『Devin』と呼ばれる完全自律型AIソフトウエアエンジニアを使えば、プロンプトを入力するだけでコーディングからソフトウエア開発まで行うことが可能。

リアルタイムで開発進捗を担当者に報告し、改善を重ねながら開発を行ってくれます。いよいよ、人間のエンジニアがコードを書く必要がなくなる日も近いかもしれません。

また、『Jasper』というマーケティング支援AIは、最初にビジネスのゴールを指示するだけで、効果的なマーケティングプランを立案して施策の実施まで行ってくれます。

しかも、各企業の商品やブランドのトーンに合わせて画像や動画、テキストを作成し、自らSNSに投稿することも可能。効果を見ながら、マーケティングの施策をブラッシュアップしてくれます。

上記で紹介したものはAIエージェントの中でもほんの一部ですが、このように、特定の職種や事業部の仕事を丸ごと置き換えてしまうようなAIが、いま続々と登場しているのです。

まさに、「同僚はAI」という日が近づいてきていますね。

誰でもAIエージェントが作れる最強ツール登場

ーーAIのレベルもここまでくると、ようやく「職場を変える」インパクトを持ちそうです。ただ、日本ではまだAIエージェントを活用している企業は少ないのでしょうか?

そうですね。日本ではまだAIエージェントの活用は進んでいません。

ですが、来年以降にも各業界・職種に特化したようなものが海外から入ってきたり、国内でも新たなサービスが生まれたりして、影響が出てきそうだなという印象です。

現時点では、プログラミング不要でAIエージェントを作れる『Dify』というノーコードツールがIT業界を中心にすごく話題になっています。

Difyの操作画面

わずか数回のクリックで、AIエージェントを作成することができる(出典:Dify


例えば、社内でよくある質問に回答するFAQチャットボットを作りたいというニーズがあるとしましょう。

これまでであれば、そのニーズを持っている部門の人が、自社のシステム部門の人に依頼し、要件定義をしてもらってそのまま社内で開発するか、社外のSIerなどに発注して開発してもらう必要がありました。

上記はいずれにしても、それなりの工数と人件費がかかります。

一方、『Dify』を使えばプログラミングをする必要がないので、「何のために・どんなものを作りたいのか」を画面表示にのっとり直観的に選んで指示を出すだけで、作りたいものを作ることができる。

エンジニアリングの知識がない人でも、比較的簡単に使えるところが特徴です。

AIエージェントをつくる女性

Difyだけでなく、Microsoft Copilot Studio等、こうしたツールがすでに流行し始めていることを鑑みても、国内でもAIエージェントへの関心は一気に高まっていくと思います。

ただ、中小企業レベルでは、社内のデータ整備が「AIを使う」前提でなされていない会社もありますし、社内にある情報をデジタル化できていない企業が多いことも事実です。

そういった環境ではAIエージェントを導入するハードルが高くなるため、活用レベルまで進むにはもうしばらく時間がかかるかもしれません。

AI従業員と働くために「技術を学ぶ」より大切なこと

ーー今回のお話の中で出てきた、AIエージェントが代行する職種はいずれも女性が多く働いている職種で、「今後、自分の仕事がなくなってしまうのでは」と感じる人もいるかもしれません。

そうですね。

昔から言われていることではありますが、「指示待ち」で働いてきた人や言われたことだけしかやらない人、作業レベルのことしかやってこなかった人にとっては、厳しい未来が待っているかもしれません。

何しろ、24時間働けて、病んだり愚痴を言ったりすることもないAIが「それ以上の仕事」をスピーディーにこなしてくれるわけですから。

ただ、AIエージェントが「面倒な仕事」やルーチン化した「退屈な仕事」を代わりにやってくれる分、私たちはAIを使う側にまわり、今よりももっと創造的で楽しい仕事ができるようになるとも言えます。

AIを使う女性

ーーAIを使う側にまわるには、どうすればいいのでしょうか。技術的なことを学ぶ必要がありますか?

技術的な知識はあるにこしたことはないと思います。それがあると、より深い理解でツールを使いこなせますから。

ただ、それより大事なのは、自分たちがやっているビジネスの目的や手段を深く理解することです。

ーーなぜですか?

AIに仕事をしてもらう場合、何より大切なのは、適切なプロンプトを与えることです。

また、AIエージェントのようなツールを使うのであれば、はじめにビジネスのゴールをしっかり理解させることが大切。

そのゴールに近づくために、AIから提案されたタスクの優先順位は本当に正しいのか、AIが実行している内容に「すべきでないこと」は含まれていないかなどを責任をもって判断していかなければいけません。

過去の経験値をもとに「こんなふうに指示を出したら、もっと成果が出るかも」という勘所を働かせ、作業内容を改善させることも重要です。

ーーなるほど。ある意味、部門の現場マネージャーのような視点がみんなに求められそうですね。

まさにそうです。

自分が在籍している会社や部門は、何のために、どうやって利益を上げてきたのか。その利益をどうすればもっと上げていけるのか、視野を広げて考えてみることが大事なのかなと思います。

その上で、目の前にある仕事にしっかり取り組んで事業に対する理解度を上げていくことが、「AIを使う側」の人材になるための近道です。

ーーそう考えると、今いる会社である程度の業務経験があることはアドバンテージになりそうですね。

そう思います。

逆に、職業経験の浅い若手の人にとっては、厳しい時代が来るかもしれません。

これまでは現場で作業経験を積みながら時間をかけて成長することができましたが、いきなり「ビジネスを俯瞰で見る」ことを求められるわけですから、ある意味、仕事の難易度は高くなります。

ただ、社内に経験豊富な人がいる場合、そういう人とバディーを組んでお互いの足りないところを補いあえば、より良い仕事ができそうです。

AIを使う女性

ーー先ほど、適切なプロンプトを書けるかどうかが大事というお話しがありましたが、どうすればプロンプトを書くスキルを磨くことができますか?

一つは、「誰が聞いても同じ意味でとらえることができる言葉」を意識して日頃からコミュニケーションをとってみること。

例えば、後輩に「この仕事、いい感じにやっといて。早めにね!」と指示を出したとしましょう。

あなたが考える「いい感じ」も「早めに」も、後輩が同じ意味で汲んでくれるとは限らないので、出てきたアウトプットにがっかりするかもしれません。

一方で、「●●日までに、●●向けのプレゼン資料を10枚以内のスライドで作っておいてくれませんか?」という依頼をすれば、認識ずれが起こりづらくなります。

このように、相手が誰であれ認識齟齬が起きないようなキーワードのチョイス、言葉遣いをするように意識しながらコミュニケーションをとっていると、プロンプトを書くときにも応用できるようになります。

AIを使う女性

二つ目もとてもシンプルなことなのですが、「1日1回、生成AIを使う」ことを日課にしてしまうことがおすすめです。

プロンプトを書くセンスを磨くには、何度もトライアンドエラーを重ねて慣れていくこと欠かせません。

例えば、ChatGPTでも、質問の仕方を変えると、提案される回答が全く異なることがありますよね。「こんなふうに指示を出すと、うまく回答してくれるんだな」という成功体験をどんどん積んでいってください。

そして、1週間、1か月単位で「生成AIを活用したことで、どれくらい業務を効率化できたか」を自分で評価してみてください。

きっと、「以前なら1時間以上かけていた資料を10分で作れた」というようなことが、たくさん出てくるはずです。その積み重ねで、「気づけば業務効率がすごく上がっていた」「改善することが楽しくなっていた」ということもあると思います。

そうするうちに、「生成AIを使わないなんて、考えられない」というモードにきっと変わっていきますよ。

AIを使う女性

ーー國本さんは普段、どんなふうに生成AIを使っているんですか?

朝から晩まで、常に使っていますね。300字くらいの文章であっても、一から自分で作るのはしんどいです(笑)

使い方でいうと、プレゼン資料や提案資料を作るときは必ず『ChatGPT』や『Copilot』『Claude』などの生成AIツールを使いますね。

例えば、誰向けの何の目的の資料を作りたいのかを生成AIに指示してドラフトを作ってもらい、それをもとに自分でブラッシュアップだけするイメージです。

あとは、ちょっとしたLPであれば『Create』というツールでプロンプトを書けばすぐに作れますし、AIを使うことでWebサイトを作成したり、修正したりする手間もだいぶ削減できています。

AIツールには、無料で使えるものもたくさんあります。今からたくさん使っておくことで、いよいよAIエージェントの活用が本格化したときにも、スムーズに「使う側」にまわれると思いますよ。

日本企業が決定的に見落としている「AIを使う気になれない」働く女性の本音【Cynthialy國本知里さん】 https://woman-type.jp/wt/feature/36716/
日本企業が決定的に見落としている「AIを使う気になれない」働く女性の本音【Cynthialy國本知里さん】

取材・文/栗原千明(編集部) 人物撮影/光谷麻里(編集部)