生駒里奈「元アイドルなのに頑張っててすてきだね」俳優として見てもらえない焦りを捨てられた日

Woman type4月の特集では、転職、起業、出産など、キャリアの転機を経てリスタートをきった女性たちにフォーカス。再出発を経験した彼女たちの事例から、サステナブルに仕事を頑張り成果を上げていくための「良いスタートダッシュ」の切り方を提案します!
アイドルグループ『乃木坂46』の顔として、デビューから5作連続でセンターを務め、トップアイドルとしての地位を築いた生駒里奈さん。
2018年にグループを卒業してからは、俳優へとキャリアチェンジ。新たな道を歩み始めたばかりの頃は、「元アイドル」という目でしか見てもらえず「焦っていた」と明かす。
リスタートを切ったばかりの時期は、誰しも「早く成果を出したい」と望むもの。焦りと不安でいっぱいだった再出発の時期を、彼女はどのように乗り越えていったのだろうか。
「元アイドルなのに頑張ってるね」と褒められる葛藤
2025年5月に開幕する、TOKIOの松岡昌宏主演の舞台『家政夫のミタゾノ THE STAGE レ・ミゼラ風呂』に、ミタゾノの相棒となる新人家政婦・荻野 千紗子役で出演する生駒さん。
2016年に放送されてから人気作となったミタゾノシリーズに参加することに対して、「不安はない」ときっぱり話す。
「話題作に出演することに不安や戸惑いはないのか」とよく聞かれるのですが、不安よりも楽しみな気持ちの方が大きいです。長く愛されている作品に参加できることが、ただただありがたいなと。
また、そうそうたるキャストの皆さんと共演できるので、先輩たちの技を学ぶチャンスだなとも思っていて。今からすごく楽しみです。

ミタゾノシリーズといえば、コメディータッチな表現も見どころの一つ。お芝居で笑いを取っていくことは、生駒さんにとってチャレンジの一つだ。
ある芸人さんから、こんな話を聞いたことがあります。
「笑わせに行こうとすると観客は笑わない。お客さまが観て自然と『おもしろいな』と思える瞬間をつくるのが芸人なんだ」と。
「おもしろいことをやるぞ!」と意気込むとお客さまは引いてしまう可能性が高いので、コメディーだからといってハチャメチャにやるのではなく、あくまで荻野 千紗子というキャラクターのパーソナルな部分を引き出して、この作品を観てくださる皆さんに魅力的に伝えられたらいいなと思っています。
今年で舞台俳優歴は10年になる彼女。長く舞台の仕事と向き合ってきた生駒さんは、「一番安心できる場所が舞台」だと笑顔を見せる。
アイドル時代は自分のパフォーマンスに納得できないまま舞台に上がらなきゃいけないこともあったけれど、舞台俳優の仕事はじっくり時間をかけておもしろいものをつくれるので、納得してから舞台に上がれる。
初めて舞台の仕事にチャレンジした時、「納得できるまで突きつめて、とことん練習してから舞台に上がれば、私でもできるんだ」と思うことができて。
この道にかすかな可能性を感じられたことが、アイドルを辞める踏ん切りがついた一つのきっかけです。

『乃木坂46』のセンターを務め、トップアイドルとして最前線を走り続けていた彼女は、俳優として初めて舞台に立った3年後の2018年に『乃木坂46』を卒業した。
「本業・俳優」としてリスタートを切った生駒さんだが、卒業して2~3年は「元アイドル」として見られてしまうことに苦しんだという。
色眼鏡なしで「いち俳優」として見てもらえず、「元アイドルなのに」「元アイドルだから」と評価されてしまう。
必ずつくその枕詞に内心はモヤモヤしているのに、ついその見られ方に合わせて動いてしまう自分がいる。そんな日々が何年にもわたり続いた。
例えばミスをした場合、普通だったら「ちゃんとやれ!」って言われると思うけど、私がミスをすると「アイドルだから、できなくても仕方ないね」と言われてしまう。
私も他の新人俳優の皆さんと同じように演技の良しあしについて率直なフィードバックが欲しいのに、「元アイドルなのに頑張ってるね」「頑張ってる姿がすてきだね」なんて言われてしまう。
周囲の皆さんは、新しい道で必死にやっている私に気を遣ってくれていたのだと思うけど、甘やかしてもらっているような気がしてしまって、そこに苦しさや不安を感じていました。

自信を持てないまま、オファーされる仕事の一つ一つに全力で取り組むことしかできなかったという生駒さん。
日に日に募る「このままではいけない」という焦りから、やり方を変えてみたり、環境を変えてみたりと試行錯誤する日々が続いた。
自分がちゃんと成長できているのか分からなくてもがき続けた日々でしたけど、そんな自分を否定することだけはしないようにしていました。
迷ったり、苦しんだりする自分もそのまま受け止めてあげて、目の前の仕事に全力で取り組む。
当時はそうすることしかできなかったけれど、この時にもがき切ることができたから、今回の『ミタゾノ』のように魅力的な舞台に呼んでいただけるまでに成長できたのだと思います。
「私は今日から俳優です」本当の意味で俳優になれた瞬間
不安と焦りに駆られる日々を送っていた生駒さんだが、『乃木坂46』を卒業して3年がたった頃、転機が訪れる。それが、2021年に挑戦した舞台『僕とメリーヴェルの7322個の愛』だった。
本作は、演劇を「ひとり芝居」というかたちで観客に届ける、新しいエンターテインメント。初めてのソロ舞台。観客は皆、自分を観に来ている──。
俳優としての自分に自信が持てない中、大きなプレッシャーを背負いながら、生駒さんは舞台に立った。
一人で舞台に立つのは、アイドル時代を含めても初めての経験で、プレッシャーは大きかったです。
でも、この作品の演出だった毛利亘宏さんをはじめ、私と向き合ってくれた人たちは皆、「元アイドルの生駒里奈」ではなく「俳優の生駒里奈」として私と対峙してくれて。
それまで感じたことのないような安心感に包まれたんです。

この時に生駒さんは、アイドルを卒業してからずっとまとわりついてきた苦しみから解き放たれたと言う。
俳優として向き合ってくれた人たちから「ちゃんとできていたよ」という言葉をもらえたのが本当にうれしくて。「これはおべっかじゃない」っていう確信を持てたんです。
「一生懸命頑張っててすてきだったよ」という褒め言葉が「作品として良かった」っていう言葉に少しずつ変わっていったのは、この舞台がきっかけだった気がします。
プロの俳優として覚悟のスイッチが入った生駒さんは、舞台の最終日、観客を前に「私は今日から俳優です」と宣言をした。
すでに何年も俳優としてやってきていましたが、この作品をきっかけに改めて意識が変わり、俳優として生まれ変わることができたので、プロの俳優として歩んでいく決意を込めての言葉でした。
この作品の後も「元アイドルだから」と言われることはありましたけど、それまでのように焦ったり悲しんだりするのではなく、「よし、じゃあ芝居で返していこう!」と思えるようになったんですよね。
肩書きへの先入観は完全にぬぐえなくても、今は充実感が全然違う。“私”をちゃんと見てくれる毛利さんと出会えたあの日が、本当の意味でのリスタートだったように思います。

焦ったりもがいたりする時間は無駄じゃない
俳優として“本当のリスタート”を切るまでの時間を、「決して無駄ではなかった」と振り返る生駒さん。焦ったり、もがいたりしていた時間があったからこそリスタートを切れたと、笑顔を見せる。
「元アイドル」と言われる度に、早く俳優として認められるようにならなきゃって焦っていたけれど、あれは私にとって必要な時間だったと思っています。
頑張っても頑張っても認めてもらえないフラストレーションと闘う日々はつらかったけれど、目の前の仕事に全力で取り組んでいれば、色眼鏡なしで自分を見てもらえる日が必ず来る。
だから、もし当時の自分に声を掛けられるなら、「つらいけど、そのまま頑張って!」って伝えたいですね。
新しいスタートを切ったばかりの頃は、「自分のペースで成長すればいいんだ」と分かっていても、つい焦ってしまいがちだ。そして、成長を急ぐ気持ちに実力や評価が追いつかず、さらに焦るスパイラルに陥ってしまうこともあるだろう。
もがいている自分を受け止めてあげた上で、「そのまま頑張れば、いつかは壁の向こう側にいける」ことを示した生駒さんの姿は、私たちに希望を与えてくれる。
「このままじゃいけない」とか、「早く目標に近づくためにやり方や環境を変えなきゃ」とか、焦る気持ちから生まれた考え方も間違ってなかったなと思うんです。
だから、私はリスタートを切ったばかりの私に、「もがいてくれてありがとう」って言いたいです。

生駒里奈(いこま・りな)さん
俳優。1995年12月29日生まれ。2011年8月、アイドルグループ『乃木坂46』の1期生として活動を開始。12年、シングル『ぐるぐるカーテン』でCDデビュー。14年4月から15年5月までAKB48を兼任。18年5月、『乃木坂46』を卒業。以降は俳優として映画やドラマ、舞台で活躍。舞台『少年社中モマの火星探検記』(20年)、ドラマ『真犯人フラグ』(21年)、舞台『僕とメリーヴェルの7322個の愛』(21年)、映画『忌怪島/きかいじま』(23年)、ドラマ【水ドラ25】『推しを召し上がれ~広報ガールのまろやかな日々~』(24年)、リーディング・ドラマ『西の魔女が死んだ』(24年)、朗読劇『青野くんに触りたいから死にたい』(24年)、映画『室井慎次 敗れざる者』(24年)などに出演 ■X / Instagram
取材・文/光谷麻里(編集部) 撮影/渡辺 美知子 スタイリスト:津野真吾(impiger)
ヘアメイク:林美由紀
作品情報
『家政夫のミタゾノ THE STAGE レ・ミゼラ風呂』

【東京公演】 2025 年 5 月 16 日(金)~6 月 8 日(日) EX シアター六本木
【大阪公演】 2025 月 6 日 13 日(金)~17 日(火) 森ノ宮ピロティホール
他、石川、愛知、広島、宮城公演あり
あの超絶迷惑な家政夫のミタゾノこと三田園薫が劇場に再び降臨!
女装した大柄な家政夫・三田園薫が、派遣された家庭・家族の内情を覗き見し、そこに巣食う“根深い汚れ”までもスッキリと落としていく痛快“覗き見”ヒューマンドラマシリーズ 「家政夫のミタゾノ」 。
松岡昌宏主演で2016 年 10 月に金曜ナイトドラマとしてスタートし、2025年3月まで放送されていた第7シリーズでドラマ開始から記念すべき 10 年目を迎えました。
ドラマ 10 年目を記念して舞台化第二弾の上演が決定し、ミタゾノが再びテレビを飛び出し観客の前に現れます!
三田園ら「むすび家政婦紹介所」の一行は、創立10周年を記念した社員旅行で老舗の温泉旅館「カモヤ」を訪れる。
旅行の幹事は、新人家政婦見習いの荻野千紗子。最高の旅館に泊まれると期待をふくらませていたのだが、支配人の鴨谷創一に案内された館内はレトロというよりかなり古く、到着早々一抹の不安が…。一方で、そのオモテナシは老舗旅館といえども群を抜くすさまじさ。創一の妻の響子や留学生の仲居、ワハルも総出で驚異のオモテナシが一瞬たりとも止まらない。その様子に、何かが怪しいと次第に気づき始める一行。
実は旅館の経営は窮地に立たされ、過剰なオモテナシ戦略に生き残りをかけていたことを三田園はすぐさま見抜く。
見かねた娘のイブキは、なんとか「カモヤ」を再生しようと、旅館の近代的なリニューアル計画を推進。周辺地域の再開発に猛進している市長、蛇辺山の支援も取り付けた。しかし、創一や響子、料理長の海老沢はなぜかリニューアルを頑なに拒み、イブキと対立。どちらの味方か?頼子、真理亜、志摩らも協力を頼まれ、ただの旅行だったはずが一転、家政婦モードにスイッチオン!
そんな中、フランス料理の修行に出ると言い残して7年前にこの街を去ったイブキの幼馴染、雀原順が帰ってくる。
なぜ今?彼は救世主なのか? やがて明らかになってくる「カモヤ」をめぐる秘密の数々…。
伝統か、改革か。またまた、三田園の大掃除が始まる!
特集『わたしたちのリスタート』ラインナップ
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