「ビリギャルは地頭が良かっただけ」否定し続けた先に見つけた、私が本当にやりたかったこと【小林さやか】

~「頑張る」をサステナブルに~
わたしたちのリスタート

Woman type4月の特集では、転職、起業、出産など、キャリアの転機を経てリスタートをきった女性たちにフォーカス。再出発を経験した彼女たちの事例から、サステナブルに仕事を頑張り成果を上げていくための「良いスタートダッシュ」の切り方を提案します!

ビリギャル小林さやか

ビリギャルって、もともと頭が良かったんでしょ? そんな周囲の言葉に、長年モヤモヤしていました」

そう話すのは、書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)の主人公、「ビリギャル本人」こと、小林さやかさんだ。

慶應義塾大学卒業後は、ウェディングプランナーとして働きながら「ビリギャル」を発信し続け、31歳で大学院に進学。34歳で米国コロンビア教育大学院に認知科学の研究のために留学。

そして昨年末、これまでの学びと経験を凝縮した独自の英語学習サービスを提供するAGAL株式会社を立ち上げた。

さまざまなターニングポイントで、小林さんはどんなリスタートを過ごしてきたのか。前向きに挑み続けてきた、ビリギャル流「自分のアゲ方」に迫った。

ビリギャルの物語を「私だからできた」で終わらせたくない

ビリギャル小林さやか

AGAL株式会社 代表取締役
小林さやかさん

1988年生まれ。名古屋市出身。恩師である坪田信貴氏の著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)の主人公。大学卒業後、ウェディングプランナーとして従事した後、ビリギャル本人としての講演や執筆活動など、幅広い分野で活動中。2019年4月より教育学の研究のため聖心女子大大学院に進学し、21年に学習科学の修士課程を修了。22年よりコロンビア教育大学院へ留学し、24年に認知科学の分野で修士号を取得。講演実績は500回を越え、noteやYouTubeでも自身が経験したことや学んだことを発信している。24年12月にはAGAL株式会社を設立し、オンライン英語学習サービスの ローンチに向け現在準備中。 noteXInstagramYouTube

映画『ビリギャル』公開から10年。ありがたいことに、これまでビリギャル本人として500回以上の講演をさせていただき、何冊かの本を出版することもできました。

しかし、今でもよく耳にするのが「ビリギャルって、もともと頭が良かっただけでしょ?」という言葉。

そのたびに「そうじゃないんです!」と心の中で叫びながらも、どう伝えればいいのか分からず、ずっとモヤモヤしていました。

ビリギャルの物語が「私だからできた」という一言で片付けられてしまっては、あまりにももったいない。

自分の成功体験をうまく言語化して、誰にでもできるティップスとして届けられたら、もっと多くの人に役立つはずだし、その後も走り続けるサポートができるかもしれないのに……そう強く思っていました。

30代で大学院に進学してコロンビア大学院への留学を決意したのも、この「ビリギャルの解像度」を高め、言語化したいという思いがあったからです。

それに私自身、小さな挑戦は続けてきたつもりですが、30代を迎えて大学受験のような目標に向かってひたすら突き進む経験から遠ざかっている焦りもありました。

講演をしながらも「何年も前の話をしてる私が、偉そうに『頑張れ』『夢を持て』とか言ってていいの?」と自問自答していたんです。

ビリギャル小林さやか

留学して再び学びに向き合ったことで、ようやく「ビリギャルがなぜあんなに頑張れたのか」という納得のいく答えは、見つけることができたように思います。

ただ、これらの学びを言語化して伝えたとしても、1カ月後にどれだけの人の心に残るかは分かりません。

なぜなら、人が本当にマインドセットを変えるためには、自身の原体験が不可欠だから

私が大学に合格して「自分の人生を変えられる」と感じられたように、原体験があってこそ、人の価値観は深く揺さぶられ、変化が生まれるのだと思います。

今年、起業したのは、まさにその「原体験」を生むきっかけを作りたかったから。納得いくまで学んだら、次は起業する。何年も前からそう考えており、ようやくその準備が整いました。

今は「日本人のマインドセットを変える!」をミッションに、これまで培った認知科学の知識や実践してきた学習方法をもとに、大人向けの英語学習サービスを提供しようと考えています。

「私はこれがしたかったんだ」ということが、やっと言語化できて、どのようにアプローチしていけばいいのかもはっきりと見えるようになりました。

ビリギャル小林さやか

ビリギャルのメソッドを言語化した『私はこうして勉強にハマった』(サンクチュアリ出版)

「ビリギャル著者の坪田先生の教えを私が実践して、実際に偏差値が上がった方法。当時は先生に言われた通りにやっていただけでしたが、認知科学を学んだことで『どうしてあんなに伸びたのか』がすごく腑に落ちました」(小林さん)

同時に、これまで「ビリギャルとして何かしなきゃ」と思っていたけれど、別に私はビリギャルとして生きなきゃいけないわけでないし、周りの人から持たれているイメージに寄せる必要もないな、と思えるようにもなりました。

留学先のニューヨークでいろいろな鎖が外れたみたいです(笑)。今はこれまでの経験が熟して、起業という新たなスタートを切れたことにワクワクしています。

モチベーションを上げる「I can do it」「I want to do it」

留学、起業。なぜ私が新しいスタートを切ることができたのか。それは大学院で学んだ、「ビリでギャルだった私が、なぜあんなに頑張れたのか」の答えにつながっています。

キーワードは、「I can do it(私はできる)」と「I want to do it(やってみたい)」です。

何か新しいことを始める時って、モチベーションが不可欠ですよね。

でも例えば仕事で「明日までに500ページの論文を読んできて」と言われたら、多くの人が「無理でしょ……」と、モチベーションは下がってしまうはず。

これって実は「期待値」の問題なんです。「自分にもできるかも」と思えれば期待値は高くなるし、無理だと感じたら低くなる。

だからモチベーションを上げるには、「少し頑張れば手が届くかも」くらいの、高すぎず低すぎない期待値が持てるタスクを前にすることが重要です。

ビリギャル小林さやか

これは、タスクの難易度の調整の話でもあるし、それ以前に「マインドセット」の話にも繋がります。

日本人は「私には絶対無理です!」と、やる前から期待値を低く見積もりすぎる傾向があるけれど、もっとポジティブで、ちょっと能天気な「ビリギャル」の感覚でいいんですよ。

周りの人に「慶應なんて無理だよ」って言われても、なぜか「いけんじゃね?やってみなきゃ分かんないじゃん!」って思っちゃう、あの感覚です。

周りの声なんて気にせず、「できる!大丈夫!」とまず自分で思うこと。

そうやってマインドセットをなるべくポジティブに保ちながら、簡単すぎず難しすぎないものに取り組むようタスクの難易度も調整する意識を持つ。

それが「I can do it(私はできる)」につながっていくんですね。

そして、もう一つの「I want to do it(やってみたい)」は、本人が心からやりたいと思えるか、その行動をした後に得られる成果や報酬に価値を感じられるかどうかということ。

その行動が自分にとって意味があると心から思えた時に初めて、内側から湧き上がるようなモチベーションを感じることができるのです。

小さな成功体験を重ねたら、人生は絶対に変わる

とはいえ急に明日から「私はできる!」とマインドセットを突然変えられる人は少ないと思います。いきなり「自信を持ちましょう」って言われても、正直難しいですよね。

そこで自分の可能性を信じるためには、本当に小さなことでもいいので成功体験を積み重ねていくことが重要です。

「あれ? 私、意外とできたかも?」と、ささやかな喜びを感じる成功体験を少しずつ積み上げていくと、不思議と顔つきまで変わってくるんですよ。

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いまAGALでは、英語に自信のないモニターさんたちと一緒に、私がコロンビアで学んだ認知科学の理論を取り入れた英語学習プログラムを体験してもらっています。

その中に、仕事上英語をやらざるを得ない状況で「私は英語の勉強なんて向いてないのに……」と思い込んでいた人がいたんです。

彼女は始めの頃は、Zoomのビデオ機能をなかなかオンにしてくれないくらい消極的でしたが、少しずつ「できたかも!」を増やしていったら、徐々に話せるようになってきて。5カ月たった今では、誰よりも自信満々に英語を話せるようになって、他の生徒の相談役を務めるほど英語も上達したし、もっと良いのは「自信がついた!」と言うんです。

コンプレックスを感じていた分野で、少しでもいいから「意外とできた!」を積み重ねると、本当に人生の選択肢って変わるんだな、とモニターさんを通して目の当たりにして、私もすごく感動しています。

最初から100点を目指す必要なんてないんですよ。まずは15点、次は25点、というように、モチベーションが途切れないように少しずつ進んでいくのがコツ。

高すぎる目標を立てて、結局達成できなくて「やっぱり自分はダメだ」って落ち込むのだけは、絶対に避けてほしいなと思います。

「自分で自分を認めてあげる」ことを目指して

「私はできる」という感覚につながる、もう一つの大切な考え方が「リフレーミング」です。

これは、物事の捉え方を変えて、違う角度から見てみるという心理学の言葉。私は「出来事のポジティブな側面に光を当てて、そこに意味を見出すこと」だと捉えています。

上手くいかなかった経験には、本当にたくさんの学びがあるはずです。「失敗した」と感じる出来事も、リフレーミングを意識して見方を変えれば、次に進むための貴重なヒントになる。

そう思えるようになれば、失敗すること自体が、もはや乗り越えられない壁ではなくなるはずです。

アインシュタインも「失敗は成功の母である」と言っていますし、トーマス・エジソンだって「私は失敗したのではない。うまくいかない1万通りの方法を発見したのだ」っていう、すっごくポジティブな言葉を残していますよね。まさに、それと同じことなんですよ。

リフレーミングは、「心のトレーニング」のようなもので、誰でもトレーニングすればできるようになります。

例えば、私が何かにつまずくたびに、母はいつもこう言ってくれました。「さやちゃんすごいじゃん! そこから何が学べたの? 挑戦できたあなたは本当にすごい」って。

その言葉のおかげで、私はどんなことがあっても、「ここからどうやって成功につなげようか」と自然に思えるようになったんです。

今振り返ると、母のおかげでリフレーミングが自然に身に付いていたんですよね。その考え方が、私の心をずっと守ってくれていたんだなと感じます。

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ただ、周りの人に褒められるのはもちろんうれしいけれど、最終的に一番大切なのは、自分で自分のことを認めてあげること

私も「ビリギャル」として注目された時は、周りの人から「すごい」と言われたけれど、正直、自分の自己評価は高くなかったんです。「私なんて、受験しただけなのに」って。

結局、自分で自分のことを認めなければ、本当の意味での成長って、なかなかできないんですよね。成長してても、気付かない。

だから私は留学中も「自分がやっていることは間違っていないし、ちゃんと成長している」と、意識的に自分に言い聞かせていました。

そうすることで、周りの人に認めてもらいたいという気持ちがだんだん薄れて、すごく楽になったんです。

きっと、そうやって心のトレーニングを続けていけば、どんな新しい環境に飛び込んでも、 折れない自分をつくることができるんじゃないでしょうか。

取材・文/石本真樹 撮影/赤松洋太 編集/大室倫子(編集部)

書籍情報:『私はこうして勉強にハマった』(サンクチュアリ出版)

ビリギャル小林さやか

学年ビリから偏差値を40あげて慶應大学に現役合格した著者ビリギャル本人であるさやかが、コロンビア大学院で「認知科学」を研究した結果分かった「ビリギャルがなぜ頑張れたのか」を言語化。中学生でも読める「誰でも必ず伸びる最強の勉強方法」を公開。

勉強に自信が持てない。勉強をがんばっているけど、なかなか成果が出ない。そんな人たちにぜひ読んでほしい一冊です。

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