【上谷沙弥】絶対向いてないと言われたヒールレスラー転向で大ブレイク「他人の助言なんて、一切あてにならねえよ」

スターダム プロレス 上谷沙弥

国内最大の女子プロレス団体スターダムのヒールユニット『H.A.T.E.』に所属し、持ち前の高身長や運動神経を生かして華麗な技を決めては大暴れする“闇に落ちた不死鳥”こと上谷沙弥さん。

現・ワールド王者の称号を持つ彼女はいま、人気絶頂にいる。

そんな中、2025年4月27日には愛憎入り混じる宿敵・前ワールド王者の中野たむ選手と引退をかけた闘いに挑む。

スターダム プロレス 上谷沙弥

出典

「プロレスラーにはなりたくてなったわけじゃない。ただ、ここが私の唯一の居場所なんだ。だから、引退なんかするわけにはいかないよ」

そう語る上谷さんにプロレスラーを自分の天職にできた理由や、引退をかけた闘いを前にした今の気持ちについて聞いた。

スターダム プロレスラー 上谷沙弥

上谷沙弥さん
EXILEサポートダンサーやバイトAKBなどで活動後、2019年にプロレスデビュー。抜群の運動神経で注目を集め、19年度の新人王を獲得。20年2月16日の新木場1stRING大会で林下詩美の勧誘を受け『Queen’s Quest』に加入。21年のシンデレラ・トーナメントで初優勝を飾ると、同年12月29日の両国国技館大会で中野たむを破り、ワンダー王座を初戴冠。同王座は歴代最多防衛V15を記録。24年6月22日代々木大会のユニット追放マッチで“1人QQ”となってしまうが、7月28日札幌大会で突如ヒールユニット『H.A.T.E.』に加入し“闇落ち”

テレビ出演で女のしもべ爆増中「私は全然いい子じゃねえよ」

編集部

最近テレビ番組に出演される機会が増えて、ますます上谷さんのしもべ(ファン)たちが増えている印象です。

上谷さん

そうだな。『千鳥の鬼レンチャン』(2025年2月放送)に出て、すごく反響があったんだよ。

そこで初めて知ってくれた人も多かったと思うし、女のしもべも一気に増えたな。

編集部

以前は男性のしもべが多かった?

上谷さん

8割くらいが男だったよ。でも、テレビによく出るようになってからは、若い女たち、家族連れ、いろんなしもべが増えてな。

リングに上がると「沙弥さまー!!」って声援をくれる。

私が好き勝手やっている姿を見て、スカッとしてくれたらうれしいよ。

編集部

テレビでは「実は(ヒールなのに)いい子」みたいな取り上げられ方をすることがありますよね?

上谷さん

『千鳥の鬼レンチャン』に出て涙を見せたことで「もしかして、いい子なんじゃない?」って言われたり、「本当は優しい子なんじゃないか」って言われたりしてな……。

そういうことをきっかけに、「プロレスって面白そうだな」と思ってくれたら、私はそれでもいいんだけど。

ただ、実際の私は全然「いい子ちゃん」じゃねえよ?

リングの上に立ったらチェーンで相手の首を絞めたり、頭を椅子で殴ったりしているし、反則ばっかりしてるんだからさ。

中野たむのことは、そこら中で襲撃して、めちゃくちゃな方法で襲うしな。

こんなことばっかりして、どう考えても悪すぎだろ。

編集部

闇落ち(ヒールに転向)したのが昨年(24年)の7月。ヒールレスラーとしてたくさんのしもべを抱える身になることを、プロレスを始めたばかりの頃は想像していましたか?

上谷さん

全く考えもしなかったな。そもそも、20代前半の頃の私はプロレスラーになることすら考えたこともなかったし。

全く、人生は何が起こるか分からないもんだよ。

スターダム プロレス 上谷沙弥

写真左:ベビーフェイス(ファンが応援する「いい奴」や「正義の味方」のキャラクター)時代、闇落ちする前の上谷さん
写真右:闇落ち後、中野たむ選手をいたぶる上谷さん

編集部

もともとアイドルを目指していたけれど、長く芽が出なかったんですよね。

上谷さん

ああ。10代の頃にEXILEのバックダンサーをしていた時期があって、もっと自分も前に出たい、主役になりたいと思ってアイドルグループのオーディションを受け始めたんだ。

地下アイドルなんかも含め、100回以上はオーディションを受けたと思う。それでも全然、箸にも棒にも引っかからない。

オーディションに落ちるたびに自分を否定された気になって、世界から「お前はいらない」って言われているような気がして、自分のことが大嫌いになっていった。

自信なんてこれっぽっちも持てなくて、オーディションに落ちるストレスで体重ばっかり増えちまってな。アイドルなんて痩せてなきゃならないだろ? なのに太っていくから、余計にうまくいかないんだよ。

その時期は、アルバイトだっていろいろしたよ。飲食店のチェーンなんかで働くんだけど、これも全然ダメ。人間関係だったり、無賃労働させられたりで、どれもすぐ辞めてやった。

編集部

そこからなぜプロレスの世界に?

上谷さん

スターダムが、プロレスの前座で歌って踊るようなアイドルのメンバー募集をやってたんだよ。そこに中野たむがいた。

年齢的にも「これが最後のチャンスだ」と思ってそのオーディションを受けたら、私の体格や運動神経を見た中野たむが「お前にはプロレスの才能がある」って言ってくれてな。

プロレスは未知の世界で、当時は「痛そう、怖そう」くらいにしか思えなかった。それに、まさか自分がやるなんて想像もしていなかったよ。

ただ、私は「弱いダメな自分」を変えたかった

だから、強くなりたい一心で、勧められるがままにプロレスをやってみることにしたんだ。この一歩を踏み出せば、何か希望の光が見える気がしてな。

厳しい世界だけど「ここが自分の居場所」

スターダム プロレス 上谷沙弥

出典

編集部

いざ未知のプロレスの世界に飛び込んでみて、最初に感じたことは?

上谷さん

やっぱりプロレスは厳しい世界なんだなってこと。

練習生になって1カ月くらいたった時、エルボーの練習で胸骨を折っちまってな。バキッっていう音がしっかり聞こえたよ(笑)

肉体的にきついことやつらいことなんかはいっぱいあるんだけど、それと同時に「ここが自分の居場所だ」っていうことも同じくらい感じたんだよ。

編集部

どういう時にそう感じたんですか?

上谷さん

以前はアイドルを目指していただろ? その時は、自分の身長が高いこと、筋肉質な体格……いろんなことが邪魔になっていたんだ。もっと華奢にならなきゃ、痩せなきゃってことばっかり考えていた。

でも、プロレスの世界に入ったら、大嫌いだった自分の短所がいきなり全て長所になったんだよ。周りも「すごいすごい」っておだててくれてな。

「そんなに向いてるって言ってくれるなら」って自分も調子に乗って、ここまで突き進んできたってわけさ。

編集部

とはいえ、アイドル志望の上谷さんはプロレスラーになりたくてなったわけではなかったわけで、本当にこの場所にいるべきなのか悩んだこともあるのでは?

上谷さん

デビューしたての頃は、「100%プロレスでやっていく」という決心がついていなかったんだ。それが一番、苦しかったことだな。

プロレス自体は意外とできちまったんだよ。体格的にも恵まれていて、運動神経が良かったからな。

だから、タイトルマッチはどんどん組まれていって、試合する会場もどんどんでかくなっていった。

ただ自分はプロレス一本でやっていくとは思えていなくて、逃げ道を残すために芸能事務所にも所属したままだった。

物事はどんどん前に進んでいくし周囲からの期待は増していくのに、自分の心だけが追い付かなかったんだ。

編集部

プロレスラーとしてやっていく決心ができたのはいつ頃でしたか?

上谷さん

デビューから1年半後に行われた「シンデレラトーナメント」で優勝した時だな。そこで大きな自信がついたし、周囲の評価もさらに上がった。

スターダム プロレス 上谷沙弥

出典

上谷さん

強くなりたくてプロレスの道に入って、ちゃんと強くなれているのを実感できたんだ。

だからこの時に逃げ道だった芸能事務所を辞める決心もついたし、「プロレス一本でいく」踏ん切りがついた。

編集部

いろいろな仕事をしてきて、どれも長続きしなかった上谷さんが、プロレスだけは辞めずにいられるのはなぜ?

上谷さん

プロレスは自分が努力したら努力した分だけ、ちゃんと自分に返ってくるからかもしれないな。

練習したらしただけ強くなるし、目標に近づくことができる。それが面白いんだよ。

それに、普段の自分はネガティブで弱い部分がたくさんあるけど、リングの上にいるときだけは輝いていられる。それがすごくうれしかったんだ。

宿敵・中野たむとの引退をかけた決戦へ

編集部

昨年ヒールになってから、プロレスへの思いに何か変化はありましたか?

上谷さん

ますます楽しくプロレスができるようになった。

ストッパーが外れて、好き勝手できるようになったしな。暴れ回るのは本当に最高だよ。

ヒールの何がいいって、嫌われてなんぼなところだね。人の目なんか気にしなくていいし、嫌われたりブーイングされてもそれは、私たちにとっては声援と一緒だからさ。

アイドルを目指していた頃の私は、今思えば、自分を偽るために必死だった。自分の思ったことを口にすることより、人からよく思われるにはどうしたらいいかばっかり考えていたんだ。

そんなの、絶対に楽しくないだろ?

今は、頭のネジを緩くして自由にやればやるほど、しもべたちが喜んでついてきてくれる。

めちゃくちゃなことをやっていても「これでいいんだな」って思えるし、まさに無双状態だよ。

編集部

めちゃくちゃやると言えば、中野たむさんのことをあらゆる場所で襲撃しまくっていますよね。先日は、たむさんを車で轢こうとしたとか……!

上谷さん

ああ、免許をとったからな。初心者マークをつけた高級車で乗り付けて、あいつをぶっ飛ばしに行ったんだよ。

スターダム プロレス 上谷沙弥

襲撃後、Xでは「初心者マーク」がトレンド入りしていた(出典

上谷さん

あとは、中野たむが焼肉を食ってるところを店ごと襲ったりな。うまい肉も全部、奪って食ってやった。

あいつの居場所はGPSでいつも把握してる。いつどこで襲撃するかその方法を考えるのも、すごく面白いよ(笑)

編集部

水を得た魚のように生き生きしていますね。

上谷さん

ヒールになる前は、みんなから言われたんだ。お前にヒールなんか向いてない、できっこないって。

それがこうなったんだから、うそみたいだろ?

編集部

向いていないと言われたのは、上谷さんが優しすぎるから?

上谷さん

まぁ、そうだな。余計なお世話だけど、当時はまだまだ弱虫だと思われていたのかもしれない。

でも、自分はヒールをやりたいと思ったし、やれると信じて努力もした。そうしたら、ベビーフェイス時代よりも実績が出せるようになったし、しもべもかなり増えた。

これだけは女たちに言いたいんだけど、周りの奴らが好き勝手に言うことなんてあてにすんな

もっともらしい助言なんて一番クソだよ。そんなの放っておいて、自分がやりたいようにやればいい

自分を信じて諦めずに突き進めば、絶対にいい場所にたどり着ける。それを私が証明し続けてやるからさ。楽しみにしてなよ。

編集部

プロレスの道で生きていく決心も、ヒールとしてやっていく覚悟も固まったところだと思いますが、4月27日は中野たむさんとの試合でお互いの引退をかけていますよね?

上谷さん

そうさ。中野たむとはデビュー当時から師弟のような関係で、そこから憎しみの感情を経て、今回の引退マッチまで発展してきた。

いま、私は自分の人生のすべてを懸けてプロレスをやっている。そう胸を張って言えるからこそ、こういう試合形式になったんだ。  

引退はしたくない。プロレスを愛しているからね。だから絶対に負けたくないし、負けられないよ。

この試合には勝つ。そして、これからも現役でプロレスを愛して、いろいろな人に見てもらいたい。そのために、やれることは何でもやっていくつもりだよ。

スターダム プロレス 上谷沙弥

>>チケット情報

取材・文/栗原千明 画像提供/スターダム(©STARDOM)