【佐藤栞里】20年以上のキャリアでも「仕事で緊張してばかり」苦手なことに挑み続ける原動力

佐藤栞里

ティーン誌のモデルとしてキャリアをスタートし、その愛らしいキャラクターで瞬く間にお茶の間の人気者になった佐藤栞里さん。

バラエティー番組で見せる明るい姿が印象的だが、近年では役者としても評価が高い。

2025年5月23日に公開される映画『父と僕の終わらない歌』では、主人公・雄太(松坂桃李)の幼馴染役を好演。物語の重要な局面で、彼の背中をそっと押す存在として登場する。

常に笑顔で、元気いっぱいなイメージの彼女。しかしその裏には意外なほどの「緊張しい」で「人見知り」な一面があるのだとか。

多くの人が仕事で感じるであろう、性格的な壁。栞里さんはそれにどう向き合い、乗り越えているのだろうか?

「人見知りだから」「緊張してしまうから」――そんな言い訳をせず、新たな仕事に挑戦し続けられる理由に迫った。

佐藤栞里(さとう・しおり)さん

佐藤栞里(さとう・しおり)さん

1990年生まれ、新潟県出身。2001年、ファッション雑誌『ピチレモン』のオーディションでグランプリを獲得し、モデルデビュー。現在は、『BAILA』『SPUR』『otonaMUSE』など数々の女性ファッション誌で活躍。2015年からは『笑ってコラえて!』のサブMCを務め、2017年からは『王様のブランチ』のMCに就任するなど、タレントとしても人気を博す。近年は女優としても活動の幅を広げている Instagram

何年やっても慣れない、「緊張しい」な私

栞里さん

私、どの現場でもずっと緊張しているんです。10年やらせてもらっているテレビ番組でも毎週緊張しますし、「慣れることがないんだな」って思っています。

今日はうまくできるかな、人に迷惑かけないかなって、いつも不安で。昔はそれがコンプレックスでした。

困ったような笑顔でそう語る栞里さん。テレビで見せる堂々とした姿からは想像もつかないが、根っからの「緊張しい」なのだという。

佐藤栞里

「ちなみに今も緊張してます!」と笑う栞里さん

そんな彼女が、緊張しやすい自分を受け入れ、力に変えるために大切にしているのが「準備」だ。

実は栞里さんには、仕事の前後に「予習・復習ノート」をつける習慣がある。テレビ出演が増え始めた頃から欠かさずつけており、その数はすでに15冊を超えるそうだ。

栞里さん

緊張するからこそ、準備をしっかりする。その準備が、自信につながることもあります。

この緊張感が、お仕事を成功に導いてくれたこともたくさんあるので、この気持ちも大事にしながら、努力していきたいなって思っています。

20代の頃は緊張しない自分に憧れていましたけど、最近は、緊張する現場があることって、すごくありがたい環境なんだなと思えるまでになりました。

佐藤栞里

この取材の日も、事前に渡された企画書を読み込み、自分なりの考えをまとめたノートを持参していた。

栞里さん

私に取材をしてくださる方の期待に応えるために、ちゃんと準備しておかないといけないなと思って。そうは言っても、いざインタビューしてもらうとうまく話せないんですけどね(笑)

そう謙遜するが、そのノートには、一つ一つの仕事に真摯に向き合う彼女の誠実さが詰まっている。

「お芝居ってね、嘘が本当になる瞬間があるんだよ」

常に万全の準備で仕事に臨むと語る彼女だが、映画『父と僕の終わらない歌』で演じた幼馴染の志賀聡美役は、新たな挑戦でもあった。

聡美は落ち込んでいる主人公の手を引っ張って、未来へ向かおうとする、率先力のある女性。自身とは異なるタイプのキャラクターに、最初は戸惑いもあったという。

栞里さん

私自身は、みんなの中心になれるタイプでもないし、積極的に誰かの手を引っ張っていけるタイプでもないので、聡美との共通点はどこだろう? と考えていました。

私が唯一、聡美ちゃんみたいに強くいられるのは、父の前。父に対してなら、素直に「こうしたい」「ああした方がいい」と言えるので、現場では父に対する気持ちを思い浮かべながら演じてみようと思いました。

父と僕の終わらない歌

撮影現場でも、やはり緊張は避けられなかった。それでも乗り越えられたのは、共演した寺尾聰さんの存在が大きかったと語る。

栞里さん

寺尾さんは、私があまり演技経験がないことをご存知だったようで、「栞里ちゃん、お芝居ってね、嘘が本当になる瞬間があるんだよ。この台詞が本当だと思えるようになる。それを経験したら、きっともっともっと楽しくなるから」と声を掛けてくださったんです。

その言葉は、緊張でいっぱいだった栞里さんの心をふっと軽くした。

栞里さん

右も左も分からない私に、手を差し伸べてくださったような感覚でした。希望が見えたというか……。本当にありがたかったですし、なんて粋な方なんだろうと。

父と僕の終わらない歌
栞里さん

それに、(松坂)桃李さんが演じる雄太が、本当に悩んでいるように見えたんです。だからこそ「私が雄太を救わなきゃ」と自然に思えて。桃李さんが私を聡美にしてくれた、という場面がたくさんありました。

自分のために頑張れることは、何一つない

取材中も、常に周囲への感謝を口にしていた栞里さん。

彼女がこれほどまでに準備を重ね、緊張と向き合いながら仕事に邁進できる原動力は何なのだろうか。

そう質問すると、「自分のために頑張れることって、実は一つもないんです」ときっぱり言い切る。

栞里さん

いつもお世話になっているスタッフさんに「ありがとう」と言ってもらえたり、大好きな家族が喜んでくれる姿を見たりすると、「またこの笑顔を見られるように頑張ろう」と思えるんです。

そっちの方が、私にとっては力になりますね。見えないところであっても「誰かのためになっている」と感じられたらすごくうれしいんです。

例えば、と以前出演したクイズ番組でのエピソードを教えてくれた。

栞里さん

問題が出題されたら「答えが分からなくても、とにかく一番に手を挙げよう」と心掛けていたんです。

そうしたら、ある日スタッフさんに「栞里ちゃんが先に答えてくれるおかげで、他の出演者も手を挙げやすくなって、すごく助かってるよ」って言っていただけて。

自分の答えがオンエアされなかったとしても、ちょっとした空気づくりの役割で誰かの役に立てるならうれしい。それが、私にとってのやりがいなんです。

佐藤栞里

仕事を選ぶ際にも、その想いは一貫している。その根底には、「周りの期待に応えたい」「周りを笑顔にしたい」という、ひたむきな想いがある。

栞里さん

私のところに来てくれたお仕事は、きっと何かのご縁。だから、すべてのお仕事に前向きに挑戦して、求められたことに応えたい気持ちがベースにあります。

その上で選択しなきゃいけないときは、家族や応援してくれる方の笑顔が見える方を選びたいなって、いつも思っています。

演技のお仕事も、最初はプレッシャーや怖さがありました。だけど、挑戦してみると「本当にやってよかったな」と思えることばかり。

これまでやってきたお仕事を振り返っても、「やらなきゃよかった」なんて思ったことは、一度もありません。

「人見知りだから」を言い訳にしない

「誰かのために」という想いは、彼女自身の行動をも変えてきた。年齢を重ね、仕事内容や求められる役割も変化。特に、TV番組の『王様のブランチ』(TBS)で単独MCを務めるようになってからは、自身の意識にも変化があった。

栞里さん

最初は、MCという立場に全然慣れなくて。「私なんか、私なんて」ってずっと思っていました。

しかし、番組に関わる中で、共演者やスタッフとのコミュニケーションの大切さを実感するようになる。

栞里さん

今までの私だったら、人見知りだからって、あまり自分から話し掛けにいけなかったんです。

でも、リポーターのみんなや後輩の子たちと話してみると、やっぱり話さないと分からないことがたくさんあるなって。

私からコミュニケーションをとることで、番組全体の風通しが良くなるんだなって感じることができました。

佐藤栞里

「人見知りだから」を言い訳にせず、自分から心を開く。それは、自分が関わる作品や番組をより良くしたいという責任感が、彼女を突き動かしたからだろう。

栞里さん

もちろん、私が一人でMCができているわけではなくて、みんなで支え合えているからこそです。

一人一人が番組作りに愛を持って、同じ気持ちで頑張れている。その空気が観ている方にも伝わっていたら嬉しいなと思います。

かつてはコンプレックスだった「緊張しい」や「人見知り」な部分も、周りを思う気持ちと責任感によって、今では彼女を支える力の一部になっている。

大きな目標はあえてつくらない

周りのために、そして責任感を持って仕事に向き合う栞里さん。

その誠実な姿勢で、長く活躍を続ける彼女は、自身のキャリアや未来について、どのように考えているのだろうか。

そう尋ねると「あえて遠くの大きな目標っていうのは、つくっていないんです」と意外な答えが返ってきた。

栞里さん

もちろん、そういう目標も大事だとは思うんですけど、日々の生活の中で悲しいことやつらいことがあると、立ち止まってしまうこともあると思うんです。

だから私は、今日、明日、今週くらいの、目の前の日常を大事にしたい。その範囲だったら、頑張ることも努力することも前向きに捉えやすいと思うので。

遠い未来を見据えるよりも、まずは半径数メートルの幸せを大切にする。その積み重ねが、結果的に未来へとつながっていくのかもしれない。

佐藤栞里
栞里さん

「今日」を大切に思うと、より周りの人に感謝できたり、今のお仕事を全力でできたりするんです。それが、私なりのやり方なのかなって。

常に謙虚で、周りへの感謝を忘れず、目の前の仕事にひたむきに向き合う。その誠実な姿勢こそが、彼女が多くの人に愛され続ける理由だ。

緊張や不安を抱えながらも、「誰かのために」という思いを胸に一歩ずつ前へ進む彼女の姿は、同じように悩みながら働く私たちに、そっと勇気を与えてくれる。

取材・文/大室倫子(編集部) 撮影/赤松洋太

映画『父と僕の終わらない歌』2025 年 5 月 23 日(金)全国公開

アルツハイマーの父と、その息子が奏でた奇跡――世界中に笑顔と希望を届けた感動の実話を映画化!

これは、音楽が繋ぐ、家族の愛の物語。

■出演者: 寺尾 聰 松坂桃李
佐藤栞里 副島 淳 大島美幸(森三中) 齋藤飛鳥 / ディーン・フジオカ
三宅裕司 石倉三郎 / 佐藤浩市(友情出演) / 松坂慶子
■原案: 『父と僕の終わらない歌』
サイモン・マクダーモット著 浅倉卓弥 訳(ハーパーコリンズ・ジャパン)
■監督: 小泉徳宏
■脚本: 三嶋龍朗 小泉徳宏
■音楽: 横山 克
■配給: ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
■ ©2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会
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