働きやすさを「職種」で判断するのは危険? 地下鉄・バスの運転士や技術職に就く女性が「働きやすい」と口をそろえるワケ

近年、地下鉄の運転士やバスの乗務員として働く女性が増えている。
「実は女性にとって働きやすい仕事なんですよ」
そう話すのは、横浜市が運営する地方公営企業であり、市営バスと市営地下鉄の運行を担う「横浜市交通局」で働く女性たち。
そうは言っても、事務職などのデスクワークと比べたら決して働きやすいとは言えないのでは……。
ということで、実際に横浜市交通局で運転士や技術者として働く3名の女性たちに、「実際のところどうなの?」という疑問をぶつけてみた。

地下鉄運輸職員(教育指導係)
平井あかりさん(仮名)
航空会社にて空港職員として働いた後、2016年に横浜市交通局に入局。現在は乗務管理所で運転士の教育訓練を行う教育指導助役として勤務。プライベートでは一児の母

地下鉄保守技術員
下山佳奈さん(仮名)
専門学校卒業後、2021年に横浜市交通局に入局。駅舎やバス営業所の建物及び機械設備の維持管理業務等を担う。休日は推し活にいそしむ

バス乗務員
橋本桜さん(仮名)
ブライダル業界で衣装担当として働いた後、コロナ禍をきっかけに2023年に横浜市交通局に入局。現在は、バス乗務員として活躍中。趣味はドライブ
泊まり勤務があっても、体力仕事でも…入局前に不安がなかった理由
まず、皆さんが横浜市交通局に入局したきっかけを教えてください。
私は、航空会社で空港職員として働いていたのですが、接客の仕事がすごく楽しくて。そんな時ふと、「公営交通だとどんな接客をするんだろう?」と興味が湧いたんです。
それがきっかけで横浜市交通局に転職しました。駅務員としての経験を積んだ後、運転士養成課程を経て運転士になり、現在は運転士の教育指導をしています。
私は公務員の専門学校に通っていたのですが、そこで横浜市交通局の募集を見つけたのがきっかけです。
市役所の募集が大半だったんですが、その中で横浜市交通局がすごく異色に見えて興味を引かれたんです。
接客は苦手意識があったので、裏方の保守技術員(機械や設備の保全や修理、管理などを行う職種)の仕事があることを知って、「これなら私に合いそうだな」と応募しました。
現在は、駅舎やバス営業所の建物・機械設備の維持管理を担っています。

私は、ブライダル業界で衣装担当として働いていたのですが、コロナ禍で業界が大きな影響を受けて仕事がなくなってしまって。
「どうしようかな」と思いながらドライブをしていた時、たまたま横浜市営バスが並走していたんです。ふと運転席を見たら、女性の乗務員さんが座っていて、すごく凛々しくて格好よく見えたんですよね。
学生時代から、「いつか交通インフラに関わる仕事がしたいな」という思いを心の片隅に持っていたこともあり、交通局の個別説明会に参加して、営業所に見学に行ってみたのが入局のきっかけです。
皆さんは入局する時、ワークライフバランスや女性の働きやすさに対する不安はありませんでしたか? 平井さんの場合、地下鉄運転士は土日勤務や泊まり勤務もありますよね。
そうですね。私は前職の空港職員も不規則な働き方だったんですが、その前に9時~17時が定時で土日休みの仕事に就いていたこともあって。
どちらも経験した上で、不規則な勤務の方がプライベートの時間を持てるなと感じました。
それはなぜでしょうか?
平日の方がどこに行くにも混まないし、旅行も行きやすいですから。平日に休みを取って、家族とゆっくり出かけられるのはぜいたくだなと思います。
泊まり勤務もありますが、翌日は「明け休み」でお休みですし、公休と合わせるとお休みは多いので、そんなに心配はしていなかったですね。

下山さんはいかがですか?
私も、横浜市交通局はワークライフバランスが取れていると聞いていましたし、年間平均有給取得日数も19日程度と多かったので、不安はありませんでした。(※令和6年度取得実績19.1日/20日)
「体力仕事なのではないか」という不安は少しありましたが、公務員なので雇用もお給料も安定していてお休みもしっかり取れるのだから、何とかなるかなって。
橋本さんはワークライフバランスに不安はありませんでしたか?
営業所に見学に行くまでは、「体力的にきついかな」と少し不安を感じていましたが、見学した際に、女性乗務員の方から一日の流れなどを丁寧に説明していただいて、これならできそうだなというイメージが湧いたので、大きな不安はありませんでした。

疑問①「体力的にキツくない?」
皆さん入局前からそれほど不安は抱いていなかったんですね。とはいえ、実際働いてみたら想像していたよりキツかったのでは?
平井さんは、泊まり勤務など大変じゃないですか?
日によって体調が違うので、きついと感じる日もありますが、トータルで見ると、私は泊まり勤務の方が楽です。
え! 泊まり勤務の方が楽なんですか?
そうなんですよ。午前中には勤務が終わるので、子どもがちょうど学校に行ってる時間に帰宅できるんですよね。
なので、家に帰ってすぐに家事育児に追われることなく、そのままのんびり休めるのは、泊まり勤務の特権です。
たしかに、帰宅後にちゃんと休めるのは魅力的ですね。
ただ泊まり勤務が続くと、生活リズムが崩れて体がきつそうな気もします。
泊まり勤務の時は3、4時間ほどの仮眠しか取らないので、眠いときもありますが、休みが多いのでそれほど大変さは感じません。私は朝から晩まで働くスタイルの方が大変でした。

泊まり勤務の方が体が楽というのは意外でした!
下山さんの「保守技術員」はどうですか?
私は日勤かつ土日休みですし、残業は月平均10時間程度、有給はほぼ全員が全消化しているような環境なので、ワークライフバランスは全く問題ないです。

※建築設備部門の場合
それはいい環境ですね。入局前に「体力仕事かな」というのを少し懸念していたと話していましたが、そのあたりはどうでしたか?
普段は事務作業が中心で、体力的な問題はありません。現場作業がある日は力仕事があるので、日によってはちょっとつらいなと感じる時もあります。
現場作業は、どんなことをするのですか?
材料や工具を運ぶなど、重いものを持つこともあります。でも、休みをしっかり取れるので、日中動いてもちゃんと回復できます。
橋本さんのバス乗務員はいかがですか?
人の命を預かっているので、最初の頃は必要以上に気を張って疲れてしまい、大変だと感じることもありました。
体力的なつらさよりも、精神的な疲れが大きかったんですね。
そうですね。最初の頃は、精神的な疲れが大きかったかもしれません。でも今は気を張りすぎずに業務ができるようになり、何事もなく一日を終えると、お客さまを目的地まで安全にお届けできたという達成感があります。
一日中運転していると体力的にもハードそうだなと思うのですが、いかがですか?
早番、遅番に加えて、朝夕のラッシュ時に働く中休勤務のシフト制で勤務しているので、一日中運転し続けることはなく、体力的にハードということはありません。

疑問②「自分の時間取れなくない?」
想像していたよりも、皆さん体力的な負荷は少なそうだなと感じましたが、ワークライフバランスの面で言うといかがでしょうか。
有給休暇が取りやすいので、子どもの予定や自分の趣味の予定がある日は休めますし、自分の時間は取りやすいと思います。
私も有給は全部消化しています。上司もどんどん取りなさいという感じなので、取得しやすいですね。
休む時は月に4回くらい有給を取って、大好きなアニメのイベントに行ったり、自宅でマンガを読んだりゲームをしたりと満喫しています(笑)

公務員なのでお給料も安定していてお休みも取りやすいなら、推し活がしやすそうですね。
土日休みなので週末のライブも行けますし、推し活するにはピッタリの仕事だなと思います!
私も自分の時間は取れていると思います。4勤2休のシフトが多いので休みもきちんと取れますし、早番・遅番の日は勤務時間も長くありません。
中休シフトの日は、朝から夜までの勤務になりますが、合間に数時間休憩が取れるので、元気があれば買い物をしたりと自分の時間を有効に使えます。
お休みの日は同じ平日休みの人と飲みに行ったり、洗車をしたり、趣味のドライブに出かけたりしています。平日だと道も空いているので、快適に休日を楽しめています。
皆さん、意外にお休みが多いんですね。でも運転士や乗務員はシフト制ですし、急なお休みは取りにくいのでは? 育児との両立はしにくそうなイメージ……。
子どもが発熱した時などは、他の職員が快く代わってくれています。
職場では子どもがいる職員が多く、お互いの気持ちが分かるため、みんな持ちつ持たれつで協力し合っているんです。

女性が働きやすい職場には「心理的安全性」がある
皆さんとても働きやすそうですが、転職活動で「女性が働きやすい職場」を見極めるにはどこに着目したらいいと思いますか?
女性だといずれ結婚や出産により働き方が変化することも多いと思うので、そういう時に職場がどれくらい快く受け入れてくれるかが重要だと思います。
復帰する時も、職場がウェルカムな環境を整えてくれるかどうかは大事だなと。
産休・育休の制度があるだけでなく、制度を利用しやすい風土や利用した人たちが気後れしない雰囲気があるかどうかを見極めれば良いと。
そうですね。有給休暇の取得一つとっても、「取れるけれど嫌な顔をされる」ようでは、取得しづらくなってしまいます。
そういったことがなく、お互いさまの気持ちを持てる職場なら、長く働けると思います。
同感です。
休暇を取るにしても、育休から復帰するにしても、周りに受け入れる姿勢がないと長く働けないですよね。
私は推し活のために遠慮なく有給を消化してますが、みんなもそうしてますし、上司も有給が取れるよう声掛けしてくださるので、気兼ねせずに済んでいるのは、働きやすさにつながっている気がします。
下山さんの職場は、女性職員はどのくらいいるんですか?
私の職場は女性はまだ少ないんですが、負荷の大きい力仕事はできる人に頼める雰囲気なので、女性でも働きやすいです。
私の職場も風通しがいいので、些細なことでも言いやすいです。
風通しが悪いと、言いづらいことが増えてしまうけれど、そういったことがないので働きやすいですね。
「言いづらいことが言える」体験の積み重ねが、女性が働きやすい環境をつくっていくように思います。

育休を取得する男性も増えてますし、いまや仕事と育児の両立は女性に限った問題ではないですが、それでもやっぱりライフイベントが仕事に影響しやすいのは女性だったり、体力仕事は男性にはかなわなかったりと、どうしても女性の方が臨機応変な対応が必要になることは多いですよね。
そんな時に「お互いさま」の精神で助けを求め合えたり、希望を伝えられたりする環境があるから、一般的にハードだと思われている仕事でも働きやすいのかもしれないですね。
そう思います。何かを決める時も、意見を求められることが多くて。「どう思う?」と尋ねてくれるので、思っていることを言いやすいです。
「この職種は働きやすい」「この職種は長く働けない」と、仕事のイメージで決めつける前に、職場に心理的安全性があるかどうかに目を向けると良さそうですね。
皆さん、本日は貴重なお話、ありがとうございました!

取材・文/光谷麻里(編集部) 撮影/赤松洋太