フリーランスの“産みどき”の正解は? 「戻る場所がなくなる」不安への備え方【キャリアコンサルタント・あんじゅ先生】

フリーランスの“産みどき”の正解は? 「戻る場所がなくなる」不安への備え方【キャリアコンサルタント・あんじゅ先生】

キャリアと出産、いつどちらを取る?
私らしい“産みどき”

自分のキャリアは大切にしたい、でもいつかは子どもも欲しい。出産のタイムリミットとキャリア形成の狭間で、いつ、何を選べば後悔しないのか。自分らしい仕事人生を送るための“産みどき”のヒントを、さまざまな角度から考えていきます。

会社員のように、しっかりとした制度の後ろ盾がないフリーランスにとって、出産は頭を悩ませるイベントの一つ。

「働きどきの今産んだら、戻る場所がなくなるのでは……?」「時間の制限があると仕事をもらえなくなりそう」など、多くのフリーランス女性が不安を抱いている。

そこで話を聞いたのが、漫画家のあんじゅ先生。27歳の時に、大学職員という安定した会社員からフリーランスへと舵を切ったあんじゅ先生は、昨年キャリアコンサルタントの資格を取得。

その後上梓した『今の働き方、ホントにそれでいいの?』(高橋書店)ではキャリアの専門知識を活かし、結婚・出産から転職や独立、副業までキャリアに迷う女性たちに親身にアドバイスを送っている。

さまざまな選択肢に揺れる年頃でフリーランスの道を選んだあんじゅ先生に、女性フリーランスの先輩として、そしてキャリアの専門家として、“産みどき”に悩むフリーランスたちへの考え方のヒントを伺った。

あんじゅ先生

若林杏樹/あんじゅ先生

1988年生まれ。神奈川県出身。新卒で私立大学の職員として就職し、超ホワイトな環境で5年間勤務。その後、長年の夢だった漫画家の道を目指して脱サラ。ツテも知名度もゼロの状態からSNSを営業ツールとして活用し、“天才美少女漫画家”として注目を集め、幅広く活躍中。 国家資格キャリアコンサルタントの資格も保有し、キャリア支援にも関心が深い■X

仕事がなくても、仕事がありすぎても、産むのが難しいフリーランス

編集部

今回は、キャリアコンサルタントの資格を取得されたあんじゅ先生と一緒に、“フリーランスの産みどき”について考えていきたいと思います。

あんじゅ先生

このテーマ、めちゃくちゃよく分かります……! なぜなら、私もその選択に揺れてきた一人だから。

編集部

おお。では、まずはあんじゅ先生ご自身のお話を聞かせてください。

あんじゅ先生

私が大学職員を辞めて漫画家になったのは27歳の時。結婚、出産はどうしようか、それを踏まえて働き方はどうしようか、一番悩む時期ですよね。

私はというと、さっさと結婚する気満々でした。そのときは自分が漫画家として稼げるなんて思ってもいなかったですから。

ハイスペ男性と結婚して、ゆる〜く絵でも描けたらいいかな、くらいの気持ちだったんですよ。

それが……。

編集部

それが……!

あんじゅ先生

ハイスペ男性がまったく現れませんでした。おかしいな。今でも待ってるんですけどね(笑)

まあそれはさておき、待てど暮らせどハイスペ男性は現れず。自分一人でやっていけるだけの稼ぐ力もなく。独立して最初の3年くらいは将来のことなんて、とても考えられないモード。とにかく生きていくのに必死でした

編集部

フリーランスになって最初の数年は、みんな苦労しますよね。

あんじゅ先生

漫画家として軌道に乗り始めたのが30代に入ってから。で、生活に余裕もできたし、そろそろライフプランのことも考えようかなと思い始めていたんです。

ところが……!

編集部

ところが……?

あんじゅ先生

今度は仕事が忙しくなりすぎて、プライベートがなくなっちゃったんです。来る日も来る日も締め切りの毎日で、結婚とか出産について考える余裕がありませんでした

編集部

売れっ子フリーランスあるあるですね。

あんじゅ先生

で、気付いたら今の年齢になっていた。だから、フリーランスの“産みどき”って本当に難しい問題だと思います。

書籍『今の働き方、ホントにそれでいいの?』の中に「結婚と出産」という章を入れたのも、フリーランスに限らず働く女性たちにとって、この問題は避けて通れないから。

女性の働き方を考える上でついて回るテーマだからこそ、この本を読んで、みなさんに知識を付けてほしいなと思いました。

書籍『今の働き方、ホントにそれでいいの?』128P

書籍『今の働き方、ホントにそれでいいの?』より引用

編集部

あんじゅ先生は、20代はライフイベントよりもご自身のキャリアを優先してきたんですね。

それについては今どう考えていますか?

あんじゅ先生

私はキャリアを優先して良かったと思っています。

編集部

それはなぜでしょうか。

あんじゅ先生

身軽なうちにしかできないような、しんどいことやパワーがかかる仕事を20代でたくさん経験できたから今があるなと思っていて。

若くて元気だったからこそできたことだなとも思うし、20代で仕事に打ち込んで得たものは私の大切な財産。私自身は、いい選択をしたなと思っています。

結局、ベストな選択は人それぞれですよね。

20代でやるべきは、チーム化とそのための基盤づくり

編集部

ここからはキャリアコンサルタントの視点でお話を聞いていけたらと思います。

キャリアを大切にしたいフリーランスの女性が、産みたいと思ったときに産めるようにするには、20代のうちにどんな準備をしたらいいのでしょうか?

フリーランスの女性から話を聞いていて多いのが、「ブランクができることによって、自分の席を他の誰かに奪われてしまうんじゃないか」という不安の声です。

あんじゅ先生

そこがフリーランスの難しいところですよね。この本でも触れていますが、会社員であれば労働基準法によって産後6週間の休暇が義務付けられている。

でも、フリーランスには適用されません。本書にも、起業後に子どもを授かった女性の話が出てきますが、彼女も仕事と子育ての両立には苦労したとおっしゃっていました。

書籍『今の働き方、ホントにそれでいいの?』133P

書籍『今の働き方、ホントにそれでいいの?』より引用

書籍『今の働き方、ホントにそれでいいの?』134P

書籍『今の働き方、ホントにそれでいいの?』より引用

編集部

必ずしも希望の部署に復帰できるとは限らないので、会社員もキャリアが保障されているわけではありませんが、それでもいきなり仕事がなくなることはありません。

フリーランスは「出産したら、仕事を失うかもしれない」というリスクにどう立ち向かっていけばいいのでしょうか。

あんじゅ先生

私は「チームを組む」ことが大事じゃないかなと思っています。

編集部

どういうことでしょう。

あんじゅ先生

一般的にフリーランスは個人で仕事を請け負います。でも、そうすると何かあったときに自分の代わりになってくれる人がいなくて詰んでしまう。

そうならないように、同じフリーランス同士でチームを組んで仕事をするんです。

編集部

なるほど。

あんじゅ先生

自分に来たプロジェクトに対して、細かく業務を振り分けて、それぞれ得意なメンバーに振り分けておく。

そうやって自分のコミットするウェイトをあえて下げておけば、出産に限らず、不測の事態で一時的に仕事ができなくなったとしても、ダメージを最小限に抑えられるし、残りのメンバーが穴を埋めてくれる。

後ろ盾がないフリーランスこそ、戦略的にチーム化を図って、“自分がいなくても仕事が回る状態”をつくっておくことが大事だと思います。

編集部

理論としては、納得できます。ただ、正直に言うと、それってある程度の予算感のある案件を受注できている人だからできることな気がして……。

あんじゅ先生

それはおっしゃる通りです。だからこそ、単価の高いプロジェクトを受注できるよう日頃から動いておく必要はあると思います。

編集部

単刀直入に聞きます。どうやったら受注単価を上げられますか。

あんじゅ先生

それはもう自分の仕事以外の部分にも、当事者意識を持って関わっていくしかないと思います。

編集部

どういうことでしょうか。

あんじゅ先生

たとえば私だったら、本来で言えば本を書くまでが私の仕事。いかに本を売るかは、著者の領域ではないんですね。

でもそこを一生懸命頑張って売る。他人任せにするのではなく、どうやったら一冊でも本が売れるかアイデアを出し、自分が表に立ってアクションを起こす。

その姿勢に、クライアントのみなさんは価値を感じてくださるんです。

たとえば、ギャラは100万円と言われたら、多くのフリーランスの方なら高いと思いますよね。

編集部

喉から手が出るくらいにやりたいです(笑)

あんじゅ先生

でも、クライアントさんは「あんじゅ先生にお願いしたら、本を書くだけではなく、売るところまでやってくれる。それで100万円なら安いよね」とおっしゃるんです。

編集部

顧客の期待を上回るということですね。

あんじゅ先生

外注ではあるけれど、会社の一員と同じ感覚でプロジェクトの成功にコミットする。そういう人には、もっといい案件が舞い込んでくるようになります。

言われた通りのことをしているだけでは、なかなか規模の大きい案件は降ってきません。仕事のスケールを上げるには、他の人がやっていないことまでやるという強い姿勢が大事なんです。

編集部

自分にとってベストな“産みどき”を叶えるためには、日頃からそういう姿勢で仕事をしていくのが大事だということですね。

あんじゅ先生

それこそ、まだ子どもがいない時期なら思い切り仕事に打ち込める。その間に、しっかりとした基盤づくりをしておくといいんじゃないかなと思います。

人生は計画通りに進まないから、難しく考えすぎなくていい

編集部

いつ産むにせよ、あるいは産まないにせよ、女性フリーランスたちが自分で納得した答えに辿り着くためには、どういうふうに物事を考えたらいいと思いますか。

あんじゅ先生

この本にも書いていますが、「偶発性理論」という考えがあります。

心理学者のジョン・D・クランボルツ教授が提唱したキャリア理論で、個人のキャリアの8割は偶然の出来事によって決定するというものなんですけど、本当、その通りですよね。

どれだけ綿密に計画を立てても、人生がその通りに進むことってまずない。むしろ予想だにしなかった出来事があった時に、その“偶然”をチャンスとしてどんどん取り込んでいくことが人生には必要で。

書籍『今の働き方、ホントにそれでいいの?』130P

書籍『今の働き方、ホントにそれでいいの?』より引用

あんじゅ先生

このタイミングで結婚するつもりはなかったとか、まだ子どもは考えていなかったのにとかいろいろあるけど、そういう機会が訪れたなら、思い切って飛び込んでみるといいと思います。

そうしたら、また自分の人生が思いがけない方向に広がっていくから。

編集部

それこそ、もし予期せぬタイミングで母親になることがあったとしても、いつか母親の経験を仕事に活かせることもあるかもしれないですね。

あんじゅ先生

本当にそうですよ。私はすでに「いつかお子さんを産むときは、レポ漫画をうちで描いてください」と出版社に声をかけられています(笑)

編集部

20代で出産したあんじゅ先生が描ける漫画と、30代で出産したあんじゅ先生が描ける漫画はきっと違いますしね。その選択をしたからこそ描けるものがありますよね。

あんじゅ先生

そう思います。結婚・出産を選択したことで仕事のチャンスを逃してしまったと思うこともあるかもしれませんが、結婚・出産を経験した自分だからこそできる仕事がきっと舞い込んでくるようになります

早いうちに結婚して出産をしても面白いキャリアが描けると思うし、逆に若いうちにキャリアを優先した人のキャリアも面白いものになっていく。正解はないですよね。

あんじゅ先生

結婚も出産も、多くの人が通る道だからこそ、つい悩んでしまうもの。それ自体は仕方がないと思うんです。

でも、どんな選択をしたとしても、自分の決めたことを間違いと思わないでほしい。これが私のオリジナルのキャリアなんだって、すべての女性が胸を張って生きていける世界を私も願っています。

取材・文/横川良明 写真/あんじゅ先生ご提供 編集/光谷麻里(編集部)

書籍情報

『今の働き方、ホントにそれでいいの?』(高橋書店)

『今の働き方、ホントにそれでいいの?』書影

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