中村倫也「お前はどうなりたいんだ?」ムロツヨシに救われてから15年。役者として見つけた“新たな正解”
今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。
その多彩な演じ分けから、カメレオン俳優の代表格として出演作が絶えない中村倫也さん。
今や誰もが知る主演俳優となった中村さんだが、デビュー後は10年以上にわたり鳴かず飛ばずの時期が続いた。
プライドばかりが大きくなり、実力との差が広がり続ける日々──。「落ちるところまで落ちた」と当時を振り返る中村さんだが、意外にも「ひたすら挑めばよかったあの頃の方が楽だった」と胸のうちを明かす。
成果を出し続けることが求められるトッププレイヤーとなった今、中村さんの仕事との向き合い方はどう変わったのか。
最新主演作の映画『君のクイズ』で演じる“クイズ界の絶対王者”が抱える苦悩と重ね合わせて聞いた。
中村倫也さん
1986年12月24日、東京都生まれ。2005年に俳優デビュー。映画やドラマ、舞台など多方面で活躍。近年の主な出演作に、映画『ミッシング』(24年)、『ラストマイル』(24年)、『あの人が消えた』(24年)、『ペリリュー ー楽園のゲルニカー』(25年・声の出演)やドラマ『DOPE 麻薬取締部特捜課』(TBS・25年)、『DREAM STAGE』(TBS・26年)舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』(26年)、『ルカと太陽の花』(26年・声の出演)などがある。Prime Video「ベストフレンドハウス2」が配信中 ■X:x.com/senritsutareme
「全ての仕草に意図がある」初のクイズプレイヤー役での挑戦
中村さん演じるクイズ界の絶対王者・三島玲央と、神木隆之介さん演じる謎多き天才クイズプレイヤー・本庄絆。映画『君のクイズ』は、二人の知略と情熱がぶつかり合う“クイズ・ミステリー”だ。
物語は、賞金1000万円を賭けた生放送のクイズ番組『Q-1グランプリ』決勝戦で起こった出来事から始まる。ともに優勝への王手をかけた最終問題で、本庄はまだ問題が1文字も読まれていないにも関わらず回答ボタンを押し、正解を言い当て優勝を果たす。
彼はなぜ、一文字も聞かずに正解できたのか──。
中村さんにとって、今回が初めてのクイズプレイヤー役。自身にとってチャレンジングだったことを聞くと「自分にとっては全部の仕事が挑戦なんですが」と前置きをした上でこう答えた。
三島と本庄には、それぞれの人物の中に「クイズプレイヤー」としての顔もあります。つまり、三島を演じることに加えて、2、3段階の役作りをする必要があって。それは複雑でもありましたが、楽しかったですね。
クイズ仲間といる時、会社に向かう時、パートナーと一緒にいる時、クイズの解答台に立っている時。場面によって三島が見せる顔は微妙に異なるんです。
もしかしたら気付かれないかもしれないけど、そういう細やかな演じ分けはやりがいがありました。
三島は次の問題に入る前に、かすかに頭を横に振る仕草をする。こういった所作についても全て意図があると中村さんは続ける。
役の「無意識」を表現するには、意識的に役を捉える必要があります。
競り合っている回答者たちは何を考えているのか。相手が正解した時、不正解だった時、それぞれの状況において回答者は何をすべきなのか。彼らにはどんな選択肢があるのか。
一つの問題に臨むクイズプレイヤーの背景にあるもの全てが、所作として現れたのだと思います。
クイズプレイヤーの思考から生まれる、さりげない仕草や感情の機微もリアルに演じられるよう、準備を重ねて挑んだ中村さん。
本作は、カメレオン俳優・中村倫也のまた新しい一面が見られる作品に仕上がっている。
「お前はどうなりたいんだ?」ドブの中から這い上がった日
三島と本庄は、クイズ界におけるトッププレイヤーでありながら、人生における「正解」が分からず、もがき苦しむ。
中村さん自身も俳優を志した10代後半以降、なかなか芽が出ず、“俳優としての正解”を模索する中で苦しんだ経験がある。
25歳くらいまではクソガキで。人の言うことを聞くのが嫌だったんです。
「自分はできる」と思い込んでいたけれど、現実では全く通用しないし、期待もされない。
その状態で自分を保つためには、肥大化した自己愛だけが頼りだったんです。自分だけでも自分を「できるヤツだ」と思わないと立っていられませんでした。
「個」で勝負しなければならない仕事でありながら、その「個」が通用しない。かといって、社会にも馴染めない。
理想と現実の狭間で苦しみ、どん底まで落ちた中村さんを救ったのは、本作でも共演しているムロツヨシさんだった。
何の成果も出していない若造が、飲み屋でやさぐれながら生意気に社会を語っているのを見かねたんでしょうね。
僕の話を聞いていたムロさんがふと、「お前はどうなりたいんだ? なりたい自分になるためにできることをやってるのか?」と言ったんです。
今の自分が、1㎝先も見えないドブの中にいることを突きつけられた気がして、その時は「うるせぇ」って強がるのが精一杯でした。
一緒に飲んでいたTEAM NACSの音尾琢真さんと池谷のぶえさんが、なだめてくれたのをよく覚えてます(笑)
もう見て見ぬふりはできないところまで来ている。自分でも薄々気付いていた現実を突きつけられ、翌日から家にこもった中村さんは、「自分はどうなりたいのか」「どうすれば世の中に受け入れてもらえるのか」を真剣に考えた。
「この日が、僕が役者として一歩を踏み出した日です」と話す中村さんの目はまっすぐだ。
自分を変えるきっかけをくれたムロさんには本当に感謝してます。自分を見つめ直した結果、「やっぱり役者の仕事が好きだから、頑張るしかない」と腹をくくることができました。
あ、でもムロさんの好感度が上がりすぎると腹立たしいので、僕がムロさん家のテレビの後ろの埃を掃除していたことも書いておいてくださいね(笑)
お茶目なポーズを取ってくれた中村さん
作品の中心に立つようになり、変わった“正解”
それからのめざましい活躍は言わずもがなだ。
知名度を上げるきっかけとなったNHK連続テレビ小説『半分、青い。』(2018)で見せた振り幅の広い演技が話題を呼んで以降、映画にドラマ、舞台と出演作が絶えない。
主演を担うようになり、現場でベテランのポジションに立つようになったことで、俳優としての“正解”も変わったと話す。
若い頃は、無名な自分を面白がってもらうことが正解でした。でも座長を担うようになった今は、チームで“最小公倍数”ならぬ、“最大公倍数”が出せるように立ち回ることが正解であり、自分の役割だと思っています。
昔は自分のことだけ考えていればよかったんですよね。自分の存在が作品にとって“得”になれば採用されるので、ひたすら挑んでいけばよかった。
今は横綱のように作品全体を受け止めて動かしていく必要があります。どん底だった時はつらかったけれど、あの頃の方が楽だったかもしれません。
現在39歳。「追う立場」から「追われる立場」に変わり、年齢的にもキャリア的にも「中間管理職」のようなポジションになった。
プロフェッショナルとして自身のパフォーマンスを出し続けるだけでなく、チーム全体のパフォーマンスを高めるためには、周囲に「優しく、厳しくある必要がある」と語る。
真ん中に立たせてもらっていると、全てに手が届く位置にいる分、フォローやカバーをしなければならない時もあれば、高い水準を求めなければならない時もあります。
ものづくりの視点で現場を俯瞰する必要があって。全てを受け止めつつ、全てを動かす。そんな役割を果たすことが大切だと思っています。
期待に応えることばっかり考えてたら、面白くない
本作の中で「今、自分は何を求められているのか」というセリフが出てくる。
自分に期待されていることを察知し応えていくことは、どんな仕事においても欠かせない。中村さんは「期待に応えることはサービスの本質」と説く。
人から求められることをこなすのは大前提。その上で、自分のやりたいことをやる。“はみ出して遊ぶ”のが、僕にとってのプロフェッショナリズムです。
監督や演出家、ファンの期待に応え続けなければならないプレッシャーを感じることはあまりないと話す中村さん。
期待に応えられなかったら「ごめんね」とは思いますが、気には病みません。
もちろん最善は尽くしますが、僕はチームのパフォーマンスを最大化したいので、そのためには期待に応えることばかりを考えていてはダメで。
想像を超えること、驚かせることが僕なりの誠意なんです。なにぶん、奇襲戦法の人間なんでね(笑)
それに、例え想像の範囲内で何かを得られたとしても、僕の心が楽しくないんですよ。
プロとして、社会人として期待に応えた上で、「どれだけ遊べるか」は、僕のテリトリーだと思っています。
「10を求められたら10出せる人」はプロとしての及第点。そこからプラスアルファではみ出していく部分は、自分なりの美学なのかもしれないと、中村さんは語る。
期待を超えることを面白がり、観る人たちを驚かせる。そのために中心からチーム全体を見渡す中村さんは、まるで「灯台」のような人だ。
どんなに荒波で先が見えない暗闇にいても、いつもそこにブレることなく立ち、目指す方向や道筋を照らし続けてくれる。
そんな人が真ん中にいてくれたら、一緒に仕事をするチームの人たちにとっての指針となり、心強い存在になっているに違いない。
取材・文/根津 香菜子 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) ヘアメイク/Emiy(Three Gateee LLC.) スタイリスト/松本ユウスケ(anahoc) 編集/光谷麻里(編集部)
作品情報
映画『君のクイズ』5 月 15 日(金) 全国ロードショー
生放送クイズ番組“Q‐1 グランプリ”の決勝戦。
日本中が注目する中、“クイズ界の絶対王者”・三島玲央と
“世界を頭の中に保存した男”・本庄絆は
共に優勝まであと一問と、王手をかけた。
そして迎えた最終問題、早押しクイズ。
張り詰めた空気の中、本庄は問題を1文字も聞かずに回答ボタンを押す。
会場がどよめく中、なんと正解を言い当て、優勝者となった。
なぜ彼は問題を1文字も聞かずに正解できたのか?
やらせ? トリック? それとも魔法?
三島は前代未聞の「謎」に挑む——。
「謎」に隠された、クイズプレイヤーたちの≪人生≫。
解き明かされる≪真実≫とは——
これは、全国民へのクイズ。
キャスト:
中村倫也 神木隆之介
森川葵 水沢林太郎 福澤重文 吉住 白宮みずほ 大西利空 坂東工
ユースケ・サンタマリア / 堀田真由 ムロツヨシ
原作:小川哲『君のクイズ』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
監督:吉野耕平
脚本:おかざきさとこ 吉野耕平
音楽:Yaffle 斎木達彦
クイズ監修:QuizKnock
配給:東宝
©2026 映画『君のクイズ』製作委員会
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