「タイパを求めるほど、遠回りになる」ウォンテッドリー代表・仲暁子が仕事選びに“非効率”を勧める理由
AIが瞬時に「それらしい正解」を提示してくれる時代。
仕事選びにおいてもコスパ・タイパよく「正解」を見つけようとする人は多いかもしれない。
しかし、ビジネスSNS『Wantedly』を展開するウォンテッドリーの創業者・仲暁子さんは、「最初から正解を当てにいかず、遠回りした方が実はタイパがいい」と語る。
自らも数々の挑戦と失敗を重ねる中で、仕事やキャリアに対する考え方をアップデートしてきた仲さん。
自分に合った仕事や生き方は、どうすれば見つけられるのか。仲さんが考える、自分らしいキャリアの切り開き方とは。
ウォンテッドリー株式会社 代表取締役 CEO 仲 暁子さん
1984年生まれ。2008年、京都大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券入社。退職後、Facebook Japan初期メンバーを経て、10年にウォンテッドリーを創業。12年、ビジネスSNS『Wantedly』をリリース
「ビジョンへの共感」だけでは長続きしないと気付いた
私は10年前のインタビューで、「自分でやって何度か転んで、痛い目に遭ってみることが、人生を切り開く近道だ」と語ったことがあります。
今振り返ってみても、その思いは変わりません。人に言われたことをやって転ぶより、自分で考え、決断して転んだ方がたくさん学べますから。
だからこそ、何かに迷っても「駄目元でやってみよう」と、まず行動に移すように意識してきました。
ウォンテッドリーの起業もその一つです。思うようにいかないことや、大小さまざまな失敗をたくさん経験しながら、仲間と一緒にサービスを成長させてきました。
ただ、創業当時と考え方が変わった点もあります。
当時の私は「地頭が良くて経営者のビジョンに共感していれば、誰でも成果を出せる」と信じて疑いませんでした。「共感」さえあれば人は仕事に夢中になる。夢中になれば成果も出ると本気で思っていたんです。
でも、周囲の働きぶりを見てきた中で「それだけでは長続きしない」と思うようになりました。ビジョンへの強い共感があって入社したはずなのに、途中で急に勢いを失ってバーンアウトしてしまう人がいる。
逆に、最初は目立たなくても、自分の気質や強みにピタッとハマる役割を見つけた途端に、大きく花開く人も珍しくありません。どれだけ会社の目指す方向に共感していたとしても、日々の業務内容やチームとの相性が良くなければ、人はパフォーマンスを持続できないのだと気付いたのです。
どんなにAIが進化しても「直接会って話す」価値は変わらない
「共感」だけでは足りないと悟ってからは、ビジネスSNSの『Wantedly』にスキルマッチング機能や性格診断機能を実装し、仕事内容への適性やチームとの相性も判断材料に加えられるようにしました。
「共感至上主義」というかつての正解を手放し、私の考え方が変化するにつれて、サービスの在り方も少しずつ変わってきているんです。
ただ、私の考えがアップデートされてサービスがどれだけ進化しても、創業時から変わらずに信じ続けているものもあります。
それが「直接会って話すこと」の価値です。今では広く浸透している「カジュアル面談」ですが、『Wantedly』はその価値をいち早く提唱し、サービスとして広めてきました。
創業間もない頃から地道に推進してきたこの取り組みも、現在では面談したい特定の社員や経営陣を自ら選んでリクエストできる「指名カジュアル面談」へと進化し、利用者の皆さんからも好評です。
直接会って話すことには、二つの意味があります。一つは、能力が期待値に適うかどうかの見極め。もう一つは、互いに「一緒に働きたい」と思えるかどうかの確認です。
能力の見極めは、条件と事実の照合作業でもあるのでAIが得意とする部分ですが、人と人との相性は五感や直感による部分が大きいため、実際に話してみるまで馬が合うかどうかは分かりません。
最終的に生身の人間同士が机を並べて働くわけですから、直接会って腹を割って話す機会を求める声は、当面なくならないでしょう。
いくらAIが進化しても、最後の最後は「自分で体感してみないと分からない」のです。
たくさん経験して「不向き」を知った方が、タイパがいい
就職活動や転職活動においても、AIを使えば簡単に「それらしい正解」を手に入れられる時代になりました。
でも私は、あえてタイパ・コスパの悪いことにこそ、多くの時間を費やしてほしいと思っています。一見遠回りに見えても、実はその方が長い目で見たときにタイパがいいと思うからです。
学生時代の私は、これからどう生きていくか、とにかく悩んでいました。偉人の伝記や自己啓発本を読みあさり、毎日のようにジャーナリングをして自分と向き合いましたが、いくら考えても答えはなかなか見つかりません。
ただ、自分に「向いていること」をピンポイントで探し当てるのは難しくても、実際にやってみて「自分には合わないな」と肌で感じるのは意外と簡単です。
最初から正解を当てにいくのではなく、経験を通じて「向いていないこと」を一つずつそぎ落としていく。その先に残ったのが「今熱中できることに全力で取り組む」という生き方でした。
将来の目標から逆算して「今は我慢する」という道もあったかもしれませんが、私は選びませんでした。
かつてスティーブ・ジョブズが語った「コネクティング・ザ・ドッツ」のように、目の前のことに没頭した経験が、後から振り返ったときに一本の線につながって見える。私にとっては、そんなキャリアの方が納得感があるからです。
むしろその方が、成果も出やすく結果的にキャリアの選択肢も広がるはず。そう信じて、今に至るまでこの考えを貫いています。
先ほど「経験を通じてそぎ落とす」と言いましたが、これは要するに「仮説と検証の繰り返し」です。
少しでも興味や関心が持てることに挑戦してみて、向いていると思ったら突き詰めればいいし、向いていなければサッと次に移ればいいだけのこと。取り返しのつかない失敗なんてそうありませんし、一つの失敗が人生の終わりを意味するわけでもありません。
だからこそ、限りある人生を何に使いたいのか、今一度、自分自身と向き合ってみてほしいです。そうした答えのない問いにじっくり向き合うのは、一見タイパが悪いように感じるかもしれません。でも、すぐに正解が見つからなくてもいいんです。
タイパを度外視して遠回りし、深く考えて行動したという事実そのものが、その後の人生の「発射台の角度」を変えてくれます。最初の角度がほんの少し上を向くだけで、将来届く飛距離は驚くほど大きく変わるはずです。
私自身、そうやって見つけた指針に何度も助けられてきました。皆さんにも、安心して「自分だけの遠回り」を経験してほしいなと思います。
取材・文/武田敏則 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)


