アパホテル元谷芙美子「私は人生で一度も苦労したことがない」仕事も結婚も子育ても“ピンチを楽しむ”人生論

アパホテル元谷芙美子「私は人生で一度も苦労したことがない」仕事も結婚も子育ても“ピンチを楽しむ”人生論

私、人生で一度も苦労をしたことがないの」。

そう笑うのは、ド派手な帽子と「私が社長です。」のキャッチフレーズでお馴染み、アパホテル株式会社の元谷芙美子社長だ。

数々の経済危機を乗り越え、アパグループを54期連続黒字へと導いてきた元谷社長。幾度もの危機に直面しても、「神様が私を試してくださっている」と胸を躍らせてきたという。

その姿勢は、仕事だけでなく結婚や子育てに対しても変わらない。

なぜ彼女は、失敗を恐れず、置かれた場所でチャンスをつくり、結婚や育児さえ成長の力に変えるのか。元谷さん流の人生哲学に迫った。

アパホテル株式会社 取締役社長 元谷芙美子さん

アパホテル株式会社 取締役社長
元谷芙美子さん

福井県立藤島高等学校を卒業後、福井信用金庫に入社。営業として活躍後、元谷外志雄氏と結婚。1971年、夫が起業した信金開発株式会社(現・アパ株式会社)に入社。94年、アパホテル株式会社の取締役社長に就任。アパグループは54期連続黒字を継続中

私の目標は「ホテル業界のジャンヌ・ダルクになる」こと

私はね、人生で一度も苦労なんてしたことがないの。世間様から見ればピンチだと思われるような場面でも、「神様が私を試してくださっているのね」と思うと、ワクワクドキドキして「よし、頑張ろう!」と奮い立つ。だから何があっても苦労とは思わず、全てを楽しむことができるんです。

もちろんアパグループも、未曾有の危機と言われるほどの大きな社会変動に何度も直面してきました。1971年の創業以来、オイルショック、バブル崩壊、リーマンショック、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックと、時代ごとにホテル業界は逆風にさらされてきたんです。

しかも私たちの場合、財閥系や鉄道系と言われる超大手がひしめく既存優位のホテル業界で、北陸で起業した小さな会社が徒手空拳、まったくのゼロから勝負しなければいけなかった。だから神様に試される機会はたくさんありました。

アパホテル社長

でもね、それが良かったんだと思うの。アパグループが創業以来、一度も赤字を出さず、54期連続で黒字経営を続けてこられたのは、常に「ピンチこそ最大のチャンス」と捉え、果敢に行動してきたから。

ずっと何事もなく毎日平穏に過ごしていたら、私自身が社長として磨かれることはなく、会社が飛躍する好機も逃していたでしょう。

だからと言って、自分の会社さえ良ければいいと考えたことはありません。むしろ私は、世のため人のためにお役に立ちたい気持ちが人一倍強いんです。

2020年にコロナ禍が拡大した際に、アパホテルがいち早く軽症者や無症状者を受け入れたのも、一人でも多くの方を救いたかったからです。当時はまだ新型コロナウイルスがどんなものかがはっきりせず、受け入れにはリスクが伴いましたが、私たちは国からの要請を受けて即断即決しました。

アパホテル&リゾート〈両国駅前タワー〉

2020年、東京都からの要請を受けて新型コロナウイルス無症状者と軽症者を受け入れた「アパホテル&リゾート〈両国駅前タワー〉」。新築オープン前に1棟丸ごと貸し出したことでも話題に。

社長に就任した時から、私の目標は「ホテル業界のジャンヌ・ダルクになること」。まさに今がそのチャンスだと思ったのです。私たちが真っ先に受け入れを表明すれば、他のホテルも後に続くかもしれない。誰かが火中の栗を拾うのであれば、それは自分しかいないという強い使命感がありました。

アパホテルがここまで大きくなれたのは、社会の皆様のおかげです。その感謝を忘れず、私にできることがあればいつでも恩返しをしたい。その思いがあるから、どんな難局でも逃げることなく、前へ前へと突き進めるのです。

「失敗」は贅沢で美味しいデザートよ

こうした人間らしい心こそ、AIにはない私たちの強みじゃないかしら。感謝の気持ちや思いやり、おもてなしの心などは、AIがどれだけ発達しても持ち得ないものです。だから人間がAIに駆逐されることはない。私はそう確信しています。

誤解しないでほしいのですが、私はAIやITも大好きなのよ。最先端のホテルであり続けるには、新しい技術を勉強し、会社経営に取り入れることが必要ですから。

アパホテルが業界に先駆けてスマートホテル化を推進し、公式アプリや「1秒チェックイン・1秒チェックアウト」などのDXサービスを導入できたのも、先進技術の活用があってこそ。ただしこれらは単なる効率化やコスト削減の手段ではなく、あくまでお客さまへのおもてなしとして提供しています。

なぜならどれだけ時代が変わっても、サービス業の本質は「お客さまの幸せを願う心」にあります。お客さまに喜んでいただくために、相手の気持ちの奥深くまで洞察し、それぞれの方が求めるおもてなしをご提供する。それは人の幸せを願う心を持った人間にしか生み出せない価値であるはずです。

皆さんもAIに頼っていたら、仕事の企画や書類も全員似たり寄ったりになって、差がつかないでしょう? だから今こそ、AIに負けない独自の思考や発想を鍛える絶好のチャンスと考えればいいんです。

アパグループ創業者である夫の元谷外志雄は、「人間どう考えるかで人生は決まる」が座右の銘でした。これは私も全くの同感。結局のところ、人生は自分の考え方次第なんですよ。

アパホテル社長

ホテル利用時の予約、チェックイン、チェックアウトにおいて、非接触・待たない・並ばないを実現したストレスフリーのアパオリジナルデジタルサービス「アパトリプルワンシステム」を展開

最近ではキャリアについても、条件や効率だけで会社を選び、「入った会社が合わなければ、転職して次へ行けばいい」と考える人が多いようですね。でもそれは、外部環境のせいにして逃げているだけ。

自分の人生を誰かに委ねたくないなら、「まずは与えられた場所で誰よりも輝こう」という覚悟を持ち、目の前の仕事に全力投球すること。隣の芝生は青く見えるものですが、どの会社に就職しようと、自らチャンスをつくり出せる人だけが、人生の可能性を無限に広げていけるのです。

仕事に全力で取り組んだ結果、失敗したって大丈夫。失敗すれば必ず学びがあり、もっと大きく成長できますから。しかも会社という組織に守られながら失敗させてもらえるなんて、贅沢で美味しいデザートを目の前に出されたようなもの。怖がらずにパクッと食べちゃえばいいんですよ。

皆さんもぜひ何事もポジティブに考えてください。前向きに考えるだけなら、税金もかからないからお得です(笑)。自分の可能性を信じて仕事人生を歩み出す皆さんを、私も応援しています。

ライフイベントは「さらなる成長」へのエネルギーになる

アパホテル社長

最後に私が働く女性たちにアドバイスをするとしたら、時代にはそぐわないかもしれないけれど「一刻も早く大恋愛して結婚し、お家を買いなさい」ってこと。

家庭を築いて自分の城を持つことは、腹をくくらないとできないでしょ。だから仕事でも「もっと成果を出して、もっと稼いでやるぞ!」と気合が入ります。

「将来結婚したら、仕事と子育てを両立できるか不安」という声も聞きますが、心配する必要はありません。私も二人の子供を育てましたが、苦労なんてしたことがないですから。

仮に大変だと思うことがあっても、「可愛いこの子のために、なんとしてもやり抜かなければ」と逆にエネルギーが湧いてきます。

私の夫は長男なので、義理の母やきょうだいと同居した時期もありますが、家の中に程よい緊張感があったから私自身も磨かれたと思っていますので、どんな経験も決してマイナスにはならないんです。

だから結婚や育児などのライフイベントも、キャリアの足かせになるとは考えず、「仕事での成長に加えて、一人の女性としても成長できるなんて幸せだわ」とポジティブに捉えてほしいですね。

私だって両立できたのだから、あなたもきっと大丈夫。どんなこともチャンスと捉えるマインドさえあれば、自分らしい人生を切り拓いていけますよ。

取材・文/塚田有香 撮影/桑原美樹