13 JUN/2014

「やりたいことを仕事にしたら、良いことばかりだった」――社会起業家・白木夏子さんが語る、自分の人生の舵を取り豊かに生きる方法

「仕事は仕事。やりたいことができるものではない」「好きなことを仕事にすると、嫌いになってしまうかもしれない……」そんな考えを持っている女性は少なくないのではないだろうか。だが、人は人生におけるかなりの時間を、働くことに費やす。それならば、その時間を自分の好きなことに充てたほうが、後悔のない人生が送れるとも考えられるだろう。そこで、「やりたいことを仕事にして人生が豊かになった」と著書『自分のために生きる勇気』の中で語る、ジュエリーブランド『HASUNA』代表の白木夏子さんにお話を伺った。

「自分のために生きる」ことは難しい
でも、型にはまった生き方では人生は豊かにならない

白木夏子

株式会社HASUNA 代表取締役・チーフデザイナー 
白木夏子さん

1981年生まれ。日本の短大を卒業後、英ロンドン大学キングスカレッジにて発展途上国の開発について学ぶ、国連人口基金ベトナム・ハノイ事務所、アジア開発銀行研究所でインターンを経験。投資ファンド会社勤務を経て、2009年4月に株式会社HASUNA設立 ■ HASUNA http://www.hasuna.co.jp/ 

私はもともと、超が付くほどネガティブで、自分に自信がない人間でした。そんな私が、勤めていた会社を辞め、『HASUNA』を起業して6年目。困難なこともあったけれど、今では自分の大好きなジュエリーに関わりながら国際貢献ができるようになりました。『HASUNA』の立ち上げや経営を通して、自分の人生に対する価値観の大きな変化を感じています。それを伝えることで、生き方に迷う人たちの背中を押せたらと思い、『自分のために生きる勇気』を書きました。

「自分のために生きる」ことは、日本人にとっては苦手分野なのかなと感じています。というのも、「大学を出たらすぐに企業に就職、それも大企業がいい」といったような、決まった型にはまることが良いとされる風潮が日本にはありますよね。一般的に良いとされる型にはまろうとしたり、無意識にはまってしまったりすると、後で自分の人生に迷いが出てしまいます。

一方で、私が留学や仕事を通して出会った外国人の友人たちは、そうではありませんでした。皆、「Enjoy life!」といった具合に、それぞれの人生を精一杯楽しんでいるんです。仕事の中で自分のやりたいことと精一杯向き合って自己実現している人もいれば、仕事はお金を稼ぐ手段と割り切って、プライベートの時間を100%充実させている人もいる。自分が好きなことは何かということを知っていて、そのために生きている人が多いからです。そんな彼らの人生は、すごく豊かだなと感じ、私はあこがれを抱いていました。

やりたいことを仕事にして向き合ったとき
自分の人生の舵を自分で取っている実感を持てた

私自身、一般的に良いとされる型にはまり、初職では日本の一部上場企業に入社しました。ですが、早朝から深夜まで忙しく働きながら、「このままでいいのかな」というもやもやした思いを抱えていました。悩んだ末に自分の人生を振り返ったとき、学生時代に国際協力の一環で訪れたインドで出会った人たちの姿が頭に浮かんだんです。インドでは、最貧困層の村で大人も子供も不当に鉱山で働いている。それを気にしていながらも、自分では何もせず、関係ない仕事をしていることに強く疑問を覚えました。

白木夏子

自分のために生きる勇気 流されない心をつくる33の方法』(著者:白木夏子/1,400円(税別)/ダイヤモンド社)
赤面症で人見知り、いじめにもあっていたごく平凡な彼女は、なぜ世界中の鉱山を飛び回り、ダボス会議に出席するような起業家になったのか? 自分の人生をいかに経営していくか、心を鍛えていくか、自分自身をコントロールしていくか。誰でもすぐにできる自分のコアを見つけ、それを貫くための考え方と生き方のコツを公開

私がそうだったように、「本当に興味のあること」や「やりたいこと」を心の奥底にしまい込んでいる女性は多いのではないでしょうか。社会的に良いとされている型にはまって生きる方が、リスクが少なく安定しているように見えるからかもしれません。ですが、私はこのもやもやした自分の気持ちに気付いたとき、「いま死んだら絶対に後悔する。やりたいことをやりきらなければもったいない」と思いました。

そこでまずは、自分の仕事観を見つめ直すきっかけとなった、世界中の鉱山労働者のことや鉱物売買の実情を調べました。その一方で、憧れの人の生き方を本で読んだり、講演会に出たりもして。そうこうしているうちに「輝いている人は自分の使命を知って、やりたいことをちゃんと持っているんだな」と確信していきました。さらに、「自分が一生飽きずにできることって何だろう」と考えた結果、自分が熱心に続けられることは、子どものころから大好きだった「ジュエリーを作ること」だと考え付いたのです。

今の自分の仕事や生活に納得感が持てず、漠然とした不安や焦りを感じている人は少なくないでしょう。私の場合はそこで、自分が本当にやりたいと感じたことを思い切って仕事にしてみたわけですが、初めは会社経営のいろはも分からず苦労することばかりでした。資金が底をついてしまいそうになってピンチに陥ったり、失敗したこともたくさんありました。ですが、自分が本当にやりたいことと向き合い始めたときから、「自分の未来は自分で作れるものなんだ」と実感し、地に足が着いたような感覚を覚えたのです。

人から与えられた型から抜け出して、自分の人生の舵をようやく自分で取り始めたからだと思います。そうなれば、もやもやとした不安な気持ちも少しずつ無くなっていきます。だって、理想の未来さえ思い描ければ、自分の舵取り次第で人生はどうにでも変えられるのですから。日々の困難も、10年後にすごく良い世界が待っていると思うと乗り越えられるはず。やりたいことに一歩踏み出したことで、生き方のスタンスが前向きになります。

失敗を恐れずに一歩踏み出せるかどうか
輝いている人とそうでない人の違いはそれだけ

白木夏子

一見、やりたいことを仕事にして輝いている人たちは、自分とは遠い世界に住む人のように見えます。ですが、そういう人たちの話をよく聞いてみると、実はすごくたくさんの失敗をしているんです。私もそうでしたが、みんな失敗を恐れて、自分のやりたいことをやらずに諦めてしまうのだと思います。ですが、私たちが考えている失敗なんて、宇宙から見れば本当に小さなこと。そんなふうに考えるだけで、気持ちが楽になりますよ。結局のところ、やりたいことを実現して輝いている人とそうでない人の違いは、自分の気持ちに素直になって、失敗を恐れずに一歩踏み出したどうか、それだけ。人間そのものの能力なんて、実はほとんど変わらないものです。

今、私は経営者として、ジュエリーのデザイナーとして、それから家に帰れば家庭を持つ人間として慌ただしくしています。ですが、年に一度は必ず「10年後にこうなりたい」と思ったことを全てノートに書いているんです。そうすると、進みたい方向性が分かり、自分の人生に軸ができていく。その軸さえあれば、生き方に迷うことも少なくなります。また、やりたいことに向き合うといっても、自己実現の仕方は人それぞれ。やりたいことを必ず仕事で実現すべきだとは考えていません。ですが、どんな形でも自分に合ったバランスで、自分の好きなものにとことん向き合ってほしい。それが必ず、「自分の人生の舵を、自分で取っている」という実感を与えてくれるからです。そうすれば自然と心は穏やかになり、人生が豊かに変わっていくと、私は信じています。

取材・文/高島知子 撮影/柴田ひろあき