02
OCT/2015

「子育て中だからこそ自己実現を追求してほしい」フローレンス・駒崎さんが提言する“母親が仕事を頑張ること”が子どもに与える意外な効果

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私たちはなぜ働くのか
駒崎弘樹さん
認定NPO法人フローレンス
代表理事
駒崎弘樹さん
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。2004年、NPO法人フローレンスを設立。日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを首都圏で開始。10年より、内閣府政策調査員、内閣府『新しい公共』専門調査会推進委員などを歴任。現在は厚生労働省『イクメンプロジェクト』推進委員会座長、内閣府『子ども・子育て会議』委員、東京都『子供・子育て会議』委員などを務める。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(ちくま文庫)など

仕事と育児を両立する女性にとって、子どもの急病ほど悩ましい問題はない。ほとんどの保育園では発熱などの症状があると子どもを預かってもらえないからだ。母親が仕事を休んで面倒を見るしかない家庭は多い。

この「病児保育問題」の解決を目指して設立されたのが認定NPO法人フローレンスだ。当日朝8時までに依頼すれば、病児保育専門のスタッフが自宅で子どもを預かるサービスを提供。2005年のサービス開始から、延べ2万5,000件の依頼に応えてきた。

現在はひとり親家庭の支援や障害児保育事業なども手掛け、「誰もが子育てと仕事を両立できる社会の実現」をビジョンとして掲げる代表理事の駒崎弘樹さんに、子どもを持つ女性が働く意味について伺った。

インフラ整備より大きな“価値観の壁”という課題

「僕たちがサービスを開始して10年経ちますが、病児保育はようやく当たり前の社会インフラになりつつあります。これだけ多くの女性が責任ある仕事をするようになれば、子どもが病気だからといって、急に仕事を休むことは難しくなる。よって、病児保育の需要が高まるのは当然の流れと言えます。

ただ、必要性が認識されるようになったとはいえ、実際のインフラは十分ではない。この10年間で全国の公的な病児保育施設は約600カ所から1000カ所に増えましたが、それでも数が足りないのが現状。誰もが当たり前に働く社会をつくるために、やるべきことはまだまだあると感じています」

実はインフラの整備以上に大きな壁となっているのが、価値観の問題だ。母親が子どもを保育園に預けて働くのは当たり前になりつつあるが、それでも「子どもが病気の時くらい、仕事を休んで一緒にいるべきではないか」という風潮は根強い。何より母親自身が、そうした迷いや後ろめたさを感じることも少なくない。

「ただ、実際に病児保育のサービスを利用すると、皆さん一様に『もっと早く利用すればよかった』とおっしゃる。それは、専門知識と豊富な経験を持つプロに預かってもらうことで、子どもが安心して良い時間を過ごせることが実感できるからです。

僕も4歳と2歳の子を持つ父親なのでよく分かりますが、もし自分が一日中病気の子どもの面倒を見ろと言われたら、途中で僕の方がしんどくなってしまう。きっと何時間もテレビを見せてお茶を濁します(笑)。でも病児保育のプロなら、水分補給などの正しいケアをし、十分な休息をとらせつつ、絵本の朗読やお絵描きなど、その子の体調に合った遊びをさせてくれる。

だから病気の治りも早いし、子どもも楽しく過ごせるのです。それに、自分のことを心配して一生懸命看病してくれる人が両親以外にもいるのだと子どもが知るのは、その子の心の宝箱に一生残るような素敵な体験じゃないでしょうか」

「子育ては人の手を借りる」がかつては当たり前だった

駒崎弘樹さん
駒崎さんは「親は愛情を、病児保育のプロはケアを」という役割分担をすればいいだけだと話す。病気の子どもを預けたからといって、子どもへの愛情まで手放したことにはならない。私たちはそのことを冷静に理解する必要がある。

「そもそも『母親が子どもを預けて働くのは良くないことだ』という価値観は、歴史的に見てもごく最近生まれたものです。なぜなら近代以前は日本人の9割が農民で、母親も毎日農作業に出るのが普通だったから。

では子どもの面倒は誰が見たかというと、祖父母や近所の親戚を含めた拡大家族でした。日本の有史以来、『子育ては人の手を借りるもの』というのが常識的な価値観だったのです。『子育ては親がするもの』という価値観が一般化したのは第二次世界大戦後、専業主婦が最も多かった1970年代以降のわずか20年ほどに過ぎません」

今では共働き世帯が増加し、専業主婦は減少しつつある。働く母親がマジョリティーになれば、再び「子育ては人の力を借りるもの」という価値観が当たり前になるだろう。「今は過渡期ですが、子育て世代である僕たちが頑張れば、必ず価値観は変わるはず」と駒崎さん。

「昔の人がおじいさんやおばあさん、おじさんやおばさんの手を借りたように、現代のワーキングマザーだって、病児保育などのサービスを遠慮なく使えばいいんです」

母親が常に一緒にいることが、子どもにとって良いとは限らない

駒崎弘樹さん
こうして人の手を借りるようになると、母親たちの人生観やキャリア観にも大きな変化が見られるようになるという。

「『何かあった時に頼れる存在ができたので、もう1人子どもを産もうと思います』という声はよく聞きます。子どもの病気を理由に休まなくなったことで、責任ある仕事を任されるようになり、契約社員から正社員に昇格したというシングルマザーもいます。仕事を継続しつつ、子育てにも前向きになれたという声が多くて、僕たちもうれしいですね」

そして、「子育て中の女性こそ、ぜひ仕事での自己実現を追求してほしい」と駒崎さんはエールを送る。

「育児のために自己実現を諦めた母親は、それを子どもに託すケースが多い。するといわゆる“毒親”になりやすいのです。『子どもを良い大学に入れることが親としての成功だ』といったすり替えが起きてしまい、子どもを一個の人格として尊重する心の余裕がなくなってしまう。実は専業主婦家庭の方が、共働き家庭よりも虐待率が高いというデータがあるほどです。

一方で、『母親は子どもが小さいうちは育児に専念すべきだ』という“3歳児神話”にはエビデンスがなく、15年以上も前の厚生白書で『合理的な根拠は認められない』と断言されている。母子が常にべったりでいることが、子どもにとって良いとは限らないのです」

ワーキングマザーであれば誰もが、「子どもを預けてまで働くべきなのか」と自問自答することがある。だが、駒崎さんが言うように、母親が働くことが親子の双方にプラスになるという裏付けはたくさんある。そこに目を向ければ、子育てしながら働き続けることの意味がきっと見えてくるはずだ。

「OECD諸国の中で“最も女性が働いていない国”である日本にとって、働く女性は救世主。特にこの2010年代から40年代に掛けて働いた女性たちは、『私たちのおかげで、あなたたちは今も豊かな国で暮らすことができるのよ』と子どもや孫に語れるくらい、大きな貢献をすることになる。それって、すごくかっこいいことだと思うんです。そのことを改めて、働く女性たちに伝えたいですね」

取材・文/塚田有香 撮影/masaco(CROSSOVER)

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