「ハリポタ」シリーズプロデューサー、デイビット・ヘイマンが明かす「ファンタビ」誕生秘話

一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。

ファンタスティックビースト

シリーズ映画において歴代最高額の興行収入を記録した「ハリー・ポッター」は、今なお世界中からラブコールが送られる作品の一つ。

2016年11月23日(水)には、シリーズ最新作となる映画『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(以下、『ファンタビ』)が日本で公開され大ヒットを記録。世界各地でも記録的な興行収入を叩き出し、満席、チケット完売となる劇場が相次いでいる。

そこで今回は、「ハリー・ポッター」シリーズ全作の製作を担当し、“ハリポタ育ての親”とも言われる映画プロデューサーのデイビッド・ヘイマンさんにインタビュー。

最新作『ファンタビ』製作の背景や、デイビッドさん自身が仕事をする上でいつも大切にしているポリシーを聞いた。

David Heyman

プロデューサー
デイビッド・ヘイマン(David Heyman)

1961年7月26日イギリス生まれ。シリーズ映画において歴代最高額の興行収入を記録した「ハリー・ポッター」シリーズ全8作品(01、02、04、05、07、09、10、11)の製作を務めた。フランシス・ローレンス監督のSFサスペンス『アイ・アム・レジェンド』(07)、コメディ『イエスマン“YES”は人生のパスワード』(08)、マーク・ハーマン監督の高評を受けたドラマ作品『縞模様のパジャマの少年』(08)、ジョン・クローリー監督のドラマ作品『Is Anybody There?』(08)などの製作を担当。第86回アカデミー賞では、作品賞ほか同年度最多となる10部門にノミネートされた『ゼロ・グラビティ』(13)も手掛けた。03年、イギリス人プロデューサーとして初めてショーウエストのイヤー・オブ・ザ・プロデューサーに選ばれた。11年には、シネヨーロッパでプロデューサー・オブ・ザ・ディケイドにも選ばれた。最新作、映画『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(16)も大ヒット公開中

「ハリー・ポッター」シリーズが終わった時は複雑な心境だった

今回、『ファンタビ』が世に送り出された背景には、デイビッドさん自身の強い希望があったという。

前作までの「ハリー・ポッター」シリーズが完結したのは2011年のこと。約10年にわたって熱意を燃やし続けた仕事が終わり、デイビッドさんの心には大きな穴が開いていた。

David Heyman

「『ハリー・ポッター』の仕事が終わった当時、僕はとても複雑な気持ちだった。『これでもっといろいろな映画を作れる』というわくわく感と、自分が空洞になってしまったような寂しさと……相反する感情が入り混じっていたんだ。

実際、『ゼロ・グラビティ』や、『パディントン』などの映画も作ってきたけれど、それでも『ハリー・ポッター』は僕という人間の大きな部分を占めていて、ずっと特別なものだった」

もう一度、“魔法の世界”の仕事がしたい。そう考えたデイビッドさんは、「ハリー・ポッター」シリーズ5作目以降の製作総指揮を務めた脚本家、ライオネル・ウィグラムさんに新シリーズ製作の話を持ち掛けた。

すると、ライオネルさんは “とある構想”について語ったという。

「彼は、ハリーたちがホグワーツで使っていた『幻の動物とその生息地』の著者、ニュート・スキャマンダーを主人公に、彼が魔法動物を探しに世界中を冒険するようなドキュメンタリーを作りたいと言ったんだ。

それで、原作者のジョー(J.K.ローリング)にそのことを伝えると、『私が考えている案はちょっと違うわ』と言って、今回の映画の元となった構想を語ってくれた。

彼女のストーリーや設定は、僕らが考えていたものよりもずっと面白くてね(笑)、すぐに引き込まれたよ。そして、彼女自身が『脚本を書きたい』と言ってペンを取り、そこからこの映画の製作が本格的にスタートしたんだ」

彼は最初で最後のニュート。エディにしかこの役はできない

本作の主人公、魔法動物学者のニュート・スキャマンダーを演じるのはオスカー俳優のエディ・レッドメイン。

物語の世界観を作り上げる上で重要なこのキャスティングについて、デイビッドさんは「彼は最初で最後のニュート。エディにしかこの役はできない」と熱く語った。

David Heyman

エディ・レッドメイン演じるニュート・スキャマンダー

「ニュートは伝統的なヒーローとは違って、不完全なところがたくさんある人物。対人関係が苦手で、人の目を見て話すことも得意じゃない。それに、人間と過ごすよりも動物といる方が楽というタイプ。

でも、魔法動物の研究や保護といった『自分が大切にしたい』と思うことには、溢れんばかりの情熱を注いでいる。“人間らしい弱さ”と“信念の強さ”を兼ね備えた主人公なんだ。

バランス感覚が難しい役どころだと思うけれど、エディはそれを見事に演じてみせた。彼は、僕が思い描いていた“英国人”のイメージにもぴったりだったし、人間味溢れるキャラクターもニュートと完全に重なったんだ」

David Heyman

デイビッドさんによれば、エディは以前の「ハリー・ポッター」シリーズで、若き日のヴォルデモート役のオーディションを受けに来たことがあったそう。

エディ本人にとっても、本作で主演を務めたことは念願かなってのことだった。

「ヴォルデモートを演じるのにエディは優し過ぎると思ったんだ(笑)。でも、エディを前作までの映画に登場させなくて本当によかった! 彼にはニュートしかないと自信を持って言えるよ」

今までも、これからも、自分に嘘をつくような仕事は絶対にしない

David Heyman

自身の仕事への向き合い方について「僕は自分が本当に『面白い』と感じられる映画しか作ってこなかった」と断言するデイビッドさん。

プロデューサーという職種は、映画の制作費を集めたり、監督やスタッフを決めたり、宣伝の管理をしたり、映画ビジネスの実権をすべて負う職種のはずだが、「僕は映画を金儲けのための『商品』だと思ったことは一度もないんだ」と言い切る。

David Heyman

「自分が椅子にふんぞり返って座りながら、『この映画はどうしたら売れるだろう』なんてあれこれ考えている時点でその作品はダメなんだ。

気がついたら前のめりになって見てしまうような映画、喜び・悲しみ・怒り、たくさんの感情が刺激される映画、自分の心臓がドキドキ鳴るのが聞こえてくるような映画……そういうものじゃないと作る意味がないと思っているよ」

デイビッドさんを突き動かす動機はシンプルそのもの。国籍や年齢、性別、あらゆる属性を超越し、人の心の奥底に訴えかける「力」を持つ作品を世に送り出したいという素直な欲求だ。

「『ハリー・ポッター』の原作者であるジョー(J.K.ローリング)も、誰かのためにあの物語を書いたわけではないんだ。彼女はいつも、自分自身が楽しむために物語を書いてきた。でも、それが結果的に皆から求められる。そこがジョーのすごいところなんだ」

10年以上にわたって共に仕事をしてきたデイビッドさんと、J.K.ローリングさん。二人の仕事には、全く嘘偽りがない。

そんな二人によって生み出され、育てられた作品だからこそ、「ハリー・ポッター」シリーズはこれほどまでに多くの人から愛される作品になったのだろう。

David Heyman

純粋に「楽しみ」を追い求め、映画づくりに取り組んできたデイビッドさんの目は優しく輝いている。彼の仕事は、きっとこれからも私たちをまだ見ぬ世界へと連れ出してくれるはずだ。


David Heyman

映画『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』
公開日:2016年11月23日(水・祝)、 全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)2016 WARNER BROS ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:fantasticbeasts.jp
公式Facebook:www.facebook.com/fantasticbeastsjp/
ハッシュタグ:#ファンタビ

取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/赤松洋太