会社員が自分の夢を叶えるには? 「狭き門」をくぐれる人に共通するたった1つのこと/東急シアターオーブ、ミュージカル招聘プロデューサー海野緑さん
周囲の人と違う選択をしたとしても、自分がとことん熱中できる仕事に取り組むことができれば、働く女性たちの人生はより豊かなものになっていくはず。この連載では、女性たちが“自分らしい仕事”を見つけ、自分のものにしてくために必要なヒントを、レア職種で活躍する女性たちのインタビューから紐解いていきます
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ミュージカル招聘プロデューサー

海野 緑(うんの・みどり)さん
岩手県出身。大学卒業後、テレビ朝日に入社し、スポーツ記者を経て、イベント事業部で海外ミュージカルの招聘に15年ほど携わる。2012年より東急シアターオーブ勤務。同劇場に招聘する海外ミュージカル作品の交渉業務を担当している
日本でたった10人!?
チラシの端にあった「主催」の文字が道を開くきっかけに
まずみなさんの頭の中には「ミュージカル招聘(しょうへい)プロデューサーって……?」というクエスチョンマークが浮かんでいるかもしれませんね。
簡単にご説明すると、ブロードウェイをはじめとする海外ミュージカルの中から特に優れた作品を発掘し、この東急シアターオーブで上演するために交渉を行うのが私の仕事です。
海外からミュージカル作品を招聘するには、現地の担当者と対等に交渉できるだけの英語力が求められます。さらに、独特のノウハウがたくさんあって、フロントラインに立って交渉できるだけの能力を持った専門家はごくわずか。これは私の個人的な感覚ですが、日本でも10人いるかいないかといったところだと思います。そういう意味では文字通りレア職種と言えるかもしれませんね(笑)。

実は、私のキャリアの出発点は、テレビ朝日のスポーツ記者。テレビ局から劇場へ。この足取りだけを見れば、どんな心境の変化があったと驚く人もいるかもしれません。でも私の気持ちは新卒で就職活動をしていた頃から、もっと言えば小学生の頃から何一つ変わっていないんです。
ただ、大好きなミュージカルに関わる仕事がしたい。それだけを願いながら、私は今まで働いてきました。
では、なぜ最初にテレビ局を選んだのか。答えは、当時からテレビ局がよくミュージカルの主催をしていたからなんです。ミュージカルのチラシをよく見てみると、実は隅の方に「主催」と銘打って、主催者の企業名や団体名が書かれているものなんです。そこに毎回必ずテレビ局の名前があることに気づいた私は、「テレビ局に入ったらミュージカルの仕事ができるんだ!」と信じ、テレビ朝日に入社しました。
予想外のスポーツニュース部への配属!
畑違いの場所でもがき続けた8年半
ところが、最初の配属は思ってもいなかったスポーツニュース部でした。根っからの運動音痴の私はスポーツのことなんてまったく知りません。まずは各競技のルールブックを読みふけるところからスタート。毎日、いろいろな競技の試合会場へ足を運び、2~3時間の試合を1分の原稿にまとめる。それはもう大変な苦労でした。

資質も関心もなかったスポーツ記者。それでも8年半もの間続けることができたのは、私が与えられたミッションはゴールまで辿り着かないと気がすまない性格だから。特にスポーツ記者の仕事なんて、私以外は大のスポーツ好きばかり。知識も並大抵ではありません。まずはここでちゃんと他の記者の方々と肩を並べられるようにならないと、次の職場に移っても認めてもらえないような気がしたんです。
モチベーションを保つには工夫が必要でした。そこで私が実践していたのが、何かしら大好きなミュージカルとの接点を見つけること。幸いなことにフィギュアスケートや新体操など、採点競技の取材を担当する機会もありました。特にフィギュアスケートの場合、音楽にミュージカルの名曲が使われることも多いでしょう? そんなときは「この記事なら自分の特色を出せる!」って自分の中で接点を見出して気合いを入れて取材しました。多少こじづけでもいい。そんな風に自分なりの楽しみ方を見つけるということは、意外と重要だと思います。
最初の仕事で、いきなり最高の成功を体験!
『Swing!』の招聘からミュージカル分野のキャリアをスタート
30代になったとき、ようやく念願叶ってイベント事業部に異動になりました。当時はよく上司と一緒にNYへ渡り、いろいろな作品を見たものです。そして、私が最初に手掛けたのが、2002年に上演されたブロードウェイ・ミュージカル『Swing!』です。この作品は台詞のないノンバーバルミュージカル。超絶技巧のダンスとジャズが魅力の、目と耳の両方で楽しめる作品です。きっとこの『Swing!』なら多くの日本の観客に受け入れてもらえる。そう確信して交渉のテーブルに臨みました。結果的に、興行的にも大ヒット! 私は最初の仕事で、いきなり最高の成功体験を獲得したのです。

私が、転職しシアターオーブで働き始めたのは46歳。いろいろな縁があってシアターオーブでのお仕事の話をいただいたんです。テレビ朝日でずっと働き続けるつもりでいましたが、年齢を考えれば、私が全力で仕事ができるのは、あと10年程度。
じゃあ、残りの10年をどう過ごせば納得感のある人生を送れるだろうか。
そう自問自答した末に出てきた結論は、やっぱり大好きな「ミュージカルを仕事にしたい」という子どもの頃からの変わらない想いでした。そう思ったら、迷いはありませんでした。
これからやりたいことは、シアターオーブを起点に、この渋谷という街をブロードウェイのようなエンターテイメントの中枢にすることです。例えば今、シアターオーブでは『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』という作品を上演しています。欧米では、日本人がお正月に家族で初詣に行くように、クリスマスに家族でレビューを見るのがごく日常的なんです。そうした文化を日本にも根づかせることができれば。この『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』には、そんな想いが込められています。
そして劇場だけではなく、この作品を通じてできれば渋谷の街そのものをもっと活気づかせたい。「クリスマスに渋谷に来ると、ワクワクするよね」。みんなにそう言ってもらえるように、シアターオーブもその一翼を担えたらと思っています。
誰もが見落とすような些細な情報も、ある人にとっては特別な宝の地図になる

幸い、私は自分が「好き」なことを仕事にできました。そして、そうすることは誰もが理想だと思うかもしれません。けれど、一方で好きなものほど仕事ではなく趣味としてとどめておいた方がいいという考えもあります。どちらを選択するかは人それぞれです。
でも、私は「好き」を仕事にできて本当に良かった。だって、仕事で失敗しても、好きなことのためなら、その原因と真摯に向き合って、「もっと良くするにはどうすればいいんだろう」って前向きに考えられますから。ちゃんと反省ができるのは、「好き」を仕事にした人の特権と言えるんじゃないでしょうか。
だから、たとえ門戸が狭い分野の仕事でも、好きなことがあるならぜひトライしてほしい。私もミュージカルを仕事にするためにどうすればいいかなんて、学生時代は分からなかった。それこそ、高校生の頃、知人を通じて劇場にこっそり入れてもらい、そこにいた技術スタッフの方に「どうすればミュージカルを仕事にできますか!?」と質問攻めにしたこともあるくらいです(笑)。
私がテレビ局に入るきっかけとなったチラシの隅の「主催」の文字も、ミュージカルを仕事にしたいという気持ちがなければ目にも留まらなかったはず。誰もが見落とすような些細な情報も、ある人にとっては特別な宝の地図になることもあるものです。それを見つけられるかどうかこそ、狭き門をくぐるカギになります。常に視野を広げ、その澄んだ目で、あなたにしか見えない、あなただけの入り口を探してもらえたら。それが、ほんの少し人生の先輩である私からのアドバイスです。
<公演情報> 会場:東急シアターオーブ
『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』
開催期間:2016年12月16日(金)~25日(日)
劇場で楽しめる光り輝くクリスマスショーが日本初上陸!日本のクリスマスの新定番となるスペシャル公演を期間限定で上演します!クリスマスソングの数々、ゴスペル、サンタクロースとダンサーによるタップダンス、さらにショーの中盤ではスケートリンクも登場し、ステージは氷の世界へ!
お問合せ:キョードー東京 0570-550-799
公式HP:http://bcwjapan.jp/
取材/栗原千明(編集部)文/横川良明 撮影/吉永和志
『How to find “自分のシゴト”』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/rolemodel/myjob/をクリック