痛くない靴で女性をもっとキレイに! ハイヒール履き心地コンシェルジュ・松本久美が天職と出会えたワケ――「自分らしい仕事は、謙虚でいると見つからない」
周囲の人と違う選択をしたとしても、自分がとことん熱中できる仕事に取り組むことができれば、働く女性たちの人生はより豊かなものになっていくはず。この連載では、女性たちが“自分らしい仕事”を見つけ、自分のものにしてくために必要なヒントを、レア職種で活躍する女性たちのインタビューから紐解いていきます
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ハイヒール履き心地コンシェルジュ
あなたの足は何センチ?
適正なサイズの靴を履いている人は世の中にほぼいない
皆さんは、ご自分の足のサイズをご存知ですか?
23センチ?、24センチ?
それ、本当ですか?
そんなの、知っていて当然でしょ、と思う方も多いかもしれません。でも、実際にサイズを測ってみると、2人に1人はサイズを間違っているんです。さらに、足幅なども考慮に入れると、適正なサイズの靴を履いている人は世の中にほぼいないと言っても差支えないほどです。
私は「ハイヒール履き心地コンシェルジュ」として、これまで500名弱の女性の足と向き合ってきました。一人一人の女性の足にぴったり合う靴をご提案したり、手持ち靴を調整して差し上げるのが仕事です。
“痛くならないハイヒールがあれば……”そう思ったことがない女性はいないのでは?
私も、美しいハイヒールが大好き。でも、どうしても履くと疲れてしまうハイヒールを、どうにかできないかと考えていた一人でした。
友人のお母さんのちょっとした言葉が“好き”を追求するきっかけをくれた
靴に関わる仕事を始めて、もう13年以上が経ちました。振り返ってみると、靴好きになったのは、中学生のころに友達のお母さんから「久美ちゃんは足がキレイだから、かっこいい靴を履いたら似合うと思うよ」と言われたことがきっかけだったように思います。
服飾の専門学校に入学してからは、洋服よりも靴にこだわる“靴マニア”へと進化。毎日百貨店を巡って靴をチェックしていたため、新商品について店員さんよりも詳しくなってしまったほどでした(笑)。
卒業後、靴のメーカーに就職した私は、生産管理の企画職としてキャリアをスタートさせます。その後は生産そのものに携わりたいと、靴の職人さんに弟子入り。結局、靴業界にいた13年間で、デザイナーとして7年、製造の現場で6年を過ごしました。
ちなみに、靴の世界は合皮と皮革で全く別の業界になります。その両方を経験し、量販店で売られている900円台の靴から5万円台の高級なハイヒールまで、全てを語ることができる人間は私ぐらいかもしれません。
靴業界の限界が見えて、IT業界へ転職
でも、結局分かったのは「私には靴しかない」ということ
実は、13年間で経験した会社は、9社。そのうち、倒産に伴い転職を余儀なくされたのが4社。零細企業が多い上に、海外生産の品におされてしまい、ここ十数年は靴業界の元気がありません。明るい未来を思い描けなかった当時の私は、一度靴業界から離れる決意をしました。
そして、とあるIT企業の新規事業部の仕事に就けた私は、運良くアパレル業界を狙ったサービスの立ち上げに携わらせてもらえました。そこで、今のビジネスにもつながるたくさんの経験を積むことができました。
大好きな靴業界から離れ、生活のために働いていた2年半。もちろん、今振り返るとその期間があってよかったなあと思うのですが、その頃は毎日「私が本当にやるべきことって何だろう」と自問自答し続けていました。
その時に読んだ本に「ビジネスはできることとやりたいことの重なる部分で始めるべき」ということが書いてあったのを覚えています。それで、自分のキャリアを棚卸ししてみると、私のやりたいことは結局、女性を美しくすることなんだということに気付いて。その手段の一つとして、靴があると再認識したんですね。
では、自分にできることとは何か?
私が“プロ”と胸を張れることは、靴しかありません。
そして、ステキな靴なのに痛くて履けない女性がいる、キレイになりたいのに、その願いが痛みのせいで叶えられない女性がいる――。そんな課題をどうにか解決するのが私のミッションなのではないかと考え至るように。女性たちには頼れる“ハイヒール履き心地コンシェルジュ”が必要だという思いを強めました。
シューフィッター(※)の資格を取ったのは、それからです。もともとオタク気質なので、夢中になって勉強しました。と同時に、“靴に足を合わせて履いている”ような世の中の現状を根本的に変えなければ、女性の足が壊れてしまうと感じました。
(※)シューフィッターとは、お客様の健康管理の一翼を担うとの自覚に立って、足に関する基礎知識と靴合わせの技能を習得し、足の疾病予防の観点から正しく合った靴を販売するシューフィッティングの専門家のこと
でも、私のマンパワーだけでは、救える人数は限られます。数十万、数百万の女性たちを救うためには、実際に対面式で行う施術と並行して、フィッティング技術をオンラインで提供するウェブサービスが必要だと考えるようになりました。
「人の役に立ちたい」の前に、もっとわがままに好きなことを追求したっていい
起業し、サービスを展開していく中で、私の中に「女性のために何とかしなきゃ」、「腕の良い靴職人さんのために何とかしなきゃ」といった使命感が湧いてきました。
でも、基本的に私は、好きなことをやっているだけ。嫌いなことはやりたくありません。ハイヒール履き心地コンシェルジュも、当然好きだから、会社立ち上げ後も続けています。
本気で熱中できる仕事を探したいのなら、「人の役に立ちたい」の前に、もっとわがままに好きなことを追求したらいいんです。
「一番好きなことは仕事にしないほうが幸せ」と言う人もいるけれど、幸せかどうかを決めるのは自分です。それに何事も、やっていく途中で絶対に失敗を経験します。失敗して悔しい思いをしたり、悲しい思いをしなければならないのなら、好きなことをやって失敗するほうがいい! 一度やってみて、本当にダメだったら辞めちゃえばいいんですから。
自分に合う仕事、熱中できる仕事は、好きなことを素直に追求した人だけが見つけられるもの。世間体なんて気にせず、自分の本音と向き合ってみるのがファーストステップになるのではないかと思います。
取材・文/朝倉真弓 撮影/赤松洋太
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