元専業主婦&未経験でも、“スーパー女将”ともなれば年収は1000万円以上! ホテル業界大手の東横インが掲げる「女性が輝き続ける職場」の5箇条
日本国内と海外に259店舗、総客室数は51,366室(2017年1月24日現在)と日本国内最大級の客室数を持ち、15年には稼働率100%を達成してギネス記録に公式認定された『東横INN』。この『東横INN』を運営するのが「日本一女性が働きたい職場」をスローガンに掲げる、株式会社東横インだ。同社の躍進を支えるのは、女性支配人たち。『東横INN』の支配人は実に97%が女性ということで、16年12月には『Forbes JAPAN』主催の『JAPAN WOMEN AWARD 2016』において、『リーダー輩出部門』グランプリを受賞している。
旅館の女将さんのように店全体を取り仕切るのが、『東横INN』の女性支配人の役割。そのため、一つひとつの店舗は「女将が経営するホテル」と言えるだろう。支配人の年齢層は幅広く、40代を中心に、60歳以上の女性も10人以上活躍中だ。
年齢を重ねても仕事に対するやる気を失わず、女性がイキイキと働き続けられる同社のような職場環境はいかにしてつくられているのだろうか。同社執行役であり、『東横INN』京都五条烏丸支配人の黒川久美子さんにお話しを伺った。
“頭打ち”が見えた時点で女性のやる気は無くなる
大切なのは「働きやすさ」よりも「働きがい」
「女性が永く働ける職場」と聞いて、どのような職場をイメージするだろうか。多くの人は、体力がいらず、「9時~17時までのオフィスワーク」といった、事務職のような働き方をイメージするかもしれない。だが、黒川さんは「『働きやすさ』だけ重視しても、『働きがい』が感じられない仕事は長く続かない」と断言する。
「当社の支配人として転職してきた40代の女性たちに前職を退職した理由を聞いてみると、次のように回答する人がほとんど。『先行きが不安だった』、『前の職場では頑張っても意味がなかった』と。具体的に聞くと、『ある程度の役職までいくと、「これ以上うちの会社で女性が昇進するのは無理だよ」と言われた』とか、『どんなに頑張っても、もうお給料が上がらない』とか、そういった話が出てきます。仕事を頑張ってキャリアを重ねれば、自分の能力やスキルは年齢に関係なく上がっていく。それなのに、それをどれだけ仕事に活かしても、『女性だから』『もういい年齢だから』という理由で評価されなくなってしまう。いくら仕事が楽で安定して働いていたとしても、自分の頑張りが正当に評価されない環境でいつまでも働きたいと思うでしょうか?」
そう疑問を投げかける黒川さん。“頭打ち”が見えてしまい仕事に対するやる気を失ってしまった女性や、子育てを機に仕事を辞めて再就職に困難を抱える女性たちを、採用の現場で数多く見てきた。自身も出産を機に専業主婦を経験した一人。だからこそ、現職では女性たちの「働きがい」づくりに人一倍奮闘している。
「支配人はおもてなしの心とか、気配り力とか、そういったものが何より大事な仕事なんです。こういうものは、人生経験が豊かな人ほど身に付いている。だから、結婚、出産、子育て、介護……いろいろなことを経験してきた女性たちが、何歳からでも輝き続けられる場所をつくっていけたらと思っています」
「働きがい」ある職場づくりに欠かせない5つのこと
また、女性たちが働きがいを感じられる職場をつくる上で黒川さんが欠かせないと感じているポイントは5つ。同社の取り組みとあわせて、ポイントを解説していただいた。
【1】働く時間を自分で管理できる「裁量」があること
「子育てや親の介護など、ライフステージが変わることで働き方を変えなければいけなくなる女性は多いものです。でも、その時に会社が決めた時間と場所に縛られて働かなければいけないようでは、絶対に無理が出てしまう。
そうならないよう当社では、『やるべきこと』の期限は決めた上で、1日どう働くかは支配人の裁量に任せています。『今日は子どもの参観日だから』と仕事を途中抜ける人もいますし、時間の使い方は自由。裁量がある分責任はともないますが、その時々で自分に合った働き方を選んでいけるため、仕事を辞めざるを得なくなるような状況が少ないのです」
【2】年齢を理由に評価が下がったり、職域が狭くなったりしないこと
「キャリアを重ねた女性ほど、スキルは高いのに会社から評価されないというジレンマを抱えています。でも、それでは仕事がつまらなくなってしまう。何歳になっても、自己申告がない限りは『仕事を任せ続ける』というのが東横インのスタンス。
例えば、支配人を5等級で格付けしているんですが、最高ランクの『スーパー女将』になれば、年齢に関係なく年収は1000万円以上です。仕事にどれくらいのパワーを注ぐかは、年齢ではなく、個人の問題ですから、会社が勝手に『もういい歳なんだから、働かなくていいよ』とは言いません。仕事にハリがあるせいか、当社で働く60代の女性支配人は、皆とても若々しくて50代にしかみえません(笑)!」
【3】「いい仕事」で会社に貢献した人がしっかり報酬を得られること
「社員はボランティアで働いているわけではありませんから、会社からの期待に応える成果を出してくれた人には相応の報酬を出すのは当然のことです。当社では、固定の給料のほかに、目標を達成した個人や店舗にはさまざまなインセンティブを用意しているのですが、その“渡し方”にこだわりがあるんです。必ず手渡しで、『いつもありがとう』と言葉を添えて封筒に入れたインセンティブを渡すんです。すると、会社や上司から感謝されて働いていることを社員が自覚し、『もっと頑張ろう』という意欲が湧いてきます。
また、お正月期間に出社したパートスタッフに対して『お年玉』を渡す制度も設けています。これも、人がやりたがらない仕事を率先してやってくれたスタッフへの感謝の気持ち。“仕事なんだからやってくれて当然だ”なんて思わずに、感謝し、称え合う環境の方が、自然とモチベーションが上がっていくものです」
【4】社員にとって会社が“ほっとできる場所”であること
「ホテルの仕事に限らず、1日のうち長い時間を過ごす職場。そこで居心地の悪さを感じていたら、それは苦痛にほかなりませんよね。職場が社員にとって“ほっとできる場所”であるためには、一緒に働く仲間同士がお互いをよく理解していることが不可欠です。
ホテルでいえば、支配人、フロント、朝食スタッフ、客室清掃スタッフ、さまざまな職責を持った人たちが一緒に働いているので、どうしても組織が縦割りになりがち。でも、『困ったときはお互いさま』で、違う担当同士でも仕事を補い合えるような関係ができると、職場に一体感が出てきます。何かあったときに頼れる仲間がいる職場だから、当社の女性たちは安心して仕事が続けられるのだと思います」
【5】常に新しい挑戦ができる環境があること
「繰り返しにはなりますが、女性たちのモチベーションが最も下がるのは、“頭打ち”が見えた瞬間なんです。だから当社では、支配人やスタッフが常に新しいことに挑戦できるような環境づくりに力を入れてきました。
それにともない、人事評価をするときには経営目標の達成度合いだけでなく、対象となる期間の間にどれくらい新しい挑戦をしたかも評価するようにしているんです。例えば、支配人であればスタッフの教育、他店舗へのヘルプ、オープン店舗開業準備の担当支配人としての貢献、成績が振るわない店舗の立て直しなど、自分の店舗だけでなく会社全体にどれくらい良い影響を与えられたか、といったところですね。東横インは世界に1,045(トーヨコ)万室の客室をつくることを目標にしており、これからますます店舗も増えていきますから、やることは尽きませんよ(笑)」
女性たち自身も「働きたい」気持ちに正直でいること
同社で女性がイキイキと輝き続けられる秘訣を語った黒川さん。「どんな職場環境に身を置くかも大事ですが、一人ひとりの心構えも大切」と一働く女性の先輩として、アドバイスを送る。
「30代、40代と年齢を重ねて家族ができると、『仕事はほどほどでいいかな』って考えてしまう時期もあると思うんですよ。でも、子育てっていつか終わるんです。子どもにつきっきりでいなきゃいけない時間なんて、長い人生の中でみればほんの一瞬。そうして、『やっぱりやりがいのある仕事がしたい』って自分の本心に気付く人も多い。私もその一人でした。そうやって『働きたい気持ち』に気付いたときに、『チャレンジするには遅い』って自分自身で決め付けてはもったいない! いくつになっても新しいことに挑戦する毎日を楽しもうという気持ちが女性たちにあってこそ、前向きに仕事を続けることができると思いますよ」
取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/赤松洋太