働き方も収入も自分でコントロール! 元パート・ごく普通の40代女性が“好きな仕事”で経営者になれたワケ
一生モノのスキルと言えば、どんなものが思い浮かぶだろう。語学力に国家資格……答えは人の数だけあるけれど、これからの時代に特に身に付けておきたいのが「経営力」だ。経営や起業と聞くと特別な人だけの“特殊な選択肢”のように思えるかもしれないが、決してそんなことはない。ごくごく普通に働いてきた女性にも、その道が開けることはある。
例えば、写真プリントでおなじみ『パレットプラザ』京成大久保店でオーナーを務める三浦奈美さんもその一人だ。15年間パートタイムで働いてきた彼女も、この春、オーナーデビューを果たした。40代にして思い切ったキャリアチェンジができた理由とは何だったのだろうか。そこには、“生涯働き続ける時代”ならではの新しい女性の選択があった。
「写真は記憶の引き出しを開く鍵」喜びをかみしめて働いてきた15年
老舗写真プリントショップ『パレットプラザ』を運営する株式会社プラザクリエイトは、この春から新しい制度をスタートさせた。それが、まずは契約社員として1年から3年の間店長業務を学び、その後、オーナーとして独立する「のれん分け制度」だ。独立にあたって初期費用はほぼゼロ。月1回の店長ミーティングなど、本社から経営面でのサポートを受けることも可能だ。ローリスクで独立ができ、“プチ起業”を経験できる制度とも言える。同社ではこの4月から、三浦さんを含む32名の既存社員がオーナーとしての第一歩を踏み出したばかりだ。
「写真は、記憶の引き出しを開く鍵。見ているだけで、思い出の細部まで甦ってきます。私たちの仕事は、その鍵を開けるお手伝いをすること。それが楽しくて、15年間ずっとこの仕事を続けてきました」
三浦さんは20代で結婚。一男をもうけ、子どもが3歳になる頃にパートタイマーとして会社に復帰した。同社に入社したのは、子どもが小学生になった頃だった。以来、母・妻の役割をこなしながら、『パレットプラザ』の一員として、多くのお客さまを笑顔で迎えてきた。
「忘れられないお客さまとの思い出はいっぱいあります。例えば、あるご高齢の男性のお客さまがいらっしゃいました。その方はお花を撮るのが大好きで、よくお店にフィルムを持ってこられては、お花の話をしていました」
しかし、あるときを境に突然そのお客さまの来店が途絶えた。心配する三浦さんをよそに月日は流れ、ある日、お客さまのご家族がお店を訪れた。そこで初めて三浦さんは、お客さまが亡くなったことを聞いたという。ご家族が手にしていたのは、未現像のフィルム。それは、お客さまの遺品の中から見つけたものだった。
「現像したら、きれいなお花の中にそのお客さまが笑顔で映っていらっしゃる写真があったんです。それを見た瞬間、お店の中でご家族の方と一緒に泣いてしまいました。そのお客さまはよくご家族にも私の話をしてくださっていたそうで。お客さまとの別れは悲しかったですが、そんなふうに家でも私のことを話してくださっていたと思うと胸が熱くなりました」
“やりくり上手”なら資質は十分! 自分で裁量を持てるのが、経営の一番の醍醐味
そんな三浦さんが、オーナーにチャレンジしたのには、ある人生の転機があった。
「一昨年、夫と離婚をしたんです。ちょうど息子も社会人になり、母の役目も妻の役目も終えた。これからはもう自分のためだけに生きていけばいい。そこで何か新しいことに挑戦しようと考えました」
以前から自立した人生を送りたいという思いが強かった三浦さん。このタイミングで経営への興味を強めたことにも、確固たる理由がある。
「それは一生食べていける仕事がしたかったから。女性の人生は長い。この先一人でも生活できる力を身に付けるには、経営を覚えるのが一番だと思ったんです」
もともとパートタイムで店長業務を務めてきた三浦さんだけに、仕事内容そのものはそれほど大きな変化を感じていないそう。最も変わったのは、売り上げなどの数字に対するマインドだ。時には、思うように売上が伸びず不安に駆られることもあるが、そこにオーナーとしてのやりがいもあると語る。
「今まではたとえどれだけ売上をあげても時給は固定だったんです。でも、これからは違う。やったらやった分だけ自分に返ってきます。数字に責任がある反面、努力すればダイレクトに報われるし、ワクワクする気持ちも倍増しました」
いかに売上を伸ばすかは店長の手腕次第。手持ちの画像をプリントしてオリジナルのTシャツやトートバックを作るサービスや、古い写真の修復サービスなど、多彩なサービスを提案し、拡販を狙う。
「セールの実施1つとっても、これからはもっと自分のアイデアと判断で実行していけます。自分の裁量で決められることが増えた分、今まで以上にお店について考えるのが楽しくなりました」
経営と聞くとハードルは高いが、そこに尻込みする様子は全く感じられない。
「基本的に数字の管理に関しては足し算と引き算さえできれば、あとの難しいことは会計士の先生だとかプロにお任せすればいいと私は思っています。極端な言い方かもしれませんが、お小遣い帳をちゃんとつけられるくらいの感覚と能力があれば、誰でもオーナーは始められるというのが私の考えです。本社の方から指導もいただけるし、月1のミーティングではオーナー同士で情報交換や相談もできる。だから、経営をまかされるといっても、そこまで難しく考える必要はないかな、と。“プチ起業”くらいのイメージで、まずはやってみる姿勢の方が大事です」
自分で自分の人生をマネジメントする。それができるのが“プチ起業”という働き方
今は、女性も生涯働き続けるのが前提の時代だ。女性の40代と言えば、まさにここからが折り返し地点。新しいフィールドにステップアップした三浦さんは溌剌として、何だかとても楽しそうだ。
「やっぱりそれは、自立した生活ができるベースができたからだと思います。誰かに寄り掛かって生きていたら、その人が倒れたら自分も終わり。全ての選択も、その人ありきになってしまうし、すごく世界が狭くなるような気がします。せっかくの自分の人生、思いのままに楽しく生きるのが一番。お店をマネジメントする力を身に付けるということは、自分の人生そのものをマネジメントすることだとも感じますね」
だからこそ、三浦さんは20~30代の女性たちにもこうした“責任と裁量のある仕事”に目を向けてほしいと呼び掛ける。
結婚・出産・育児と、ライフイベントに左右されやすいのは女性のキャリアにまつわる永遠の課題。そのために、定時退社ができるオフィスワークの事務などを優先的に選ぶ人も多い。だが、働く時間や場所に縛られていたり、手に職と言えるものが身につかないまま20~30代を過ごしてしまうと、いざライフステージが変わったときに仕事を続けられなくなってしまうケースも少なくない。長く仕事を続けていく上で本当に大事なのは、労働時間の長短ではなく、いかに自分が裁量を持って働くことができるかだ。
「例えば、自分が現場に入らなくても、きちんとお店がまわる仕組みさえつくってしまえれば、自分の労働時間を思い通りにコントロールできるのもオーナーの特権です。店舗と連絡が取れる体制を整えたら、リモートワークだってできてしまう。若い女性なら、今からチャレンジをすれば、ちょうど出産・育児を考える時期には、その仕組みを整えることも不可能ではありません。そうすれば、育児休暇の期限や保育園の空きに振り回されることもありませんし、家で子どもを育てながら伸び伸びと仕事を続けることだって可能です」
三浦さんはいわゆるバリキャリでもなければスーパーウーマンでもない。決して経営は、ハイキャリアだけの専売特許ではないのだ。生涯働き続けることが前提の現代社会において、三浦さんのような“プチ起業”経験を積むことは、長く働き続けたい女性が“自分らしく生きる”ための最適な戦術と言えるのかもしれない。
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取材・文/横川良明 人物撮影/吉永和志 店舗写真/大島哲二