「やりたいことが分からないから、就活も辞めた」葛藤の中で見つけた“自分らしい”仕事/クラウドファンディングReadyforキュレーター 田島沙也加さん
周囲の人と違う選択をしたとしても、自分がとことん熱中できる仕事に取り組むことができれば、働く女性たちの人生はより豊かなものになっていくはず。この連載では、女性たちが“自分らしい仕事”を見つけ、自分のものにしてくために必要なヒントを、レア職種で活躍する女性たちのインタビューから紐解いていきます
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クラウドファンディング キュレーター
「チャレンジの連鎖を広げたい」キュレーターは、夢へと踏み出す人たちの伴走者
クラウドファンディングは、夢を持った人たちがやりたいことを実現するためにインターネット上で支援を呼びかけ“最初の一歩”を踏み出す場所です。でも、夢に向って歩き出すことってすごく勇気のいることだし、自分の想いを人に伝えるのってすごく難しい。
「誰かに否定されたらどうしよう」
「夢を語るのって何だか気恥ずかしい」
そんな不安から足がすくみ、スタートラインを前に立ち止まってしまう人も少なくありません。そんな人たちの最初の応援者となって、ゴールテープを切るその瞬間まで一緒に伴走することが、私が務めるクラウドファンディングキュレーターの仕事です。
『Readyfor(レディーフォー)』では、サービスを利用して支援を集める人たちのことを「実行者」と呼んでいます。実行者の方のアイディアややりたいプロジェクトを専任のキュレーターがブラッシュアップしていきます。支援を募るには、読みやすいテキストや訴求力のある写真のセレクトなど、支援者に伝わるページ構成が重要です。これまで多くのプロジェクトを成功に導いてきたキュレーターが、その独自のノウハウをもとに、伝わるページ作りの方法を実行者に伝授しますが、それは決して単に見た目の良さだけを演出するものではありません。大事なのは、「いいね!」を集めることではなく、読んだ人に「このプロジェクト・人を支援したい」と思わせること。そのためにも「なぜこのプロジェクトを実行するのか」、「なぜこれだけの資金が必要なのか」という本質から徹底的に壁打ちし、実現のためのロードマップを実行者の方と一緒に描いていきます。
このプロセスがキュレーターの仕事においてはすごく大事で、それは何もページのクオリティーが上がるからだけではありません。「出る杭は打たれる」という言葉がある通り、何か自分の想いを発信すると、世の中の人から批判を受けることも時にはあるものです。一生懸命アップしたページに手厳しいコメントが付けば、それだけで心が折れてしまう実行者の方もいます。でも、それを乗り越えなくては、自分の夢を実現することなんてできません。キュレーターとの壁打ちは、自信を持って夢を語れるようになるための予行演習。そうやって強い実行者を育て、クラウドファンティングを通じた成功体験を増やし、世の中にチャレンジの連鎖を広げていくことこそが、私のミッションです。
「お決まりのレールに乗ることができなかった」
そんな「レア」な職種を仕事にした私のことを、昔からやりたいことに前向きな女の子だったと想像される方もいるかもしれませんが、まったくの正反対。私はずっと自分が何をやりたいのか分からず、延々とくすぶっていました。就職活動も、みんなが足並み揃えて一斉スタートする中、就活サイトに登録して、スーツを着て、合同説明会に参加して、といったことに対して、目指すゴールもなく体が動かなかった。ちょうどその少し前ですね、READYFORに出会ったのは。
大学時代、ボランティアサークルに所属していた私は、何となく「人の役に立つ仕事をしたい」という想いはありました。そこで一般的に受け皿として連想されるのがNPOやNGOといった非営利団体。ですが、収益性を目的としない組織で自分が働くイメージがどうしても沸かなかったんです。同じように働くなら、ビジネスとして成立した上で社会に貢献できる仕事をして、自分もしっかり自立したかった。
また、在学中に発生した東日本大震災も私の価値観に強い影響を与えました。被災地には支援を求めている人たちがたくさんいる。当時の状況を考えれば当然ですが、「何かしたい」という勢いだけで、震災後すぐに現地に行くという判断は許されなかった。でも、いざという時に何もできない自分の状況に、画面に広がる被災地の様子を見ながら、どうしようもないジレンマを味わっていました。
「私は将来何がしたいんだろう……」、そんな模索を繰り返す中、興味本位で参加した社会人向けのイベントで出会ったのが、弊社代表である米良はるかでした。そのとき米良の講演で初めてクラウドファンディングという仕組みを知って、私は衝撃を覚えました。こんなふうに事業そのものが社会貢献に直結するビジネスモデルがあるなんて、当時の私には考えられなかったからです。遠く離れた相手が必要とするタイミングで、直ぐにサポートできる仕組みが在ることに希望を覚えました。震災で感じた無力感も払拭できる気がしました。
イベント終了後、私はすかさず米良に駆け寄って挨拶したら、「一緒にやろうよ」と言われて、思わず「はい!」と。こんなふうに言うと、ものすごく行動的な人間のように聞こえますが、とんでもない(笑)。こんな場で自分から知らない人にアプローチするなんて、普段の私を思えば異常事態みたいなもの。でもそのときはこのチャンスを逃したらいけないような気がしたんです。そうして、READYFORに学生インターンとして参画することになりました。
やりたいことを仕事にするきっかけは、「これかもしれない」という小さな予感で十分
入社当時のREADYFORはまだサービスインから1年が経過したくらい。事務所は、小さなマンションオフィス。そこに米良と私とエンジニアがテーブルを囲んでパソコンに向き合っているという毎日です。当時の私はただの学生。ビジネスのイロハも知らなかったし、そもそも今の形のキュレーターという仕事が世の中に存在しなかった。キュレーターが仕事として認められるよう働くことに、とにかく必死でした。それが気付いたら今の私へとつながっているんです。
再三お話ししてきましたが、私自身は「自分は絶対にこれがやりたい」というものを強く見つけられなかったタイプ。だから、自分のやりたいことを実現するために世界に発信する実行者の皆さんの姿を見るたびに、励ます立場の私の方が勇気をもらうんです。何かにチャレンジをしようとする人は、すべて等しく尊い。キュレーターは、そんな勇気ある実行者を支える立場。だから、実行者を置いて自分だけその場を降りるなんてできなかった。そうしているうちに、たくさんの尊敬すべき実行者と素晴らしいプロジェクトと出会って、今日までやってきたという感じなんです。
もしも何か本当はやってみたいことがある人は、自分の直感に従ってまず一歩踏み出してみることが大事。私の場合も「これかも」というちょっとした閃きに勢い任せで乗っかってみたら、自分らしく働ける仕事への道が開けました。そういうことって往々にしてあると思うんです。「絶対にこれ」という強い意志じゃなく、「これかもしれない」という小さな予感で十分。あとはその可能性に一歩踏み込むだけ。
だって、違和感を抱えながら働くのって苦しいと思うんです。「こんなことしたくない」、「こんなはずじゃない」って否定的な感情にとらわれて毎日を過ごすより、漠然としたものでいいから、何か明るい方向に前進していると実感できる仕事をした方が絶対いいですよね。
もちろん一歩踏み出すのが怖いという気持ちもよく分かります。そんな人は、まずは誰かに自分のやりたいことを話してみればいいと思います。これは、私がいつも実行者の方を応援しているからこそ言えることでもあるのですが、誰かから「それ、いいと思う!」って言ってもらえるだけで迷いが無くなったりするものです。もし、反対されてもチャレンジしたい思いが消えないなら、それこそ本当に自分がやりたいことじゃないですか。正しいフィードバックは挑戦する力になります。一歩踏み出す勇気が持てないなら、せめて半歩分の勇気でいい。残りの半歩分の勇気は周りの誰かにもらえばいいと思います。“たった半歩の勇気”が、きっとあなたを見たことのない場所へ連れて行ってくれますよ。
取材・文/横川良明 撮影/栗原千明(編集部)
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