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SEP/2017

30代で離婚、専業主婦からの再出発――「もっと植物と向き合いたい」東京から小豆島へ移住したお花屋さん【連載:地域のライフワークに出会う旅】

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あなたを動かす「しごと」は、何ですか?
地域のライフワークに出会う旅

渋谷の会社勤めから一転、瀬戸内海の小さな島に移住して「自分のしごと」づくりに励む著者が、年齢もさまざまな地域暮らしの先輩たちに、ライフワークを訪ねてまわります。当たり前の日常を飛び出し、外の世界に目を向けてみると、本当に自分を豊かにする「暮らし」と「しごと」のヒントが見つかるかも

 男木島

島在住ディレクター/弁当配達準備中 石部香織 
1988年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒。2013年からディレクターとして、Webサイトなどの制作、イベントやワークショップの企画を行う。16年、香川県高松市の男木島へ単身移住。料理開発会や、地域新聞制作などを通した島内外コミュニケーションの促進をはかりつつ、島内へのお弁当配達を企画中。 海山の食材採集と、料理を教わることが趣味。Blog:男木と献立  Instagram:@ogi_kndt  Facebook:@ogitokondatte

小豆島 pense

瀬戸内海に浮かぶ香川県の島、小豆島。土庄港から車で少し走った大通り沿いの、もともとは商店が立ち並んでいたという一画に、5年前、西脇美津江さんは『pensée』という花屋をオープンしました。

小豆島 pense
小豆島 pense

東京の浅草に生まれ、26歳で「初めの結婚」をしてからもずっと、下町に住んでいた美津江さんでしたが、突然降りかかって来たのは、信頼していた夫との別れ。一からフラワーアレンジメントを学び、就職した会社での多忙な日々を経て、小豆島に一人移り住んだのは38歳のときでした。

美津江さんは、一輪一輪を見つめ、想いを紡ぐように花束を形にしていきます。その美しい仕事が完成すると、受け取りのお客さんを待つ間、彼女は腰を落ち着けて、話してくれました。

小豆島 pense

「地元のものを発信したい」という想いがずっとあった

プロポーズの花束を、よく頼まれるんです。エンジェルロードだったり、オリーブ公園でやるって言われて、新郎と駐車場で待ち合わせて、こっそり花束を渡します。のちのち、「成功しました」ってメールが来ると、それはもう嬉しいですよ。

店名の『pensée』は、フランス語で「想う」という意味。「人から人へ、想いを乗せて橋渡しをする」というコンセプトがあるんです。読み方は、「パンセ」。カタカナでの発音を、何度も声に出して考えたりもしましたが、「パンセ」なら、島のお年寄りも「パン」くらいまでなら覚えてくれるんじゃないかと思ってね。

 

小豆島 pense

「地元のものを発信したい」という想いがずっとあって、特に、小豆島のオリーブを島外にPRしたくて。それで、島内で買い付けたオリーブでリースを作っています。島の人には、オリーブは見慣れ過ぎていてあまりヒットしなかったんですけど、今では島外からよく注文が入るようになりました。オリーブをきっかけに、店舗に来てくださるお客さんもいるんですよ。

小豆島 pense

一浪してデザインを学び就職。でも専業主婦に憧れて

私は高校3年生のときに、何を思ったんだか急に美大を目指したいと思い、受験のために絵を習い始めたんです。空間デザインとかインテリアが好きで、そういう方向に将来進みたいなと。でも、高3で急に目指したんで、まんまと一浪しまして、いわゆる美大ではないんですけど、日本大学芸術学部美術学科の住空間デザインというところに進みました。建築の勉強をしたり、椅子の設計から制作もしたり、建築とインテリアの中間のような学びでした。

就職先を考え始めたとき、ちょうどバブルがはじけたくらいの時代にいたんですけど、当時は割と派手な建築、すごくアピールをする建築が流行ってた。だから、そういうものを追ってかないといけない気分になるんだけど、自分の方向性じゃないと思って、建築やインテリアの方面に進めなくて。

それで、全然畑が違うんですけど、新卒で婦人靴のメーカーに入って、企画をしていました。でも、こうねぇ、甘い感じで生きていたので、就職はしたんですけど、結婚が決まって辞めてしまったんですね。「家庭に入る」っていうのに憧れてたんでしょうね、若かったから。

小豆島 pense

30代での離婚、ウェディングフラワーの世界で再出発

それが、30歳過ぎてから、パートナーと別れることになって。振り返るともう、「若かった」としか言いようがない。今だったら、全然乗り越えられると思えるんだけど、余裕がなくて。きっと、仕事を辞めてなかったらもっと自分に自信があったと思うんですけど、女性としても微妙な年齢で。自分が辞めたくて仕事から離れたくせに、やっぱり仕事してる人って輝いてるじゃないですか。そういうのに引け目を感じて、自信がなくなった自分がいたんです。「私なんて」という雰囲気をまとった自分が、夫婦間でもあんまりいい発言をしていなくて。相手の人も疲れちゃったんでしょうね。向こうも合理的な人で、嫌いとかじゃなかったけど、「一緒にいるべきじゃない」と突き放してくれた。

衝撃は大きかったですね。何の不自由もなく育って来て初めての、深く信頼した“家族”との別れだったから。親とだったら、どんなに喧嘩しても関係性は変わらないじゃないですか。家族なのに、嫌いじゃないのに、別れないといけないというのは気持ちの処理ができなくて。あの頃は、歩いてるだけで涙が出てくるような、どうしようもできない感じでした。

でも、前の夫が「君が独り立ちできるように」とサポートをしてくれて出会ったのが、有名なフローリストの方が運営するフラワーアレンジメントスクールでした。実は、もともと実家が花屋なんですけど、親を見ていて忙しそうだったので、「花屋にはなるまい」と思ってたんです。でも、そのスクールに通ってみたら、お花とデザインの融合した感じが本当に素敵で。レッスンを受けながら、ここの会社で働きたいと思って、初めてお花の仕事に就きました。特に、ウェディングの分野で会場を飾ったりするのがすごく楽しくて。もともと空間デザインが好きだったから、今までやってきたことが活かされる職場だったし、離婚の悲しみもあって何かに没頭したいという気持ちもあったのかもしれない。

小豆島 pense

「もっと植物に向き合いたい」と小豆島へ。すぐに移住を決意した

そこでの仕事は本当に忙しかったです。週末になるとね、会社全体で20件とか30件近いウェディングをやるんですけど、いろんな会場をまわって、ホテルのお部屋1つでも午前午後で内装の入れ替えをして。合間にお客さんと話して、デザイン画書いて、確認作業をして。お花を会社から会場に持って行って飾る都合で、始発で行って終電で帰るような日も結構あった。

結婚式って一生に一度の大切な日なのに、ワサワサと仕事して、流れ作業のようにウェディングブーケとかを作ってるのが、段々と申し訳ない気になっていきました。せっかく好きで入ったんですけど、「これは自分が自分でいられない」と思って、気持ちが参っちゃったんです。

それで、ふっと、一回植物と向き合うのに「栽培」をしたいなと思って。お花は、ハウスで栽培したりして割とすぐ育って出荷できるんですけど、木だったら、1年で1サイクルなので、じっくり育てられるなと考えていたとき、旅行中たまたま読んだ機内誌に出てきた小豆島を見て「ここだ!」と思いました。その記事に出ていた、移住者の女の子の連絡先をなんとなく探して声をかけてみたら、「どうぞどうぞ」という感じで一回遊びに行かせてもらうことができて。その時期はちょうどオリーブの収穫期で、収穫に参加させてくれたんです。木の中に入った時の癒され方は、もう半端なくて。「あぁ、やっぱりここだ」ってすごく思っちゃって、その半年後くらいには移住してたんですよね。

小豆島では、オリーブの会社に就職しました。島の女性たちは、オリーブの会社に入るといったらあまり農園は希望しなくて、人気なのはお洒落して出勤できる内勤の仕事。そんな中、オリーブ畑で草抜きして日に日に真っ黒になっていく私を見て「この人、何しに来たんだろう」という雰囲気でした(笑)。でも、私はというと、気持ちの開放感とか、土に触れてる感じがたまらなく良くって。体中痛くって、でも好きなことして、汗をかいてダイエットもできて、お金もいただけて。最高に楽しかったんです。

小豆島 pense

「元気だよ」とお手紙を書くみたいな気持ちで、お店を開いた

「せっかく来てくれた移住者だから」って、会社もオリーブのことをすごく勉強させてくれました。オリーブ自体がすごく奥深くて、木の種類もたくさんですし、味もそれぞれ。もともと、3年くらい経験したら都内に戻って仕事しようと思ったんですけど、勉強していくうちにますます楽しくなりました。

そんな中、同じ会社で働いていた今の旦那さんと知り合いました。親もたぶん、すぐ帰って来るだろうと思ってたんじゃないかな。それがまさか、嫁ぐとはね。移住して3年半くらい経った頃でした。同時に、社内恋愛だったので、会社を辞めることを考えました。だったら、もともとお花の仕事をしていたし、オリーブは大好きだし、それを生かした花屋さんをやってもいいかな、と思ったのが、ここを始めるきっかけです。

それまで、お店をやるなんて考えたことなかったですよ。でも、初めて東京を出て、島で農業をしているなんて、東京の友人からしたら、理解ができない。それを説明まではしなくても、「元気で頑張ってるんだよ」というお便りを書くみたいな気持ちで、ちょっと見せたかったんですよね。

お店をオープンするときから、「島のものを外に発信したい」と考えていたので、ピシッとかっこいい雰囲気のお店にしようとも思ったんです。でも、まず来てくれたのは地元の人たち。口コミだけでじわじわと広がって、その日々の売り上げでお店を継続できていて。花を使ったワークショップも時々開催するのですが、島の人たちが来てくれるんですよ。そのうちに、「親しみやすい花屋でありたい」と思うようになりました。

もう1つのギャップといえば、街にあるお店だったら、買う気がなくてもふらっと入ってくれたりするんですけど、島の人は車での移動が多いので、必要がないと買いにきてくれない。「街の花屋と島の花屋は違うな」と思いますね。でも、お花を受け取った人が、気に入ってくださって、今度はその方が来てくださったりと、少しずつ広がっていくのが嬉しいです。

小豆島 pense
小豆島 pense
小豆島 pense
penséeでは、オリジナルのオリーブオイルも販売している

東京と、小豆島。同じ仕事をしていても、頭の中は全然違う

小豆島で働き始めてからは、自分の作品への納得感も変わりましたよ。気持ちのゆとりはとても大きい。ある意味、東京ってすごいなと思うのは、速いスピード感の中で、それでも神経を集中させて良いものを作るというのが、訓練されているわけじゃないですか。

自分としては、一輪一輪、じっくりその人のことを思えるというか、ウェディングにしても、新婦さんの顔を思い浮かべたり、「あの二人あんまり喋らなかったけど、二人のときは喋るのかな」と何となく思ってみたりとか、そういうのが楽しんですよね。「何時まで」とかじゃなくて。東京でも、プロとしてやっていたので、たぶんお客さまは気づかないことなんですけど、同じ仕事でも、頭の中は全然違うんですよ。

だからって、その想いをすごく伝えたいかというと、それは自分のエゴだから伝わんなくてもいいんですけど、想いを込めた結果として、その人が幸せになれたらいいって思ってます。勝手な想いですけど、ウェディングにしてもギフトにしても、彼があげた時に彼女が喜んでくれたらいいなって。

小豆島 pense

振れ幅が穏やかな、シンプルな暮らしを続けたい

私の住む土庄町でいえば、そんなに不便は感じません。むしろ、都会にいた頃は、情報もモノも溢れてて、新しいお店ができたら食べに行かないといけない気持ちになったりとか、ついつい振り回されてる自分がいた。でも、ここにいたら削ぎ落とされたような健康さがあります。

暮らしは段々とシンプルになってきますね。食べるものにしても、もとの素材が良いから、それを生かすようなお料理になってきたり、人付き合いもシンプル。いろいろ言う人がいたりしても、「そういう人なんだな」とか「この人の、こういうところは良いのにな」って考えます。良いところが1つでも2つでもあって、そこに自分の感覚があえば、それだけで楽しいって思うようになりました。

気持ちの切り替えをしたいときは、やっぱり自然に助けられる。車で配達にいくだけでも、青空や夕焼け、海や山など、はっとする風景があるので、すごく気持ちがリフレッシュできますね。

今は、お店を続けることが目標。はっきり言って、島で商売してたら儲からないけど、そうじゃなくて、生活がある程度できて、楽しいことがささやかにあるという状態を続けたいなと。20~30代って、嬉しいことも悲しいことも、いろいろあって楽しかったけれど、これからは振れ幅が穏やかな生活をしていきたいですね。

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男木島
ブログ「男木と献立」
男木島の食卓とライフワークを、写真と共に日々綴っています。
http://kondatte.com/
Instagram:@ogi_kndt
Facebook:@ogitokondatte

『地域のライフワークに出会う旅』の過去記事一覧はこちら

>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/work/lifeworkをクリック

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