「おバカな上司と勤勉な部下」は会社を滅ぼす最悪な組み合わせ。国内トップ人事3人が語るこれからの「社員評価」

「入社時期が早いってだけで、何であの人の方が私より給料が高いの……?」
「ただ会社に遅くまでいるだけで残業代たくさんもらってる同僚、おかしくない?」

こんな愚痴を漏らしたことがある働く女性は多いはずだ。

いい仕事をしても「頑張ったね」の一言で終わり、給料が増えることはない。生産性高く働けば働くほど「できる人」のところに仕事が集中し、一部の人が疲弊する。日本の職場によくある光景ではないだろうか。

「これまで日本企業は、会社に対するロイヤリティーや滅私奉公の度合いで社員を評価してきた。仕事の成果なんて二の次だったんです」そう語るのは、2017年7月に開催された『国際女性ビジネス会議』円卓会議「働き方改革での新しい人事評価」に登壇した八木洋介さん。

八木洋介

株式会社people first代表取締役/株式会社ICMG取締役 株式会社IWNC代表取締役会長/前 株式会社LIXILグループ執行役副社長
八木洋介さん

1980年日本鋼管(現JFEスチール)入社。96年National Steel Corporationに出向(CEO補佐)。99年GE横河メディカルシステム入社。2000年GE Medical System Asia、05年GE Money Asia、09年GE Japanにて責任者として人事などを担当。02年日本ゼネラル・エレクトリック取締役。12年住生活グループ(現LIXILグループ)執行役副社長 人事・総務担当。17年にpeople firstを設立し、代表取締役に。2017年ICMG取締役 及びIWNC 代表取締役会長(現任)

終身雇用制度に限界がきていることは多くの人が実感しているところだが、未だに年功序列や「成果は二の次」という人事評価だけは変えていない会社は少なくない。

しかし、それではもう立ちいかない。危機感を持ち、いち早く社内の人事制度改革を牽引してきた国内トップ人事、八木洋介さん、島田由香さん(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社)、有沢正人さん(カゴメ株式会社 )のトークセッションをご紹介しよう。

日本人はドイツ人より年間400時間も長く働くが、アウトプットは負けている

これから日本の人口はますます減っていく。2025年には、3人に1人が75歳以上という超高齢社会だ。そんな中で国内経済を維持していくためには、少ない労働力と少ない労働時間で最大限の成果をあげる必要がある。だが、他の先進国に比べて著しく生産性が低い日本。なぜ今のような状態が続いているのだろうか。

八木さんは「おバカなマネジャーと勤勉なワーカーのコンビが諸悪の根源です」と語気を強める。

「おバカ上司がしょうもないことをやれって言うと、勤勉で真面目な部下はやっちゃうんですよ。この結果が、アメリカやドイツに対して4割生産性が低いっていうことだと思うんです。なんと、日本人はドイツ人より年間400時間も長く働いています。1日8時間労働だとしたら、50日分も多い。なのに、生産性は2割も低いんです」

生産性というのは、インプットである「時間」とアウトプットである「成果」だ。生産性向上を目指すためには、これまでないがしろにされてきた「成果」で評価する仕組みづくりに企業が本気で取り組んでいく必要があるという。ロイヤリティーや滅私奉公といったものを重視する限り、いつまでたっても長時間労働文化は無くならないし、働き方改革は進まない。

有沢さんは「こうした評価制度改革を行うときには、マネジャーたちの価値観を揃えないとうまくいきません」と断言する。

有沢正人

カゴメ株式会社 執行役員経営企画本部人事部長
有沢正人さん

1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行。2004年HOYA株式会社入社。人事担当ディレクターとして全世界のHOYAグループの人事統括を担当。グローバルサクセッションプランの導入等で事業部の枠を超えたグローバルな人事制度を構築。09年にAIU保険会社に人事担当執行役員として入社。12年、カゴメに特別顧問として入社。同社において、人事面でのグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度構築を行う。12年より現職。全世界のカゴメの人事最高責任者

島田さんもそれに同意し、「働き方改革が進めば進むほど、私たちが見るのは結果になります。在宅ワークやリモートワーク、多様な働き方をする人が増えるからこそ、『成果で評価する』ことを徹底しなければいけない」と語る。その上で、マネジャー教育は欠かせない。

「部下の何を見ればいいか、正しく考えを持っていない上司は完全にアウト。八木さんはおバカって丁寧に言いましたけど、バカです(笑)。バカな戦略でバカな指示を真面目なワーカーに出すとどうなるか。その結果がこの日本の労働生産性の低さなんだと私も思います」(島田さん)

部下のノーが上司を育てる。ワクワクして仕事しよう

では、どうすればいい上司が育つのか。島田さんはマネジャーとしての最低条件を次のように語る。

島田由香

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役人事総務本部長 島田由香さん
日本GEにて人事マネジャーを経験した後、2008年ユニリーバに入社。R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て13年に取締役人事本部長に就任。14年に同社取締役人事総務本部長に就任し、現在に至る ■X ■Instagram

「マネジャーの役目は、チームの方向性を示し、何が『勝ち』なのかを定義すること。そして、そのための戦略を作ってチームに伝え、巻き込んでいくこと。自分が先頭に立って仕事をして、その背中を見せることです。これが最低限。その上で何をするかは自由ですが、この最低限のところができていない人ははっきり言ってマネジャーではありません」

部下もいい上司を育てないなら、ただ「勤勉であること」をやめなければいけない。

「上司からの指示が意味の分からないものだったら、はっきりノーというべきです」と島田さんは続ける。

「自分の仕事に意義を感じながらワクワクしてやる仕事と、上司に言われて意味も分からずイヤイヤやる仕事。どっちが成果を出せますか? 考える余地はありませんよね。だったら、前者の気持ちで仕事に取り組めるように、上司と徹底的に議論すべきです。そうやって部下にしつこく仕事の意味を問われたら、上司だってバカな指示は出せなくなるはず」(島田さん)

「目標管理シート」だけで評価はできない

さらに、生産性の高い社員をきちんと評価できるようになるには、何が必要なのか。八木さんは「評価者が数名で議論することだ」と結論づける。

「いろいろな会社が『目標管理シート』を使って、社員の成績を評価しようとしていますよね。でも、その目標管理シートに、その人が担当する仕事の何割くらいのことが書かれていますか? ほとんど書かれていないんじゃないですか? それで最終的にできたできなかったと言われて評価されても全く納得感がない。じゃあ、どうやって評価するかというと、複数人の上司と人事がきちっと議論するんです。その人がどれだけ組織や会社に貢献したか、成果を元に評価者が主観で決めていい。上司と人事合わせて3~4人で話し合えば、評価がずれることはほとんどないですよ」(八木さん)

ユニリーバにも、同様の評価プロセスがある。複数のマネジャーに加え、同僚からの評価も加味されるという。

国際女性ビジネス会議

「具体的に見るのは、目標の達成度です。でも、『これをやります』って事前に紙に書いてたことだけでは評価しません。世の中はどんどん変わるし、3か月後の目標を立てたって状況は全然違いますから。そこはタイムリーに見ていく必要があります。マネジャーは、評価のタイミングで『紙に書かれていたこと』以外にどれくらい部下がしたことを持ってこられるかが大事です」(島田)

こうした議論をすることで、マネジャーたちの管理職としての能力も一目瞭然となるという。

「部下の仕事をよく見ていないと、議論がまともにできないんですよ。だから、ダメな上司が誰かすぐに分かりますね。それに、自分の好き嫌いで仕事をやってる人も分かるし、自分の部門のことしか考えてない人かどうかも分かる。そういうプロセスの中で、おバカなマネジャーは排除していくことができるのでオススメです」(八木さん)

「仕事ができる人」を早く昇進させ、組織の上に立たせることが大事だということは、皆分かっているはずだ。しかしながら、「そんな当たり前のことが日本企業ではまだまだ進んでいない」と三人は口を揃える。

働き方改革の必要性が叫ばれる今、評価制度改革は企業にとって急務だ。会社員も「成果・結果」で存在価値を問われる時代がもう目前まで来ている。そう考えると、明日からの仕事の取り組み方も変わっていきそうだ。

取材・文/栗原千明(編集部) 写真/『国際女性ビジネス会議