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MAR/2018

「専業主婦になる。それは敗者の戦略だ」経済のプロが語る超シンプルな真実――女性は専門性を磨き、働き続けて/橘玲さん

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「専業主婦だったお母さんのように生きていく」。そうできればいいけれど、「専業主婦が当たり前」から「共働きが当たり前」に時代はすっかり変わった。玉の輿に乗ることができたら専業主婦ライフを満喫するのも夢ではないが、これからの世の中では、そんな夢は“敗者の戦略”。そう切り捨てるのが、『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス)の作者・橘玲さんだ。

橘玲
橘玲さん
作家。2002年国際金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラー、『言ってはいけない 残酷過ぎる真実』(新潮新書)が45万部を超え、新書大賞2017に。『幸福の「資本」論』、『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス)など著書多数

「お金持ちで優しくて浮気をしない男性なんて、少なくとも私は会ったことがありません。婚活サイトには『30代で年収数千万円』という男性がいたりするそうですが、関係者に聞くと、そんな男性は“合法ハーレム”状態だそうです。次々と若くて美しい女性が寄ってくるのですから、一人の女性と結婚する理由なんてありません。

『お金持ちと結婚して、幸福な専業主婦になる』という人生設計は、とっくの昔に破綻しています。『今は幸福』という専業主婦の方も、もちろんいるでしょう。でも、『人生100年』と言われる今、その幸福がずっと続く保証はありません」

ライフスタイルだけでなく、AI技術の急速な進歩や長寿化も相まって、私たちは”人類が経験したことのない人生”を生きていかなければならない。現在25歳の人なら、残りの人生はあと75年もある。想像もつかない長い生涯を幸せに過ごすための術を、橘さんは客観的かつ理論的に説く。

超高齢社会=若者の価値が高い社会。
引く手あまたの時期にキャリアを降りないで

最近は、自分の老後に不安を覚える若い女性たちが増えているという。「老後問題の解決策は生涯現役」と橘さん。人生100年時代には、できるだけ長く働き続けることが最大のリスクヘッジとなる。老後問題は「老後が長すぎる」ことが原因なので、生涯現役なら問題そのものがなくなってしまうのだ。

その時、一番のマイナスとなるのがキャリアの分断だ。専業主婦の問題は、そこにある。

「ジェンダーギャップ指数(社会的な男女格差を示す)で日本は世界最底辺の114位なのですから、女性が会社で『差別』を感じるのは当然です。若い女性が『こんなところにいても報われない』と思う気持ちも分かります。心が折れるまで頑張る必要はなく、理不尽な会社はさっさと辞めた方がいい。問題は、会社を辞めると同時に『仕事』そのものまで手放し、専業主婦になってしまうことにあります」

超高齢社会は、裏を返せば若者の希少価値が高い社会。若い女性が専業主婦を望み、20代でキャリアを断つことに、橘さんは警鐘を鳴らす。

専業主婦

「日本経済は既に未曽有の人手不足で、これからどんどん深刻化していきます。『超高齢社会』とは、高齢者がものすごく多くて若者が少ない社会なのですから、需要と供給の法則で、数の多い高齢者の価値が下がり、稀少な若者の価値が上がります。とりわけ優秀な若者は、男でも女でも引く手あまたでしょう。『働いてお金を稼ぐ力』のことを人的資本と言いますが、自分の人的資本が最も大きいときに、それを捨てることほどもったいないことはありません」

人は最後に必ず「フリーランス」になる。
“会社員じゃなきゃダメ”という発想は捨てて

しかしながら、ライフステージの変化による影響を受けやすい女性たちは、会社勤めが難しくなってしまうことだってある。そこで肝心なのは、“キャリアをつなぐ方法を考える”こと。橘さんが提案するのは、フリーランスという選択肢だ。

「国会の働き方改革では、『会社の働き方を変える』ことばかり議論しています。それ自体は必要なことでしょうけど、経営者が反省して『男女平等の会社にしよう』と決断するのをただ待っているわけにもいきません。そんなときは、『会社に居場所がないから専業主婦になる』のではなく、働く時間や場所が自由なフリーエージェントになることを考えてもいいのでは。会社を辞めることを勧めるわけではありませんが、日本の会社の“終身雇用”とは超長期の強制解雇制度です。定年がくれば、皆必ず“フリー”になるわけですから」

定年まで会社員として勤め上げた人だって、退職すればフリーランスだ。さらに、今の20~30代の女性たちが会社を退職する頃には、今のような年金制度があるとも限らない。

「80歳まで働くことを前提としたら、60歳で定年退職した後に20年の“フリー”期間がある。そう考えれば、『会社勤めかフリーか』の二択ではなく、どのタイミングでフリーエージェントになるかという話です。30歳でフリーなって、いろいろな会社と仕事を通じてつながりを持ちながら、50歳で会社勤めに戻ったっていい。働き方改革でいう『高度プロフェッショナル』とは、専門職として、キャリアのなかで会社とフリーを何度も往復するような働き方で、欧米ではすでに一般的ですが、日本でもこれから増えていくでしょう。本来、会社(上司)が働き方を決めるのではなく、自分や家族のライフステージに合った働き方を自ら選択すればいいのですから」

フリーランスと聞いて、大体の女性は「それで食べていけるのか」と不安になるだろう。だが「想像しているほどハードルは高くない」と橘さん。

「『専業主婦は2億円損をする』という本を出したときに一番驚いたのは、当の専業主婦から『女がそんなに稼げるわけがない』という批判が殺到したことです。2億円は平均的な大卒女性が60歳まで働いた場合の(退職金を除いた)総収入なのですが、彼女たちの自己評価(女性に対する評価)はものすごく低い。

しかし新興国に製造業が移転し、AIロボットが登場しつつあるアメリカでは、ブルーカラーの男性は仕事を失い、介護や教育など“ピンクカラー”と呼ばれる女性の平均年収が男性を上回るようになりました。シリコンバレーにいる天才プログラマは大半が男性かもしれませんが、これからの“超知識社会”では女性の仕事能力の方が高くなるのです」

「たまたま入社した最初の職場」で適職が見つかることは稀

専業主婦は2億円損をする 橘玲
『専業主婦は2億円損をする』(橘玲/マガジンハウス)
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フリーランスという選択肢を持ち、それで食べていくために必要なもの。それは、「専門性」だ。橘さんは「この道のプロになろう」と思える自分の専門領域を早く見極めることが大事だと話す。

「日本の会社では就活は運だし、配属先は人事部が『勝手に』決めていきます。個人の希望や得意不得意に関わらず、さまざまな部署を転々とさせられることも多い。言い換えれば、多くの人がたまたま配属された先で、自分の得意なことを見つけ、キャリアを積み上げていかなければならない。でもこれは、ギャンブルと同じです。たまたま入社した職場で適職が見つかるなんて、宝くじに当たるようなものです。

アメリカで行われた研究では、大企業のCEO(最高経営責任者)になるには5~6社の転職経験が必要だそうです。さまざまな経験があれば業界が変わってもキャリアを続けていけるでしょうが、1社にずっといたら『井の中の蛙』になるだけ。日本でも、20代や30代の転職が経歴の傷になることはなくなりました。若者は堂々と試行錯誤を続けていいのです。

また、若者は稀少価値なのですから、今の職場に違和感があったり、このままの働き方ではキャリアを伸ばせないと思ったら、さっさと次の職場を探した方がいい。『置かれた場所で咲きなさい』なんて言っていたら、一番いい時期はあっという間に過ぎ去ってしまいますよ」

20代が身を置くべきは「●●のプロ」になれる職場だ

さらに、「単純な仕事がAI化されていくことを考えれば、専門性を持った人がこれからはさらに有利になる」と橘さん。専門性を育むコツは「人的資本の一極集中」だという。

「製薬会社の広報の女性に聞いたのですが、国際カンファレンスで出会う外国企業の広報の多くは薬学部出身で、文学部の学士は彼女だけだったそうです。でも彼女が3社の製薬会社で広報としてのキャリアを積めば、その経験が立派な武器になりますよね。グローバル企業では学歴が重視されますが、それより重要なのは職歴と実績です。だからこそ、これだと決めた専門性と違う仕事をやらされるのは時間の無駄です」

広報のプロを目指していたのに、会社都合でまったく関係ない部署に異動が決まってしまった……なんてことはこれまでの日本企業にはざらにある話。でも専門性を磨く機会を失うくらいなら、広報のポジションに就ける他社に転職する方が賢い選択だという。環境を変えても専門を変えなければ、その道のプロフェッショナルになれる可能性は高い。

また、「専業主婦になって仕事をせずに生活したい」という動機の背景にある「仕事が嫌」という気持ちも、専門性を持つことでクリアできる可能性は高い。

「男性も女性も、日本人は仕事を苦役だと思っている人がすごく多いですよね。“社畜”という言葉があるように、上司に言われるままに決められた業務をこなしているからではないでしょうか。でもスペシャル”なものがあれば、働き方やキャリアを自分でデザインできるようになり、仕事が楽しく感じられると思います。一度大学を出れば、人生における仕事の比重は極めて大きいのですから、どうやったら苦しまずにすむかではなく、『楽しく働く』ことを考えるべきだと思います」

優秀な人材が企業に囲い込まれている日本
フリーランスのライバルは少ない

専業主婦は2億円損をする 橘玲
テクノロジーが進化し、ビジネス環境も変わっていく中で、好きなことを仕事にできる機会も増えてきた。YouTuberのように、これまでの常識では考えられないようなところに突然、ビジネスチャンスが生まれることもある。いろいろなところに網を張っておけば、自分の特技や好きなことをマネタイズする方法が見つかる確率は高い。こうした時代の変化もあって、アメリカでは10年に以内にフリーエージェントが労働者の半分を占めるようになると予想されている。

アメリカでフリーが増えている一つの背景は、「ストレスフルな人間関係からの解放」なのだそう。

「自分ではどうにもできない会社内の人間関係に悩まされることほどつらいことはありません。『嫌われる勇気』がミリオンセラーになりましたが、一番効果的なのは『勇気』を持つことではなく、嫌いな相手やストレスフルな環境を物理的に切り離すことです」

自分が心地良いと感じられる仕事相手を選べることも、フリーランスならではの強みかもしれない。だが、やはり会社員を辞めるという選択には勇気がいる。

「有能な人でもフリーなるのは怖い。だから会社にしがみついてしまうのでしょうが、逆に考えれば、そんな社会では実はフリーは有利なんです。優秀な人は大手企業に囲い込まれているのだから、ライバルが少ない。これもまた、単純な需要と供給の法則で説明できます。当事者が大きな声で語らないだけで、日本でも“おいしい生き方”に気づいた人たちは、もう既にフリー(自由)を満喫しているんじゃないでしょうか。上手に人生を設計すれば、豊かで幸せな生活を手に入れられる人はまだまだたくさんいると思いますよ」

「私には何もできない」と思っている女性でも、「若い」というだけで大きな価値がある。最初から無理だと諦める前に、その価値を活かして自分の武器を探してみよう。「あなたの専門は?」。この問いに答えることができたとき、会社の事情にも、100年続く長い人生の荒波にも左右されることのない、”自分で生き方を決められる力”が身に付いているはずだ。

取材・文/天野夏海

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