池袋の劇場で“ぶっ飛んだ世界”を覗く夜/ポップンマッシュルームチキン野郎『R老人の終末の御予定』
プレミアムフライデーに、NO残業デー。働き方改革が進み、プライベートタイムは増えたけど、一体その時間に何をする……? 会社を追われ、行き場をなくし街を彷徨うふらり~女たちへ、演劇コンシェルジュ横川良明がいま旬の演目をご紹介します。奥深き、演劇の世界に一歩足を踏み入れてみませんか?

演劇ライター・演劇コンシェルジュ 横川良明
1983年生まれ。関西大学社会学部卒業。ダメ営業マンを経て、2011年、フリーライターに転身。取材対象は上場企業の会長からごく普通の会社員、小劇場の俳優にYouTuberまで多種多彩。年間観劇数はおよそ120本。『ゲキオシ!』編集長
昨年10月からスタートしたこの企画。でも、小劇場ってあんまりよくわからないっていう人はまだまだ多いですよね。確かに知る人ぞ知る世界ですが、それゆえに何が面白いかと言うと、やっぱりそのインパクト。地上波ではなかなかお目にかかれない強烈なキャラクターや、大人に見つかったら怒られちゃうギリギリのギャグも許されるのが小劇場の魅力のひとつです。
そんなぶっ飛んだ世界観で小劇場ファンの心を鷲掴みにしているのが、この人たち、ポップンマッシュルームチキン野郎(以下、PMC野郎)。今回は、最新作『R老人の終末の御予定』とともに、その魅力をどどんっとご紹介します。
ポップンマッシュルームチキン野郎『R老人の終末の御予定』

【Point1】
Point1:どいつもこいつも“人外”すぎる!
既成概念をぶち壊すキャラクターがあなたの脳天を直撃!
ポップンマッシュルームチキン野郎は、今年結成13周年を迎えた人気劇団。主宰の吹原幸太は演劇のみならず、近年は映像分野での活躍も目覚ましく、シーズン2まで放映されたドラマ『弱虫ペダル』や、くりぃむしちゅーの上田晋也のパパ役が話題を呼んだドラマ『天才バカボン』、さらに瀬戸康史&大杉漣の父子の絆が泣かせるドラマ『ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』など数々の作品で脚本を担当しています。そんな吹原の本領発揮となるのが、ベースキャンプであるPMC野郎です。
まずPMC野郎の何が荒唐無稽かと言うとそのビジュアル。四の五の言わずに、まずは写真を見てもらうのがいちばん早いでしょう。

濃い。とにかく絵ヅラが濃い。それもそのはず。PMC野郎に出てくるキャラクターは、人間じゃない――いわゆる“人外”キャラが揃い踏み。個人的に過去作品で強烈だったのを挙げれば、マッサージチェア役にナップサック役に某スマートフォン役に……と、「そんな登場人物、本当にアリ!?」と思わずツッコみたくなる規格外キャラが続々。しかも、それがただのネタキャラではなく、大真面目に主人公の力になったり、中には最終的に大統領になったりするので、本当なに考えてるかわからない(褒めてる)。
普通のドラマや映画じゃエラい大人が止めてしまいそうな世界観を、実力のある役者たちが本気で演じ、全力で笑わせに来てくれるから、PMC野郎と一緒に過ごす時間はいつも楽しい。今回もきっとひと目見たら忘れられない異次元キャラが舞台上で大暴れ。2日後くらいまで夢に出てきそうな濃厚ワールドを見せてくれること必至です!
【Point2】
気づけば涙が止まらない。
心揺さぶるピュアなストーリーがあなたの涙腺を直撃!
ビジュアルの話ばかりしましたが、そんなパンチの強い見た目が単なる“出落ち”にならないのが、PMC野郎のすごいところ。気づいたら違和感だらけの世界をさらりと受け入れ、物語に没入させてしまう筆力こそが、吹原幸太の真髄です。
脱ぐことを一切ためらわない捨て身の下ネタや、下手に手出ししたら怪我をする外角スレスレのデンジャラスな笑いなど、コメディとしても一級品なのですが、それ以上に称賛すべきはそのストーリーテリング。緻密に伏線を張り巡らせ、想像の斜め上を行く意外な展開で観客を驚かせながらも、最後は愛や絆など、シンプルで、だからこそ純度の高いメッセージを放ち、客席を涙で濡らしていく。この高低差、思わず頭がクラクラします!

最初は何も考えずに笑っていたはずなのに、最後は嗚咽が止まらなくなるので、もう喜怒哀楽がフルスロットル。その分、終演後の爽快感も抜群です。下ネタをはじめ、観る人を選ぶ面も多い団体のはずなのに、決して不快に感じないのは、彼らの笑いが人を傷つけないから。PMC野郎に通底する温かい愛が劇場全体を包みこんでいるので、いつも帰りはハッピーな気持ちになれるのです。
【Point3】
ロボットに愛はあるのか?
前代未聞の純愛物語があなたの魂を直撃!
今回の『R老人の終末の御予定』は、“未だかつて誰も描かなかった純愛物語”。地球上で初めて結婚したロボット夫婦を題材に、人間や機械という既存の枠を飛び越え、とびきり無垢な愛のカタチを描きます。
舞台となるのは、人類が死滅し、ロボットが暮らす社会。そんなSF性の強い世界で、機械仕掛けの、心を持たないロボットたちの愛をどう描くのか、吹原幸太の織りなすストーリーに注目してほしいところ。個人的には、胸がちぎれるほどに切なく、でもどこかいとおしさを感じさせてくれるような世界が待っているのではないかと期待しています。もちろん、上に挙げたような超バカバカしい笑いは今回も健在。くだらなさと尊さの振り幅の広さで、観る人の心をかき乱します。

あとはPMC野郎の名物と言えば、「これどこで使えばいいの?」というオリジナルグッズの数々。毎回、作品にちなみつつ、いい大人たちが全力でふざけたグッズを販売しているので、観劇の記念に買って帰るのも一興。作品単体を楽しむだけでなく、劇場へ足を運んで時間を過ごすという観劇体験そのものを素敵な想い出にしてもらいたいという団体のスピリッツが至るところから伝わってきます。
なんか面白いものを観たいんだけど、何を観たらいいのかわからない、というあなた。まずはPMC野郎を全力でオススメします。劇場を出る頃にはきっと、まったく知らなかったはずの世界が、いとしくてたまらない世界に様変わりしているはず。
<公演詳細>
<公演詳細>
■あらすじ
これは、地球上で初めて結婚したロボット夫婦の物語。
人類が死滅してから、どれだけの季節が流れただろうか。
新たに地球を支配したのは、人類の使っていた電子機器が進化したロボットたち。
彼らはかつての支配者を真似て法を作り、秩序を生み出し、社会を創生した。
……だが、知性あるところに争いは起こる。
その昔、東京と呼ばれていた都市では、ヨドバシファミリーとビックファミリーの二大マフィアの争いが年々激化の一途を辿っていた。
数千年以上前から続くこの抗争は、どうして始まり、なぜ自分たちが争っているのか、最早どのロボットにもわからない。
回路も凍てつく真冬の夜、ヨドバシファミリーの御曹司・エレキギターとビックファミリーの令嬢・電気ポットが禁断の恋に落ちた。
許されざる恋路の果て、新世界を求めて荒野に逃げ去った二人が見つけたのは、一枚の古びたメモリーチップ。
そこに残されていたのは、地球上で初めて結婚したロボット夫婦の奇妙で残酷な1000年間の記憶だった……。
我慢の出来ないポップンマッシュルームチキン野郎が、
この春に送るのはハートのない愛情物語。
■作・演出
吹原幸太
■出演
NPO法人、小岩崎小恵、加藤慎吾、野口オリジナル、井上ほたてひも、高橋ゆき、横尾下下、吹原幸太、渡辺裕太(以上、ポップンマッシュルームチキン野郎)
ゲスト:高田淳、平山空、青地洋、横見恵、安楽信顕、今井孝祐
声の出演:吉田翔吾、増田赤カブト
※渡辺裕太は平日夜公演のみ出演
■日程
2018年4月18日(水)~23日(月)
■会場
シアターKASSAI ※各線「池袋駅」東口より徒歩8分
『ふらり~女の夕べ』の過去記事一覧はこちら
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