「舞台は観客がディレクター」俳優・平野良が唱える演劇の楽しみ方【マリアビートル】
プレミアムフライデーに、NO残業デー。働き方改革が進み、プライベートタイムは増えたけど、一体その時間に何をする……? 会社を追われ、行き場をなくし街を彷徨うふらり~女たちへ、演劇コンシェルジュ横川良明がいま旬の演目をご紹介します。奥深き、演劇の世界に一歩足を踏み入れてみませんか?
演劇ライター・演劇コンシェルジュ 横川良明
1983年生まれ。関西大学社会学部卒業。ダメ営業マンを経て、2011年、フリーライターに転身。取材対象は上場企業の会長からごく普通の会社員、小劇場の俳優にYouTuberまで多種多彩。年間観劇数はおよそ120本。『ゲキオシ!』編集長
新しい趣味を探したい。だけど、これと言ってやりたいものが見つからない。そんなふらり〜女のみなさんにもっと演劇の面白さを知っていただくために、現在舞台を中心に活躍中の若手俳優にクローズアップ。彼らの言葉を通じて、観劇のきっかけをご提案します。
今回ご登場いただくのは、俳優の平野良さん。アニメ・漫画原作からシェイクスピア、朗読劇まで様々なジャンルの舞台に立ち続ける平野さんだから伝えられる演劇の魅力を教えてもらいました。
※記事の後半に、平野さんのサイン入りチェキプレゼント企画があります。最後までお楽しみに!
舞台には、自分の観たいものを自分で選べる面白さがある
平野良は、実に器用な俳優だ。出演作ごとにガラリと印象を変えながら、どの舞台においても確かにその存在を刻みつける。昨年の舞台出演本数は9本。うち主演は5本。ハイペースに活動しながらも、まったく消費されることはない。それどころか観るたびに鮮烈な印象を焼きつける若手実力派の最右翼だ。
「演劇を観るのって結構敷居が高いですよね。チケット代も映画の倍以上しますし。でもその分、生のお芝居には、実際に観ないと想像できないパワーがあると信じています」
そう自らのホームグラウンドである舞台への愛着を語る。
「僕もボクシングが好きなんですけど、やっぱりテレビで観るのと生で観戦するのだったら迫力も興奮も全然違う。お芝居も同じで。びっくりするくらい落ち込んでいたとしても、舞台を観ていたらいつの間にか笑い疲れて、終わる頃には悩みが吹き飛んじゃってたということはよくある。それくらい生の力ってすごい。時には価値観とか人生観が変わるくらいのパワーが演劇にはあるんです」
そんな演劇ならではの楽しみ方として、平野さんは「カット割りがないこと」を挙げる。
「映画やドラマの場合は、監督がお客さんに観てほしいところをピックアップする。でも、演劇はそういうカット割りが一切ない。言ってしまうと、舞台は観ているお客さんがディレクター。自分で観たいところをディレクションする楽しさがある。主役を追ってもいいし、ヒールにフォーカスを当ててもいい。舞台の上にあるすべてのものから自由に観たいものを選べばいい。どこに注目するかで同じお話でも全然見え方が変わります。だから舞台って同じ話なのに何回観ても飽きずに楽しめるんですよね」
中でも近年は漫画やアニメ、ゲームといった2次元のコンテンツを、3次元である人間が生身の身体で表現する「2.5次元」と呼ばれるジャンルの舞台が人気だ。平野さんも出世作のミュージカル『テニスの王子様』をはじめ、『ふしぎ遊戯』から『ハイスクール!奇面組』まで実に多彩な2.5次元系舞台に出演している。年間総動員数150万人。市場規模129億円にまで拡大したこの2.5次元系舞台の人気の秘密は何なのだろうか。
「やっぱり自分の読んでいた漫画がそっくりそのまま目の前で再現されているとテンションが上がりますよね。僕も好きな漫画が初めて実写化されたときはゾクゾクしたし、漫画を抜け出して自分のところまで近づいてきてくれたような感覚があった。役者として自分がちゃんとできているかはわからないですけど、きっとお客さんもそういう面白さを感じて足を運んでくださっているんじゃないかなと思います」
小説の世界を舞台に。大事なのは、お客さんの想像力を凌駕すること
そんな平野さんが今回挑むのは、漫画ではなく、小説の舞台化。伊坂幸太郎による人気小説『マリアビートル』に挑戦する。読書家の平野さんにとっても「ずっと舞台でやりたかった作品」だと言う。
「舞台は、走行中の新幹線の中という、ある種の密室劇。そこに殺し屋たちが入り交じるというスリリングなサスペンスではあるんですけど、全体的にはコミカルでポップ。数ある伊坂作品の中でも笑える要素がふんだんに盛り込まれた作品だと思います。初めて原作を読んだときから、それこそ新幹線のようなスピード感でお話が進んでいくのが面白くて。あの疾走感は舞台でも絶対に再現したいですね」
平野さんが演じるのは、超絶的に不運な殺し屋・七尾。その運の悪さが災いし、七尾が行動を起こすたびに事態は思いがけない方向へ急転していく。
「同じ新幹線の中に偶然何人もの殺し屋が乗り合わせて、次々と事件が起きていく。この状況の面白さが、『マリアビートル』の魅力。人がパニックになっているのって、外から見ている分には何だかおかしいじゃないですか。中でも七尾は、腕は立つのに何かにつけて巻き込まれちゃう幸薄いキャラクター。この物語が持つ疾走感やコミカルさをどう表現するかは、七尾にかかっているなって感じています」
自らも本好きだけに、実写化の恐怖も身をもって理解している。特に伊坂作品は独特の文体が持ち味だ。
「小説は文字だけの分、漫画以上に、読んだ人の数だけ人物像がある。人それぞれイメージするビジュアルだったり声質だったりは違うと思うので、そこに完全に一致するのは正直に言って難しいかもしれません。でも、だからこそ僕たち役者はお客さんの想像を追いかけるんじゃなく、お客さんの想像を凌駕するつもりで、深い深いところまで粘り強く役を掘り下げていかないと」
人に振り回されずに楽しく働く極意は、目標設定と自分との対話
平野さんは08年に初舞台を踏んでいるが、実は俳優としてのキャリアはそのずっと前から。子役としてデビューし、『3年B組金八先生』など数々のドラマに出演。だが、その後、高校2年生のタイミングで芸能活動を一時中断。約4年のブランクを経て、再び芸能界に復帰した経歴を持つ。
「一度芸能のお仕事を辞めたのは、このまま芸能界という閉鎖的な世界にいたら自分の人生ダメになるなと思ったから。中学からドラマに出させてもらったりして、ちょっと調子に乗っている自分がいたんですね。けど、その頃の僕なんて世の中のことはまったく知らない無知な子ども。どんなふうにお金が流れているのかとか、人がどんなふうに普段生活をしているかとか、ちゃんとそういうことを知りたくて、一度この世界を離れて、もっといろんな職業を経験してみようと思ったんです」
アルバイトからスタートし、様々な業種職種に飛び込み、見識を広めた。会社勤めの経験もある。俳優業が「自分にとって好きなこと」であるなら、決して必ずしも好きというわけではない仕事にも積極的にチャレンジした。その中で、平野さんが大切にしていたことは何だろう。
「僕はどんな仕事でも何だかんだ楽しみたいタイプ。なあなあで仕事をしていても時間が経つのが遅く感じるだけ。5分ごとに時計を見ては『まだ5分しか経ってない』ってウンザリするのも何だかしんどくて。だったら好きとか好きじゃないという気持ちは置いておいて、まずは楽しむことを大事にした方がいいんじゃないかって考えるようになったんです」
仕事を楽しむこと。それはとてもベーシックなことで、だからこそ難しい。できることなら楽しんで仕事をしたいけど、その術がわからずに悩んでいる人も多いだろう。
「僕の場合は、目標を立てることを大事にしていました。何でもいいんですけど、自分の中で目標を決めて、それを達成できるようにコツコツとやれることをやってみる。そうすると、目の前の作業ひとつにしても、もっとこうしてみたらいいかもという工夫や改善案が生まれるし、何より目標に向かって前進している自分を実感できるのが楽しかった。職場によっては人間関係に悩むこともありましたけど、そんなときほど自分の目標を掲げて、それに集中していれば、不思議と周りのことなんて気にならなくなりましたね」
人から見れば他愛もないと言われそうなプチ目標だって構わない。自分の毎日を色づけるのは、ほんの小さな心がけひとつなのかもしれない。
「それでも嫌だなって思うことはいっぱいあると思うんですよ。僕たちは自分以外の他人からいろんなものを受け取って生きている。大抵嫌な気持ちになるときって、何かネガティブなものを周りから与えられたとき。それって自分の力だけで避けきれるものでもないですからね」
自分のことをわかってくれない上司だとか、仕事をしないくせに人に取り入るのだけは上手い同僚だとか、宇宙人みたいな後輩だとか。いかんともしがたい面々が集中砲火のようにストレスの火種を浴びせかけてくる。平穏無事に暮らしたい私たちにとって、時に職場は戦場だ。
「いち個人に周りを変える力はない。だったら僕は自分が変わった方が早いと考えるタイプです。自分のフィルターを1枚変えてみるだけで世界の輝きは変わる。だから、しんどいなと思ったときは、丸1日お休みをとって、自分がリフレッシュできる場所に行きます。山とか大自然に囲まれて、何にも考えずにぼーっと過ごすとか。そうやって自分と対話する時間をつくるのって、すごく大事。そしたら少しは視界も晴れて、また次の日から何とかやっていこうって気持ちがわいてくるんです」
働く以上、人と関わり合いを持つことは避けられない。仕事の楽しさも、仕事の苦労も、他者に置いてしまうと、結局は自分がコントロールできずに疲弊するだけ。あくまで自分に集中し、やりがいも解決策も自分の中に置いてしまえば、モチベーションの乱高下に振り回されることもないはずだ。立て続けに様々な舞台に出演しながら、常に高いクオリティをキープし続ける平野さん。その秘密は、決して揺らぐことのないマイペースな姿勢にあるのかもしれない。
取材・文/横川良明 撮影/岩田えり
公演情報
舞台「マリアビートル」
■原作
伊坂幸太郎「マリアビートル」(KADOKAWA)
■脚本
太田守信
■演出
元吉庸泰
■出演
平野良、坂口湧久、小沼将太、碕理人、若宮亮、山本侑平、中村裕香里、深澤恒太 / 福圓美里、谷口賢志
■日程
2018年2月14日(水)~18日(日)
■会場
全労済ホール / スペース・ゼロ ※JR「新宿駅」南口より徒歩5分
プレゼント情報
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