「女性がちょうどよく働く」には? 会社や仕事で“すり減らない”バランス・メソッド
仕事は嫌いじゃないし、頑張って成果も出したい。でも最近は残業続きの忙しい毎日で、体力的にも精神的にもそろそろ限界————。このように、真面目に働く女子ほど心身ともに疲弊してしまうケースは多い。本気で仕事に取り組みつつ、健康な身体と心を維持しながら心地良く働くことはできないのだろうか。そのヒントを求めて、『「すり減らない」働き方』などの著作がある人材コンサルタントの常見陽平さんにお話を伺った。
「女性がちょうどよく働く」という選択肢が
今の日本社会には存在しない

人材コンサルタント 常見陽平さん
1974年生まれ。一橋大学商学部卒。株式会社リクルート入社後、『とらばーゆ』編集部などを経て、玩具メーカーに転職。新卒採用を担当する。2009年、人材コンサルティング会社、株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。2012年に独立。「就活」「働き方」をテーマに執筆や講演活動を行う。著書に『「すり減らない」働き方』(青春出版社)など
「確かに女性たちは心身ともにすり減っていますよねえ。僕も30歳前後のバリバリ働いている女子が、倒れていく姿をたくさん見てきました。そうなってしまうのは、頑張りすぎてしまう本人の意識も関係ありますが、日本の雇用の在り方や労働環境にも問題があるんですよ。働く女性が増えたとはいえ、組織の構造や仕事の進め方はまだまだ男性仕様ですから。取引先との会議を夜遅くに始めるなんて、まさに男性仕様の働き方でしょう? そして、女性たちもそれに一生懸命付き合おうとしている。すり減って当然かもしれませんね」
常見さんいわく、今の日本社会では「女性がちょうどよく働く」という選択肢が存在しない。ワークライフバランスを考えて残業の少ない仕事をしたいと思うと、いわゆる一般職や派遣社員として働くしかない。男性と同じように仕事を任されたいと思うと、深夜残業をものともせずにがむしゃらに働くしかない。女性たちは否が応でも、この2つの極端な選択肢のうち、いずれかを選ばざるを得ないのだ。
「ある女性ファッション誌の編集者と話していたら、大学生の読者モデルの子たちが就職先に求めるのは“キラキラ20時退社”なんだそうです。『仕事が充実して輝いている感』は欲しいから、17時や18時の定時で帰るのは働いていないみたいでイヤ。でも、21時以降まで会社にいると一気に社畜度が上がる気がする。それに、レベルの高い男が集まる合コンは20時スタートが多いということで、“20時退社”という絶妙な時間になったらしいです。それを聞いて結局合コンかよと呆れつつ、一方で『そうか、これが女性の考える“ちょうどよい働き方”なんだな』と腑に落ちたのも事実。そして、この理想を叶える会社は、今のところほとんどないのが現状です」
「自分に期待されていること」を知り
頑張らなくていいことにまで労力を費やさない
こうした世の中や会社の仕組みを変えるには、女性たちの側も自分たちの声を積極的に発信したり、問題意識を持ち続けることは必要だ。だが社会の仕組みが大きく変わるには、おそらくまだまだ時間がかかる。働く人たちが疲弊しがちな今の環境においても、何とか自分の身を守り、少しでもストレスを減らしていく方法はないのか。そこで常見さんが提案するのが、「“冷静さ”と“情熱”の両方を大事にすべき」ということだ。

「すり減らない」働き方
常見陽平・著/定価859円(税込)/出版社:青春出版社
しんどい働き方から抜け出して、楽しく仕事をする方法を提言。気持ちがラクになる。目の前の視界がスーッと開けてくる。働き方を見直したいと考えている人に一度手に取ってほしい1冊
「おそらくこの記事を読むような女性は、自分磨きが好きで上昇志向もある人だと思うんですよ。だから周囲の人に『君ならできるよ』などと持ち上げられて、つい『頑張ります!』と答えてしまう。そうやって何でもかんでも頑張って突っ走った挙げ句、ある時点でバタッと倒れてしまうわけです。だから、いま仕事に燃えている人こそ、ちょっとブレーキをかけて冷静になってみてほしい。具体的には、『自分は何を期待されているのか』を客観的な視点から考えてみることが必要です。そんなに頑張り過ぎなくても、周囲に期待されていることをやって、大きなミスさえしなければ、ちゃんと評価されるんですから」
例えば、本人は「今年は絶対に自分の売上を2倍に伸ばしてチームの数字に貢献する!」と息巻いていても、上司の本音は「お局的キャラで後輩の若手男子たちに発破をかけてくれるのが一番ありがたい」とか「自分が困っている時のサポートを最優先にしてほしい」といったことだったりする。それが分かれば、頑張らなくていいことに必要以上の労力を費やして、自分をすり減らすこともなくなるはずだと常見さんは話す。
“絶対に恋愛関係に発展しない男友達”に
愚痴を聞いてもらう
だが、自分を客観視するのはなかなか難しいもの。そこでぜひ実践したいのが、第三者の視点を取り入れることだ。
「一番簡単なのは、上司や同僚に『私に何を期待していますか?』とストレートに聞くことです。最近は肝心な質問をできない人が増えていて、目の前の席に優秀な先輩営業マンがいるのに、ネットで『営業で数字を上げるには』なんて調べたりするけれど、知りたいことは人に直接聞けばいいんですよ。それと、週に1度くらいは飲みに行って、誰かに愚痴を聞いてもらうといいですね。相手は女友達や先輩でもいいけれど、僕がおすすめしたいのは“絶対に恋愛関係に発展しない男友達”。愚痴を聞いてくれつつ、男性ならではの一歩引いた視点から『僕はこう思う』という意見も言ってくれる人を探すといいですよ。自分の視野の狭さが原因で生まれる悩みも多いので、そこに気付かせてくれる相手はとても大事。かといって何かの拍子に恋愛に発展するとそれはそれで面倒なので、女子の皆さんはぜひ、いかにもモテなそうな男友達を作ってください(笑)」
キャリアを中長期的に捉え
「所詮、仕事なんだから」という割り切りも必要
自分に期待されていることを把握できれば、「すべてを仕事に捧げないと評価されないのでは」という強迫観念からも解放される。会社や仕事との間に、自分をすり減らさない程度の絶妙な距離感をとりながら働くこともできるだろう。
「どうしても辛くて苦しい時期は、『ずっとこれが続くわけじゃない』という中期的な視点を持つことが逃げ場になるはず。キャリアとは、“静的”ではなく“動的”なもの。時間が経てば会社も変わるし、自分も変わる。自分に合わないと思っている職場でも、互いに変化を続けていけば、今よりいい関係になれる可能性だってあるはずです。そして本当に追いつめられた時は、『所詮、仕事なんだから』という割り切りも大事。それが自分の身を守るための一つの手段になるはずです」
頑張り過ぎて、体調を崩して休職することにでもなれば、せっかく築いてきたキャリアも一時中断することになってしまう。真面目に仕事に取り組む情熱を持ちつつも、「人生は仕事がすべてではない」という冷静さも失わない。これこそが、今の時代に働く人たちが身につけるべき会社や仕事で“すり減らない”ためのバランス・メソッドといえるのかもしれない。
取材・文/塚田有香