14 OCT/2021

妊娠力は20代後半から落ち始めている。「いつ産むか」を考えてライフプランを【国立成育医療研究センター医師監修】

日本人妊娠や出産に関する知識は、世界の中でも低いという事実をご存じでしょうか。

妊孕性 知識レベル比較

国立成育医療研究センター副周産期・母性診療センター長の齊藤英和さんは、「妊娠・出産にまつわる正しい知識を身に付けて、後悔しない人生選択を」と呼び掛けます。

国立成育医療研究センター副周産期・母性診療センター長の齊藤英和さん

国立成育医療研究センター副周産期・母性診療センター長の齊藤英和さん
1953年東京生まれ。産婦人科専門医。生殖医療専門医。国立成育医療研究センター周産期母子診療センター副センター長、不妊診療科長などを経て、2020年現在は栄賢会梅ヶ丘産婦人科ARTセンター長を務めている

※この記事は、2011年12月14日に公開し、2021年10月14日に更新しています

妊娠力は20代後半から落ち始めている

最近は40代で出産する著名人の姿をメディアで見かけるようになり、30代女性の中には「まだ産める、大丈夫」と妊娠・出産を先延ばししている人もいるかもしれませんね。

しかし、冒頭のグラフでも分かる通り、日本人は学校の授業などで避妊のことは習っても、妊娠適齢期や妊孕性(※にんようせい)についてはほとんど学びません。

※妊孕性:妊娠するための力のこと。妊娠するためには卵子と精子が必要となり、卵巣、子宮、精巣などが重要な役割を果たしているため、妊孕性は男女両方に関わる

正しい知識を身に付けた上での選択ならいいのですが、知識がない中で“何となく”選択してしまうのは問題。妊娠・出産は先延ばしにすればするほど、あとで「子どもが欲しい」と思っても、希望通りにならないことが増えていきます。

そこで、まずは下のグラフをご覧ください。フランスのデータですが、排卵期に性交した場合の妊娠率を年代ごとに現したものになります。

妊娠

19-26歳では一番タイミングが合ったときで50%の妊娠率なのに対し、27-34歳では40%、35-39歳では30%という結果が出ています。およそ8歳ごとに1割ずつ、妊娠力がダウンしているのが分かりますね。

このデータは、排卵期に性交することを前提にしたものなので、実際の妊娠率は、もっと低くなることが予想されます。

26-34歳といえば、一般的にはようやく結婚を考え始め、相手探しをする人が増えるような年代ですね。この頃すでに妊娠力が落ち始めているというのはショッキングな現実かもしれません。

また、ブルーのグラフは、男性が5歳上のカップルの場合です。女性が19-26歳のグラフでは、男性は24-31歳。男性の場合は、40歳を過ぎると妊娠させる力が落ちているのが分かります。

排卵以外でも、毎月300個の卵子が消えていく

お母さんの胎内にいるとき、女の赤ちゃんの卵巣内には700万個の卵子が存在します。それが、生まれてくるときには200万個になり、初潮を迎えるころには40万個にまで減少します。

その後も、毎月1個(生理がある40年間で480個)の卵子が失われ、排卵以外でも卵巣内の卵子(原始卵胞)は毎月300個ほど自然消滅という形で消えていくと言われます。

毎月1個の選び抜かれた卵子が排卵される際に、およそ300個の卵子候補(原始卵胞)はオーディションに敗れ、消えていってしまうのです。

昔に比べれば人間の寿命は非常に伸びていますが、妊娠できる生殖年齢はほとんど伸びていません。

それは人間のもつ体内時計が影響しているのかもしれません。何もしなくても卵子は毎月消滅し、妊娠する力を持つ良質な卵子は姿を消していくという現実を知っておくことは、「いつ産むか」を考える上で、とても大切なポイントです。

“普通に健康でいること”が、産めるカラダを保つためには、最も必要なこと

妊娠

歳を重ねるごとに卵子が消滅していくという現実がある一方で、産めるカラダを保つための方法がある訳ではないのが厳しいところです。

妊娠するにも、無事に出産を乗り切るためにも“普通に健康でいること”が一番大切。

太らない、痩せすぎない、高血圧や糖尿病にならないよう気をつけること。十分な睡眠をとる、ストレスを溜め込まない、適度な運動をするなど、当たり前に言われていることですが意識して生活することです。

これらに加え、婦人科検診を年に1度は受け、いつでも産めるように性感染症や子宮内膜症、子宮筋腫、子宮頸がんなどにかかっていないかチェックをすることも忘れないでください。

子宮頸がんの発症を防ぐために、ウィルス(HPV)予防ワクチンを打っておくことも有用です。

子どもを持ちたいなら「いつ産むか」考えてみましょう

出産

20代後半から妊娠力は低下していくという現実がある一方で、その低下率には個人差が大きいのも事実です。30そこそこで既に妊娠が難しい人もいますが、30代後半でも良質な卵子をたくさん持っている人もいます。

たとえ33歳で妊娠できるカラダだとしても、34歳で同じである保証はどこにもありません。その人の妊孕性がいつまで高い値をキープできるのかを予測することは、医者でも難しいというのが本当のところなのです。

こうした現実を知った上で、子どもを持つのか、持たないのか。いつ産むかを選択するのは自分自身。

「40過ぎても産める!」といった情報を過信し出産を先延ばしにするのではなく、子どもを望むなら、“いつ産むのか”を早くから考えてみてください。そして、子どもを持つ時期を含めたライフプランを立てることがとても大切です。

妊娠についての正しい知識がなかったためにタイミングを逃し「もっと早く出産を考えておけば……」と嘆く女性をたくさん見てきました。そんな人が、一人でも減ってほしいというのが婦人科医としての願いです。

取材・文/渡邉由希