「地域コミュニティ」との繋がりはなぜ必要? 3.11で見えた働き女子の弱点とは

キャリアジャーナリスト阿部志穂の
ワークライフバランス最前線

働く女性がワークとライフの両方を充実させていくためには何が必要? そんな根源的なテーマに、キャリアジャーナリスト・阿部志穂が切り込みます! 社会や企業がプロデュースする制度や環境、そして働く女性自身の意識。世の中はどんどん変わっています。ワークライフバランスの“今”を知り、人生を楽しみながら長く働き続けていくためのヒントを探っていきましょう。

阿部 志穂(あべ しほ)
フリーランスライター。JCDA認定キャリア・ディベロップメント・アドバイザー(CDA)。女性誌、ビジネス誌を中心に、ライフキャリア、ワークライフバランス、就・転職、資格、生涯学習にまつわる記事を15年にわたって執筆。「豊かな生き方」「人生の転機」をテーマに著名人インタビューも多数手がける。最近気になっているキーワードは「ソーシャル」。自身のワークライフバランス達成度は「80点ぐらいなもんかしら?」


今回のテーマ:地域とのつながりで考えるWLB

Woman Type 読者のみなさん、こんにちは!
キャリアジャーナリストの阿部志穂です。

早いもので、この連載が始まって1年がたとうとしています。
この1年、企業で働いているみなさんは、どんな職種であれ、大なり小なり働く環境の変化を感じているかもしれませんね。

出産しても女性が仕事を辞めないことは、数年前以上に当たり前になってきたし、少しずつですが女性管理職も増えています。育児休暇を取得する男性が増加しているといったニュースも、ずいぶん耳にするようになりました。

キビシイ話題も多いですが、みんなそれぞれにプライベートがあって、それぞれの事情を抱えながら働いている。そのことを、お互いに尊重し合いながら成果を出していきましょう、という「お互いさま」の空気も柔らかく広がってきているなと感じます。

3.11で加速したWLBの実現、
見えてきた働き女子の弱点

ワークライフバランス 震災

このような変化が加速した最大の要因は、東日本大震災の発生だったかもしれません。

「生きるってどういうこと?」と、誰もが考えさせられたあの日以降、ボランティアで汗を流したり、家族との時間を大切にしたりと、周囲とのつながりを尊重した新たな役割、フィールド、時間の過ごし方を加える人が増えてきました。
そうして、1人ひとりが得た充実感や経験値が世の中にフィードバックされ、働き方や生き方の常識を変える力になっているのだと思います。

つまり、WLBが実現されている状態に、まさに近づいているんですよね。

きっと、みなさんの中にも、今まで以上にWLBを意識する人が増えていると思いますが、今回の阿部からの提案は、その実践の過程に、ぜひ「地域とのつながり」という視点を加えてみてほしいな、ということです。

実は、東日本大震災の被災地では、地域とのつながりが薄かったために、救援物資などの支援を受けられないひとり暮らしの20代、30代が多かったのだとか。

災害時は、職場で被災したとしても、避難生活を送るのは住んでいる地域になります。
けれど、地域に密着した生活をしている人々が中心となって運営される避難所は、とくに知り合いの少ないひとり暮らしの人たちにとって居づらい場所になりがち。

そこで、周囲に遠慮して自宅で過ごしていた人たちが、「避難所にいない」という理由で救援物資の配給を断わられたり、いつどこで給水があるのかといった情報を手に入れられなかったり、というケースが相次いだようなのです。

住民票がある以上、地域の構成員であることは間違いないのに、いざという時、その人の存在を誰も知らない、誰にも気にかけてもらえない。
それが自分だったらと思うと、背中がうっすら寒くなりませんか?

もちろん、震災時の話は極端な例で、今回、地域とのつながり作りをオススメしているのは、「災害時に困るから」だけではありません。
実は、もっと日常的な視点で考えても、「地域とのつながり」を持っていることって、いいことがいっぱいあるからなんですよね。

地域とのつながりが、
WLBをより豊かにする

今年6月、「ダイバーシティコミュ」というNPO法人が、東京都武蔵村山市で設立されました。

「男性に地域、女性に機会、子どもに未来」を軸とした活動を通して、「誰もがその人らしく笑顔で暮らせる社会作り」を地域から目指すこのNPO。代表理事の森林育代さんは、「あらゆる年代、あらゆる職業の人が集まっている『地域』は、人材の宝庫。だから、ロールモデルだって、地域のつながりの中からいくらでも見つけられると思うんです」と、Woman type世代が地域とつながるメリットを話します。

例えば、「仕事と家庭の両立」という、働き女子が気になるテーマひとつ取ってみても、リアルな両立の実態を教えてくれる現役ワーキングマザーだけでなく、子どもが成長した後の家族をイメージさせてくれる少し世代の離れた先輩ママ、「おばあちゃんの知恵」を伝授してくれる70代の女性も、地域には暮らしています。

案外、同じマンションに同年代の働き女子が住んでいて、同じような悩みを語り合える友人になるかもしれません。

「また、誰とでも比較的フラットに関われるのも地域のいいところ。会社で役員を務めていて、社員は気軽に話せないかもしれない男性も、地域では『普通のおじさん』です(笑)。そんな男性と、地域の集まりなどで打ち解ければ、参考になる話がたくさん聞けそうですよね。キャリアプランに行きづまったときに、まったく違う仕事をしている人の話から、突破口が見つかることもあるかもしれません」(森林さん)

いまはまだ子育てファミリーや地元に長く住むお年寄りが中心となっているイメージが強く、Woman type世代が溶け込んでいる地域は、まだまだ少ないのが現状です。
でも、森林さんが言うように、仕事でも友人つながりでもない、新たなネットワークを作れる可能性を秘めた「地域」をスルーし続けるのは、かなりもったいない気がします。

「いまは自宅と会社の往復だけで何も困らないかもしれけれど、人生って『今だけ』じゃない。これから親になったとき、親が年老いてきて不安を感じたとき、いろいろな視点や立場の人たちから学べる地域のつながりは、間違いなくプラスになるし、安心して人生のコマを進められる心の支えにもなると思うんです」(森林さん)

最近は、ダイバーシティコミュのように、これまで影の薄かった働き盛りの男性や若者を、地域とつなげる活動をする団体や自治体が増加中。ボランティアやイベントなどを通じて、きっかけを作ってくれています。
仮にこのような団体が身近になかったとしても、近隣のお祭りに行ったり、よく見かける近所のおばあちゃんに会釈してみるだけでも、地域とつながるきっかけに十分なるんですよね。

せっかく縁あって住んでいる地域に、今までより少しだけ意識して視線を向けてみる。
そのことで、WLBがよりバランスのとれた、充実したものになるかもしれませんよ。