キャリアのゴールはどこにある? 岩瀬大輔さん×仲暁子さん流「仕事と人生」論

10年先のキャリアなんて「想像もつかない」。そのせいで、少し先のキャリア選択に思い悩んだり、不安を感じている人も決して少なくない。しかし、将来のキャリアを思い描き、それを手に入れるために入念にプランを練るのは本当に有意義なことなのだろうか。
自らの進む道を情熱的かつしなやかに切り拓いていく2人の起業家、ライフネット生命新社長・岩瀬大輔さんとウォンテッドCEO・仲 暁子さん。自分らしい未来を描くために誰もができることを、お2人に語ってもらった。

ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長兼COO 岩瀬大輔さん
1976年埼玉県生まれ。1998年に東京大学法学部を卒業後、ボストン・コンサルティング・グループ、リップルウッド・ジャパン(現RHJインターナショナル)を経て、ハーバード経営大学院に留学。同校を日本人では4人目となる上位5%の成績で卒業(ベイカー・スカラー)。2006年にライフネット生命保険株式会社の設立に参画。2013年6月23日より現職。世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」選出。株式会社ベネッセホールディングス社外取締役

ウォンテッド株式会社 代表取締役CEO 仲 暁子さん
1984年千葉出身。子供時代米国で過ごし、高校時代はニュージーランドに留学。京都大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。退社後、Facebook Japan株式会社の初期メンバーとして参画。ソーシャルメディアの力に感銘を受け、その力の教授者を増やすべくウォンテッド株式会社を立ち上げ、2011年12月よりソーシャル・リクルーティング・サービス『Wantedly(ウォンテッドリー)』http://site.wantedly.com/ を運営。趣味は漫画を書くことと走ること
今この瞬間のチャレンジが未来を切り開く
――ビジネス環境の変化が厳しい昨今、自分の将来像が描けず、不安を感じている人も少なくありません。お2人は、そのような経験がおありでしょうか。
仲さん(以下、仲):わたしもビジョンなんて描けなかったし、いろいろ迷いましたよ。本来モノ作りが好きなのに、周囲の目を気にして、新卒で就職したのはゴールドマンサックス証券。まったく毛色の違う会社に入って、1年半で会社を辞めた後、本気で漫画家を目指していた時期もありましたし。
岩瀬さん(以下、岩瀬):漫画家ですか!
仲:はい。賞に応募したりしていたんですが、結局ダメできっぱりあきらめました。で、同じモノ作りでも、今度はWebサービスに行って。父は大学教授なのですが、専門が情報系で、子どものころからパソコンに触れていたこともあって、素人ながら自分でサイトを作り始めました。そうこうしている中で、新たな出会いや気付きを得て、それがまた次につながって……という感じです。
岩瀬:僕も20代のころは、その時、その時、目の前のことに全力投球してきただけ。そして気が付いたら、今があるというのが実感です。若いうちに、やりたいことやなすべきことが見えないのは当たり前で、迷ったり、もがいたりしながらも、チャレンジしていくのが人生です。
――まさにチャレンジを重ねてきた点がお2人の共通点ですよね。その原動力は何でしょうか。

岩瀬:ずっと周りから「なんでそんなことをやるんだ?」と言われ続けてきましたけど(笑)。ハーバードを卒業してライフネット生命を始めるときも「何で保険会社をやるの?」と。あらためて振り返ると、海外生活の経験がベースにあると思います。みんなと同じでなくていい、自分のやりたいことや好きな道を選べば、むしろ人と違っていてもいいんだと自然に思えます。
仲:確かにわたしの周りでも、帰国子女の友達は特に、周囲の目を気にせず、我が道を行くタイプが多いです。わたしの場合、一番大きかったのは母の影響ですね。大学で心理学を教えているんですが、若いころはお金もなくて、ただひたすら目の前の研究に没頭していた。でも好きなことをやり続けてきたら、今では、社会の新しい仕組みを作る国家規模のプロジェクトに携わるようになって。そういう姿を見ていたら、ああ、自分の好きなことを一生懸命貫いていけばいいんだなと思えるようになりました。
岩瀬:素晴らしいお母様ですね。うちの母なんてミーハーだから、僕が司法試験に合格したのに弁護士にならず、ボストン コンサルティング グループに入社すると言ったら、「わたしは弁護士の母のほうがいいのに!」と(笑)。もはやネタにしていますが。
でも父は、一切何も言いませんでした。小学校のころまではそれなりに干渉されたんですが、どうやら父は「中学に入ったら男の子には何も言わない」と自分で決めていたらしいんです。僕は何度も転職してきたので、父は社会人の先輩として講釈を垂れることもできたはずですけど、良いも悪いも、1回も言われたことがなくて。いつも「ふーん、そうなんだ」というスタンスで、それもある意味、背中を押してもらったと言えるかもしれません。
良いことも悪いことも、すべてのプロセスを楽しむ
――今考える10年先、20年先のご自身の姿について教えてください。
仲:今に集中しているから、10年先のことなんて、全く考えられないですね。
岩瀬:こんなふうに年を取りたい、みたいなイメージはありますか?
仲:それもあまり……。会社のことは考えますけど、自分のことはせいぜい2週間先くらいまでです(笑)。
岩瀬:それはやはり20代だからだと思いますよ。僕は30代になって、初めて間近に60代の人と接したわけです。出口(治明氏・ライフネット生命代表取締役会長兼CEO)が毎日生き生きと働いている姿を見ていると、僕も60歳になったら30歳の若者をつかまえてベンチャーを立ち上げたら楽しいだろうなと思うようになりました。しかも最近は、勉強会を通じて80代の方々との接点もできて、生き方の示唆を受けることが多くて面白いですよ。

仲:学生時代はビジネス書を読みまくっていて、未来の自分の姿を想い描いて「夢に日付を入れると叶う」などと読んでは、ノートに未来の日付を入れたりしていました。しかし、書き込んだだけで忘れてしまって、続いたためしがない(笑)。これでは意味がないと気付いてやめました。
それに、未来にゴールを設定してしまうと、そのために今の時間を費やしているみたいで、もったいないなと思うようになりました。がむしゃらに今を生きて、気付いたら「こんなところまで来ていたんだな」と振り返っているのが理想ですね。
岩瀬:僕も全く同じで、10年前の自分が今の自分を想像できたかというと、絶対に想像できなかった。社会人1年目のころは、何歳で留学して、何歳で独立して……とか書き出してみたものの、人生は計画通りにはいきませんよね。むしろ計画通りにいく人生はつまらない。
その計画は、その時の自分のちっぽけな世界観の中でしか立てられないわけです。10年後は、10年前には想像もできない展開になっている方がずっと面白い。この先の10年後も、今の自分の世界観に収まりきらないくらいの面白いことになっていればいいなと思っています。
仲:わたしは、人生は有限だという思いがすごく強いんです。今やらなければ、あっという間に終わってしまう。だから、常に切羽詰まっていますね。
岩瀬:その感覚は僕も昔からあって、20代のころは、自分で目標を作って早く達成したいと思っていました。ただ、「早く司法試験に合格したい」、「早くマネジャーになりたい」、「早く留学したい」と考えていると、いつも“今”は道半ばで、常に自分が不完全な状態にあるように感じていたんですね。
あるとき気付いたんです。人生は、大陸を鉄道で横断する旅のようなものではないかと。目的地に早く着きたいなら、飛行機に乗ればいい。でも旅の目的は、早く到着することではなくて、車窓の風景だったり、たまたま乗り合わせた人との他愛のない会話だったり、“今”している移動そのものを楽しむことですよね。
人生の目的も同じで、道のりそのものだと思うんです。思いがけない出会いも、トラブルやアクシデントも、全部ひっくるめて楽しむこと。仕事だってうまくいかないこともたくさんあるけれど、それも自分の糧になる。やりたいことをやって、すべてのプロセスを楽しめるようなって、今は、いつ死んでも悔いはないという気持ちがあります。
社会的に大きなインパクトを残したい
――では、経営者として、ビジネス上の目標や将来の展望については、どうお考えですか。
岩瀬:10年先、20年先のことは誰にも分かりませんが、昔から出口が「100年後に世界一の保険会社にする」と言い続けているんです。もちろん異論はないんですが、正直、よく分からなかったんです。100年後は僕だって生きていないだろうし、誰もそれを検証できない。荒唐無稽な夢としか思えなかったんですね。
それが去年バルセロナに行って、サグラダファミリアを見て、「ああ、こういうことなのか」と目から鱗が落ちました。本当に大きいものを作ろうと思ったら、1世代では終わらない。でも本気で願って、グランドデザインを描いて、思いを伝えていけば、必ず誰かが汲み取って、実際に作り続けてくれるんですよ。こういうことがやりたいと本気で考えていたんだなと1人で感動して、「出口さんの言っていたことがようやく分かりました」とバルセロナからハガキを出しました。

仲:壮大な発想ですね。そして今度は岩瀬さんが社長になって。(編集部注:2013年6月23日にライフネット生命保険代表取締役社長に就任)
岩瀬:出口はタスキを渡したわけです。それを受け取って今度は僕が走って、また次に渡していく。タスキリレーで、大きなものを作っていく感覚ですね。
仲:わたし自身は、会社を大きくしたいという発想はあまりなくて、それよりも社会的に大きなインパクトを残したいという想いが強いです。その結果として、会社も大きくなっていくのかなと思っています。
ライフネット生命さんも、最初は「誰がネットで保険を買うんだ」といったところから、新しい行動様式を生み出していますよね。Wantedlyも、リクルーティングの世界でそれをやりたいんです。例えば、普通なら応募していきなり面接という流れになりますが、まずは会社に遊びに行けるんです。そこで「自分はこんなことをやっています」とか、「うちの会社はこうなんですよ」と、人事とフランクに会話をして、お互いにありのままの姿を知ることができる。
岩瀬:会社側は誰を呼ぶかを選べるんですか。
仲:選べます。ただ、普通の採用の流れよりも、ぐっと敷居を下げているんです。最初は人事の方にもかなり抵抗があったみたいで、そもそも「遊びに来る」ってどういうことだ?と(笑)。でも、そこを一歩踏み出していただいて、実際に良い人が採用できたという成功事例が増えてきたら、新しい行動様式だったものが“普通のこと”として根付いていって。そんなふうに社会を変えていければ面白いなと思っています。
「経営者」というキャリアの先に目指すもの
――組織のトップである経営者を、キャリアのゴールとして目標に掲げる人もいます。実際に経営者という立場にあるお2人はどう感じているのでしょうか。
仲:これがゴールだとは全く思わないですね。わたしはもともと経営者を目指していたわけではなくて、モノ作りが好きで、それを突き詰めていったら、いつの間にかチームが大きくなっていた。
実は学生時代にベンチャーもどきをやったことがあったんですが、わたしのリーダーシップが欠如していて、空中分解したんですよ。昔は「自分が、自分が」という気持ちが強すぎて、誰も付いて来なかった(笑)。今もまだそんな傾向はありますけど、学生時代に比べたらものすごくマシになったと思います。だから漫画家もそうですけど、個人プレイの仕事が向いていると思っていました。
岩瀬:そのころと今とでは何が変わったんですか。
仲:背伸びをやめました。無理をしたり、分かったふりをしない。できないことや苦手なことは正直に言って、みんなに助けてもらっています。
今は、すごく優秀な技術者やデザイナーや営業や、いろいろな才能を持ったメンバーが集まっていて、掛け算のパワーを発揮しています。チームの力ってすごいなとあらためて感じています。
岩瀬:僕もみんなに助けてもらっているタイプのリーダーですよ。社長といっても、役員の多くは僕より一回り以上年上だし、ビジネス経験も豊富で、お金のために働く必要もない立場の人たちばかり。とてもベンチャー的ですけど、一緒にやりたいと思うからやっているんですね。権力やお金で縛るのではなく、みんなが純粋にやりたいと思うから、やってくれているという状態は理想的ではないかと思いますね。
仲:そうですね。うちのチームも、「仲さん一人でめちゃくちゃやっててちょっと心配だから、そこは僕が、わたしがやらないと」と思ってくれているのかもしれない。そんな感じですから、経営者というポジションにこだわりはないんですよ。極端な話、その方がうまくいくなら、別の優秀な方に経営を任せてもいいとさえ思っています。
それよりも、インパクトのあるサービスを生み出すことにこだわりたい。自分の作ったものに、多くのリアクションがあると、純粋にワクワクするじゃないですか。
岩瀬:仲さんは今の時代に合ったリーダーシップを発揮できているんじゃないですか。憧れの女性経営者の方とかっています?
仲:トレンダーズの経沢香保子社長は子どももお2人いらっしゃって、会社も大きくされてすごいですよね。やはり女性は子どもを産むときにキャリアを一旦ストップしなくてはいけないので不利だなと思います。バリバリ働いている友達の中には、「子どもは産まない」と言っている人もいますよ。外資系企業にいたときは産後2週間で戻って働いていた人もいましたけど。
岩瀬:仲さんも早めに産んで、戻ってまたバリバリ働けばいいんじゃない?(笑) ライフネット生命の男性社員は子育てにも協力的な人が多いんですよ。子どもが病気になったりしたら、大事な会議の最中でも抜けていってしまいますから。えっ、今ホントに行っちゃうのって時ありますよ(笑)。でもそれをみんな自然体で受け入れている。
仲:素敵な会社ですね。
岩瀬:これからやっていきたいことは?
仲:わたし自身も仕事でいろいろ迷って、でも今は好きなことができて、毎日がすごく楽しいんです。ずっとモノ作りに携わって、Wantedlyのサービスを使って仕事でワクワクする人を増やしていければうれしいですね。岩瀬さんは経営者としての立場ってどう感じていらっしゃいます?
岩瀬:経営者なんて会社内の肩書に過ぎませんよね。それこそインパクトのあるサービスを作りたいとか、もっと会社を大きくしたいとか、その先がまだまだある。例えば僕は今年、ベネッセホールディングスの社外取締役に就任したんですが、会社の枠を超えて、また新たな関わりも増えてくるでしょう。会社の中のポジションよりも、社会における役割。社会に対してどんな貢献ができるのか、どれだけ影響を与えられるのかを追求していきたいですね。
華麗にキャリアを積み上げてきたように見えるお2人も、その道のりは決して計算されたものではなかった。先が見通せたわけでも、すべてが思い通りに進んだわけでもなく、その時その時の直感を信じて、自分が求めるものを追い続けてきただけなのだ。それが思いもしなかったジャンプアップにつながると体感しているからこそ、今も見えない未来に心を躍らせている。
良いことも悪いことも含めて、プロセスすべてを楽しむことを目的とするならば、前進し続けている限りキャリアにゴールはない。懸命に今を生きる道のりそのものが、自分自身のキャリアになるはずだ。
取材・文/瀬戸友子 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)