28 SEP/2018

【二階堂亜樹×高宮まり】“女流雀士”の素顔とプロ魂「もっと強くなりたい。もっと魅力的な試合がしたい。麻雀の魅力を伝えるために」

「麻雀=煙草をぷかぷかと吸いながら、大学生やオジさんたちがやっているもの」――というイメージを持っている人は多いんじゃないだろうか。だが、そんな麻雀が今劇的に変わろうとしている。2017年4月に「国際マインドスポーツ」に認定され、チェスや囲碁同様、思考力の問われる世界的競技の一つに。さらに国際麻雀連盟は、北京冬季オリンピックの正式種目として国際オリンピック委員会(IOC)にも申請している。

そんな中、日本でも新たな動きが。10月1日より、選ばれしトッププロだけが出場を認められたプロ麻雀リーグ・Mリーグが開幕。コナミアミューズメント、セガサミーホールディングス、電通、博報堂DYメディアパートナーズ、テレビ朝日、U-NEXT、そしてサイバーエージェントと日本のビッグカンパニーがオーナーとなって7チームを結成。計21名のMリーガーがチームに分かれ、覇を競う。

もしかして勝手にダークなイメージを持っていただけで、実は麻雀ってスゴいのでは……? 

ということで、今回は初代Mリーガーに選ばれた女流雀士の二階堂亜樹さんと高宮まりさんに、私たちが知らない頭脳スポーツ・麻雀の魅力を聞いてみた。

【二階堂亜樹×高宮まり】“女流雀士”の素顔とプロ魂「もっと強くなりたい。もっと魅力的な試合がしたい。麻雀の魅力を伝えるために」

写真左: 二階堂 亜樹(にかいどう・あき)さん
1981年11月15日生まれ。神奈川県出身。日本プロ麻雀連盟15期生としてプロ試験に合格。以来、プロ雀士として活躍する。主なタイトルに、2005年第3期プロクイーン、06年モンド21王座、07年第2期・2008年第3期女流桜花など
写真右: 高宮 まり(たかみや・まり)さん
1988年11月8日生まれ。茨城県出身。日本プロ麻雀連盟27期生としてプロ試験に合格。以来、プロ雀士として活躍する。主なタイトルに、第11回女流MONDO杯、 第8期夕刊フジ杯争奪・麻雀女王決定戦(個人戦)、第1回女流プロ日本シリーズ優勝など

持久力・集中力・判断力が問われる頭脳スポーツ・麻雀

――いきなりプロの方を前にこういう話をするのも何なのですが、一般的に女性の間で麻雀がそこまで根付かないのって、何となくギャンブル的な要素が強いからなのかなと思うのですがいかがでしょう?

二階堂:そういう声も確かによく聞きますね。ただ、そこで誤解を解いておきたいのですが、そもそも「麻雀=ギャンブル」ではないんです。麻雀をカテゴリー分けするとしたなら、卓上ゲーム。将棋や囲碁と同じ頭脳ゲームの一種なんですよ。

――頭脳ゲーム……? それは例えばどんなところが?

二階堂:まず簡単に説明すると、麻雀は「牌(パイ)」と呼ばれる駒を、14枚揃えて遊ぶゲームです。同じ種類の牌が3つ揃うと「1メンツ」という組になって、この組み合わせが特定のパターンを満たしたときに「役」が成立します。ポーカーは分かりますか?

――な、何となく……。

【二階堂亜樹×高宮まり】“女流雀士”の素顔とプロ魂「もっと強くなりたい。もっと魅力的な試合がしたい。麻雀の魅力を伝えるために」

二階堂:ポーカーにも「フルハウス」とか「ロイヤルストレートフラッシュ」とかいろんな手札の組み合わせがありますよね。要は、それと同じです。「役」ごとに点数が決まっていて、「役」を揃えることで得点を獲得し、最終的にそのポイントで勝敗が決まる。細かいルールは他にもいろいろありますが、ざっと説明するとそんな感じです。

高宮:この「役」を揃えるために、プレイヤー同士でいろんな心理戦が繰り広げられるところが麻雀の面白さ。麻雀は原則4人で打ちます。対局中は、自分の手牌だけじゃなく、相手のことも考えながら進めないといけないので、すごく想像力が必要なんです。

二階堂:基本的には、「山」と呼ばれるところから牌を1枚拾って、代わりに自分の手牌から1枚牌を捨てることで、メンツを揃えていくんですけど、自分が捨てた牌を拾うことで相手が「和了(あがり)」になるかもしれない。そう考えたら無計画に牌は捨てられません。今、相手の手牌はどういう状態なのか。常に考えをめぐらせなくちゃいけないし、瞬発力も判断力も求められる。しかも、相手は1人ではなく、3人いるわけですから、相手の心理を読むのも3人分。非常にタフな競技です。

――結構、駆け引き的な面もあるわけですね。

二階堂:そうですね。あと一つ必要な牌が来れば和了(あが)れるというときも、露骨に表情に出したら相手に悟られるかもしれない。だから敢えて何でもないような顔をしたり。心理戦的な要素は強いと思います。

高宮:私が特に重要だと思うのは集中力。対局の間、集中を切らさずにいるには相当な精神力が必要です。

二階堂:テレビ中継がある場合を除けば、通常、1回の対局にかかる時間50~60分。それを1日4回ほど行います。

【二階堂亜樹×高宮まり】“女流雀士”の素顔とプロ魂「もっと強くなりたい。もっと魅力的な試合がしたい。麻雀の魅力を伝えるために」

高宮:しかも対局と対局の間は10分程度。ほとんど休みなく対局が続くんです。

二階堂:だから持久力も欠かせませんね。

高宮:疲れていたら判断力も鈍る。1日試合をやり切るだけの体力も雀士の必須スキルです。

折れない心の秘訣は、「自分は強い」と思わないこと

――先ほど、将棋や囲碁と同じというお話もありましたが、勝負の世界で戦っているプロの方々から学べるところはたくさんあると思っています。そこでまずお聞きしたいのが、勝負師のルーティンについて。ビジネスでも絶対にミスができない大一番というのがありますが、そこで最大のパフォーマンスを発揮するためには、それまでの間、どう過ごすかが肝。お二人は重要な対局のときに何かやっていることはありますか?

二階堂:特別なことをすると、逆に意識しすぎて萎縮してしまう。だから、私は敢えて普段通りに過ごすようにしていますね。唯一守っているルーティンがあるとすれば、禊(みそぎ)的な意味を込めて、事前にシャワーを浴びるくらい。食事も普通に食べます。

――そうなんですか。食後はパフォーマンスが落ちるから避けるのかなと思っていました。

二階堂:対局は長時間にわたるので、ちゃんと食べておかないと持たないんですよ。対局が始まる90分前くらいには食事をすませて、なるべく体がフラットな状態で対局に臨めるようにしています。

高宮:確かに食事を取ると眠くなるという人もいますが、ご飯を食べないと力が出ないので、私も食事は取る派。なるべくフラットに、というのは私も意識をしていて。マッサージだったり、収録がある日は美容院にも行くんですが、それも全部2日前までにすませるようにしています。前日は余計なことはせず、普通に過ごすのがポイントですね。

――もう一つ気になるのがメンタルコントロール。それだけ対局が続くと、負けるとテンションが下がったり、引きずっちゃうと思うんですけど、どうやって気持ちを切り替えているんですか?

【二階堂亜樹×高宮まり】“女流雀士”の素顔とプロ魂「もっと強くなりたい。もっと魅力的な試合がしたい。麻雀の魅力を伝えるために」

二階堂:人それぞれだとは思いますが、私の場合、切り替えは一瞬。負けても「はい、次」で終わりです(笑)。

――そんなあっさりと(笑)。

二階堂:いくら負けたことを悔やんでも仕方ないじゃいですか(笑)。それこそ頭の片隅であれこれ敗因を考えていたら次の対局に集中できない。終わったことは取り戻せないんだから、次で取り返そうというタイプです。

高宮:私も引きずらない派ですね。と言うのも、人ってメンタルがマイナスのときは正しい選択ができない生き物。それが分かっているから、反省は全部終わってからって決めています。

――それこそ自分よりむちゃくちゃ強い相手と勝負してボロ負けしたらメンタルがボロ雑巾になる気がします……。

二階堂:そうですね(笑)。でも、それぐらいで打ちのめされていたらプロの世界ではやっていけませんから。

――じゃあ、全然気持ちは折れない?

二階堂:折れません。と言うのも、私、自分が強いと思っていないんですよ。

――え? プロなのに?

二階堂:そもそも私がプロになりたいと思ったのは、「もっと強い人と打ちたい」と思ったからなんです。だから自分より強い人がいるのは当たり前。自分の雀力を上げて、いつか勝ちたいというのがモチベーションなので、そもそもヘコむ理由がないんです。

――プロとして20年近いキャリアを誇る二階堂さんでも、いまだに「自分は弱い」が基本マインドなんですか?

二階堂:ですね。弱いというか、普通です。確かにプロの世界には自分が最強だと思って入ってくる人はたくさんいます。でも、そういう人ほど現実に打ちのめされて辞めていく。ヘコんだり心が折れるのは、自己評価が高すぎるから。私はむしろ自己否定感の方が強くって。自分に全然満足なんてしないし、満足したらそこで頭打ちだと思っている。だから、負けてもいちいちメンタルに振り回されることがないんです。

【二階堂亜樹×高宮まり】“女流雀士”の素顔とプロ魂「もっと強くなりたい。もっと魅力的な試合がしたい。麻雀の魅力を伝えるために」

高宮:私も亜樹さんとほぼ同意見ですね。基本的に私も亜樹さんも自責論者なんです。

――自責論者?

高宮:たとえ負けても相手がどうだとか思わない。全部自分の責任だと思っています。そう割り切っているから変に引きずらないのかも。

――でも、「自分のせい」って思っていると、辛くなったり気持ちがパンクしたりません?

高宮:人それぞれかなとは思うんですけど、私だったら何でも他責にして逃げ続けた結果、大事なところで負けてしまう方がよっぽどツラいし心が折れる。なら、負けた事実を冷静に受け止めて、自分のどういうところに原因があったのか客観的に分析する方がしなやかかなと思います。

子育てからボケ防止まで。広がる麻雀の可能性

――やっぱり、麻雀人口は圧倒的に男性の方が多いんですか?

二階堂:雀士の世界で言えば、男8で女2くらいの割合。男性の方が多いのは間違いありません。ただ、女性で麻雀をやっているという人も増えてきているんですよ。

高宮:西麻布に『RTD』というすごくオシャレな麻雀ラウンジができて。そこでは、シャンパンを片手に女性メインの勉強会なんかもやっているそうです。

――ちょっと興味はあるけど、実際に麻雀を打ったことがないという人が麻雀を始めるとしたら、まずは何から手をつけるといいでしょう?

二階堂:今はいろんな麻雀のゲームが出ているので、まずはそこからやってみるのがオススメです。一人用のゲームなら誰にも迷惑をかけずに気兼ねなく練習ができる。そこで自信がついたら、対人でやってみるといいんじゃないでしょうか。

【二階堂亜樹×高宮まり】“女流雀士”の素顔とプロ魂「もっと強くなりたい。もっと魅力的な試合がしたい。麻雀の魅力を伝えるために」

高宮:あとは、最近は麻雀教室も増えていて。独学で学ぶより、誰かに教わりたいという人は麻雀教室に行ってみるのも手です。

二階堂:最近は麻雀がボケ防止にも効果があるということで、70歳以上のシニア層が脳トレの一環として麻雀を始めるケースも増えました。それから、子育てにいいという話も聞きますね。麻雀は、勝つために我慢をしなくちゃいけない場面もたくさんある。子どもって幼いうちはなかなか我慢ができないから、我慢を覚えさせる上でも、麻雀はいいって。私も5歳の子どもがいるんですけど、全然我慢がきかなくて、そろそろ麻雀をやらせようかなと考えているところ(笑)。そういう意味では、麻雀は一度覚えるとずっと続けられる一生モノのスポーツなんです。

――では最後に、10月1日から始まるMリーグに向けて意気込みを。

二階堂:このMリーグは、麻雀界にとって革命。参加させていただく以上、このMリーグを通じて麻雀界の未来をより良いものにしていきたいと思っています。そのためにも、私自身がもっと強くならなくちゃ。見ている人を惹きつけられる麻雀ができるよう、そしてたくさんの人に応援してもらえる魅力的な雀士になれるよう、自分の人間性を磨いていきたいです。

高宮:選出された21人の中でも、私は若手という立場。プレッシャーももちろんありますが、たくさんの先輩たちと直接戦えることで、レベルアップしていけたらいいなと思っています。この貴重な機会を私の成長の糧にしたいです。

取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太


■プロ麻雀リーグ「Mリーグ」について
「Mリーグ」は、競技麻雀の普及と発展を目的として2018年7月17日(火)に発足。8月に実施したドラフト会議での参加チームによる指名、交渉を経て、計21名の初代Mリーガーが誕生し、いよいよ10月1日(月)に開幕します。開幕戦からの全試合はインターネットテレビ局「AbemaTV」にて中継されるほか、10月11日(木)以降に行われる一部試合は、パブリックビューイングでの観戦も可能、「チケットぴあ」にて観戦チケットを販売しています。

「Mリーグ」公式サイト:https://m-league.jp/
「Mリーグ」観戦チケット販売:http://w.pia.jp/t/m-league/