18
DEC/2018

「落ち込んだときは、サウナでラリってムエタイで強くなれ」元アル中、まんしゅうきつこがお酒の代わりに見つけた逃げ場

タグ:

立ち直る、立ち上がれる、何度でも。
再生する女たち

人生100年時代。長い長い人生は、楽しいことばかりではない。時には「もう無理」と嘆きたくなるような、つらい時期もあるかもしれない。でも、私たちは必ず、立ち直ることができる――。それを証明してくれる、女性たちの姿を紹介しよう

「もうやってられるか!」と、仕事終わりにビールをあおる。ストレス発散の手段としてお酒を飲むことも時にはあるだろう。だが、憂さ晴らしだったはずのお酒も度を超えれば、記憶をなくしてしまったり体調を崩してしまったりと、悪影響を及ぼす。

自身のアルコール中毒体験を描いたエッセイ漫画『アル中ワンダーランド』(扶桑社)で注目を集めたまんしゅうきつこさんも、お酒を飲み始めた最初のきっかけはストレスだった。飲酒量はどんどん増え、幻覚や被害妄想、記憶障害と、症状は悪化。そこからどう立ち直ったのだろう。今では「お酒は完全に断った」という彼女が新しく見つけた癒しの場とは……?

漫画家・イラストレーター まんしゅうきつこさん
漫画家・イラストレーター
まんしゅうきつこさん

埼玉県生まれ。日大芸術学部卒。2012年に始めたブログ『まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど』で注目され、15年には自身のアルコール中毒体験を描いた単行本『アル中ワンダーランド』(扶桑社)を刊行。その他著書に『ハルモヤさん』(新潮社)『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)などがある。最新書籍『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)も好評
Twitter:@kitsukomz

ネットの悪意に立ち向かうために、お酒を飲み始めた

私は3年前、『アル中ワンダーランド』という漫画を描きました。自分のアル中体験を元にしたエッセイ漫画。笑って楽しんでほしいと思って描いたんですけど、アル中の渦中にいた当時は本当にしんどかったんです。

漫画家・イラストレーター まんしゅうきつこさん 『アル中ワンダーランド』
『アル中ワンダーランド』より

もともと付き合いでビールを2〜3杯飲む程度だったお酒の量が増えてしまったのは、ブログを始めたことがきっかけでした。思いの外反響が大きくて、「面白い」ってコメントをいただく一方、「早く死ねよ」みたいに言われることもあったんです。9割がいいコメントだったとしても、一つの悪意が全てをぶち壊すんですよ。

もう書きたくないし、辞めちゃおうとも思ったんですけど、すでに書籍化の話が決まっていました。それに、ひどいコメントを送ってくる人たちをギャフンと言わせるためにも、「書き続けなければ」って思ったんです。ああいう人達って心を折って筆を折らせることが目的なので、ひどい反響があればあるほど、絶対に続けてやろうって思った。

そこに立ち向かうために、飲み始めたのがお酒です。お酒を飲んで、全員ぶっ殺してやろうと思っていました。書いたやつ一人一人を待ち伏せしてやろうとか、家に押しかけて火つけてやろうとか考えていて、「私が刑務所に入ったらごめんね」って母にも伝えていました。実際にはやらなかったけど、まぁ、そういう妄想をする時期ってみんなありますよね……(笑)?

漫画家・イラストレーター まんしゅうきつこさん 『アル中ワンダーランド』
取材当日、前歯がなかったまんしゅうさん。「差し歯がとれてしまって」とのこと

そんな感じでお酒を飲むようになったわけですが、だんだん加減が分かんなくなっちゃったんです。カレーにハマったらカレーばっかり食べ続けるみたいな感じで、1日中お酒を飲むようになっちゃった。お酒飲んで訳わかんなくなってる時って楽しいんですよ。朝起きて冷蔵庫を開けてウイスキーを飲んで、合法的にラリるのが好きだったんです。

ただ、朝から1日かけてウイスキーをひと瓶空けるような生活を続けるうちに、楽しいラインを越えて、しんどくなっちゃった。夜に少し飲むくらいなら平気だったと思うんですけど、1日中ずっと飲み続けちゃったんです。連続飲酒が一番良くないらしくて、明らかに体調も悪かった。

その結果、酔っ払ってご近所の人とケンカして「あの家の人は頭がおかしい」って噂が流れちゃったし、イベントではおっぱいを出しちゃいました。しかもブサイクな方のおっぱいを……。記憶が飛んでいたので覚えてないですけど、その場を盛り上げなきゃっていう使命感に駆られちゃったんでしょうね。

漫画家・イラストレーター まんしゅうきつこさん 『アル中ワンダーランド』
『アル中ワンダーランド』

駅のホームでお酒を片手に電車を眺めながら、「死にたい」と思っていた時期もありました。このころはつらい気持ちから逃れるために酔っ払いたくて、最終的にはみりんや消毒用のアルコールも飲みました。酔えればなんでもよかったんですよ。記憶が飛んでラリってる間は、つらさがかき消されるんです。

まんしゅうきつこから消えた“負のオーラ”
「サウナなら健康的にラリれる」

漫画家・イラストレーター まんしゅうきつこさん 『アル中ワンダーランド』
普段はどんな場面でも、もう一人の自分が冷静に状況を見ていて、「このセリフは使えるな」「これはいつか漫画にしよう」って考えているんです。でもアル中の時は、冷静な自分はいなかったんですよ。この体験を漫画にしようなんて思ってもいなかった。つら過ぎたんですかね。

宮田珠己さんが『まんしゅう家の憂鬱』の書評で「考えすぎてタガの外れた人」って書いてくださったんですけど、振り切れてしまった時の自分のことが自分でも怖いんです。一定のラインを越えてしまった時に、「人生どうなってもいいや」「ここで死んでもいいや」って思っちゃう。漫画にしていることは全部振り切っている時の話で、基本は人の目も気になるし、恥ずかしいんですけどね(笑)

アル中は病院に通って回復して、今はもう全く飲んでいません。飲みたい気持ちはかなり薄れていて、飲まなくても平気なんだってようやく思えるようになってきました。飲まなくても楽しめるし、飲みたい時はノンアルコールビールで満足できる。

実は回復した後に一度お酒を飲んじゃって、また良くない状態になってしまったことがありました。『アル中ワンダーランド』を描き上げてしばらくしたころだったと思います。あ、担当編集の高石も今アル中で病院に通ってるんですよ。

漫画家・イラストレーター まんしゅうきつこさん 『湯遊ワンダーランド』
『湯遊ワンダーランド』

『アル中ワンダーランド』を作っているときに「編集として、まんしゅうさんの気持ちが分からないといけない」って、朝からワインを飲むということを意識的に始めたみたいで。最近、記憶が飛んでいる間に上司に電話して暴言を吐いたり、会社の悪口をツイートしたりいろいろあったらしく、本人も「これはヤバイ」って病院に行ったらアル中って診断されちゃって。それ以来、「2人とも飲まないことが断酒会」みたいな感じになっています。私が飲んだら高石も飲んじゃうし、高石が飲んだら私も飲むだろうから、お互いが抑止力になっていますね。

あとは、サウナとの出会いが大きいんです。アル中の時にライターのヨッピーからサウナを勧められて、その後に弟からも勧められた。2人から言われるならとりあえず行ってみるかと思って通うようになったら、「これはラリれるな!」って気が付いて。

サウナ後の水風呂の感じと、お酒を飲んでふわっとする感じは似ているんです。サウナなら合法的に、健康的にラリれる。こりゃあいいぞって、すっかりハマりました。

漫画家・イラストレーター まんしゅうきつこさん 『湯遊ワンダーランド』
『湯遊ワンダーランド』

『アル中ワンダーランド』を描いていたころは「負のオーラがヤバイ」ってめちゃくちゃ言われていたんですけど、サウナに出会ってからは「負のオーラが消えた」って言われるようになりました。アル中当時の自分には、ぜひともサウナに入ってほしいですね。

自分の悩みから一番遠いコミュニティーを逃げ場にして

漫画家・イラストレーター まんしゅうきつこさん 『湯遊ワンダーランド』
私はネットでの悪口をきっかけにアル中になったわけですが、叩いている人たちは別に深く考えてないんですよね。これは世の中に出た時の通過儀礼みたいなものだから、気にしないのが一番だって今なら分かります。もう嫌なコメントはすぐにブロックするし、「ぶっ殺してやる!」なんてことも思わない。でも、最初はどうしても気にしちゃうし、こればっかりは慣れですね。

つらい経験も無駄じゃなかったと思える時はいつかくるから、しんどい思いをしている人はとことん落ちてみたらいいんじゃないでしょうか……とも思いますが、私はドン底の底まではいかなかったんです。アル中には「底付き体験」といって、最悪のところまで落ちて、底にタッチしたからこそ浮かび上がれるっていう考え方があるんですけど、私は底付き体験がないまま日常に戻ったんですよ。もしあれ以上落ちていたとしたら……私の場合は下手したら死んでいたかもしれない。

今崖っぷちにいる人はどうしたらいいんでしょうね。高石は数日間失踪していましたけど、私は落ち込んだ時は必ず、「ムエタイを習いたい」って思うんです。これは理にかなっていて、すげえ強くなって、「こんな穏やかな顔してるけど、本気出せばいつでもお前のこと殺せっからな?」って思えるのは、励みになるような気がするんです。

ムエタイってあらゆる格闘技の中で最強らしいんですよ。「お前がムエタイの試合前に祈りのダンスを舞ってるの、想像するとうんざりするからやめろ」って家族に止められてしまって、結局習ってはいないんですけど。

漫画家・イラストレーター まんしゅうきつこさん 『湯遊ワンダーランド』

ムエタイなんて習えるか!ってくらいどん底にいるなら、落ち込む原因になっている人間関係以外の逃げ場を持つといいと思います。私はアル中でしんどかった時期に、Twitterで仲良くなった人たちを逃げ場にしていたんです。今も仲が良くて、もう10年ぐらい付き合っていますが、たまにご飯を食べに行くだけで楽になる。会社の付き合いが嫌なら無職の人と遊んでみるとか、自分の悩みから一番遠いコミュニティーに参加するのはいいんじゃないかな?

私は息抜きがめちゃくちゃ下手で、常に気を張って、ずーっとこわばっていたんです。寝ている時すら悪夢から逃れられない。そこから解放されるためにこれまではお酒を飲んでいましたが、今はサウナという逃げ場が見つかって、健康的に力が抜けるようになりました。

霊能者の人に相談したら、悪霊は首から入るらしいんです。枕を麻にすると入ってこられないらしいんで、悪夢を見る人はサウナに行って麻の寝具で寝るといいですよ(笑)。そうしてちょっと元気になってきたら、ムエタイを習って物理的に強くなる。やっぱり、逃げ場を持つことが大切なんだと思います。

漫画家・イラストレーター まんしゅうきつこさん 『湯遊ワンダーランド』

取材・文・構成/天野夏海 撮影/赤松洋太  編集/栗原千明(編集部)


【最新著紹介】
漫画家・イラストレーター まんしゅうきつこさん 『湯遊ワンダーランド』
『湯遊ワンダーランド2』(扶桑社)
『週刊SPA!』で好評連載中の実録銭湯漫画『湯遊白書』が、『湯遊ワンダーランド』と改題のうえ単行本に。
アルコール依存を激白した『アル中ワンダーランド』で鮮烈のデビューを飾った漫画家まんしゅうきつこ、今度はまさかのサウナに依存!?
>>Amazonで購入する

『特集:再生する女たち』の過去記事一覧はこちら

>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/work/saiseiをクリック

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Woman typeの最新情報をお届けします

あなたにオススメの記事

モーニング娘。OG道重さゆみ「全ての努力が報われるわけじゃな...
モーニング娘。卒業後、休養期間を経て芸能界に復帰した道重さゆみさん。ソロ公演『SAYUMINGLANDOLL』の総動員数...

「お米によって救われた」摂食障害だった元新聞記者の人生を変え...
”お米ライター”として活動する柏木智帆さんは、20代の頃摂食障害に苦しんだ。今でこそ、どんぶりご飯をもりもり食べる柏木さ...

パニック障害、父親のゲイビデオ出演、バイセクシャル。漫画家・...
パニック障害、離婚、シングルマザー、父のゲイビデオ出演、親の自己破産による出稼ぎ暮らし……キーワードだけならべれば、漫画...

20代の自分が『サプリ』を読んだらきっと怒り出すと思う【今月...
日々の暮らしの中でちょっとしたチャレンジをすること、それがWoman typeが 働く女性たちに提案する『Another...

あなたにオススメの企業

オススメ求人特集

育児と両立可能な会社

憧れの上司と働く!女性管理職がいる会社

インセンティブ充実!プチリッチな生活を手に入れる

プライベートも充実!年間休日120日以上の求人

未経験でも安心!ノルマが厳しくない営業求人