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FEB/2019

「女性ではなく、敏腕と言われたい」一流ホテルのバーテンダーが目指すもの

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男職場で活躍する女性たちにフォーカス!
紅一点女子のシゴト流儀

日本の職場の多くは未だに“男性社会”だと言われている。そんな中、職場にどう馴染めばいいのか悩んだり、働きにくさを感じている女性も少なくないのでは? そこでこの連載では、圧倒的に男性が多い職場でいきいきと働いている女性たちにフォーカス。彼女たちの仕事観や仕事への取り組み方をヒントに、自分自身の働き方を見つめ直すきっかけにしてみよう!

「仕事を選ぶ基準として性別を意識したことはありません。やりたいか、やりたくないかが全てだと思います」

まっすぐな目でそう語ってくれたのは、都内の一流ホテル『ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町」の35階にあるバー『スカイギャラリーラウンジ レヴィータ』で、バーテンダーとして働く花田美咲さんだ。

バーテンダー歴わずか1年で、『2013 サントリー ザ・カクテル アワード』でリキュール部門の最優秀作品賞を受賞するという快挙を成し遂げ、その後も数々の大会で優勝した経験を持つ。最近はメディアからの取材依頼も多いそうだが、ここに至るまで、決して平坦な道のりではなかった。彼女は、「バーテンダー」という仕事をなぜ選んだのだろう。

株式会社プリンスホテル  花田美咲さん  2012年4月、株式会社プリンスホテル入社。ザ・プリンス パークタワー東京「スカイラウンジ ステラガーデン」にてバーテンダーとして勤務。13年に「2013サントリー ザ・カクテルアワード リキュール部門」で最優秀賞を受賞。14年にはHBA東京支部主催「第8回創作カクテルコンペティション ジュニアレディースオールデーショート部門」で優勝を果たす。写真のカクテルは「ラズベリー&パッション マティーニ」
株式会社プリンスホテル 
花田美咲さん

2012年4月、株式会社プリンスホテル入社。ザ・プリンス パークタワー東京『スカイラウンジ ステラガーデン』にてバーテンダーとして勤務。13年に『2013サントリー ザ・カクテルアワード リキュール部門』で最優秀賞を受賞。14年にはHBA東京支部主催『第8回創作カクテルコンペティション ジュニアレディースオールデーショート部門』で優勝を果たす。16年より、同年7月にオープンしたザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町の『Sky Gallery Lounge Levita』にてバーテンダーとして勤務。
写真のカクテルは「ラズベリー&パッション マティーニ」

「私に合うカクテルをお願いします」
初のバーで出会った女性バーテンダーが、運命を変えた

地元・青森のホテルで勤務していた父親に影響を受けてホテルスタッフを目指し、高校卒業後はホテルの専門学校に通うために上京した花田さん。都内のさまざまなホテルを見学して回る中で、ある日訪れたのが、プリンスホテル系列の「ザ・プリンス パークタワー東京」だった。そのバーで出会った女性バーテンダーの存在が、花田さんの運命を大きく変えた。

「バーテンダーは男性の仕事というイメージが強かったので、女性がいることにまず驚きました。バーに行ったのは初めてだったので、何を頼んだらいいのかわからなくて、『自分に合うカクテルを』と注文したのを覚えています。クールな印象の女性バーテンダーが目の前でシェイカーを振る姿はとてもかっこよくて、思わず見とれてしまいました」

花田さん

バーテンダーの美しい動きから生み出されたカクテルは見た目も華やかで、とてもおいしかった。何よりも、目の前で“自分のためのカクテル”を作ってもらえたことに感動し、「バーテンダーになりたい!」と決意。すぐに同じバーでアルバイトとして働き始めた。

「とにかくその女性バーテンダーがかっこ良くて、『私もこんなふうになりたい!』と、憧れる気持ちが強かったですね。やりたいか、やりたくないかが全てで、性別を意識することはありませんでした。とりあえずチャレンジしてみようという気持ちで、専門学校を卒業した後にそのままプリンスホテルへ就職しました」

初めはホール勤務をしながら、バーで働く上で必要な知識や技術を身につけた。そして入社から1年後、バーテンダーの認定資格に合格し、晴れてバーテンダーとしてお客さまにカクテルを提供するようになる。

「バーテンダーは、思った以上に力仕事でした。軽やかに振っているように見えるシェイカーは、実際に手にするとかなりの重さがあって、少し振るだけでもかなりの筋力を使います。慣れるまでは大変でしたね」

また、カクテル作りの難しさも予想以上だった。

「リキュールやシロップなど、膨大な材料の基本情報を頭に入れるだけでも苦労したのに、同じリキュールでもメーカーによって味が違うんです。さらにシェイカーの振り方や混ぜる回数など、些細なことで味が変わってきます。レシピ通りに材料を混ぜればいい、というイメージだったんですが、全く違う。なんて奥深い世界なんだろうと、どんどんのめり込んでいきました」

花田さん

バーテンダー歴1年で異例の大会優勝
猛練習の原動力は「予選ビリ」の悔しさだった

バーテンダーの認定試験に合格し、バーテンダーとしての一歩を踏み始めた頃。バーテンダーが技術を競う大会に出場した。そこで花田さんは大きな挫折を味わった。

「上司から『腕試しの良い機会だから』と言われて渋々出場を決め、あまり練習せずに大会の予選に臨みました。結果は、なんとビリだったんです……。当然、予選落ちでした。一方、同期は予選をトップで通過し、本戦でも2位という好成績を残していて。すごく悔しかったですね」

大会では、「味・時間・所作」の3つの面で審査をされる。当時の花田さんには、テクニックとパフォーマンスの美しさの両面で判断される「所作」が充分に身に付いていなかった。経験が浅かったとはいえ、同期が好成績を残している中で、それを言い訳にはしたくなかった。

「もともとは全然負けず嫌いじゃなかった」という花田さんだが、この経験から、「負けたくない!」という思いを強く持つようになる。同年に行われる別の大会への出場を決意し、最下位の悔しさをバネに、猛練習に励んだ。

「所作を身につけるには、とにかく練習を重ねるしかない。そう考えて、勤務日以外でも仕事場を使わせてもらって、練習をしました。家でも寝る前に必ず一連の流れを頭に思い浮かべながら手を実際に動かし、イメージトレーニング。予選でビリだったという事実がとにかく悔しくて、睡眠も削って、3カ月間毎日ひたすら練習に打ち込んでいましたね」

花田さん

そうした努力が実り、「2013年 サントリー ザ・カクテル アワード」では、なんとリキュール部門の最優秀作品賞を受賞。バーテンダー歴1年での大会優勝は、異例の快挙だった。

「すごく嬉しかったです。優勝したことで自信もつきましたし、大会までの限られた時間で集中して練習に取り組んだことで、短期間で大幅に技術力を向上させることができました。毎日必死で練習をした日々はしんどいこともあったけど、かっこいいバーテンダーに憧れて、自分もそうなりたいという気持ちがあったからこそ、頑張れたんだと思います」

「女性バーテンダー」ではなく、「凄腕バーテンダー」と呼ばれる存在になりたい

女性バーテンダーは徐々に増えてきているものの、全体的な割合としてはまだまだ少ない。だが、「女性だから」という理由でやりにくさを感じることはほとんどないという。

「過去には『女性バーテンダーにお酒を作ってほしくない』とお客さまから言われた経験もありましたが、ごく少数です。むしろ女性バーテンダーは珍しいので、お客さまの方から声をかけていただけることも多くて、会話のきっかけが作りやすいという良さがあります。私は自分から話しかけるのがあまり得意ではないので、そこはありがたいですね」

来店客とのコミュニケーションを通じて、自身の改善点が見えてくることもある。「カクテルを提供したお客さまには、必ずフィードバックとして感想をお聞きするようにしています」と花田さん。

花田さん
取材時、「ラズベリー&パッション マティーニ」をつくってくれた花田さん

「お客さまのご要望を受けて目の前でカクテルを作り、提供したその場で感想をいただけるのは、バーテンダーの仕事の醍醐味です。もちろん良い感想ばかりではありません。バーテンダーになりたての頃には、目の前で『まずい』と言われたこともありました。でも、ハッキリとご指摘いただけるのはありがたいこと。お客さまの言葉を真摯に受け止めて、改善につなげるようにしています」

「まずい」と言われた後日、同じお客さまが来店された際には、「もう一度作らせてください」と自ら志願。「何度もチャレンジをし続けた結果、最後には『おいしい』って認めてもらえたんです!」と笑顔で話す。

「バーテンダーに向いているのは、接客が好きで、何かを突き詰めるのが好きな人。性別よりも、そういう素質があるかどうかが何よりも大切だと思います」

バーテンダーになって、今年で7年目。今後の目標を聞いたところ、「東京を代表するバーテンダーになりたい」と強い思いを語ってくれた。

「東京はそもそもバーテンダーの数が多いので、難しいことではあるんですが、どうすればもっと活躍の幅を広げられるのかは常に考えています。女性バーテンダーが珍しいこともあり、最近はメディアに取り上げていただくことも増えてありがたいですね。ただ、本当は腕の良さで多くの方に認めていただきたいんですよ。いつの日か、『女性バーテンダー』ではなく、『凄腕バーテンダー』と呼んでもらえるように、これからもコツコツと技術を磨いていきたいですね」

その仕事で活躍できるかどうかは、性差ではなく「人」による。一貫してそう語る花田さんは、これからも持ち前の負けず嫌いを発揮し、「凄腕バーテンダー」と呼ばれる日に向けて、努力を積み重ねていくのだろう。

取材・文/中村英里 撮影/柴田ひろあき 編集・構成/天野夏海

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