女性活躍はもう古いのか?「男女均等をダイバーシティに置き換えるのはごまかし」【上野千鶴子・浜田敬子・石井リナ・秋田夏実】
「最近、一部の企業から『女性活躍はもう古いんじゃないか』という話を聞くようになった」
11月8日に開催された『MASHING UP』カンファレンスの『「女性活躍」はキモチワルイ?– 新しい言葉をみつけよう』と題した講演で、『Business Insider Japan』統括編集長の浜田敬子さんはこう話した。

2016年4月に「女性活躍推進法」が施行されてから、約3年半。でも、企業の女性管理職の割合はたった1割で、正社員女性の給与は男性の8割程度にとどまっている。男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数は前年から4つ順位を引き上げたとはいえ、149カ国中110位という結果だ。
そんな状況で、「男女平等だ」と感じられている人はどのくらいいるのだろう。「女性活躍」は本当に“古い”のだろうか。
社会学者でジェンダー研究の第一人者である上野千鶴子さん、ダイバーシティを実現するアドビでバイスプレジデントを務める秋田夏実さん、女性のエンパワーメントメディア『BLAST』を立ち上げた石井リナさん、そして浜田敬子さんのディスカッションから、その答えを探る。

※写真左から
Business Insider Japan 統括編集長 浜田敬子さん
ブラスト代表取締役社長 石井リナさん
社会学者・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長 上野 千鶴子さん
アドビ バイスプレジデント 秋田夏実さん
「日本は男女平等だと思っていたのに……」
浜田:最近、一部の企業から「女性活躍はもう古いんじゃないか」という話を聞くようになりました。現実として、女性活躍は今どうなっているのか。皆さんが感じていらっしゃることをお聞きしたいと思います。
秋田:私は日本企業と外資系企業の双方を経験した中で、今勤めている会社が非常に働きやすいと感じています。なぜなら、性別や年齢、国籍も関係なく、同一労働・同一賃金だからです。今年9月に社内で行った調査結果では、世界中から集めた従業員全員に対して、昇進の機会が均等に与えられていたことが数字でも立証されました。だからこの会社を心地良く感じるんだと思った反面、自分がこれまでに経験してきた会社とは全く違うことも痛感しましたね。
石井:私は今年29歳になるんですけど、そもそも「日本は男女平等だ」と思って生きてきました。ずっと日本で暮らしていて、日本は当たり前に男女平等な国であると、3~4年前までは信じていたんです。
前職はIT系の広告代理店でSNSマーケティングを担当していたんですが、2016年頃から企業もインフルエンサーも「ダイバーシティー」や「フェミニズム」といったことを発信し始めました。SNSを通してグローバルな潮流が見えてきて、世界と日本でギャップがあることを感じていた時、男女格差を測る「ジェンダーギャップ指数」2016年版の日本のランキングが「144カ国中111位」だということを知りました。

石井:「日本は男女平等だと思っていたのに、111位なのか……」と正直びっくりしたし、すごくショックでした。男女平等ではないという視点に立つと、「おかしい」と感じることはたしかにあって、目が覚めたような感覚だったんですよね。要は、格差がある状態が“普通だ”と錯覚してしまっていた。
それと同時に、私みたいに勘違いしている女の子はたくさんいるし、女性であるということで生き方を制約されていることに気付いていない人も多いだろうと思いました。何かしらの形でまずはそういう事実に気付かせて、制限なく行動できるようにしないといけない。そんな想いがあって、女性に向けたエンパワーメントメディアである『BLAST』の立ち上げに至りました。
「飲み・タバコ・ゴルフ」男の輪にいないことがハンデを生む?
浜田:実は私、自分たちの世代に対して反省をしているんですよ。1989年に総合職として新聞社に就職して、セクハラやパワハラを受けても、「これを耐えなければ仕事がなくなる」と思って黙っているうちに、考え方がどんどん男性化してしまった。長時間労働をやって当たり前。耐えられなければ職場から去っても仕方がないくらいのことを思ってしまっていました。
上野:そういう時代でしたね。男女雇用機会均等法ができた時、ジェンダー研究者の大沢真理さんが「この法律はテーラーメイド(紳士服仕立て)である」と論文に書いていて、私はその表現力に驚嘆しました。つまり、自分の身に合わない紳士服を着て、男と同じように働かなければ、企業では生き延びていけないっていう法律だった。浜田さんはそこに身を合わせてやってきたわけですね。
浜田:リナさんは上の世代の女性の働き方について、どう思いますか?
石井:今の若い世代にも、同じような価値観が再生産されているのは感じます。私がいた会社でも、自分より上の立場にいる女性は“男性化した女性”が主だった印象ですし、同じような働き方をしなければいけないっていうマインドにはなりがちだと思います。
浜田:そこについていけない女性は会社を辞めていくけれど、会社に残った人は図らずも男性化していく?
石井:そう思います。あとは会社の中ではなく、フリーランスといったオンリーワン戦略を取るような女性も増えてきている印象です。
浜田:無理だと思ったらフリーランスになったり外資系企業に行ったりしてしまう。そうすると古い日本企業はなかなか変わらないですよね。その結果、女性の働き方に関して進んでいる企業とそうではない企業の二極化が起きていると思うんですけど、両方の企業をご覧になってきた秋田さん、どうですか?
秋田:まさに仰る通りだと思います。女性の皆さんが自分の持っているものを最大限発揮していくためには、やっぱり環境が重要です。会社によっては女性が入社して、ポンっと置かれただけでは立ち行かないっていうことがどうしてもあるんですよね。男性同士のコミュニケーションの場で、知らず知らずのうちにいろいろな情報が共有されていることってあるじゃないですか。

浜田:飲みとタバコとゴルフね!
秋田:その輪に入っていけなかった、あるいは入らなかった結果として、情報から疎外されてしまうんですよ。自分がやっている仕事のこともなかなか認知されないですし、そういうギャップが知らない間に積み重なって、ものすごいハンデになっているんだと思うんです。そういう状況を踏まえた上で、情報の外に置かれてしまっている人たちに対してサポートをしていかないと、結果は変わらないように思います。
上野:いろいろなデータを見ていて分かったことは、そういう古い体質の企業とそうじゃない企業、つまりは秋田さんみたいな人がきちんと活躍している企業を比べると、前者は利益率が低い。つまり、長期的に見れば前者は市場競争で負けるでしょう。現状の“おっさん文化”を維持したままでは、日本は巨艦沈没してしまうと思いますよ。
一番いいのは「女性活躍」なんて言葉がなくなること
浜田:今日のセッションのテーマは「女性活躍なんて気持ち悪い」です。この言葉についてはどのように思われますか?
上野:聞いた瞬間に「気持ち悪い」と思いました。その前は「女性が輝く」でしたっけ?「女性」を「男性」に置き換えてみれば気持ち悪さが分かります。「男性活躍」「男性が輝く社会」とは言わないでしょう。イヤな言葉だと思います。
石井:私は逆に、そこまで違和感を持っていなくて。もちろんなくなるべき言葉だとは思いますし、将来的に「そんなことを言われていた時代もあったんだね」って言われるようになればいいなと思いますけど、男女平等だとは思っていないので、まだまだ必要な言葉なのかなと。
秋田:私は最初に日本の典型的な大企業に総合職として入社しました。男性の総合職250人に対して女性はたったの6人でしたし、そもそも願書を送っても女性という理由で門前払いになってしまう時代でしたので、だいぶ世の中は変わったのかなとは思います。とはいえ、そのスピードはすごく遅い。なので、女性活躍という言葉に違和感がある一方で、まだまだ必要な言葉なのかなと感じています。
上野:正式な法律名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」です。ここには「地域」と「家庭」が入っていません。これまで女性は地域や家庭でご活躍くださいと言われていたけれど、今の政治家は口が裂けても「女は家庭に帰れ」とは言わなくなった。その変化は感じましたね。
浜田:政治家から言われたことにも違和感がありましたよね。私たちは働きたかったら働くし、安倍政権が本当に女性のことを考えているのだとしたら、夫婦別姓といった先にやるべきことは他にあります。そんな中で「職業生活における活躍」っていうのは、少子高齢化によって人手不足になるから働いていない女性に働いてもらおうっていう、労働力扱いでしかない。
上野:女性活躍の前は「女性活用」って言っていましたね。

浜田:「活用」っていう言葉で、「これは裏が見えたな」と思いましたよね。では、「女性活躍」以外の言葉って、必要なんでしょうか?
石井:言葉を変えることで、逆にふわっとしてしまうような気はします。今の社会は全く男女平等ではなく、やるべき問題はたくさんある。別の言葉に置き換えたからといって、本質的なところは解決しないんじゃないかとは思いますね。
秋田:性別だけではなく、人種や国籍などさまざまなものが一つの場所で影響し合うことによって活力になり、良い効果が生まれることを私は肌で実感しています。バラエティーに富んでいる場には、変なバイアスがない。企業が成長していくためには多様な人材が不可欠なんだと思います。そういう意味では、目指すべきは“人材活躍”ですよね。
ただ、日本の場合は男女の問題から手を付けていかなければならない企業が多いですから、“人材活用”の表現に至るのはまだ早いとは思います。かといって女性活躍以外の良い言葉も思いつかないのですが……。
上野:「女性活躍」に代わる言葉はあるかというと、一番いいのはこんな表現がなくなることです。だとしたら、「男女平等を実現せよ」と私たちはきちんと言っていかなければいけない。
最近は男女平等を「ダイバーシティ」という言葉に置き換えようとしてるでしょう? 私は男女平等とダイバーシティは別物であり、男女平等に反対したい人たちが言葉を濁してごまかそうとしているんだと思っています。
秋田さんの話にもあった通り、日本企業と外資系企業では完全に組織文化が違います。これだけ男女平等が達成されていないのに「女性活躍は古い」だなんて、どのツラ下げて言うのかって思いますよ。
取材・文・構成/天野夏海 写真提供/『MASHING UP』
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アドビ バイスプレジデント
秋田夏実さん
東京大学経済学部卒業。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院卒業(MBA)。マスターカード日本地区副社長、シティバンク銀行デジタルソリューション部長などの要職を歴任。2017年4月に金融業界を離れ、アドビに入社。18年より現職。現在はマーケティングのVice Presidentとして、アドビのクラウドサービスのマーケティング、デマンドジェネレーション、広報・ソーシャルメディア、ブランディングを含むコミュニケーション戦略といった日本でのマーケティング活動のすべてを統括。夫と共に3人の子供(2男1女)を育てながら日々奮闘
ブラスト代表取締役社長
石井リナさん
新卒でオプトへ入社し、Web広告のコンサルタントを経て、SNSコンサルタントとして企業のマーケティング支援に従事。初のInstagramマーケティング書籍となる『できる100の新法則Instagramマーケティング』(インプレス)を共同執筆するなど、デジタルプロモーションを中心にセミナー講師としても活動を広げている。現在は起業し、女性向けエンパワーメント動画メディア『BLAST』の立ち上げ、運営を行う。日本を代表し、世界を変えていく30歳未満の30人を表彰するForbes 『30 Under 30』にも選出された
社会学者・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長
上野 千鶴子さん
富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2012年度から2016年度まで、立命館大学特別招聘教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。この分野のパイオニアであり、指導的な理論家の一人
Business Insider Japan 統括編集長
浜田敬子さん
1989年朝日新聞社入社。前橋・仙台支局、週刊朝日編集部などを経て99年からAERA編集部。女性の働き方雇用問題、国際ニュースを中心に取材。副編集長、編集長代理を経て2014年から編集長。16年5月から朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーとして新規プロジェクトの開発などに取り組む。『働くと子育てを考えるWORKO!』『Change Working Style』などのプロジェクトを立ち上げる。テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』の水曜コメンテーターなども務める。著書に『働く女子と罪悪感 「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽しくなる』(集英社)