日本は無能な男を守る社会。無能な女もいていいじゃない? 【上野千鶴子・浜田敬子・石井リナ・秋田夏実】

2018年の国際労働機関の報告書によると、世界の管理職の中で女性が占める割合は27.1%。世界的にもまだまだ女性の管理職は少ないが、中でも日本は12%と、主要7カ国で最下位という結果だった。

自信がない、ロールモデルがいない、仕事と家庭を両立できるイメージが湧かない……。管理職に二の足を踏んでしまう理由はたくさんある。

そんな不安を解消するヒントを、11月8日に開催された『MASHING UP』カンファレンスの講演『「女性活躍」はキモチワルイ?– 新しい言葉をみつけよう』からお届けしよう。

「女性活躍」は気持ち悪い?

※写真左から
Business Insider Japan 統括編集長 浜田敬子さん
ブラスト代表取締役社長 石井リナさん
社会学者・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長 上野 千鶴子さん
アドビ バイスプレジデント 秋田夏実さん

クオータ制で女性管理職を増やすのは「上げ底」なのか

浜田:先日お会いした外資系企業の方は、自社の女性管理職比率が17%であることを「恥ずかしい数字」とおっしゃっていました。日本企業からしたら高い数字ですけど、その企業はフランスの企業で、フランスでは管理職の5割近くが女性なのだそうです。グローバルで見たら、世界はこういう状況なんですよね。日系と外資系で企業の意識にこれだけの差がある。

上野:はっきり分かっているのは、「強制力を持たないクオータ制(※)で社会が変わった例はない」っていうことなんです。男女平等先進国として知られているフィンランドをはじめとした北欧諸国もフランスも、強制力を伴うクオータ制を過去に取り入れています。

(※)議員や会社役員などの女性の割合を、あらかじめ一定数に定めて積極的に起用する制度のこと

浜田:一時的には強制力を持って数を増やすということが必要なんですね。

秋田:私も日本企業が変わっていくためには、クオータ制が必要だと思います。ただし、制度だけを単純に入れてしまうと、「達成するために他の会社からデキる女性を連れてくればいい」とか「あの子はかわいいからとりあえず上げとくか」みたいなことが起きかねない。そういう安直な道に行ってしまう会社も残念ながら少なくないと思います。

浜田:『AERA』でクオータ制の特集をやった時、女性から「上げ底じゃないでしょうか」っていう意見があったんです。そうじゃなくて、高度経済成長期から今に至るまで、ずーっと男性が上げ底だったんですよ。

石井:私は少し年上の女性経営者の方が「クオータ制によって実力のない女性が上に立つ状況は不服」と話しているのを聞いて、ショックを受けたことがあります。こういう意見が出た時に、どう受け止めたらいいんでしょう?

上野:これまでずっと男が上げ底だったんだから、女性の底をちょっと上げることの何が問題なんだって思います。日本は無能な男性を守る社会ですから、不良債権を抱えている企業はたくさんあります。そこに少々無能な女が混じってもいいじゃないですか

「女性活躍」は気持ち悪い?

浜田:自然に男性が昇進していく社会だから、山手線の一車両の半分くらいのおっさんが課長以上の役職者なんですよ。そう考えたら「おかしい」って思いません? 私は管理職候補者向けの研修で、「自分よりも仕事ができないと思っている同期の男性が、先に課長になったらどう思う?」って話をするんです。具体的な人を思い浮かべると悔しいじゃないですか。

そうやって差別されてることを理解しないと、女性たちは今の男性社会に過剰に適応してしまう。女性が差別されずに仕事ができる状況が本来は当たり前なのに、私も含めて「自分は恵まれていた」ってつい言っちゃうんですよ。

会社との交渉はできても「夫」との交渉ができない

浜田:「そもそも若い女性たちが管理職になりたがらない」ということを企業の人事担当者は共通して言います。若い女性たちは昇進をしたくないのか、それとも大変だから嫌なのか、その辺りどうなんでしょう?

石井:家庭と仕事を両立してうまくやっている女性のロールモデルが会社の中にいないケースだと、無理なんじゃないかって思い込んで、早めに諦めてしまう女性も多いように思います。

上野:女性がどうしてこんなに働きにくいかっていうと、家庭責任というものがあるんですよね。赤ん坊が産まれて、放っておいたら死ぬ生き物が目の前にいる。そんな中で、女は子どもが自分の人生の最優先課題になるのに、男がそうならないのはどうしてでしょう? 男性の育児休暇の取得義務化法案を推進している議連ができましたが、やったらいいと思いますよ。

「女性活躍」は気持ち悪い?

秋田:実は私、出張が多くて。シッターさんにもお願いしていますけど、15歳の長男と夫が腕まくりして下の子を育てています。そういう環境下に置かれていると、「男だから」「女だから」っていうマインドセットが子どもには全くないんです。男性も女性と同じように家事や育児、介護を実践することで、われわれの目指すべきものの本当の姿が見えてくるんじゃないかという気がしています。

上野:そういう環境だと、父親と子どもたちの関係も良いでしょうね。「オヤジと一緒にいたって話題がない」っていう親子関係も多いですけど、幼少期の時点でその後の関係性は決まってくると思います。

浜田:でも実は、私も含め後輩たちを見ていると、夫との交渉が一番苦手なんですよ。会社との交渉はできるけど、夫を変えるのが一番難しい。

上野:どうして? 夫を変えられなくて会社を変えられるわけないじゃない。

浜田:そうなんですけど、家庭内で喧嘩になるのだけは嫌だから、すごく遠慮してしまう。それなら私がやればいいって思うから、育休から復帰して1年くらい経った頃に辞めてしまう女性が多いんですよ。「これ以上夫には頼めない」っていう理由で、自分が仕事を諦める。

秋田:家事を見える化するといいですよ。男性も悪意があるわけではなく、妻が何をしているかが分かっていない。「あなたが寝転がってテレビを見ている間に私はこんなことをしています」っていうのを可視化すると、やっぱり衝撃を受けるんですよね。

その上で、一部をアウトソースするか、夫や子どもに担ってもらわないとこの生活は続けられないという話をする。そうやって公平な形にしていくわけです。その際に自分がやる家事に関してはものすごく細かく書くっていうのもテクニックの一つですね(笑)

浜田:年収低い方が家事育児を担うのは当然か「俺ぐらい稼ぐなら喜んで仕事減らすよ」と妻に言い放つ夫』という記事がものすごく読まれたんですよ。これは珍しいケースではなく、しかも40代の男性の話で。

上野:男性の方が年収が高いっていうのは、その人の能力ではなく、上げ底のおかげです。夫婦は、「子育ての戦友になる」っていう関係の中で、妻は夫を戦友にしていかないと男性は変わらないと思います。

浜田:過渡期の今は本当に苦しくて、女性の後輩が夫から「浜田さんは理解があるから、お前の方が早く帰れるでしょ」って言われたそうなんです。つまり整った制度や理解のある上司がいる会社に、理解がない男性や会社がフリーライドするっていう勘違いが起きている。

制度は整いつつあって、早く帰って家事や育児ができるようにはなりました。でも、男性たちの育児や家事への参加が高まらなければ根本的には変わらないし、女性たちはしんどいままなんですよね。

「何で女性だけ?」がなくなれば、仕事はもっと楽しくなる

上野:石井さんは会社を興して、今は自分が経営者をやっているわけですよね。意思決定権を持って人とお金と資源を動かすって、使われているより楽しいでしょ?

石井:楽しいです。楽しいんですが、スタートアップの経済圏にいると、周辺には男性が多いんです。投資に関しても、決定権を持っている方々はほとんどが男性。カンファレンスの参加者も肌感では9割が男性なので、排除されているなって感覚になることはあります。

「女性活躍」は気持ち悪い?

浜田:事前の打ち合わせで、「90人のカンファレンスで女性はリナさん1人だけだったことがある」と伺いましたけど、一挙手一投足を見られて、失敗したら「ほらあいつ女だから」って言われてしまうような立場って、やっぱりすごく苦しいですよね。

仕事は楽しいもので、それはきっと、ここにいらっしゃる皆さんもそう感じているんだと思うんです。だからこそ、「何で女性だけ?」っていうような場面が減って、仕事に伴う余計な苦痛がなくなったらラクになるし、もっと楽しくなると思うんですよ。

上野:1985年に男女雇用機会均等法が成立した当初は、女性自身がものすごく気負っていました。それこそ男と同じように振る舞わなければ企業で生き延びていけない時代を、彼女たちが切り開いたことで、今がある。

今の20代の女の子で、男が女より優れた生き物だなんて信じている人は、断言しますけどゼロです。そのくらい男女平等の感覚を持っている女の子たちが、社会に出てから異文化ショックを受けているわけでしょう? つまり、年長の世代の女たちが「そんなものだ」と思ったようには、若い世代は思っていません。堂々と「こんなのヘン」って言うようになったことは、ものすごく大きな変化だと思います。

取材・文・構成/天野夏海 写真提供/『MASHING UP

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アドビ バイスプレジデント
秋田夏実さん

東京大学経済学部卒業。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院卒業(MBA)。マスターカード日本地区副社長、シティバンク銀行デジタルソリューション部長などの要職を歴任。2017年4月に金融業界を離れ、アドビに入社。18年より現職。現在はマーケティングのVice Presidentとして、アドビのクラウドサービスのマーケティング、デマンドジェネレーション、広報・ソーシャルメディア、ブランディングを含むコミュニケーション戦略といった日本でのマーケティング活動のすべてを統括。夫と共に3人の子供(2男1女)を育てながら日々奮闘

ブラスト代表取締役社長
石井リナさん

新卒でオプトへ入社し、Web広告のコンサルタントを経て、SNSコンサルタントとして企業のマーケティング支援に従事。初のInstagramマーケティング書籍となる『できる100の新法則Instagramマーケティング』(インプレス)を共同執筆するなど、デジタルプロモーションを中心にセミナー講師としても活動を広げている。現在は起業し、女性向けエンパワーメント動画メディア『BLAST』の立ち上げ、運営を行う。日本を代表し、世界を変えていく30歳未満の30人を表彰するForbes 『30 Under 30』にも選出された

社会学者・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長
上野 千鶴子さん

富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2012年度から2016年度まで、立命館大学特別招聘教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。この分野のパイオニアであり、指導的な理論家の一人

Business Insider Japan 統括編集長
浜田敬子さん

1989年朝日新聞社入社。前橋・仙台支局、週刊朝日編集部などを経て99年からAERA編集部。女性の働き方雇用問題、国際ニュースを中心に取材。副編集長、編集長代理を経て2014年から編集長。16年5月から朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーとして新規プロジェクトの開発などに取り組む。『働くと子育てを考えるWORKO!』『Change Working Style』などのプロジェクトを立ち上げる。テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』の水曜コメンテーターなども務める。著書に『働く女子と罪悪感 「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽しくなる』(集英社)