菊池亜希子さんインタビュー「こだわりを手放せばもっと面白いものが生まれる」
この映画にはどこか懐かしい人たちがいる
生まれ故郷は地方の田舎、進学や就職を機に東京や大阪などの都会に出てきて……。7月18日公開の映画『海のふた』は、そんなバックグラウンドを持つ女性ならグッと心を掴まれるに違いない作品だ。
原作は、2003年11月から2004年5月まで読売新聞で連載されていたよしもとばななの小説。かつては観光地として栄えていた西伊豆の海辺を舞台に、主人公の「まり」と、一回りほど年下の女性「はじめ」のひと夏の交流を描いている。この2人の関係に、まり役を務めた菊池亜希子さんは「懐かしさを覚えた」と振り返る。
「私は身長が高いので、学生時代の女友達が私の二の腕のあたりを後ろから掴んできて、甘えてくるんですよ(笑)。『ちょっと、ぶら下がらないでよ』とか言いながら彼女たちの前を歩く役回りだったのですが、実は彼女たちに後ろから支えてもらっていたんだなと思う瞬間があって、そんな実際の女友達とのアンバランスな関係を思い出しました」
菊池さんは、同じような懐かしい感覚を、まりの幼なじみである「オサム」にも感じたという。
「田舎出身で故郷から出て暮らしている女性にとっては、誰かしらオサムのような存在が思い当たるのではないかなと思います。ことごとく正しいことを言ってきて、現実を一番シビアに受け止めている。彼の存在があったから、まりはギリギリのところで地に足をつけていられるんだと思うんです」
そんな3人が西伊豆の田舎で交錯し、やがてそれぞれの場所へと動き出していく。菊池さんは今回の作品について、「いい大人なのにギリギリ思春期のような3人による、甘酸っぱいというよりは、少ししょっぱいシーンがたくさんある映画」だと語る。
新たな挑戦となった、「役作りをしない」ということ
東京から生まれ故郷に戻り、海辺の町でかき氷屋を開こうとする主人公のまり。演じながら菊池さんは、「まりの生き方が他人事に思えなかった」と話す。
「私自身、岐阜から上京してきてもう15年になりますが、故郷を思う気持ちは全く変わりません。例えば、渋谷のスクランブル交差点の真ん中で夕焼けがきれいに見えたときに、ふと実家のことを思い出して立ち止まってしまったり。故郷を出てからの暮らしの方が長いぐらいなのに、今でも故郷に振り戻される瞬間があるんですよね。まりは、一度都会に出たけど故郷に帰ったり、『昔は良かった』と思い出を美化し過ぎてしまったりするのですが、その内面的な部分は私と共通するものがあると感じました」
通常は台本を手にした時点で、与えられた役柄と自分との共通点を引っ張り出し膨らませてゆきながら、リアリティのある役作りを綿密に行うという菊池さん。けれど今回は、役作りが通用する作品ではないと直感したという。
「西伊豆という場所で、ひと夏という時間の中で湧き上がる感情は、あらかじめイメージできるものではないと思ったんです。その場で演じるしかない、共演者にぶつかるしかないというのは、私にとって新たな挑戦でした」
その場その場でぶつかっていく中で、一つのシーンが終わった途端に脱力感に襲われたこともあった。まりはこういう心理状態になるんだなということを、菊池さん自身が一つ一つ噛みしめ、感じながら演じた作品だ。
そして映画の見所の一つとなっているのが、頑固だったまりが自分のこだわりを手放し、成長していく姿。そんなまりの姿は、菊池さんにとっても身につまされるものだったという。
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