「女でも稼げる仕事がしたい」令和を生きる20代女性が発した切ない言葉に思うこと【対談:治部れんげ・酒向萌実】

国が女性活躍推進に力を入れ始めてから数年が経った。実際、働く女性の数は増加傾向にあるが、ジェンダー平等にはまだ遠く、男女間の収入格差は依然として大きいままだ。
そんな中、社会課題解決に特化したクラウドファンディングサービスを行う株式会社GoodMorning代表の酒向萌実さんが昨年ポストしたこちらのツイートに、1.1万もの「いいね」が付けられた。
テラスハウス新メンバーの大学生が「女の人でも稼げる仕事」に就きたいと話すのを見て泣いてる。
実際、平均給与は男性532万、女性 287万で、数字から見ても「女は稼げない」と思うのは当たり前。でも自分より若い人にそう思わせてしまっていることがあまりに悲しい。稼いでいくし、変えていきたい…
— 酒向萌実|GoodMorning (@SAKOMOMI) September 10, 2019
「女の人でも稼げる仕事に就きたい」
令和を生きる20代が発する言葉としては、実に切ないものがある。
そこで今回は、「女性がちゃんと稼げる社会、稼ぐことに前向きになれる社会をつくりたい」と話す酒向さんと、女性を取り巻く社会状況やジェンダー問題に詳しいフリージャーナリストの治部れんげさんへのインタビューを実施。
20代女性の意識のあり方から社会構造まで、さまざまな視点から「女性×稼ぐ」に関する問題に斬り込んだ対談を、前後編に分けてお届けしたい。

写真左:酒向萌実さん
株式会社GoodMorning代表取締役社長。1994年2月生まれ、東京出身。国際基督教大学卒業後、アパレル企業の株式会社TOKYO BASEを経て、2017年1月、株式会社CAMPFIREに参画。社会課題解決に特化したクラウドファンディングサービス『GoodMorning by CAMPFIRE』の立ち上げに携わり、18年1月より事業責任者として活躍。19年4月、GoodMorningの事業分社化に伴い、代表取締役社長に就任 Twitter:@SAKOMOMI
写真右:治部れんげさん
フリージャーナリスト。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社入社。経済誌の記者・編集者を務める。2014年からフリーに。国内外の共働き子育て事情について調査、執筆、講演などを行う。著書『稼ぐ妻・育てる夫―夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)、『ふたりの子育てルール』(PHP研究所)、『炎上しない企業情報発信 ジェンダーはビジネスの新教養である』(日本経済新聞出版社)など Twitter:@rengejibu
「女性だから」の意識は20代にもまだ根強い?
――「女性でも稼げる仕事がしたい」という言葉、そもそもこれって、20代の女性が「自分たちは『女だから』稼げない」って思っているということですよね。
治部:そうですね。家庭の外で仕事を持つ女性も年々増えているけれど、約半数の女性は非正規雇用で働いている。
さらに、管理職の割合も少なく、男女間での収入格差はまだ大きいのが現状です。
なので、建前上は女性活躍だ、男女平等だって言われていても、結局「女性は男性のようには稼げない」と思ってしまう若い人がいるのかなと。
酒向:すごい切ないですよね。自分より若い世代の子たちがそんなことを感じているなんて。
――このツイートには、どんな反響があったのでしょう?
酒向:私のツイートに賛同してくれる人はたくさんいました。
でも、「女性が稼がないことを望んでいるだけでは?」とか、「女性は途中で時短勤務をしたり、非正規雇用になったりする人が多いから給与に差がつくんだ。それは女性自身が『働かないことを選んでいる』からではないか」とか、そういうコメントも多く寄せられて。
要は「女が選んだ」という意見ですね。

酒向:でも、この手の批判は本当に検討違いだと思う。
実際、女性たちが「女だから私は稼げない」とか「女だから稼がなくていい」とか、そういう風に思ってしまうのだとしたら、その背景の方が問題だって言っているわけで。
「こうなったのは女が悪い」って一方的に責めて済むような話じゃないんですよ。
治部:その通りですね。こういう批判は30年くらい前からずっとありますけど、問題の本質を全く見られていないなと思いますね。
酒向:一方で、日本社会は本当の意味での男女平等にはまだ遠いかもしれないけれど、それでも少しずつ良い変化は起こっているとは感じています。
治部:企業によるところはありますが、性別に関係なく昇進・昇格できる職場や、産休・育休から復帰した女性が活躍する事例もどんどん増えていますしね。
働き方改革が進むと同時に、社内のさまざまな男女格差をクリアする企業も出てきていると思います。
だからこそ、女性たちも「自分は女だから稼げない」なんて思い込まないでほしいというのもありますね。
自分が育った家庭の“収入事情”しか知らない?
――その「思い込み」を外すには、どうしたらいいんでしょう?
治部:いろいろなロールモデルを自分の目で見てみることが有効なんじゃないでしょうか。共働きで妻もバリバリ稼いでいる家庭の人に話を聞いてみるとかね。
あとは、自分がなぜ「女だから稼げない」「稼がなくていい」って思っているのか、一度しっかり考えてみるのもいいと思いますよ。
すると、自分の母親世代の生き方を参考にしていただけで、その他のキャリアパターンを知らなかったというだけかもしれない。

――酒向さんは20代ですが、「稼ぐこと」についてどんな風に考えていますか? 経営者という立場になったからには、バリバリ稼ぎたいという気持ちがあるんでしょうか?
酒向:うーん、バリバリ稼ぐっていうより、「ちゃんと稼ぎたい」っていう感じですかね。
女性だから、男性だから、関係なく、仕事で発揮した価値に対しては正当な報酬をもらいたい、という感じです。なので、「女だから稼ぎはそこそこでいいでしょ」とも思っていないというか。
治部:私が20代だった頃なんかは、独身時代はほどほどに稼いで結婚してって考えている女性が多かった。「結婚さえすれば、より良い生活が待っている」みたいな幻想をみんなが持っていたんですよ。
そもそもキャリアの選択肢がかなり少なかったっていう社会構造上の問題もありますけどね。
ちなみに、酒向さんの世代にもそういう結婚幻想のようなものはあるんでしょうか?
酒向:私の身近な人たちではあまりないかもしれませんが、一部の人の中ではまだあるような気がしますね。
あと、結婚したら男性に大黒柱になってほしいって考える女性もまだまだいるはず。
先ほど治部さんも仰っていましたけど、自分が育った家庭に影響を受けるところが大きいんだと思います。
治部:経済的なことって、よその家庭の事例が見えにくいっていうのもありますしね。
――今の20代の親世代は、お母さんが専業主婦だった家庭が多いはずですよね。働いていたとしても、自営業か、パートやアルバイトで。
酒向:私は1994年生まれですが、まさにそうでしたね。母親はパートタイムで働いていたので、学校から帰る頃にはいつも家にいてくれました。
治部:酒向さんは自分のお母さんみたいになりたいと思いますか?
酒向:うーん、なりたいというか……。お母さんがいつも家にいてくれたことはありがたかったから、「自分はお母さんみたいになれないけど、それでいいのかな」とは考えてしまうことはありますね。

治部:お父さんみたいになるのはダメですか?
酒向:うちの父はものすごく長時間労働だったんで、嫌ですね(笑)
一家の大黒柱としてめちゃくちゃ働いていました。いつも帰ってくるのは深夜だし、私が朝起きる頃にはもう出社していたから、平日はほとんど顔を見た記憶がありません。
ただ、自分たちの親世代がやってきたことを今の時代に再現するのは不可能だっていうのは分かっているので、第三の解を見つけたい。
夫婦二人で仕事も家事も分担して、必要なら家庭の仕事は一部アウトソースしながらうまくバランスを取って……。そうやって自分たちの家族の形を模索していけばいいんだよな、とは思っています。
「稼ぐ私が悪いってこと?」
彼女の昇進を素直に喜べない男たち
酒向:女性たちの「稼ぐこと」に対する価値観に影響を与えることとして、男性の意識もあると思うんですよ。
――というと?
酒向:さっき結婚幻想のお話しがありましたけど、「結婚したら男が外で働いて、女は家庭を守るべき」みたいなイメージを未だに持っている男性もまだいますよね。
「結婚したら奥さんには専業主婦になってほしい」なんて言うと今時カッコ悪いから、あえて口にしないだけで。
治部:妻が働いているのは気にしないし、妻が自分と同じくらい稼いでいるのもOK。でも、妻が自分よりも圧倒的に稼いでいるとなると話は別っていう男性も多いと聞きますね。
酒向:そうですね。20代男性もそういう感覚の人は少なくない印象です。「同じ」はいいけど「自分が下」は耐えられないって、プライドが傷ついてしまうのかな……?
治部:「男の沽券問題」ですね。これは日本に限らずアメリカでも同じようなことがあるそうですよ。

治部:例えば、共働き夫婦の場合、一般的に女性の収入が増えるほど男性の家事の量も増えるのですが、男女が同じ額になると、男性が家事の量を減らすという調査結果が出ているんです。
女性が稼ぐことに対して複雑な思いが絡むのは、欧米でも同じようです。
酒向:自分の収入が増える度にパートナーから渋い顔されたら、「私、何か悪いことしてる?」っていう気にもなりますね。
治部:そんなの絶対気にしなくていいし、彼女や妻の昇進・昇格、年収アップを喜べない男性とは長続きしないでしょうから、相手にしなくていいですよ!
酒向:すっぱり言い切ってもらってうれしいです(笑)
治部:女性が自分を低く見せないと続いていかない関係なんて、長期的に考えたら、居心地いいわけありませんからね。
結婚前にはお互いのお金や仕事に対する価値観のすり合わせをしておくのが大事ですよ。
「私は結婚後もやりがいのある仕事を続けたいし、収入だってしっかり得たいと思っている。だから子育ては夫婦で平等に分担したい」とか、本音を相手に伝えておくこと。
恋愛中はこういう意思確認が疎かになりがちなんですけど、パートナーと一緒に生きていくその後の人生を豊かなものにするためにも、ぜひ話してみてください。
取材・文/瀬戸友子 企画・編集/栗原千明(編集部) 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)
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