いつも100%頑張ってしまう女性たちへ「“頑張る”をやめてみると、人生の軸が見えてくる」【堀江愛利】

ビジネスも家庭も100%頑張りたいのに、コロナのせいでうまくいかないことばかり。とにかく何かやらなきゃと思うけど、何だか空回りしている気がして全然幸せじゃないーー。

「“100%”頑張る」がデフォルトになっている女性ほど、思うように物事を進められない今の状況にストレスが溜まる一方なのでは?

そんな日本の女性たちは、どうすればポジティブにマインドチェンジできるのだろうか。

今回お話を聞いたのは、シリコンバレーで『Women’s Startup Lab』を2013年に設立し、以降7年間にわたり起業家育成プログラムを実施している堀江愛利さん。

世界中の女性起業家たちを育ててきた堀江さんは「今は“頑張る”という荷物を一旦下ろすことが大切」だと言う。その理由を教えてもらった。

Women’s Startup Lab 代表取締役 堀江愛利さん

Women’s Startup Lab
代表取締役 堀江愛利さん

1997年にカリフォルニア州立大を卒業。2013年、米シリコンバレーでWomen’s Startup Labを創業し、女性起業家向けに合宿型の育成プログラムを開始する。CNN「10 Visionary Women(10人のビジョナリーウーマン)」、マリ・クレール誌「20 Women Who Are Changing the Ratio(男女比を変える20人の女性)」に選出される

日本の女性はもっと「やってあげている」と言う自己価値の意思を持って

COVID-19によって、ビジネスは世界中で大変苦しい状況になりました。

起業家の中には、既にあるビジネスモデルをいかに現在の環境にアジャストさせるかを考えた人も多いと思います。

しかし今は変化の積み木崩しが起こっていて、どこに落ち着くのかが見えない時期。自分たちやお客さまの精神状態も変化しているため、慌ててアクションを取っても無駄な出費に終わってしまう可能性が高いです。

起業家に限らず、誰もが焦ると適切な判断はできなくなってしまうもの。今は落ち着いて、何をするべきか、あるいは何もしないということも大切な決断としてアセスメントするのが得策でしょう。

こうした先の見通せない状況ではマイナス面ばかりに気を取られてしまいがちですが、実は女性にとってはチャンスとも言えます。なぜなら、女性はいろんな人や物の関係性を把握した上で、総合的に判断できる人が多い傾向にあるから。

全体を見渡して、「こうすればうまくいきそう」とソリューションをパッと提示できる。混沌とした状況の中で新しいシステムや解決策を提案する力が、女性にはあると感じています。起業家を育ててきた私が言うのですから、間違いありません。

Women’s Startup Lab 代表取締役 堀江愛利さん

ところが家で過ごさなければならなくなったことによって、家庭における女性の負担は非常に大きくなりました。家事は増えるし、子どもの相手もしなくてはならない。毎日消耗している方が多いのではないでしょうか。

そんな女性たちについて、特に日本人の女性に関して、「生かされている」「やらせてもらっている」といった、謙虚な考え方で自分の価値を見失っていることが多いように思います。

謙虚は悪いことではありませんが、感謝とは反対の意識もあってこそ、女性は主体性を得て強くなれるんです。

「感謝とは反対の意識」とは、「やってあげている」と思うことです。

例えば、結婚していて家事をほとんどやっているのなら、「あなたのために24時間の内5時間も使うのって無駄じゃない? 私にはスキルがあるのに、家事にこんなに費やす時間ってもったいなくない?」といった問いかけをしていいんですよ(笑)

自分の価値を下げて周囲に感謝するのは、美しいことです。でも、その反対の視点から今の状況を問うてみることで、女性は自分の本当にやるべきことを選べるようになると思うんです。

「今日何パーセント頑張るか」は私が決める

シリコンバレーでは、女性関連の組織は「もって3年」と言われています。そんな中、私が7年もWomen’s Startup Labを続けてこられたのは、いつも「私自身が選ぶ」ことを大事にしてきたからだと思います。

誰にでも、会社を辞めたいとか家事が面倒くさいとか、いろいろ葛藤があるじゃないですか。そのときにいつも私が思ってきたのは、「私にはチョイスがある」ということです。

いつでも辞められるチョイスがあると思えば、「辞めたいけど今日は働く」のは、自分が納得した上でのことです。犠牲になっていると感じることもないですし、愚痴を吐く理由もありません。

家庭においてもそうです。「今日は頑張る母親になるけど、明日はだらしのない母親になろう」と自分で決めてしまえばいいんですよ。ダラダラと過ごしてから母親としての罪悪感に苛まれるなんて、本当に無駄ですから。

大事なのは、何をするのか、しないのかを自分自身で力強く選ぶこと。結局やることは同じだったとしても、その意識を持つだけで日々のメンタルは大きく変わります。

とにかく、毎日パーフェクトじゃなくていいんです。毎日100%頑張ってしまう人こそ、「今日は20%でいい」「明日は120%やる」と決めてみてください。

日本は常に100%を期待してくる社会ですが、頑張るか頑張らないかを決める権利は自分にあります。どんなときでも、「私は自分の人生を自分で必ずチョイスできる」と信じることが大切です。

「どうありたいか」も「どこで戦うか」も自分で選べばいい。

Women’s Startup Lab

日本の大企業で育った女性リーダーの皆さんは、すごく大変だったと思います。言葉選び一つとってもレベルが違う。本当に素晴らしい方々です。イメージ的には容姿端麗、全てキレキレなロールモデルが浮かびがちですね。

ただ、そういう“エリート”の女性しかリーダーにはなれないのかというと、それは違うというのが、私の考えです。

女性リーダーを増やすことだけが、ダイバーシティではありません。いろんなタイプの女性リーダーが生まれてこそ、本当のダイバーシティです。世の中から認められる一般的なリーダー像や、社会に作られた女性像を無理に目指す必要はないのです。

例えば「これを社会に伝えたい」と思うことを大切に生きていくだけでもいい。ゴミの出し方を教えてくれるおばちゃんだって、住みやすい街を作りたいという想いのもとに行動している立派なリーダーです。そう考えれば、実は身の回りにリーダーってたくさんいるんですよ。

「エリートの女性たちみたいにはなれそうもない」と自分を卑下するのではなく、「自分はどんな人になりたいのだろう」と考えてみてはいかがでしょうか?

そして、私たちは自分が“どうありたいか”を選べるのと同じように、“どこで戦うか”を選ぶこともできます。

例えば、日本は女性に対するバリアが厚い国ですが、本来は「どんなバリアのある国で戦うか」というチョイスが存在します。

どうせ戦うのなら、楽しくて価値ある戦いをしたいですよね。古い日本社会に一生懸命適応するよりも、自分で戦う環境を選ぶ方が幸せになれるはず。女性は外に出て、世界がいかにチャンスで溢れているかを感じることも重要かと思います。

「世界は広い」ってよく言われるじゃないですか。あのね、本当に広いんですよ(笑)

それは地理的な広さではなく、価値観の広さという意味です。日本人にとっては当たり前のことでも、世界では価値の高いことってたくさんあるんです。でもそれは、外に出てみないと分かりません。

これからは、ネットを使って世界中の誰とでも働ける環境が今以上に整ってくるはずです。女性の皆さんはぜひデジタルリテラシーを身に付けて、世界とつながってみてください。

そのファーストステップとして、6月19日にオンラインで開催される「WiSE24」への参加をお勧めします。世界中から集まる女性起業家たちのピッチをリアルタイムで見ることで、大きな刺激を受けられると思いますよ。

頑張らないことで「人生の軸」が見えてくる

Women’s Startup Lab

冒頭で私は、周りの環境が大変なときには、まずは頑張らないことが大切だと言いました。それは、「やらなければいけないこと」で頭がいっぱいになると、自分の「本当にやりたいこと」が見えなくなってしまうからです。

子どもを見ていても思いますが、例えばジュースを飲むにしても、人間は「美味しそう」と思うから「飲む」わけですよね。“being”があるから“doing”が生まれる。

つまり、気持ちがあってから行動するのが人間の性質なんです。

ところがこれまでの社会は、生産性の向上に躍起になる中で、私たちに「これをしなさい」という“doing”の話ばかりをしてきました。人間の根本的な性質が無視され続けてきた結果、なんと心の貧しい世の中になってしまったのだろうと思います。

何かを頑張りたいとチョイスした上でなら、頑張ることは何の問題もありません。でも、自分の気持ちがないのに無理をして頑張ろうとするのはよくないです。それでは、自分の気持ちが満たされないままみんながボロボロになっていった歴史を繰り返すことになります。

だからこそ、こういう大変な時期には、“頑張る”という荷物を一旦降ろしてみる。そのときに初めて、本当の自分の声が聞こえてくると思うんです。「私がチョイスしたいものってなんだろう?」と。

それでも、「これだけはやりたい」と思えたもの。それこそが、あなたが生涯をかけて取り組みたい「人生の軸」なのだと思います。

>>世界最大級の女性起業家ピッチイベント「WiSE24」、6月19日にオンライン開催【台湾IT担当大臣オードリー・タン氏ら出演】

取材・文/一本麻衣  編集/天野夏海 写真/WOMEN’S STARTUP LAB提供