ハリウッド俳優・森崎ウィンのアウェー戦術「マイノリティであることは決してハンディじゃない」
仕事をしていれば、アウェーの環境に飛び込まざるを得ない時がある。
マイノリティとしての疎外感を味わったり。自分のことを誰も知らない状況に立たされたり。圧倒的に不利な局面で自分の強みを最大化するのは非常に難しい。
そんなアウェーのハンディをアドバンテージに変えたのが、俳優・アーティストの森崎ウィンさん。2018年に公開されたスティーヴン・スピルパーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』でハリウッドデビューを果たした。
初めてのハリウッドの現場。日本からの主要キャストは森崎さんひとりだけ。文字通り「ザ・少数派」の現場で、森崎さんはどうやって自分の強みを発揮できたのだろうか。
日本をよく知る自分だから生まれた「お辞儀」のアイデア
先日、『レディ・プレイヤー1』の地上波初放送が大きな話題を呼んだ。
オンエア中、ファンたちがSNSで盛り上がる中、森崎さん演じるダイトウがクライマックスで放つ「俺はガンダムで行く」という名台詞がトレンド入り。森崎さん自身にも改めて注目が集まった。
撮影が行われたのは今から4年前。まだ20代半ばだった森崎さんは、貴重なアジア人キャストとして現場に参加していた。
確かにアジア人という意味ではマイノリティかもしれないけど、そもそもハリウッドは多種多様な人種が集まる多民族文化。珍しくもなんともないんですよね。
だからマイノリティがあることで困った記憶は正直ない。むしろアジア人であることが武器になったことの方が多いかもしれないです。
少数派であることは、ディスアドバンテージではない。希少価値が高いからこそ、逆にその力を必要とされるというのが、森崎さんがハリウッドで感じたことだ。
僕の演じたダイトウは、日本の侍がモチーフ。でもやっぱり日本で暮らしていないと、侍がどんなものか、なかなか正確にイメージはできない。
そのあたりについてはきっと日本の侍だったらこうすると思う、と僕の立場からいろいろ意見を言わせてもらいました。
中でも、侍文化をよく知る日本人の観客が思わず唸ったダイトウの所作がある。それが、随所に盛り込まれたお辞儀の場面。実はこのお辞儀、特に台本に指定があったわけではなかったという。
どうやったら日本の侍らしさが出るだろうといろいろ考えている時に、ふっとお辞儀をしたらどうだろうと思いついて。何かあった時にすっと頭を下げる礼儀正しさが日本人のいいところ。このクセを生かしたいなと思って。
ヒロインのオリビアと出会ったところとか、最後にワゴンから降りてくるところとか、いろんな場面でお辞儀をさせてほしいとスピルバーグ監督に提案しました。
よっぽど注意深く見ていなければ気付かない細かな工夫。実際、森崎さん自身も撮影中は「誰も気づかないだろう」と思っていたのだとか。
だが、先日の地上波放送でも「ダイトウがお辞儀しているところがいい」と感想をつぶやく視聴者が続出した。
SNSで話題になっているよって、あとからマネージャーに教えてもらって。誰に気付かれなくてもいいと思っていたので、そんなふうに細かいところまで見てくれる人がいたことがうれしかった。
こだわりを持ってやっていれば、ちゃんと伝わるんだなと思いました。
そもそも「俺はガンダムで行く!」の名台詞も、「I choose the form of Gundam」とだけ書かれた英語の台本を森崎さん自らが和訳したもの。
日本語を話せるのが現場で森崎さんしかいなかったために一任されたのだ。少数派であることは、それだけ大きな役割を任されるチャンスでもある。
マイノリティであることはハンディなんかじゃない。自分しか知らないことがある。自分にしかできないことがある。そう捉え方を変えたことで、森崎さんはアウェーの環境で強みを最大限に発揮できた。
苦手意識の強かった写真撮影。でも、やってみたら新しい自分を見つけられた
森崎さんはミャンマー人の両親から生まれ、ミャンマーで生まれ育った。母国を離れ、日本にやってきたのは小学4年生の時。当初は上手に日本語を喋れない森崎さんをからかう同級生もいたという。
そういう意味では、その頃からずっと少数派だったのかもしれないです。でも、だからと言って自分がマイノリティであることを気にしたことはあんまりない。
誰も自分の気持ちを分かってくれないとか考えたことも全然ないんです。
そんな伸びやかさと朗らかさが、森崎さんの長所だ。加えて、その逆境好きのメンタルが森崎さんの「アウェー耐性」を強化した。
僕は快適な場所にとどまり続けることを「逃げてる」と捉えるタイプ。だったら、それよりも自分が苦しいと思う方へどんどん進みたい。
常に逃げずに立ち向かうこと、失敗しても何度でも挑戦し続けることが、成功への近道だって思っているから、アウェーも全然嫌じゃないんです。
そんな森崎さんの新しい挑戦が、8月20発売の『森崎ウィン 30thメモリアルブック -Partner-』。同日に30歳の誕生日を迎える森崎さんの今までにない表情がいくつもおさめられている。
そもそも僕は写真を撮られるのが結構苦手なんです。
だから、最初はこれだけいろんなシチュエーションで撮られることに対して不安もあったんですけど、出来上がったものを見たらいい写真がめっちゃ多くて。
素直に挑戦してよかったなと思いました。
中でもお気に入りは、P72-73の1枚。どんなショットかは実物を手にとってのお楽しみだが、極彩色の世界観で浮かべた妖しい表情は、いつもの明るい笑顔が似合う森崎さんとは別人のように艶っぽい。
こんな表情するんだって自分でもビックリしました。あんまりこういうイメージで撮ってもらったことがなかったので、それも新鮮というか。
撮影中はとにかく周りをあまり見ないようにして。あとはカメラマンさんに導かれて、自然と写真の世界に入り込まされたっていう感覚でした。
この30歳の誕生日を皮切りに、森崎さんは新しいフェーズへと突入する。
前日の19日には1st ep『PARADE』をリリース。同月29日には1stワンマンライブも敢行。さらに9月12日からは主演ドラマ『彼女が成仏できない理由』の放送が開始されるなど、俳優/アーティストのボーダーを自在に行き来しながら、まだ見ぬ目標へと突き進んでいく。
夢は、俳優としてオスカーを獲ること。そして、アーティストとしてアジアツアーを行うこと。そのためにできることをこれからも全力でトライしていきます。
森崎さんが、どんなマイノリティの環境にも、どんなアウェーの状況にも怖気づかないのは、その先に絶対叶えたい目標があるから。
胸に確たるビジョンを宿した人は、たとえ99対1の劣勢でも負けない。たったひとりだからできる強みを武器に、形勢逆転の一手を打つのだ。
取材・文/横川良明 撮影/岩田えり ヘアメイク/KEIKO スタイリスト/添田和宏
書籍情報
『森崎ウィン 30thメモリアルブック-Partner-』
価格:本体2,273円+税
発売:2020年8月20日
出版社:ぴあ株式会社