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NOV/2020

「豊かさとは、つながりの広さ」石山アンジュが多拠点生活で実践するサステナブルな生き方

9周年特集
いつも真面目に、頑張り過ぎてしまう私たちだから――。コロナ禍の今こそ見つめ直したい、擦り減らない働き方、生き方を実践するヒントとは?

住まいや仕事、そして家族関係も。人生を構成するさまざまな活動を「シェア」する価値を発信し続けている石山アンジュさん。

2018年から大分と東京の2拠点生活を始め、「田舎暮らしとリモートワークの両立」というハイブリッドライフを実践している。

石山アンジュさん
石山アンジュさん
1989年生。シェアリングエコノミーの普及に従事。シェアの思想を通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長、厚生労働省・経済産業省・総務省などの政府委員も多数務める。また2018年ミレニアル世代のシンクタンク一般社団法人Public Meets Innovationを設立、代表に就任。MC出演やコメンテーター、新しい家族の形「拡張家族」を広げるなど幅広く活動。著書『シェアライフ-新しい社会の新しい生き方』(クロスメディア・パブリッシング) note:https://note.com/anjurian  Twitter:@Anjurian

今年10月に結婚を公表し、自身の人生にいくつもの転機を呼び込んでいる今、石山さんが考える「ちょうどいい働き方」とは? 

コロナ禍、「多拠点生活」を本格的にスタート

1年半前から、大分県と東京都の2拠点生活を始めました。「多拠点生活」そのものは、2017年にオープンした渋谷Ciftに立ち上げメンバーとして入居した時から続けてきたことですが、大分を選んだきっかけは、先月結婚報告をしたパートナーのご縁です。

石山アンジュさん
『Cift』にて

場所は、大分市街から遠く離れた、“超”がつくほどの田舎。山と川に囲まれた田園にポツンポツンと7軒の家しかない集落で、ご近所さんの平均年齢は70代。新鮮な体験に満ちた毎日を味わっています。

2拠点生活を始めた当初は、東京にメインのオフィスを構えていましたし、社内ミーティングはオンラインで行ったとしても、取材対応や政府との会議は東京で対面するのが原則。1カ月のうち大分で暮らすのは1週間程度で、残り3週間は東京でした。

それがコロナを機に、その比率は見事に逆転。月に数十万円の家賃を払っていた東京のオフィスを最小限の契約に切り替えて、会社もフルリモートの働き方に切り替えました。

深呼吸すれば草木の香り。デジタルライフを雄大な自然の中で

この半年で田舎暮らしを味わう時間が増え、私の価値観も大きく変わったような気がします。大分で過ごす時間が増えてから、幸福度が格段に上がったのも確かです。

石山アンジュさん
大分の自宅の庭先で

ウグイスの鳴き声で目が覚め、虫の大合唱を聞きながらコーヒーを飲む朝。雨戸を開けると、縁側にはピカピカの採れたて野菜が置いてあって、これは近所のじいばあからのお裾分け。

日中はリモートでオンライン会議や取材をこなして仕事を進めるのですが、合間の休憩に家の外に一歩出るだけで、雄大な絶景が目の前に広がる。深呼吸をすれば、土と草木の野生的な匂い。

デジタル中心の仕事と大自然。なんだかすごくギャップのある両端が身近にある“ちょうどいい生活”を送っています。

石山アンジュさん
自然の中でリモートワーク

庭の畑では野菜も育てているので、土をいじったり、モグラやシカなどの生き物と出会ったり。音や色や匂い……、ビビッドな自然の刺激を浴び続けていることで、私の五感も磨かれているような感覚があります。

今のようなワークライフにシフトしてからは、時間の使い方にもゆとりができました。

移動時間がなくなった分、仕事が早く進んで、イベント登壇がない時はだいたい18時くらいには終業。その後は近くの温泉に入って、近所の人を呼んで鍋やバーベキューを楽しんでいます。

石山アンジュさん

近くの地域では、Uターンで戻ってこられたパン屋さんやイタリアンレストランを開業した同世代の人たちもいて、新しいつながりも生まれました。

石山アンジュさん
先日、縁側で開いた「おばんざい屋」。料理をふるまう石山さん

ただ、いいことばかりというわけではなく、不便なこともたくさんあります。

仕事の機会は東京の方が圧倒的に多い中で、東京にすぐに行けないことで断らないといけない仕事もあるし、運転免許がない私は移動弱者を自覚しています。でも、それを上回る幸せを感じられるのです。

先日、地域を巻き込んで一緒に手づくりして行ったホームウェディングも、忘れられない思い出になりました。

石山アンジュさん
自宅の庭で行った結婚式の様子

“小さい経済圏”への参加で、多拠点生活を豊かに

時間や場所にとらわれない働き方・暮らし方の選択肢がインフラとして広がっている今、住まいをシェアすることで、多拠点生活を始めるハードルはどんどん下がってきています。

これまで家賃に10万円かけていた人が多拠点生活をするには2倍の家賃がかかりました。でも今は、5万円は東京のシェアハウス、5万円は沖縄の家、自分が過ごさないときは自宅をAirbnbで貸し出して収入に変えることもできます。

実際、大分で私が暮らしている古民家は、8畳の部屋が10個もあって、小学校の校庭くらい広い畑がついて家賃はたったの数万円。部屋がたくさんあるので知人に貸し出すこともよくあります。また、私が大分にいるときには、東京の部屋は別の子とシェアしています。

石山アンジュさん

田舎暮らしは経済的な負担が少ないだけでなく、コロナによって一気にリモートワークが浸透したことで、心理的負担もかなり低くなったはずです。

ただし、単に暮らしの拠点を増やすだけでハッピーになれるとは思っていません。

多拠点生活を充実させるポイントは、地域とどれだけつながりを持てるか。せっかく自然豊かな環境に住まいを構えても、ずっと家の中でパソコンに向かうだけではつまらないですよね。

私の住んでいる集落ではほぼ毎日、野菜などのお裾分けが日常的にあります。鍵のかかっていない引き戸を開けて、じじばばが野菜を持ってきてくれるのです。

石山アンジュさん

それに対して、私も違う食べ物をお礼として渡すこともあれば、農作業を代わりにするなど違う何かでお返しすることもある。その時々に見返りを求めなくても、何かのカタチで恩が返ってくることを、皆が分かっているんです。

そんな、小さな経済圏の中で生きていくことの「つながり」と「心の豊かさ」を、何度も感じているところです。

小さな経済圏の一員になるには、「小商いを始めてみること」が一つの選択肢になるかもしれません。例えば、空き店舗を週に1日だけ借りてお店を開いてみるとか、自宅の一室をAirbnbで貸し出すとか。

どんなに小規模でもビジネスを始めると、誰かに相談したり、お客さんとして誰かを招いたり、必ず地域の人との関わり合いが生まれます。

私も現在、都心の人たちがサードプレイスとして使えるコミュニティー型施設の開業を計画しているところ。せっかく畑も借りているので、プチ農業も始めてみたいですね。

石山アンジュさん
自宅の畑にて

いくつものプロジェクトを同時進行型で楽しみながら、複数の収入源を持つ。そんな新しい働き方を実践していけたらいいなと思っています。

「ここじゃないどこかでも、私は生きていける」

あらためて強調したいのは、私は「移住」ではなく、「多拠点生活」にこだわっているという点です。これからの時代は「複数の選択肢」を常に持っていることが豊かさのスタンダードになると思うからです。

多拠点生活は「ここじゃないどこかでも、私は生きていける」という自信ももたらしてくれます。

石山アンジュさん

一つの環境に縛られることなく、自分にとって居心地のいい環境をいつでも選べる自由は、人生のサステナビリティーを高めてくれるはず。

それができるのは、一昔前なら一部のお金持ちに限られていましたが、今は誰もが低コストで実現できるようになりました。

一つに依存せず、どこでも生きていける自信を身に付けていく。この姿勢は、今後の働き方のスタンダードにもなっていくと思います。

「大企業に就職すれば一生安泰」という時代は過ぎ、グローバル経済の下では、世界情勢が変われば一気に資産が左右されるようなことも起こり得ます。

石山アンジュさん

そんな時代に生きる私たちにとっての豊かさとは、貯金の額ではなく、つながりの広さ。「いくつもの選択肢」を持ち、Aがダメでも、BやCやDでキャリアを展開していける。

そんなつながりをどれだけ広げられるかが、安心や幸せにつながっていくはずです。

“自分の幸せ”に忠実な人生選択を

コロナのような危機が、いつまた訪れるか分かりません。これからは誰もがより積極的に、副業や週末起業でいくつもの顔を持つ働き方“ポートフォリオワーカー”を目指した方がいいと私は思います。

追い風は吹いています。企業の副業解禁の動きも活発化したり、マッチングアプリなどでプチ副業もしやすくなったりと、個人がキャリアを開苦ための選択肢は広がっています。

石山アンジュさん

でも、だからこそ、“自分なりの軸”を持たないといけないですね。やろうと思えば、なんでもできる。その中で、自分は何をしたいのか。

どんなことが実現したら幸せなのか。じっくりと内面に問い続けて、自分だけの物差しを見つけていかないと、何も選べなくなってしまうから。

誰かから与えられる物差しではなくて、自分だけの物差しを肌身離さず持てるように。その物差しこそが、一番大事にすべき持ち物なのだと思います。

実は私自身も、最近になってようやく「自分の幸せ」について考えられるようになったばかり。これまでは、どちらかというと使命感だけで動いていたな、と気付きました。

「もっと皆が生きやすい世の中にするために、次の時代の豊かさを創りたい」というのが私の使命感であり、原動力になっていたんです。

でも、この半年間の大分での田舎暮らしが、その思いをより本質的で強固なものにしてくれました。

石山アンジュさん

私はずっと東京の都心からシェアライフの重要性を叫んできたけれど、農村の暮らしの中ではリアルで濃厚なシェアライフが当たり前のように息づいていました。

野菜を交換したり、台風に備えて近所で協力して窓を補強したり。そんな毎日が本当に自分の幸福度に直結するのだと実感できました。

お裾分けや支え合いの文化は決して過去のものではなく、東京では珍しいものになってしまっていただけで、場所を変えれば2020年の日本に根付いていた。

だからこそ、私たちの世代からでも生み出すことができる。これは私にとって大きな気付きでした。

きっと、今まで以上に自信を持って、シェアライフの豊かさについて語り、伝えていけると思います。これからの自分自身が楽しみです。

石山アンジュさん

イベント情報:SHARE SUMMIT 2020

2020年11月16日(月) 12時半~21時、日本最大のシェアカンファレンス「SHARE SUMMIT 2020」を開催されます。一般参加費は無料で、全国各地からオンラインで視聴出来ます。ぜひ気軽にご参加ください。

石山アンジュさん

【石山アンジュさん 登壇セッション】
シェアという思想 ~ポストコロナの豊かさを再定義する~

2020年11月16日(月) 18:00-18:50 @オンライン
当たり前とされてきた社会の前提を失いつつある今、本当の豊かさとは何かを再定義する時がきている。シェアが広がった世界の文化・思想、生き方を紐解いていく。

>>イベントの詳細情報はこちらから

取材・文/宮本 恵理子 画像提供/石山アンジュさん 企画・編集/栗原千明(編集部)

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