ポートフォリオワークとは? 収入も、やりがいも、自分でマネジメントする新時代の働き方【平田麻莉×佐藤留美×加藤こういち×南章⾏】
ここ1~2年の間に、「ポートフォリオワーク」「ポートフォリオワーカー」への注目が高まっている。これらの言葉を、一度は耳にしたことがあるという人も多いのではないだろうか。
ポートフォリオワーカーとは、複数の職業・複数の収入源を持ちながら働く人のこと。収入源を複数にすることによってリスクヘッジをしたり、やりたい仕事を複数掛け合わせることで人生の充実を図る動きがコロナ禍を機にさらに活発になりつつある。
2020年11月16日にオンライン開催された『SHARE SUMMIT2020』では、フリーランスのシェアワーカーとして活躍する加藤こういちさん、フリーランス協会代表理事として多くの分野で活動する平田麻莉さん、NewsPicks副編集長・JobPicks編集長の佐藤留美さんが登壇。「ポートフォリオワークという働き方」をテーマに議論を交わした。
知識・スキル・経験を売り買いするスキルマーケット『ココナラ』を運営する株式会社ココナラ代表取締役会長の南章⾏さんがモデレーターを務め、その働き方のリアルに迫った。
自分の“得意”に振り切る働き方を選んだ
南:加藤さんは、会社員として働かれた後に、現在はフリーランスのシェアワーカーとして活躍されていますよね。サラリーマンを辞めるのはとても勇気のいることだったと思いますが、どうして現在の働き方を選んだのでしょうか?
加藤:8年間ほど会社員としてWebマーケティングなどの仕事をしていましたが、サラリーマンなら誰しもがやらなくてはいけない調整ごとや大人数の前でのプレゼンなどがとても苦手でした。でも、普通の組織社会ではそうしたスキルがなければなかなか評価されませんし、出世も難しい。
一方で、Webマーケティングそのものについては、かなりオタク的に取り組んできた自負がありました。そこでスキルシェアのマッチングサービス『タイムチケット』を活用して自分のスキルを販売してみたところ、ものすごく良いレビューを書いていただいたんです。
自分が人に喜んでもらえるスキルを持っていたことがすごくうれしくて、どんどんスキルシェアにのめり込むようになっていきました。
南:会社員だと「苦手なことも何とかして克服しなければ」と感じる人も多いと思います。加藤さんはどうして得意な方に振り切ろうと思ったんですか?
加藤:少し特殊な事例になってしまうかもしれませんが……以前勤めていた会社が、博報堂グループに匿名のビジネスコンテストを依頼していたんです。偶然発見したので、匿名のマーケターとして応募してみたら、優秀賞を取ることができて。
会社員として働いていても立場はものすごく低いですし、経営戦略みたいなコアな部分にはもちろん携われていませんでしたが、優秀賞を取ったことで、これまで上司の意向を信じて忠実に働いていたことが、どこか違うんじゃないか、と思い始めたんです。
南:ご自身のスキルの価値に気付くことができたんですね。とはいえ、フリーランスとして生きるには、やはり収入面でのリスクが大きかったと思います。
加藤:月収5万円からスタートしましたが、独立して4カ月ほど経った頃には黒字にすることができました。スキルシェアには、案件をこなしていくにつれてレビュー評価がたまっていくので単価が上げやすい、という特性があります。
あとは、自分のスキルアップだけに集中できるというのも、スキルシェアのプラットフォームを利用する大きなメリットです。普通の自営業フリーランスだと、見積書や請求書、契約書などのやり取りをしなくてはいけませんが、そういう面倒なことをしなくてもワンクリックで受注することができます。
元々マルチタスクが苦手なので、自分に合ったプラットフォームを発見できた、というのは大きいですね。
経済面だけでなく、自分の満足感もマネジメントできる
南:平田さんは、フリーランス協会代表理事、研究者と企業のマッチングサービスを運営する株式会社アークレブの取締役、PRアドバイザー、政府委員など多岐に渡った仕事をされていますよね。
まさに“ポートフォリオワーク”を実践されていらっしゃいますが、それぞれどのような割合で働いているのでしょうか?
平田:時間配分で言うと、フリーランス協会の運営が7割を占めています。ただ、フリーランス協会は非営利団体なのでボランティアのようなもの。主に広報や出版プロデュースなどの仕事で生計を立てています。
南:7割の時間を無給の仕事に費やしているんですね……!
平田:ええ、私は極端なケースだと思います(笑)。でも、フリーランスの人で、お金だけで仕事を選んでいない人は意外といると思うんです。というのも、報酬って何もお金だけではなくて、いろいろな種類のものがあります。
仕事をすること自体が自分の資産になる“経験報酬”、映画ライターが無料で試写会に行ける、というような趣味と実益を兼ねた“現物報酬”、人に喜んでもらえることで得られる“心理報酬”、人脈が広がる“信頼報酬”など、金銭報酬以外にも得られるものはたくさんあります。
私の場合は、新しい事業をつくる、世の中のトレンドを生む、といういわば“創作活動”が働くモチベーションになっています。自分が一体どんな報酬が欲しいのかを自由に考えて仕事を設計できるのが、ポートフォリオワーカーの醍醐味だと思います。
南:金銭面だけでなく、自分の満足感も含めてマネジメントできるんですね。そもそも、平田さんがフリーランスになろうと思ったきっかけは何だったんですか?
平田:元々PR会社で働いていたのですが、学問に興味があり、研究者になりたかったんです。ビジネススクールに入学した後、博士課程に進学したのですが、在学中もビジネスコンクールのコンペティションの企画や広報を担うなど、とにかくいろいろなことに手を出していました。
するとその活動を見ていた校長が、学生をやりながらでいいので職員として広報を手伝ってほしい、と言ってくださったんです。
一応学生が本分ですから、正社員という形ではなく業務委託として働くことになり、それがフリーランスとしての始まりでした。
博士課程に在籍していると本の執筆や教材作成などいろいろとお声掛けいただくことも多いのですが、業務委託だと組織に縛られずに仕事ができるので、何かと”掛け持ち癖“のある自分の性に合っていたんです。
南:平田さんのように掛け持ちすることが向いている人もいると思いますが、一つの組織に所属して働くことが心地良いと思う人もいると思います。やはり向き不向きは重要なのでしょうか。
平田:完全に独立するという働き方には向き不向きはあると思いますが、会社の看板ではなく自分の名前で仕事をしてフィードバックをもらう、というのは、きっと誰しも成長につながりますし、やりがいを感じるものだと思います。
大事なのは、どのようなバランスで仕事をやっていくか、ということではないでしょうか。
フリーランスから会社員への転向もあり
南:加藤さんはシェアリング・エコノミーを使いこなして自分の価値を高める働き方をされていますし、平田さんはフリーランスとして金銭的な報酬を得るという立場を超えて自己実現をされていらっしゃいます。
佐藤さんはNewsPicksの副編集長として、またJobPicksの編集長として、昨今の働き方について多くの現場を取材されてきたと思いますが、ポートフォリオワークについてどのように考えていますか?
佐藤:お二人のように、自分の価値を見極めてどんどんスキルアップしていく働き方は、とても素晴らしいと思います。というのも、やはり普通の会社員として働いていると、毎月25日になったら大体決まった額のお給料が振り込まれるわけで、自分の価値というものについてあまり考えないと思うんです。
フリーランスとして働くかどうかは別として、自分のスキルに一体どれほどの価値が付くのか、というのは一回でも知っておくといいかもしれません。
南:フリーランスや副業という働き方について、ポジティブな面もある一方で、シビアな面もあり、悲観的に捉えられる見方もまだ多いですよね。
佐藤:最近の新卒採用の現場を見ていると、どんな大手企業の方でも口を揃えて「自律型人材が欲しい」と仰います。きっと、企業にとっても「寄らば大樹の陰」のつもりで依存されても困るよ、というフェーズにきているんだと思うんです。
個人として自由に働くというのは、もちろん責任も伴いますが、加藤さんや平田さんのように「自由に自分の時間を使うことができる」ということ。「お前はこれをやっていろ」と指示されたことをやるしかない、というのはあまりに不自由ですから、自由に自分のキャリアを編集できる働き方はすごく魅力的だと思うんです。
南:副業を始めたい、フリーランスをやってみたい、だけど一歩が踏み出せないという人も多いと思います。そういう場合は、どのような考え方で取り組むべきでしょうか。
平田:フリーランスや副業が全くできない人、というのはいないと思っています。本人が気付いていないだけで、ニーズがあるスキルや経験はたくさんあるはず。
一方で、フリーランスにつきまとう収入面のリスクは、自分自身で何とかするしかありません。提供できる価値を見極めて、PDCAを回していく努力は必要だと思います。
ただ、ライフリスクやトラブルリスクなどには、やはりそれなりのセーフティーネットが必要だと考えます。フリーランスだから何から何まで“自己責任”というのではなく、しっかりとサポートを受けられる社会になるよう、フリーランス協会としても働き掛けていきたいと思います。
佐藤:私自身、約10年間フリーランスとして働いた後、今は会社員をしています。なぜかフリーランスになると一生フリーランスでいなければいけない、というように考える人が多いのですが、会社員に戻るというやり方もあり。
あまり気負い過ぎずに、自由にキャリアを歩んでほしいですね。
文/太田冴 写真提供/一般社団法人シェアリングエコノミー協会
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