【夏菜】媚びず、飾らず、誤魔化さず「仕事嫌いだった自分」が180度変われた理由
自分の仕事を好きだと言える人を見ていると羨ましくなる。だけど、忘れてはいけないのは、初めから仕事が好きな人ばかりではないということ。
女優の夏菜さんもその一人。

「20代の頃は、仕事が大っ嫌いでした(笑)」
そう豪快に笑って、「ね?」と後ろにいたマネージャーさんに確認する。その気取らない反応からも、夏菜さんが“モヤモヤ期”を抜けて、今、仕事を楽しんでいる様子がうかがえる。
夏菜さんはどうやって仕事といい関係を築いていったのだろうか。
「本当の自分を出せた」バラエティー出演がもたらした変化

20代の頃は、休みたくて仕方なかった。
休みたいというか、責任とかプレッシャーとか、そういうものから逃げたい気持ちが強かったんですよ。
ネガティブさを全く感じさせないサバサバした語り口で過去を振り返る夏菜さん。仕事から逃げ出したくなったのは、ギャップが原因だった。
この仕事をしていると、どうしても役のイメージがそのまま私のイメージになる。
本当の私は全然そんな感じじゃないのに、役の印象で語られたりして。特に朝ドラ『純と愛』に出演した後はそれがすごく強かったですね。
世間のイメージと本来の自分とのギャップに苦しんでいました。
役のイメージが先行するのは、それだけ役に自分が溶け込でいた証拠。だけど、まだ若い頃はそんなふうに思える気持ちの余裕を持てずにいた。

SNSで自分についた否定的なコメントを見ては、「これは本当の自分じゃないのに。役柄なのに」ってモヤモヤしていました。
そんなモヤモヤを突き抜けるきっかけとなったのが、今やおなじみのバラエティーでの活躍だった。
2017年6月に放送された『ダウンタウンなう』(フジテレビ)で「正直、女優業が楽しめない」とぶっちゃけトークを連発。その飾らない素顔は、視聴者から大きな反響を呼んだ。
あそこで吹っ切れたというか。「私、いい子ちゃんじゃないし」ってちゃんと言えたことによって、肩の荷が降りた。
世間のイメージと私のギャップをあそこでやっと埋められた気がして、すごい楽になったんですよね。
朝ドラくらいまでは猫をかぶろうとしていたんですよ。でもこのままのキャラでいったらヤバいなと(笑)
私には自分の思っていることをオブラートに包むようなことはできない。本当の自分を出せたことで、一気に仕事への気持ちが変わりました。
仕事を好きになると、心の余裕が生まれる
今は仕事が好きですか。そう質問をすると、「うん! 好きです」と気持ちいいくらい明るい返事が返ってきた。

私にとって仕事は、自分が自分として生きられる場所。大変なことは今もいっぱいありますよ。
ドラマだったら、寝る時間がないとか、セリフを覚えるのが大変とか、泣くシーンが難しいとか。
バラエティーはバラエティーでいっぱい食べなきゃいけないとか、ちょっと無理することもあるし。
でも、結果的に楽しい方が勝つ。仕事をしていると、笑っている時間の方が長いんですよ。それってつまり楽しめているんだろうなと。
私という人間が今ここに存在していると感じられる瞬間が、私にとってはこの仕事をしているときなんです
仕事を好きになると、仕事に対する向き合い方も変わる。夏菜さんも「プラスしかない」とその影響を実感している。

監督とも話しやすくなりましたね。昔は意見が食い違ったら、ただぶつかることしかできなかった。
たぶんいっぱいいっぱいだったんでしょうね。だから、相手を否定するだけになってしまっていたんだと思います。
でも今は、自分と異なる意見を持った人の話もちゃんと咀嚼して噛み砕けるようになった。
角がなくなったし、周りを見る余裕やスタッフさんをケアする気持ちを持てるようになりました。人間的に成長したんでしょうね、私も。
どんな仕事も集団作業。チームワークが何より大事。そんなことは誰に言われなくても分かっている。だけど、なかなかうまくできないのは「気持ちの余裕」がないせいなのかもしれない。
ずっとパブリックイメージとのギャップに苦しんでいた夏菜さんは、「本当の私はそうじゃないのに」というジレンマを捨て、素を見せられるようになったことで、気持ちの余裕を取り戻せた。

今は、監督と意見が食い違ったときは、まず監督の思う形でやってみます。
私もひと皮剥けたので、まずは求められることを完璧な形でできるようになることが重要なんだと切り替えることができるようになりました。
それに、やらずに文句を言うだけになるより、一度試してみた上で、受け入れられることは受け入れて、ここは違うかもと思うところはまたコミュニケーションをとって、方向性を探っていけばいい。
そういうことができるようになったのは、「仕事が好きだ」と言えるようになってからかもしれません。
「悪女を演じてみたい」10年越しに叶った夢
そんな夏菜さんが女優として新たな顔を見せているのが、6月25日(金)公開の映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』だ。本作で夏菜さんは、主人公・高倉宗一郎を陥れる悪女・白石鈴を演じている。

私の演じる鈴は、山﨑賢人くん演じる宗一郎と、清原果耶ちゃん演じる璃子の正反対にいるキャラクター。二人をピュアに見せるためにも、いかに私が色気のある悪女になれるかが肝だと思いました
鈴は、宗一郎の婚約者。心優しき味方に見えた鈴が、一転して冷酷な裏切り者へと変貌する。序盤のキーを握るキャラクターだ。
正体を現してからの悪女っぷりは振り切っているのでやっていて楽しかったです。
難しかったのが、序盤の鈴。最初から悪女スイッチがオンになっていてもダメだし、どのあたりから少しずつお客さんにムムッと思わせる空気を出していくか。
その足し算引き算は苦労しました。

悪女役は、女優を語る上で欠かせないレパートリーの一つ。だからこそ、ステレオタイプの悪女にしたくないという想いもあった。
少しも共感するところがないと、人間味のない、浅いお芝居になっちゃう。だから、何か一つ芯が通っているところをつくりたいなと思いました。
そこで夏菜さんが考えたのが、宗一郎への密かな想いだった。
確かに鈴は宗一郎を騙すんですけど、心の中ではちょっと宗一郎のことが好きだったんじゃないかなと。
宗一郎は、鈴とは掛け離れた人間。あまりにも純粋だからこそ、振り向いてほしいという女心が鈴にはあったはず。
だけど、宗一郎が全然振り向いてくれないから、感情のねじれを起こしてしまった。
むしろ鈴は眞島秀和さん演じる松下のことは全然好きじゃなかったと思う。お互いブラックな者同士は惹かれない。
欲にまみれているからこそ、欲のない宗一郎の愛情が欲しかった。そんな風に自分の中で想像して、鈴を演じていました
鈴のような正真正銘の悪女を演じるのは、今回が初めて。けれど、実は20代の頃から悪女を演じることは、夏菜さんの目標の一つでもあった。
朝ドラが終わってからは、正義感の強い女の子役を卒業して、悪女がやりたかったんですよ。10年近く経って、ようやくその夢が叶いました
「私は私だから」どんな仕事でも挑戦したい

今年2月には8年ぶりのグラビアを披露。最近では、初音ミクのコスプレでバラエティー番組に登場し、話題を集めた。
どんな職種でもキャリアを積むと少しずつ守りに入るもの。だけど、夏菜さんは常に新しいチャレンジに満ち溢れていて、その姿から仕事を楽しんでいることが伝わってくる。
グラビアもコスプレも、特に抵抗はありません。
それは昔から変わっていないんですけど、朝ドラに出た後だったら、「イメージが崩れる」なんて言ってやらなかったかもしれません。
あ、でも初音ミクだったらやっていたかな……(笑)
イメージにとらわれることはない。なぜなら、どんな役をやっても、私は私。そう胸を張れる揺るぎない強さを手に入れたから。
今はもう、どんな役のオファーが来ても全部OK。いろいろな役に挑戦してみたいです。
ちょっと拒否反応が出ちゃう「いい子」な役どころも、監督やスタッフの皆さんと相談しながら、ただの「いい子ちゃん」で終わらないようにしながらやれたら楽しそうだなって思いますね。
カッコつけて、おさまりのいい言葉で本音を偽らないところも夏菜さんらしさ。
20代の頃の夏菜さんが大嫌いだった仕事と、今こうしていい関係を築けるようになったのは、媚びず、飾らず、誤魔化さず、自分の本音をちゃんと出せるようになったからだった。

夏菜(なつな)
1989年5月23日生まれ。埼玉県出身。2006年、ドラマ『ガチバカ!』(TBS系)で女優デビュー。11年、映画『GANTZ』で注目を集め、12年、連続テレビ小説『純と愛』(NHK)のヒロインに抜擢。以降、映画『鋼の錬金術師』、映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』、ドラマ『人生が楽しくなる幸せの法則』(読売テレビ・日本テレビ系)、ドラマ『リカ』(東海テレビ・フジテレビ系)など数々の作品で活躍。近年はバラエティ番組でも人気を博している。YouTubeチャンネル「なつなかん -夏菜YouTubeチャンネル-」も運営中 インスタグラム:natsuna_official
取材・文/横川良明 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)
作品情報
映画『夏への扉 ーキミのいる未来へー』
公開日:2021年6月25日(金)
出演:山﨑賢人、清原果耶、夏菜、眞島秀和、浜野謙太、田口トモロヲ、高梨 臨、原田泰造、/藤木直人
監督:三木孝浩
脚本:菅野友恵
原作:ロバート・A・ハインライン(著)/福島正実(訳)訳『夏への扉』(ハヤカワ文庫刊)
主題歌:LiSA「サプライズ」(SACRA MUSIC)
©2021映画「夏への扉」製作委員会
『私と仕事のいい関係』の過去記事一覧はこちら
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