男女格差がひどい職場で自尊心が削られる…「私なんか」をやめるための回復プロセス【犬山紙子×三瓶真理子】
職場の人間関係や仕事のトラブル、パートナーとの共働き生活や子育てのこと……。働く女性の悩みや不安をイラストエッセイストの犬山紙子さんと、臨床心理士・三瓶真理子さんがカウンセリング! モヤモヤ解消のヒントをお届けします。
連載初回となる今回取り上げるお悩みは、職場にはびこる「女だから」「男だから」といステレオタイプの押し付けや、男女不平等に関するもの。
Woman typeで実施したアンケートや犬山さんのSNSには、モヤモヤを抱える女性たちから、次のようなお悩みが寄せられています。
【今回のモヤ女さんたち】
今の職場では、女性には『自己主張』より『協調性』が求められていると感じます。ちょっと意見を言うだけで『気が強いね』とか言われて、むっとしちゃいます。
同じポジションなのに、雑務や事務処理は女性がやって当然、という雰囲気にモヤモヤ……。
成果が出た時は男性の手柄、うまくいかなかったときは女性の力不足と結論付けられてしまい、不平等だなと思います。
押し込めてきた「自分の本音」を整理してみて
こんにちは、犬山紙子です。今回から臨床心理士の三瓶さんに、働く女性たちのお悩みを相談していきたいと思います。三瓶さん、よろしくお願いします!
こちらこそよろしくお願いします、三瓶真理子です。
普段は、心に悩みや問題を抱えた方をサポートする臨床心理学を専門に、主にカウンセリングを通じて仕事で悩んでいる方や休職中の方に対する支援を行っています。
カウンセリングって一般的にはまだまだハードルが高く思われがちですが、自分自身を知るためにも悩みを解消するためにも効果的ですよね。
私も過去、結婚生活の中で「怒りっぽい自分をどうにかしたい」と悩み、プロにカウンセリングをしてもらって救われた経験があります。
なのでこの連載では、悩める女性たちに代わって三瓶先生のお話を聞いていきたいと思います!
今回は、男女格差を感じてしまうような職場で働いている女性たちからのお悩みを相談させてください。
職場の男女不平等やステレオタイプの押し付けに悩む方は多いですよね。今回女性たちから寄せられたお悩みも、「あるある」と頷けるものが多いです。
三瓶さんのところにも、今回寄せられているようなお悩みで相談にいらっしゃる方は多いですか?
そうですね。「裁量のある仕事を任されるのは男性ばかり」「女性の発言は価値がないものと見なされてしまう」……というお話はよく伺います。
だいぶ時代が進んだように見えても、偏見やこれまでの慣習から女性を低い立場に置いてしまう組織はまだまだ少なくないようですね。
いわゆる「ジェンダーギャップ」を職場で感じても、「これはおかしい!」と声を上げるのって難しいですしね。
だからといって、女だからということを理由に不当な扱いを受けたときに、「仕方がない」と受け入れてしまうのも違う気がするし……。
三瓶先生は、こういった相談に対してどのようなカウンセリングを行うのでしょうか?
まずは、相談者の方に「本音を言えるとしたら、職場に対して何て言ってやりたい?」と確認しますね。
言ってやりたいこと、ですか?
はい。男女格差のある職場で働く女性は、日ごろからすごく抑圧されています。男性が強い組織の中で言いたいことが言えず、自分の持っているポテンシャルを発揮できていない状態です。
結果、その不全感から「私には能力がないんだ」という思い込みにつながり、自己主張を諦めてしまうんです。
なるほど。抑圧され続けた結果、環境に順応してしまうんですね……分かる気がします……。
誰かを責められない状況が続くと、人は自分を責めるようになってしまうんですよ。
これって、子どもと親の関係にも似ていると思いませんか? 親に対しておかしいと思うことがあっても「愛されなくなってしまうんじゃないか」と思うと、親を責められませんよね。
そうすると子どもは、自分のことを責めるようになるんです。「自分がいい子じゃないからかな」「頑張ればなんとかなるかな」って。
確かに職場でも、自分の食いぶちがかかっていると思うと、言いたいことも言いにくいですよね。評価に影響するんじゃないか、って不安になるというか。
ですよね。パワーバランスの働く場所では、そういう心理が働きやすいんです。
だからまずは、一度その抑圧された状態から自分を解放して、本当は何が言いたかったのかを言葉に出してみる。
すると、「私はこれがイヤだったんだ」「こうしたかっただけなんだ」と、心の奥底に眠っていた不満や願望を自認できるようになっていきます。
考えが整理されていけば「自分を卑下する必要なんてなかった」と気付くことができますよ。
自分で自分を責めてしまう気持ちが解消されると、自尊心の回復につながる……ということですね。
その通りです。新たな一歩を踏み出すためには、自尊心を取り戻すステップがとても重要なんですよ。
「今の状況に苦しさを感じていたのは、自分に能力があって、やりたいことがあるからだったんだ」と気付く。その結果、「私の能力や希望を大切にするためにはどうしたらいいのだろう」と考えられるようになります。
最初の相談相手は「自分を否定しない人」を選ぶ
職場に対する不満や自分の希望が整理された後は、どうすればいいですか?
最終的には、やっぱり自分の思いを職場に伝えることが大切ですよね。「私はこういう仕事がやりたいんです」「こんなキャリアを歩みたいんです」と、自己主張できるのが理想です。
直属の上司に伝えるのは難しい方もいると思うので、相手を選んで相談してみるといいですよ。
会社にはどうしても言いづらい……という人もいると思うのですが、まずは近しい友達に相談するだけでもいいんでしょうか。
もちろんです。
悩んでいる時の相談相手として一番おすすめなのは、自分を否定しない人。「それでいいんだよ」「間違ってないよ」と言ってくれる人でいいんです。
自分の考えを認めてもらうことで、本当に自分が望む判断をしやすくなりますからね。
信頼できる人に相談することで、次に進むきっかけを得られるんですね。
その後は、改めて会社に相談して状況を変えていける人もいますし、転職や複業で新たな可能性を模索する人もいます。
今の時代、一社に長く勤めることや、会社の仕事だけに集中すること以外にも選択肢はあります。職場がどうしても合わなかったり、変化する見込みが薄い場合には、他の場所に目を向けてみるのも一つの手だと思いますよ。
そのためにも、まず最初にすべきなのは「自尊心を守り、取り戻すこと」ですね。とてもしっくりきました。
三瓶さん、今日はありがとうございました!
>>次回は、共働き夫婦が抱きやすいモヤモヤについてカウンセリングしてもらいます!
1981年、大阪府生まれのイラストエッセイスト。『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)、『アドバイスかとおもったら呪いだった』(ポプラ社)などの著書多数。近年はTVコメンテーターとしても活躍。最新著は『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社) Twitter:@inuningen Instagram:inuyamakamiko note:https://note.com/inuningen
公認心理師・臨床心理士
三瓶真理子さん
1981年、福島県生まれ。東京学芸大学教育学部人間福祉課程カウンセリング専攻卒業。東京学芸大学大学院教育学研究科臨床心理専攻修了(教育学修士)。2007年、吉祥寺クローバークリニックに勤務し、リワークショートケア運営、心理カウンセリング、心理検査などを担当。09年、株式会社アドバンテッジ・リスク・マネジメントにてカウンセリング、人事・管理職へのコンサルテーション、各種研修を担当した後、12年より株式会社ディー・エヌ・エー人事グループ健康管理室へ。16年5月、EASE Mental Management(イーズメンタルマネジメント)開設
Twitter:@ease_mm
取材・文/一本麻衣 撮影/赤松洋太 編集/栗原千明(編集部)、秋元祐香里(編集部)
『エッセイスト・犬山紙子×臨床心理士・三瓶真理子のモヤ女カウンセリング』の過去記事一覧はこちら
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