「将来が見えなくて不安」な働く女性たちの悩みを犬山紙子×三瓶真理子がカウンセリング
職場の人間関係や仕事のトラブル、パートナーとの共働き生活や子育てのこと……。働く女性の悩みや不安をイラストエッセイストの犬山紙子さんと、臨床心理士・三瓶真理子さんがカウンセリング! モヤモヤ解消のヒントをお届けします。
「身近にキャリアのお手本となる女性がいない」「妊娠・出産後も変わらずに働き続けられるイメージが湧かない」
そんな、女性ならではとも言える不安を抱えている女性も多いのでは? 性別を問わず長く働くことが一般的になってきたとはいえ、女性がライフイベントの影響を受けやすいという事実はなかなか変わりません。
そこで今回は、「キャリアに関する不安」をテーマに、犬山紙子さんと三瓶真理子さんがカウンセリングします。
【今回のモヤ女さんたち】
今いる部署は女性の管理職者がゼロ。ロールモデルがいなくて、自分がどんなキャリアを築けるのかイメージが湧きません。
育休から復職したら『時短だから』と仕事を制限されてしまい、先が見えなくなりました。
キャリアアップはしたいけど、肩書がつくと業務量も倍増するので、子どもは持てないかな……と思うようになりました。両立できる気がしなくて……。
※Woman type読者、犬山さんのSNSフォロワーへのアンケートより編集の上抜粋
「ロールモデルの不在」に深刻になる必要はない
少し前まで、メディアで取り上げられる女性って「スーパーウーマン」みたいな人が多かったじゃないですか。家事も育児もバリバリやってます!と。
私よりも上の世代には、とてもまねできないような努力をして、生活を犠牲にしながら出世してきた人も多くて。
それを見ると、「女性はいろいろ捨てないとキャリアアップできないのかな」「私は自分の時間も欲しいな」って思っちゃうんですよね。
確かにそうですよね。でも、誰かの働き方をお手本にするのもいいですが、大切なのは「自分にとってどう働くのが一番幸せか」を考えていくことだと思いますよ。
Woman typeの読者さんからも「ロールモデルがいなくて不安」という声が届いているのですが、その場合はどうしたら良いでしょうか?
社内だけでなく社外のロールモデルにも目を向けるのもひとつですよね。逆に「こんな働き方だけは嫌だ」と思う“逆ロールモデル”を検討してみることも、自分のキャリアを考える上では参考になります。

あとは「ロールモデルがいない」という状況を、必ずしもネガティブに捉える必要はないのではないでしょうか。
「ロールモデルがいないキャリアは歩んではいけないのかな」と無意識に思ってしまいがちですが、もちろんそんなことはありません。先駆者がいないからこそ、思い切った挑戦ができたり、オリジナリティーのあるキャリアになるという面もありますよね。
他に例のないキャリアを経験しているというのは、他の人にとっては魅力に映ることもあります。今の時代は特に、先駆者のいないキャリアを歩む人を肯定的に捉える人も多いのではないでしょうか。
一歩踏み出したその先には、ブルーオーシャンが広がっていることもあるかもしれませんね。
キャリアに関する意思表示は、「会社や上司のため」でもある
キャリアを考える上で、多くの女性が直面するもう一つのテーマが「ライフイベントとの両立」ではないでしょうか。
読者さんから届いている産後のキャリアに関するお悩み、これっていわゆる「マミートラック」ですよね。
そうですね。若手の頃は全力で一生懸命やってきたけれども、子どもが生まれると今までのように仕事にフルコミットできなくなる……というのはとてもよくあります。
会社側が「子どもが小さいうちは大変だろうから、楽な業務をしてもらおう」と気を使っている場合もありますよね。気を使っているていで追いやっていることもありそうですが……。
でも実際は、そういう待遇を望まない、しっかり働きたいという女性も多い気がするのですが。

会社側は配慮だと思っていても、極端に業務量が減ったり、責任の伴わない業務を回されたりすることで、「職業人として貢献できていない」「今まで積み上げてきたキャリアがなくなってしまう」と不安になる女性も多くいらっしゃいますね。
その場合は、自分の希望を上司に伝えて業務内容を見直してもらう必要があると思うのですが、臆せず物申せる人ばかりじゃないですよね。
上司は自分の評価者でもありますからね。本音が言いづらいと感じてしまうのも自然なことかなと思います。
でも、マネジメント……つまり部下がどのくらい仕事が可能か知っておくのは上司の「仕事」ですよね。
いま自分がどのくらい仕事をできるのかということや、自分の能力やスキルを発揮できるような働き方について希望を伝えるということは、ある意味上司の役割のサポートをしているとも言えます。
気を使ってしまう人は、むしろ「上司のためにも伝えるぞ」ぐらいの気持ちでもいいかもしれませんね。
なるほど。そう考えると、上司に対して必要以上に構える必要はないって思えますね!
つらい気持ちが続くときは「時間軸」をずらしてみる
実は私も、妊娠した時に「仕事が回ってこなくなるから、妊娠したことはギリギリまで隠した方がいいよ」とフリーランスの先輩に言われたことがあるんです。
会社に勤めているわけでもないので「休んだら仕事がなくなっちゃうんじゃないかな」という不安が強くて、産後もたった3カ月で復帰しました。
それは、頑張りましたね……!

会社勤めの方でも、「休んでいる間にキャリアアップの機会を失うんじゃないか」「復帰後もやりがいのある仕事ができるんだろうか」という不安を抱えている方は多そうですよね。
ここは社会が男女間のキャリアギャップを埋めるということがまず必須と思いつつ。
そして「誰かと比べることによって感じるつらさ」も追い打ちをかけるのかなとも思います。
産休育休を取っていないメンバーが自分を追い抜いてキャリアアップしていたり、自分の子どもが生まれても何の関係もなく出世していく男性を見ると、すごくつらいと思うんです。
他の人と比較してしまうとつらいですよね。そういう時、少し時間軸をずらしてみるのも一つの手かもしれませんね。
例えば、自分が産休育休のときに仕事をしている後輩も、将来産休育休や介護などのライフイベントを迎えるかもしれません。その時は自分は子育てが一段落していて、仕事に打ち込んでいる可能性だってあります。
子育てに参加せず仕事ばかりしている男性も、そのときは仕事でうまくいっていても、数年、十数年後はその分のツケを払っているかもしれませんよね。

5年後、10年後の自分から今の自分を見てみると、今自分が行っていることはとても大事なことだと思えたり、そもそも何年も続くような悩みではない、と気付くかもしれません。
また、5年前、10年前の自分から今の自分を見てみたら、「頑張っているね、すごいね」と思うかもしれませんね。
言われてみると、たしかにそうですね。悩んでいるときって視野が狭くなってしまいがちだけど、人生は続いていくんですもんね。
その通りですね。このままずっと自分だけが苦しい状態が続くのでは?と思ってしまうかもしれませんが、長いスパンで見ると変化していくものです。
時間軸を変えて自分を見てみることで、苦しい気持ちが和らぐこともありますよ。
キャリアは偶然によって作られる。計画通りに行かなくて当然
今回のテーマの最後に、「プランド・ハップンスタンスセオリー」という考え方について紹介させてください。
初めて聞いた言葉です。
これはキャリアカウンセリングに用いられる「キャリアは偶然や想定外の出来事によってもつくられるもので、偶然を活用していきましょう」という理論です。
妊娠や出産、介護など、キャリアの過程では、予期していなかったことが突然起きがちですよね。キャリアが中断されると、計画通りに進めないことに焦りを感じるかもしれません。

でも、新しいキャリアも、大概の場合は思ってもみなかったところから始まるものです。
今までの仕事でも、きっかけを振り返ってみると「あの時たまたまその場にいたから」「あの人とのささいな会話がきっかけで」というように、偶然から始まっていることが意外と多いと思いませんか?
だから、今は行き詰まったように感じても、その経験が新たなキャリアのスタートになる可能性だってある。そういう考え方があると知っておくだけでも、肩の力が抜けるのではないでしょうか。
私も介護をしていたとき、「この先のキャリアはないかもしれない」ってすごく悩んだけど、言われてみると、当時の経験で生まれた仕事もあります。
もちろん、介護をしている人の復職などの支援は必要だと思っていますが、自分の中での納得の仕方ですよね。
「こんな経験をしました」「これからはこんなことがしたいです」と積極的に発信していたから、というのも一つの要因かもしれませんが。
それもとても大事なことですね。やりたいことの種まきをしておくと、あとで思わぬチャンスにつながるかもしれませんから。
キャリアは望んだように直線で進むのではなく、いろんな点と点がつながってできていくものなのかなと思います。
これからキャリアについて悩んだときは、「キャリアは偶然でつくられるもの」でもあるので、今悩んでいるからこの先すべてダメになるとは思わないようにします。
1981年、大阪府生まれのイラストエッセイスト。『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)、『アドバイスかとおもったら呪いだった』(ポプラ社)などの著書多数。近年はTVコメンテーターとしても活躍。最新著は『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社) Twitter:@inuningen Instagram:inuyamakamiko note:https://note.com/inuningen
公認心理師・臨床心理士
三瓶真理子さん
1981年、福島県生まれ。東京学芸大学教育学部人間福祉課程カウンセリング専攻卒業。東京学芸大学大学院教育学研究科臨床心理専攻修了(教育学修士)。2007年、吉祥寺クローバークリニックに勤務し、リワークショートケア運営、心理カウンセリング、心理検査などを担当。09年、株式会社アドバンテッジ・リスク・マネジメントにてカウンセリング、人事・管理職へのコンサルテーション、各種研修を担当した後、12年より株式会社ディー・エヌ・エー人事グループ健康管理室へ。16年5月、EASE Mental Management(イーズメンタルマネジメント)開設
Twitter:@ease_mm
取材・文/一本麻衣 撮影/赤松洋太 編集/栗原千明(編集部)、秋元祐香里(編集部)
『エッセイスト・犬山紙子×臨床心理士・三瓶真理子のモヤ女カウンセリング』の過去記事一覧はこちら
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